表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
106/233

103 不要?

2019/1/26 見直し済み


 黒き機体が、見えないはずの攻撃をまた一つ躱した。

 もはや、何度目になるかも分からない攻撃だ。

 どうやって避けているのだろうか。そんな疑問に抱きつつも、彼女は執拗に攻撃を繰り返す。

 しかし、どの攻撃も見事としか言いようのない動きでかわされる。そして、黒い機体は、あっという間にメインモニターから、その姿を消してしまった。


「はぁ~~~!? あれを躱すなんてあり得ないんちゃ! 何を食って育ってるん?」


 間の抜けた声で愚痴ぐちこぼすトトに呆れつつも、ミルルカは驚きと喜びを同時に感じていた。

 自信をもって放つ攻撃を避ける技量に戦慄せんりつしながらも、そうでなければ面白くないという気持ちが込み上げてくるのだ。

 自分でも厄介な性格だと思うのだが、朱い死神と戦うことを考えれば、これくらいでやられるようでは、全く以てお話にならないのだ。

 それでも、気にならないと言えば嘘になるだろう。


 ――奴は、この攻撃をどうやって躱しているのだ?


 その回避能力は見事どころか、操作しているものが人間であることすら疑いたくなるほどだ。

 改めて、トトが発した人間ではないという言葉が頭をよぎる。

 ただ、ここで呑気に考え込んでいる暇はない。

 今現在、後手に回っているとはいえ、ミルルカが隙を見せれば、一気に攻撃を仕掛けてくるはずだ。

 ミルルカは、そう確信していた。


「トト、攻撃の手は休めないぞ。ガンガンいくからな」


「もっちろ~ん。オーケーなんちゃ! そ~れ、いけ~!」


 既に黒い機体の姿は、メインモニターに映し出されていない。

 しかし、拓哉の行動は、サブモニターに表示されたマークのお陰で筒抜けだった。いや、そもそも、トトにとって、モニターなんて何の意味もない代物だ。

 彼女の眼は一定距離において、全てを見通す力があるからだ。というと、少し語弊ごへいがあるかもしれない。彼女は見ている訳ではない。特殊な感覚でそれを知ることができるのだ。


 ――さあ、次はどうやって攻めてくるんだ? なあ、黒き鬼神よ! こんなものでは、私を倒すことは出来んぞ。


 偉そうなことを言っているが、脅威きょういとなっている攻撃の殆どはトトの力だ。

 そのトトを連れてきたのがミルルカであることを考えると、少なからず彼女の力量の一つともいえるだろう。

 それに、あくせくと働いているのはトトだが、それらの攻撃方法を思いついたのはミルルカなのだ。自慢しても罰は当たらないはずだ。


「さて、戦いはこれからだぞ。お前の底力を見せてみろ!」


 その声が拓哉に届くことがないと知りつつも、まるで獅子が唸り声をあげるかのような気迫で、彼女は姿なき黒い機体に向けて叫び声をあげた。









 その様は、まさに絶景というに相応しい光景だった。

 それこそが、熱源探知をメインモニターに表示した結果だ。

 まるで夏を彩る花火のラストシーンのように、赤やオレンジなどの様々な色彩がモニターを埋め尽くしていた。


「あうっ……やはり、何も見えなくなったわ」


 ――うぐっ、さすがに、これは……


 拓哉を信じて設定してみたものの、予想通りの結果が表れて、クラリッサは思わず顔を引き攣らせる。

 しかし、拓哉は覚悟だった。

 ただし、その結果は、いささか想定よりも派手すぎると感じていた。


「悪いが、もう少し光度を下げられないか?」


 どうにも、これではメインモニターが無に等しい。

 ただ、なんとか使える状態にする必要がある。そうでなくては、この戦いに勝てないのだ。


「できなくはないけど、本当にこれで戦うつもり? こんなことをしなくても、私が頑張ってサイキックでサポートするわ」


 彼女からすれば、ナビゲーターとしてのプライドがあるのだろう。しかし、あの攻撃を瞬時に伝えることは困難だ。仮に上手くいったとしても、対応が遅れるのは確実だ。やはり、機体を操作する拓哉自身が、攻撃の位置を知る必要がる。したがって、彼女が怒りを露わにすると知りつつも、告げなければならない言葉があった。


