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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
113/233

110 望まぬ展開

2019/1/29 見直し済み


 その女性は、恰もいて出るかのように現れた。

 綺麗なラインをあらわにする黒いタイツを穿いた脚から現れ始めたかと思うと、続いて張りとくびれを持つ腰、次に細くしなやかな腕、クラリッサが顔を顰めるほどの豊満な胸、そして、最後にショートカットの白銀の髪を持つ美しい顔がお目見えした。

 美しさもそうだが、その現れ方が神秘的で、拓哉は思わず見入ってしまった。それを深読みした二人が、行き成り肘鉄を食らわせた。

 もちろん、二人とは、クラリッサとカティーシャのことだ。


 ――ぐほっ、俺はなんもやってね~~! なんでだ……今日は厄日か!?


 ラブシーンを邪魔された挙句、ダブル肘打ちを食らって、自分が呪われているのではないのかと考える。

 二人の攻撃で苦悶くもんと抗議の表情を浮かべる拓哉の耳に、クスクスという笑い声が聞こえてくる。


「ごめんなさい。でも、ふふふっ。可愛いらしいお嬢さんたちですね。初々しくてうらやましいわ」


 拓哉の有様を目にしたその女性は、微笑ましげな様相で、そんな言葉を漏らした。

 それは、色々と意味ありげな言葉だったが、少なからず好意的なものだった。しかし、二人の少女は仏頂面を貼り付けたままだ。


「あなたは、誰ですか? どうやってここに!?」


 目の前に立つ女性の大人らしさが鼻についたのか、はたまた、自分よりも大きな胸にムカついたのか、クラリッサがまなじりを吊り上げている。


「ごめんなさい。別にあなた達の情事に興味があって侵入した訳ではないの。ただ、出るタイミングを見誤ってしまって……」


 初めから、それが目的でないことは分かっているが、敢えて言葉にされると、逆に興味があって覗かれていたような気がしてくる。

 それに、隠形で隠れていたのだから、敵でないと言われて、素直に信用する訳にもいかないのだ。

 ただ、どうしても、悪人には見えなかった。

 それもあってか、隣では、クラリッサが顔を赤らめている。


 ――おいおい! クラレ、そんなことでいいのか? 全く問いの答えになってなかったぞ。


 やや動転気味のクラリッサに心中で突っ込みを入れていると、恥じることをしていなかったカティーシャが誰何の声をあげる。


「よほどの隠密サイキックですね。ここに入り込むなんて、半端ない実力ですよ。そんなあなたは、いったい誰なんですか?」


 隠密サイキックを得意とするカティーシャが言うのだ。まず間違いなくその道のプロだろう。

 その彼女が、微笑みを見せる。


「そんなに警戒しないでください。私はカリナ=テレファス。ロートレス上級訓練校の訓練生で、ミクストルのメンバーですから」


「「「えっ!?」」」


 カリナの言葉に、三人で驚きの声を上げる。

 それを楽しむかのように、彼女は楽しそうに告げてきた。


「ふふふっ、とりあえずリカルラ博士のところへ行きましょうか。これからについて話し合う必要があるでしょう?」


 カリナは、リカルラのことも知っていた。

 そのことで、三人は彼女の言葉に信憑性を感じる。


「分かりました。取り敢えず会議室に行きましょうか」


 今の言葉を信用するのは些か危険だと感じたが、先程のタイミングで襲ってこなかったことを考えて、カリナが敵ではないだろうと判断した。


「それなら、私がリカルラ博士に連絡を入れるわね」


 拓哉が頷くと、クラリッサも彼女を信用したのか、リカルラに連絡を入れていた。

 こうして拓哉達は、休むと言ったはずなのに、そそくさと会議室へと戻ることになってしまった。









 突然現れた女性――カリナと会議室へ向かっているのだが、なぜか、彼女は拓哉達の前を歩いていた。

 それは会議室の場所を知っていることを意味する。

 ただ、それとは別に、拓哉達に敵ではないという意思表示なのかもしれない。

