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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
114/233

111 引き金

2019/1/29 見直し済み


 隠形のサイキックとは、恐ろしく便利な能力だった。

 今更ながらに、普段、カティーシャが使っている能力に感嘆かんたんの声を漏らしそうになる。

 というのも、拓哉、クラリッサ、リディアル、キャスリン、ティートの五人は、飛空艦を包囲するPBAの真っ只中を悠々《ゆうゆう》と闊歩かっぽしているのだ。


 あの後、問答無用と言わんばかりに、なし崩し的に頷く他なかった拓哉を他所に、今後の作戦について議論した。その結果、カリナと現在の五人が、ダグラス将軍救出に向かうことになった。

 もちろん、拓哉と別行動になったカティーシャが、思いっきり膨れっ面となったのは話すまでもないだろう。

 彼女は、リカルラから別の任務があると告げられて、渋々それに従うことになった。


「これが隠形サイキックか……凄いものだな」


 驚きの声を上げたのは、ティートだった。

 彼女は周囲に立つPBAを恐る恐る見やりながら、感嘆の声を漏らすのだが、その声は隠形に相反して、少しばかり大きなものだった。

 それ故に、キャスリンが周囲を気にしながらたしなめる。


「あんまり大きな声で話さないの。幾ら隠密サイキックでも派手な行動をるとバレるんだから」


 カティーシャと共に居ることが多いお陰で、キャスリンは隠密サイキックについて、色々と知っているようだった。

 しかし、彼女の認識は少しばかり違っていたようだ。


「これくらいなら大丈夫よ。まあ、派手にサイキックを使用したり、銃を使ったりすればバレるでしょうけど」


 微笑むカリナは首を横に振るのだが、キャスリンはそれを否定する。


「いいえ、リディとティトは声が大きいから、放っておくと……絶対にどこかでチョンボをしますから」


「オレまで一緒にするなよ」


「な、なんだと!」


「声が大きいわ。キャスリンの言う通りよ。それに急いでいるのよ。足手まといになるようなら、今直ぐ飛空艦に戻ってちょうだい」


 リディアルとティートが抗議の声を上げたのだが、即座にクラリッサからたしなめられた。

 彼女の発言は至極真っ当なものだ。先はまだまだ長いのだ。こんなところで揉めている場合ではないのだ。


「わ、わるい……」


「す、すまん」


 さすがに、自分達が悪いと思ったのか、二人は素直に頭を下げた。

 そんなやり取りを見ていたカリナが、クスクスと笑いながらスタスタと先を急ぐのだが、チラリと後ろに視線を向けた。


「ところで、装備の方は?」


 彼女が聞きたいのは、拓哉達の装備のことだろう。

 一応は、サイキックを使用した銃を装備しているのだが、それ以外には何もない。

 それを告げようとするのだが、クラリッサが先に口を開いた。

 その表情は、どこか優れない。いや、やたらと冷たい表情を浮かべていた。


「ご心配無用です。全員がサイキック銃を装備していますから」


 彼女が敵対心を剥き出しにしているように感じるのは、決して拓哉の勘違いではないだろう。

 それでも、カリナはニコリとするだけで、彼女の態度を不快に思っている様子はなかった。


 ――勘弁してくれよな……まあいいか、それよりも、サイキック銃を使うとは思わなかったな……


 サイキック銃だが、全員が二丁ずつ携帯している。

 拓哉とリディアルはショルダータイプのホルスター、クラリッサ、キャスリン、ティート、三人の少女は、レッグタイプのホルスターに収めている。