「悪いけど、光度を下げてくれ。それと、サポートモードを起動してくれ」


 その言葉を口にした途端、ナビゲーター席から殺気が噴出する。

 これは冗談ではなく、本当に背後から恐ろしいほどのプレッシャーを受けたのだ。そして、威圧に続いて、重苦しい声がヘッドシステムから聞こえてきた。


「タクヤ。それはどういうこと? サポートモードを起動するということの意味を理解しているわよね?」


 サポートモードを使用すると、モニターに映し出される内容に、細かな説明が表示される。

 それは、文字を瞬時に読まなければならないという弊害へいがいはあるものの、ドライバーがいち早く状況を検知するにはもってこいだ。

 ただ、飽く迄も、そんなことを口に出来るのは、ゲームで単独操作に慣れた拓哉くらいのものだろう。

 普通のドライバーであれば、目を回すこと請け合いだ。

 なにしろ、文字を読むということは、情報を頭にインプットする必要があり、さらに機体を動かすための思考をする必要があるのだ。ちょっとしたことであれば問題ないが、それが戦闘となると、目も当てられない状態になるだろう。

 それ故に、ナビゲーターが存在し、より分かり易い方法でサポートしているのだ。

 そのサポートモードの使用をやめると言うことは、暗にナビが不要だと言っているようなものなのだ。

 もちろん、プライドの高いクラリッサのことだ。激昂げっこうして当然だろう。なにしろ、要らないと言われてしまったのだ。

 それでも、拓哉は戦闘で勝利を収めるために、それを承知で口にしたのだが、身震いするほどの怒気を感じて、思わず尻尾を股の間に収めたくなる心境だった。しかし、ここで怯むわけにはいかない。


「すまん。だが、口頭じゃ間に合わないんだ」


「……」


 ――沈黙ほど恐ろしいものはないよな……


 迫りくる見えない誘導弾よりも、無言のプレッシャーに冷や汗をかきながら、見えない砲撃を躱すべく機体を操作する拓哉は、冷や冷やしながらラリッサの返事を待つ。


 ――これって、俺が完全に尻に敷かれてるのかな? なんか、暗い未来がやってきそうな気分だ……


 少しばかり将来の自分の立場に危機感を抱いていると、拓哉の考えを理解したのか、クラリッサがゆっくりと口を開いた。


「分かったわ。でも、私は何をすればいいの? 黙って見学していればいいのかしら」


 ――ぐあっ! 口調が冷て~~~~! こりゃ、説明の仕方が不味かったかな……


 どうにも誤解していそうなに彼女に、自分の考えをきちんと伝える。

 本当は、こんなことをしている場合ではないのだが、ここでわだかまりを持ってしまうと、この後の戦闘に影響する可能性があると判断したのだ。


「クラレ、勘違いするなよ。お前の力が必要ないなんて思ってないからな。サポートモードを起動したら、次は全開モードを起動する。お前には、そっちに専念してもらいたいんだ。多分、あの攻撃を全く食らわずに、接近戦に持ち込むのは不可能だからな。だから、お前には、サイキックシステムに全力を注いでもらいたいんだ」


 拓哉の気持ちが伝わったのか、サブモニターに映るクラリッサの表情が和らいだ。

 同時に、先程までのプレッシャーも、嘘のように消えてなくなった。

 どうやら、クラリッサも理解できたようだ。


「それならそうと、初めから言えばいいのに」


 納得したクラリッサを目にして、ホッと一息つきつつも、心中で愚痴を零す。


 ――いやいや、だって、それを言う前に殺気立ったのはお前だろ? 少しは抑えてくれよ。俺の心臓が持たんぞ?


