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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
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08 無能者


 色々と擦ったもんだした挙句、クラリッサからの熱いビンタを喰らうことで、悪夢の戦場は収束した。

 ただ、被害者の拓哉としては、不貞腐れて食堂へと向かうことになる。

 それこそ、吸った揉んだしたのなら、ビンタの一つも甘んじて受け入れしかないのだが、何一つとしてバラ色のシチュエーションなどなかったのに、これはあまりにも酷な仕打ちだろう。


「ごめんなさい。タクヤ。ちょっと気が立ってしまって……」


 今更以てクラリッサは借りてきた猫の如く控えめにしているが、拓哉の頬にしっかりと刻まれたモミジは暫く消えることは無い。

 そして、不貞腐れた拓哉が振り返ると、背後でクロートが両手を合わせて詫びている様子が目に映った。

 その行動に違和感を持たなかったのは、未だにこの世界が異世界だという認識が低いからだろう。本来であれば、手を合わせるのは地球の習わしであって、この世界でも使われていることに違和感を持つべきなのだ。


 拓哉は溜息を吐きつつも脚を進め、クラリッサ、クロート、トニーラの四人で食堂に入ると、一斉に注目を浴びてしまった。

 その原因は、恐らくクラリッサなのだが、拓哉を突き刺すような視線もあった。


 ――俺の存在がそんなに広まってるとは思えんが……てか、どうみても好感的ではないよな。


 嫉妬と蔑みの視線に、疑問と不安を浮かべる拓哉だったが、そこで放たれた声が全ての思考を掻き消した。


「おいっ、クロート! 遅いぞ! トニーラ、お前が付いていながらどういうことだ。タクヤ、こっちだっ……て、クラリッサ嬢?」


 名前を呼ばれて視線を向けると、そこにはゴツイ男が立っていたのだが、どうやらクラリッサの姿を目にして動揺しているようだ。

 ただ、途端にクロートが首を窄めた。


「やばっ」


 トニーラは、それ見たことかと口を開く。


「だから、早く行こうって言ったのに……」


 二人の態度は全く理解できなかったが、クロートの後に付いて食堂を歩いていると、嘲りの視線と共に毒のある言葉が耳に届いた。


「ちっ、無能者のくせして」


「無能者がオレ達と同じところで飯を食うなよ」


「なんで、無能者がこんな所に……」


「でも、氷の女王が無能者と居るのは、どういうことだ?」


 胸糞の悪くなるような囁きは、一人二人からではなく、多くの者が口にしていた。

 そして、気にせずとも聞こえてくる嘲りや罵りには、決まって『無能者』という言葉が付加されていた。


 ――無能者……サイキックが使えないということだろうな。そうなると、俺に対する嘲りか……


 その雰囲気から、無能者とはサイキックを使えない者に対する侮蔑の言葉だと察する。

 ただ、嘲りの視線は、必ずしも拓哉に向けられたものではなかった。


 ――どういうことだ? もしかして……いや、それよりも、結局、愚かな人間はどの世界でも一緒なんだな。


 向けられる視線に疑問を抱くが、別の思考か働く。

 侮蔑、蔑視、嫉妬、優越、嫌悪、人間がもつ負の感情とは、どの世界でも不変であると知り、拓哉は肩を竦める。

 そう、人間とは必ずそういう感情が存在する。

 他人と比較すること自体は問題ない。ただ、自分より下の者を見下す輩が存在する。

 それこそ最低と蔑まされるべき人種だ。

 そう考えることで、この食堂に集まる者達を、逆に嘲笑いたくなる。

 己よりも上を見ることが出来ない愚かな集団なのだと。

 拓哉は視線を自分の後ろに向ける。クロートやトニーラも気にしていないようだ。

 ただ、チラリと隣を盗み見ると、クラリッサは顔を顰めていた。

 それに肩を竦めつつ脚を進めると、叱責の声が飛んでくる。


「遅いぞ! 何をやってたんだ!」


「す、すみません」


 クロートが頭を下げている相手は、彼等よりもやや年上に見える短髪の男で、整備士というよりも格闘家といった風情の体格だ。


 ――クロートが謝っているところを見ると、上司なんだろうな。


 男の立場を察していると、その男は立ち上がって拓哉に声を掛けてきた。


「オレはデクリロだ。お前が入る第四整備隊の班長をしている。宜しくな」


 そういって、デクリロは右手を差し出してくる。


「あ、本郷拓哉です。宜しくお願いします」


 拓哉は返事を返すのだが、そこで固まってしまう。

 というのも、デクリロは手を差し出しているのだが、その手はなぜか握り拳となっていたからだ。

 拓哉は思わず首を傾げてしうのだが、仕方なく彼の手を包むように握る。

 その途端、食堂が一気に騒然となった。おまけに、彼方此方からヒソヒソ声が聞こえてくる。


 ――えっ!? 何か拙い事でもしたのかな?


 慌てて手を放してオロオロとしていると、顔を真っ赤に染めたクラリッサが耳打ちをしてくる。


「男性が握りこぶしを出したら、握りこぶしを当てるのよ。掌で握り返したら、求愛行動になってしまうの」


 ――何だと! どんな習わしだよそれ! ありえねーーーーー!