 敢えて拓哉達に背を見せることで、自分は敵ではないと主張しているように思えた。

 というのも、彼女が後ろから付いてくるのは、拓哉達にとって不安を抱く要素だ。

 なにしろ、本当に味方であるかは分からないのだ。

 それ故に、別段文句を言うつもりもなかった。

 それでも、前を歩かれると、いささか困ることもあった。


「タクヤ、どこを見ているの? ねえ、私に教えてくれないかしら」


 微笑ましげな表情で、クラリッサが尋ねてくる。しかし、目が笑っていないところが恐ろしい。

 もちろん、意識してカリナの素晴らしいヒップを眺めている訳ではない。

 ただ、前を向けば、そこに女性らしさを露わにしたお尻があるのだ。


「どこって、前を見てるだけだぞ! 別に変なところなんて見てないぞ?」


「ねえ、タク、変なところってどこかな?」


 ――ぐはっ! カティのやつ、嫌な突っ込みをしやがる……


「ねえ、まさかと思うけど、綺麗なお姉さんのお尻をガン見している、なんてことはないわよね?」


 答えにきゅうしていると、クラリッサが先読みしてしまった。

 当然ながら、拓哉としては、カリナのお尻に意識を向けている訳ではない。いや、敢えて、そこに視線を向けないようにしていた。

 なぜなら、左右に居るクラリッサとカティーシャが、それを簡単に見逃してくれるとは思えないからだ。

 それ故に、その追及は濡れ衣であり、冤罪えんざいだと声を大にしたいのだが、きっと二人とも聞く耳を持たないだろう。

 したがって、いつものダンマリで嵐をやり過ごすしかない。


「あら? またダンマリを決め込むの? 最近、多いわよね? ねぇ、カティ」


「そうだね。都合が悪くなるとダンマリだもんね」


 ――いやいや、裏を返せばお前たちの所為だろ! てか、いよいよダンマリも通用しなくなってきたぞ……どうしたものか……


 二人から集中砲火を浴びながら会議室に向かっているのだが、前を歩くカリナの足取りは、どこか軽やかだ。

 もしかしたら、拓哉達を揶揄からかうために、敢えてお尻を強調した歩き方をしているのかもしれない。

 そんなカリナの背中は、小刻みに揺れているように見える。


 ――俺達が後ろだから顔が見えないが、実は笑ってるんじゃないのか? いてっーーーー!


 グラビア女優のような後姿をチラリとみやると、物の見事にバレてしまい、クラリッサから思いっきりお尻をつねられてしまう。


 ――くはっ~~! もう勘弁してくれ~! 早く会議室に着かないかな~。


 心中で悲鳴を上げつつ脚を進め、生き絶え絶えといった状態で会議室にたどり着いた。

 そんな拓哉の苦悩を他所に、カリナは勝手知ったる他人の家の如く扉を開けると、そそくさと中へ入っていく。

 すると、驚くというよりも、嬉しそうな声が聞こえてきた。


「あら? 久しぶりね。カリナ。というか、隠形ではないのね」


「お久しぶりです。リカルラ先生。ええ、もうホンゴウ君の前に姿を現しましたから」


 入った途端に交わされたその会話に、続いて入室した拓哉達三人が訝かしむ。


「もしかして、リカルラ博士の知合いですか?」


 クラリッサが少しばかり冷やかな視線を向けた。

 やはり、胸の大きさを気にしていないというのは、嘘なのだろう。

 露骨に、カリナを敵視しているように見える。


「ええ、昔ちょっとね。彼女は、私の教え子だし、ミクストルのメンバーだから安心してちょうだい。今はロートレス上級訓練校にいるのよね? いえ、それよりも現在の状況の方が優先ね。どうなっているの?」


 リカルラは彼女のことを簡単に紹介すると、すぐさま本題に入った。


 ――さすがは、話が早いな。


 簡潔に物事を運ぶ手並みに感心していると、カリナがスラスラと話し始めた。


「かなり拙いですね。奴らが仕掛けたヒュームの侵攻自体は遅いのですが、それを見越してこちらにも罠を張ったようです。どうやら、奴らは本気でミラルダ地方を焦土にする気のようですね。いえ、バルガン将軍を亡き者としたいのかもしれません。そして、序にダグラス将軍もですね」