 間違っても口にはできない言葉だ。

 ただ、それと同時に、いつまでこうやって不満を溜め込むのかと、再び暗い未来を思い浮かべてしまう。

 しかし、それとは知らないクラリッサは、さっさと準備を済ませたようだ。


「これでいいわ。映すわね」


 彼女の声に続いて、メインモニターの表示が切り替わる。


 そこには色とりどりではあれ、先程と違って小さな花が咲くような表示が映し出された。

 そして、その花々に、正確な位置を知らせる文字が表示されていた。


「これだこれ! よし、これならイケるぞ。サンクス! クラレ」


「サンクス? なにそれ」


 感動していた拓哉は、思わず母国の言葉を口にしてしまう。


「ありがとうって意味さ」


「そ、そう……当然よ。というか、もっと親愛の情のある言葉の方が良かったわ」


 ――うぐっ……てか、それは、俺にとっては、かなり敷居しきいが高いぞ……


 彼女の要求の高さに唸り声を上げそうになったが、それをなんとか飲み込んで、次の展開に移る。


「よし、全開モード起動だ」


了解ラジャ!」


 サポートモードの起動の時とは、打って変わって明るい声が返ってきたことに、拓哉は色々と思うところがあったが、それについては触れずに、警告だけを口にする。


「あの様子だと、まだ奥の手がありそうだからな。油断せずに行くぞ」


「もちろんよ。今度こそ、ギッタンギッタンにしてあげましょう」


 ――おいおい、油断するなって言ったばかりなのに……


 クラリッサの返事に焦りを感じつつも、それを表に出すことなく機体を加速させる。

 そのタイミングで、クラリッサからの声が届く。


「全開モード起動したわ」


 その声と同時に、機体が更に加速して、身体により一層強いG(ジー)が加わる。

 なぜか、その重圧を心地よく感じながら、拓哉は無意識に不敵な笑みを浮かべた。









 メインモニターには障害物のみが映し出され、サブモニターに拓哉が操る黒い機体のマークが表示されていた。

 そんな中、いい加減に全く被弾しない拓哉に対して、普段は呑気なトトが、憤慨ふんがいの様相を呈していた。


「ちょ、ちょ、ちょ! もうキレたっちゃ。本気でやるけ~ね! 覚悟し~よ!」


 一発も当てられないことに、苛立ちを露にさせ始めたトトは、とうとう本気モードに突入したようだ。


 ――おいおい、今まで本気ではなかったのか? まあいい。私も気合を入れないと、あいつだけでは手に負えないようだな。


 少しばかり呆れつつも、ミルルカが自分に喝を入れていると、拓哉が操る機体の位置を示すマークが、異常な速度で移動を開始したことに気付いた。


 ――どうやら、ギアを一段階上げたようだな。確か、舞姫との戦いではもう一段回上があったはずだ。だが、そのあと直ぐに機体は大破……要は機体が持たなかったのだろう。それほどまでに、奴の動きが尋常ではないということだ。ただ……逆に言うと、そのギアを入れた時が、奴の最後ということさ。


 自分の思惑通りに進んでいることに満足したミルルカは、その美しい顔をニヤリと歪ませる。


「さあ、奴がギアを上げてきたぞ。気合を入れろよ」


 叱咤しったの声を飛ばすと、何時もならそれに呼応するはずのトトが、何があったのか、突如として悲鳴をあげた。


「何よ、あれ! ウチの移動先予測が追い付かないっちゃ」


 ――それほどなのか……人間の眼ではなく、妖精の感覚で捉えているはずだが、それでも追えないほどなのか……これはちょっと計算外だったかな……まあいい。それくらいでないと、面白みもないからな。


「おっと、攻撃がきたな。距離が詰まった所為か」


「ミルル、大丈夫? 直撃してるんちゃ」


「ああ、これくらいなら問題ない。お前は防御を気にしなくていいからな。攻撃に集中しろ」


「アイアイサ~~~!」


「なんだ? それは……」


「了解って意味なんちゃ」


 トトが言い放つ意味不明な言葉に、ミルルカは思わず頭を傾げてしまうが、直ぐに気合いを入れて、拓哉の攻撃を防ぐことに専念する。


 ――くはっ! なんだ、この正確さは……あれだけ動きながら、どうやってこれだけ同じ場所に撃ち込めるんだ? 普通の者なら、サイキックシールドがあっても撃破されてしまうぞ。


 その射的の正確さに舌を巻くが、ミルルカも伊達に鋼女と呼ばれている訳ではない。

 サイキックをフル回転させ、防御をさらに強化する。


「これくらいの集中砲火では、私の壁は破れんぞ! さあ、こい!」


 的確に狙われているポイントにサイキックシールドを重ね掛けしながら、霞むような速さで接近する黒い機体に砲撃を続ける。

 攻撃に関して言えば、ミルルカは打ち出しさえすれば良いのだ。あとはトトがどうとでもするのだ。

 実のところ、ミルルカとは、砲撃を苦手とするドライバーだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