「あ、あ、あ、あの、その、この世界の習わしを知らなくて……」


 あまりに異常な風習に、慌てて自分がしでかしたことを弁解する。

 慌てる拓哉を見たデクリロは、驚きの表情を一気に崩して笑い始めた。


「がはははは。大丈夫だ。勘違いなんてしてないからな。だいたい、オレはノーマルだ。オマケに、同性から求愛されてもノーと言える男だからな」


 ――いやいや、全く求愛してないし……勘弁してくれよ~~~~!


「いえ、お、俺は求愛なんてしてませんから! 俺だってノーマルですよ!」


 こうして拓哉は異世界の洗礼を受けた。恐ろしい風習をその身に刻むことになったのだ。







 結局、無事に――とは言えないが、なんとか食卓に着くことができた。

 対面にクロート、トニーラ、デクリロの三人が座り、拓哉の横にはクラリッサが収まっている。

 ただ、周囲では拓哉の噂で持ち切りのようだ。

 周囲の誰もがヒソヒソ声で話しているつもりなのだろう。


 ――丸聞こえなんだよ! ボケッ!


 行き成り、この世界の求愛行動をデクリロ相手に執ってしまった。

 だが、クラリッサの件もあるので、周囲の奴等からは両刀使いだと噂されているようだ。

 どう考えても溜息しか出ない状況ではあったが、ガチホモだと思われなかっただけマシだと思って諦めることにした。

 拓哉が諦めの表情でガックリしていると、対面に座っているデクリロが声を発した。


「よし、来たぞ!」


 デクリロの大きな声は、それだけでも周りの視線を集める。

 その度に、拓哉は身の縮む思いをしてしまうのだが、デクリロの視線を追って驚くことになる。

 というのも、ロボットが料理を運んできたからだ。

 ただ、これは人間に近しい見た目ではなく、見るからにロボット然とした様相だ。


 ――さすがは技術の発達した世界だな。こんなロボットが普通に仕事をしているなんて、地球では考えられないぞ。


 その丸みを帯びつつも、人間とは全く異なる形をしたロボットに感動していると、クラリッサが笑いを堪えるようにして話し掛けてきた。


「もしかして、ボットアを見て驚いているの?」


「ボットア?」


 聞き慣れない言葉に、思わず聞き返してしまうが、どうやらそのロボットの名前だと察する。

 すると、斜め向かいに座っているクロートが興味津々といった様子で尋ねてくる。


「タクヤはどんな世界から来たんだ? ボットアすら存在しない世界か?」


「いや、俺の居た世界では、ロボットと呼ぶんですよ。ただ、ここまでの能力はないですね」


「へ~、ロボットね~。それも悪くない名前だな」


 ロボットという名に、クロートは感心している。

 そんなクロートの隣に座るトニーラが、和やかな表情を向けてきた。


「そんなに驚かなくても大丈夫ですよ。これから嫌と言うほど見ることになりますからね。それも、もっと大きい奴を」


「そうだな。じゃ、酒は無いが乾杯して飯にしよう。宜しくな、タクヤ! カンパーイ」


 トニーラの言うのは、例のPBAのことだ。

 拓哉がそれに頷くと、デクリロがジュースの入ったコップを上げて、声を張り上げた。


 ――だから、声がデカいって! てか、乾杯は普通に聞こえるんだな……いや、まさか、グラスを合わせたら婚約なんてオチはないよな?


 慌ててグラスを下げながら隣のクラリッサを見やる。彼女はクスクスと笑いながら頷いていた。

 そう、大丈夫だと言っているのだろう。


 ――本当か? これ以上何かあったら、俺は異世界恐怖症になるぞ! ハッキリ言って完全にトラウマだ!


 異なる習慣に恐れをなした拓哉は、ビクビクしながらグラスをみんなと合わせる。その途端にクロートが驚愕の顔を見せた。


 ――ぐぎゃ! また何かやっちまったのか?


 クロートの表情を見てビクついていると、クラリッサが冷たい視線でクロートを突き刺した。


「いい加減になさい。タクヤはこの世界のことが解らないんだから。そんな悪戯は止めなさい!」


 クロートの大袈裟な反応は、拓哉に対する悪戯だった。

 クラリッサから窘められると、クロートは隣にいるデクリロから思いっきりゲンコツを叩き込まれていた。


「悪質な悪戯は止めろと言ってるだろ! 今度やったらPBAで踏み潰すからな!」


 ――いやいや、それも悪質を超えてるからな。


 思わず、デクリロの台詞にツッコミを入れそうになったのだが、それを何とか押し留めると、彼の隣に座るクロートが申し訳なさそうに謝ってくる。


「うい~す。すんません。タクヤ。悪かったな。悪気はなかったんだ」


「い、いや、いいんですよ。でも、これからは勘弁してくださいね」


「くくくっ」


 ションボリと項垂れるクロートと安堵する拓哉を見やり、トニーラが笑い始めると、ゲンコツを喰らわせたデクリロも硬い表情を崩して笑いはじめた。


 そんな光景を和やかな気分で眺めながら、拓哉はこの世界も満更じゃないかもしれないと思うのだった。


2018/12/26 見直し済み

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