 一般的に、女性の場合はリーチの問題で、ショルダータイプよりもレッグタイプの方が使い易いのだ。

 見るからに走り難そうなのだが、彼女たちは文句も言わずに脚を進めている。

 そのホルスターに収めているサイキック銃だが、それは、間違いなく実戦用武器だ。

 但し、威力を調整できる代物であり、拓哉達が持つ銃には、相手を気絶させることはできても、死に至らしめることはない。

 それもあって、ララカリアは遠慮なくぶっ放してこいと言っていた。


「それはそうと、タクヤ。その袋はなに?」


「これか? 武器? らしい……」


「らしいって? ハッキリしないわね」


 拓哉の腰に下げている袋を見て、クラリッサが首を傾げた。

 実際、携帯している本人も気になって仕方ない。

 なにしろ、リカルラから持たされたというだけで、恐ろしく怪しいと感じていた。

 その袋だが、中にはシリコン玉が入っていて、その一つ一つはBB弾ぐらいのサイズで、割と柔らかいものだった。

 それをどうするのかと尋ねると、リカルラはニヤリとしながら、拓哉の武器だとだけ告げた。

 その意図が分からずに頭を傾げたのだが、彼女はそそくさと拓哉のサイキック防止リングを取り外した。


「その弾を相手に目がけてぶち込むと念じなさい。それだけで上手くいくはずよ」


 そうは言われても、全く上手くいく気がしなかったのだが、取り敢えず持ってきたのだ。

 ただ、注意事項も聞かされていた。


「一度に使う数は一発。多くても二、三発にしなさいね」


 その意味も理解できなかったのだが、取り敢えずは面倒なので、黙って頷くことで終わらせたのだった。

 そんなやり取りを思い出していると、建物の入り口が見えてきた。


「さあ、あそこから入ります。あと、殺傷能力のない武器なら気にせず打ちまくって良いですよ。誰が敵だなんて確認している暇はないですから」


 カリナは、恐ろしく乱暴なことを口にしたが、それも当然だろう。

 確かに、純潔の絆が敵だと分かっていても、兵士がそれを証明する名札をつけている訳ではない。

 誰が敵で、誰が味方で、誰が無関係なのか、その場で判断する方法がないのだ。


「うっしゃ~! 血祭だ!」


 ――おいおい! 殺傷能力はないって言ってるだろ! どうやって血祭にするんだ?


 気合の入ったティートの声を聞き、思わずツッコミを入れそうになったのだが、その前にリディアルの言葉が放たれた。


「よし! ここでストレス発散だ!」


 どうやら、対校戦での不完全燃焼をここで晴らす気のようだ。

 その不完全燃焼も、自身の不甲斐なさであり、唯の八つ当たりでしかない。

 それを理解しているキャスリンが、思いっきりツッコミを入れる。


「なに言ってるの、二人とも。これで撃たれても血なんて出ないわよ。それにリディ! 対校戦で一発も当たらなかった腹いせを、ここでやるのは止めなさい。唯の八つ当たりよ」


「き、気分だ! 気分!」


「……」


 その言動とは打って変わって、見た目が可愛いいだけに、突っ込まれて焦るティートの様はなかなか可愛い。

 しかし、リディアルはといえば、古傷をえぐられたのか、どっぷりと落ち込んでしまった。


「あちゃ~! 言い過ぎたわね。ご、ごめん。リディ、悪気はなかったのよ」


「……いいんだ……どうせオレはノーコン男さ……」


 キャスリンの指摘で、一気に急降下したリディアルを横目にしつつ、拓哉はカリナの言葉に疑問を持つが、ここで足を止めたくないという理由もあって、それを口にはしなかった。


「それでは、行きます。それと、建物の中では隠形を止めますから、気を付けてください」


 ――えっ!? 隠形を止めるのか?