「な、なんですって! 奴らって、純潔の絆ですよね? ゆ、許さない! 絶対に許さないわ」


 カリナの報告を聞いた途端、クラリッサが激昂する。


 ――おいおい、やっとのことで彼女をしずめたのに、これじゃ元の木阿弥もくあみだぞ。


 発狂寸前のクラリッサを横目で見ながら、拙い拙いと思い始めたのだが、カリナが真剣な表情で頷いた。


「大丈夫。そんなことは、私達が絶対にさせないから。安心して。それで、この基地の状況なのですが、ダグラス将軍が拘束されています。場所はこちらで把握しているのですが、なかなか手の出せる場所ではなくて……それに兵の中にも純潔反対派の者も多くいますから、PBAで突入する訳にもいきません。なんとかしたいと思ってはいるのですが……」


 カリナの真剣な表情に思うところがあったのか、クラリッサは少しだけ落ち着きを取り戻した。

 それに安堵しつつも、拓哉はダグラスのことが気になる。いや、ダグラスを慕う姪のことを思い出す。


 ――おい! それって、ミルルカが黙ってないだろ?


 自分の叔父が拘束されて、あのミルルカ=クアントが大人しくしているはずがない。

 なにしろ、正義のために生きているような女なのだ。

 拓哉と同じことを思ったのか、リカルラもそれを気にしたようだ。


「それで、ミルルカは、どうしているのかしら?」


「彼女も拘束されてしまいました。どうやら、ダグラス将軍を人質に取られて身動きできないようですね。彼女ほどの力の持ち主であれば、簡単に脱出できるのでしょうけど……」


「あなたの部隊は?」


 現在の状況を粗方把握したリカルラが、今度はカリナについて尋ねた。


「こちらも動いてはいるのですが、連れてきている人員が少ないので、少し持て余しています」


 淡々と現状把握が続けられるのだが、黙って話を聞いている拓哉の疑問はふくれる一方だった。

 それ故に、拓哉は思わず手を上げてしまう。


「あの~、取り込み中でもうし訳ないのですが、ちょっといいですか?」


「ええ、いいわよ。なにかしら」


 リカルラが承諾しょうだくの意思表示をしてくると、俺は感じていた事をそのまま口にした。


「カリナさんは、どうしてその話をここに持ってきたんですか? いま、俺達は包囲されていて、それを何とかして出発しなければならないのですが」


 彼女の話は、どれをとっても拓哉達が脱出する話ではなく、この基地に居る純潔の絆をどうやって排除するかに聞こえてくるのだ。


 ――まさかと思うが……


 嫌な予感を抱く拓哉だったが、何を思ったのか、カリナがニヤリと笑う。そして、拓哉に答えることなく、リカルラに視線を向けた。


「リカルラ先生。彼の能力は、いかほどでしょうか?」


「彼って、ホンゴウ君のことよね?」


 その態度を、リカルラは驚くことなく問い返す。

 それに、笑みを消したカリナは、黙ったまま首肯した。

 真剣な表情で頷くカリナに、リカルラはニヤリと笑みをみせた。


「人類最強よ!」


「やはりそうでしたか……」


 ――おいおいおい! 俺が人類最強だって? 真面にサイキックすら使えないのにか? お前等、ヤバい薬でも打ってるだろ!? なにがやはりなんだ?


 拓哉の嫌な予感が、そろそろ限界に達する。いや、既に次の展開が見えてきた。

 それを証明するかのように、カリナが唇を吊り上げた。


「ホンゴウ君、一役買ってもらいます」


 ――嫌です!


「もちろんです」


 拓哉は即答した。そのはずなのだが、なぜかその返事は肉声になっていなかった。それどころか、その想いは、即座に放たれたクラリッサの肯定によって、ものの見事に打ち消されてしまった。


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