 怪訝な様子を見せる拓哉を他所に、カリナはそう言って扉を押し開ける。

 隠密行動を止める理由が理解できない拓哉だったが、それを読み取ったのか、カリナが申し訳なさそうな表情を見せた。


「さすがに、この人数をいつまでも隠形させるのは、サイキック量的に辛いのです」


 ――ああ、なるほどな。それなら仕方ないか……


 ダグラス将軍が拘束されている場所は、既に判明している。

 拓哉達は、目的地である地下四階の特別収監室に向かうだけだ。

 ここからは、実力行使という訳だ。


「ぐあっ!」


「ぐおっ!」


「かはっ!」


「いてっ~~!」


 扉を開いたところに居た兵士を、あっという間に片付ける。

 それを行ったのは、もちろん、拓哉ではない。

 発射音のしないサイキック銃を手にしていたのは、クラリッサ、キャスリン、ティートだった。


「あら? いつの間にやられたの? というか、大丈夫ですか?」


「分かんね~! いて~~~っ! てか、大丈夫じゃないですよ」


 不思議そうな表情で、カリナは床に転がっているリディアルを眺めつつ首を傾げた。

 リディアルが脚を抱いて転がっているところをみると、どうやら脚を撃たれたようだが、血が流れている様子もない。

 ただ、拓哉の認識では、兵士は銃を手にしていなかった。それもあって、リディアルが負傷したことが不思議でならなかった。

 カリナと同様に、拓哉も首を傾げていたのだが、暫くするとリディアルが立ち上がったことで、取り敢えず進もうという話になった。

 その後も兵士と出会う度に、クラリッサ、キャスリン、ティートの三人がサイキック弾をぶち込んで順調に進んでいるのだが、その都度、なぜかリディアルが転がっていた。

 さすがに、それが五回目ともなると、少しおかしいという話になる。


「リディ、マジでどうしたんだ? 兵士が銃を抜く前に倒しているはずだが」


「げほっ! そうなんだけどさ、ぐほっ、なんか衝撃を食らうんだ……」


 拓哉の問いに腹を押さえたリディアルが、せき込みながら答えてきた。

 全員がその様子に首を傾げていたのだが、そこでティートが何かを思い出したか、ハッとした表情で口を開いた。


「そ、そういえば……氷の女王……」


「あっ、そうか!」


 氷の女王という二つ名が出てきて、当の本人はキョトンとしているのだが、キャスリンが何かに気付いたように声を上げた。


「氷の女王の発祥はっしょうだわ……」


「なんだそれ?」


 拓哉としては、言わんとするところの意味が分からない。

 しかし、キャスリンはチラチラとクラリッサを見ながらモジモジしていた。

 そんなキャスリンを見かねたのか、ティートが嘆息しつつ話し始めた。


「タクは途中編入だから知らないかもしれないが、サイキック銃の訓練は入学当初にあったんだ。まあ、たしなみ程度の授業だったし、二ヶ月で終わったんだがな。そこで新入生全員がクラス毎に銃の練習をしたんだが……クラリッサは教官を含め、クラス全員を医療棟送りにしたんだ。その時、彼女が見せた眼差しからついた二つ名が、氷の女王だ」


 ――はっ? あの二つ名にそんなわれがあったのか……てか、何が気に入らなくてクラス全員をぶち抜いたんだ? いや、どれほど冷たい視線だったんだ?


 恐ろしい事実を知り、口をあんぐりと開けて呆ける拓哉を他所に、クラリッサが慌てて抗議する。


「ち、違うわ。あれは……あれは食中毒だって言ってたわ。健康管理がなってないのよ」


 ――ん? それはどういうことだ? 話が全く噛み合わないぞ。


「そもそも、みんな私の後ろに居たのよ? どうやって狙うのよ!」


 クラリッサが必死になって抗議しているのだが、横からキャスリンが割って入る。


「そう、その状況から初めは誰もが病気だと思ったらしいんだけど、あとで調べた結果、全員がサイキック弾による衝撃で倒れたということが判明したの。恐らく、クラリッサには、その事実が伏せられていたんだと思う。いえ、恐ろしくて誰も言えなかったのかも……」


 ――な、なんて恐ろしい女なんだ。後ろに居た者を全滅させただと?


「じゃ、ここまでオレが食らった攻撃は、全部クラリッサの弾か?」


 拓哉がクラリッサの所業におののいていると、床に転がっているリディアルが苦言を漏らした。


「そ、そんなはずはないわ。ちゃんと狙い通りに打っているわよ! ほら!」


 慌てたクラリッサは、誰も居ない方向に銃を向けて撃ち放った。


「ぐはっ! いて~~~!」


「えっ!?」


 次の瞬間、拓哉の腹に激痛が走った。

 拓哉が腹を抱えて転がるのを見て、さすがのクラリッサも動揺する。


「わ、私ではないわ。ほら! ほら! ほら!」


「いて! ぐはっ! ぐあっ! や、やめろ……クラレ……お、俺を殺す気か……」


 クラリッサが引き金を引き絞る度に、拓哉の身体に衝撃が加わる。


 その痛みたるや半端ではなく、彼女の恐ろしさに戦慄せんりつした拓哉は、二度と彼女に銃を持たせてはならないと断言した。


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