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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
104/233

101 ミルルカ

2019/1/26 見直し済み


 人工的に作られた障害物は、まるで廃墟を思わすような光景を作り出している。

 ここで戦死した者が居ないと知りつつも、どこか悲しげな気分にさせられる。

 そんな仮想戦場に、拓哉が操る黒い機体が立っている。


 今回の装備だが、機体の左右の腕には中近距離用のエネルギー銃――ミドルアタッカーが装備され、両腰には高周波ブレードが装備されている。

 本来であれば、長距離銃――クレストゲットも装備するのだが、さすがに、ミルルカと遠距離で戦う気になれなかった拓哉は、ミドルアタッカーを余分に装備したのだ。

 これは、事前に作戦を立てた結果であり、遠距離攻撃を捨てる代わりに、両腕にエネルギーシールドを仕込んでいる。

 要はサイキックを使わなくても、シールドで回避できる回数を増やしたのだ。


 ――さて、どれだけ早く接近戦に持ち込むかだな。


「ねえ、タクヤ」


「ん? なんだ?」


 対戦を目前にして、今回の戦い方を思い描いていると、ヘッドシステムからクラリッサの声が聞こえてきた。

 その声色は、どこか不安を感じさせる。

 今更、不安を抱いていることを疑問に思いながらも、拓哉が即座に返答すると、サブモニターに彼女の神妙な顔が映し出された。


「タクヤ、この戦闘、もちろん勝つつもりよね?」


 ――どうしたんだ、今頃……そんなことは、聞かなくても当然だろうに。


 疑問に思いつつも、拓哉はしっかりと頷く。


「当然だ。なんで、そんなことを聞くんだ? もしかして、怖気づいたんじゃないだろうな」


「失礼ね。怖気づいてなんていないわ。タクヤの力を信じているもの」


「だったら、どうしたんだ?」


 どうやら、負けることは考えていないようだ。

 だとすると、彼女の不安げな表情を浮かべる理由が分からない。

 しかし、それは直ぐに明かされる。

 彼女は少し押し黙ったかと思うと、直ぐに厳しい表情を見せた。


「この対戦で勝っても、ミルルカに手を出してはダメよ」


 ――ぐはっ! そんな心配をしてたのか……


 そう、彼女とミルルカは、この対戦に己の尊厳のみならず、自らの立場さえ賭けていたのだ。

 そのことをすっかり忘れていた拓哉は、予想もしていなかった忠告に、ガックリと肩を落とした。

 だいたい、そんなことは対戦が終わってから考えれば良いことなのだ。

 それに、そもそも自業自得なのだ。


 ――だったら、あんな賭けなんてしなきゃいいのに……


 これから対戦だというのに、彼女の一言で、一気に気持ちがクールダウンしていく。

 これが戦闘に影響したらどうしてくれるんだ。なんて考えながら、特に何も告げることなく押し黙っていると、試合開始のサイレンが鳴らされた。


「そんなことは、考えてないから気にするな。じゃ、いくぞ!」


 機体を動かし始めながら、そう伝えたのだが、彼女はボソリと不安な気持ちをこぼした。


「心配だわ……」


 ――もう勝った気でいるのか。その度胸だけは尊敬するぞ。


 既に勝った気でいるクラリッサの心臓に感心しながらも、呆れ果てた拓哉は、思わず溜息を漏らした。









 既に、ここの地理を全て頭に叩き込んだ拓哉は、まるで我が庭の如く機体を疾走させる。

 その間も索敵を怠ることはない。

 ミルルカの所在を確かめつつ、クラリッサに指示を送る。


「向こうの機体をマークできたら、こっちも全開モードに切り替えるからな」


了解(ラジャ)!」


 戦闘を開始した所為か、クラリッサは簡単な返事のみで終わらせたのだが、その途端に、慌てた様子で声をあげた。


「えっ!? ロックされたわ!」


「なんだと!? こちらはまだ敵影を確認できていないぞ。どうやって俺達の位置を割り出したんだ? レーダーは使用不可なはずだが……」


「攻撃が来たわ。方向……上空?」


 戸惑うクラリッサの報告を聞き、即座にモニターと位置センサでミルルカの砲撃を確認する。

 それは、何故か拓哉達に向けて攻撃ではなく、頭上高く放たれていた。


 ――ロックオンされたんだよな? それなのに、全く違うところに攻撃が? おかしい……もしかして……


 拓哉の疑問も当然だ。

 ロックオンということは、拓哉が操る機体の場所が判明しているはずだ。

 そうなると、的を外した攻撃なんて起こり得るはずがない。

 なにしろ、相手は火炎の鋼女と呼ばれる強者なのだ。

 それ故に、嫌な予感に襲われた拓哉は、即座に全速で機体を走らせる。

 その途端だった。空高く放たれたエネルギー弾が突如とつじょとして、その軌道きどうを変えて拓哉達に向かってきた。


「ちょっ、誘導弾なの? PBAの戦いでは、聞いたことがないわよ」


 ――くそっ、ホーミング弾かよ。やっぱりな。それしか考えられないもんな。


 愚痴をこぼしながらも、すかさず障害物を背にして、誘導弾を回避する。

 誘導弾は障害物に着弾し、拓哉達を追うことが出来なくなったのだが、上空ではミルルカによって打ち上げられた誘導弾が、次々と襲い掛かる。


「ちょっ、これって、さすがにインチキだろ」


 サブモニターで、その攻撃の軌道を確認しながら、思わずそんな愚痴をこぼしたのだが、それをクラリッサが否定してきた。


「PBA用の誘導弾なんて存在しないはずよ。だから、あれはサイキックでやってるの。そうなるとインチキなんて言えなくなるわ」


 クラリッサの指摘は、至極真っ当なものだ。

 拓哉だって、そんなことは理解している。ただ、思わず愚痴をこぼしただけだ。

 それに、日本に居た時の対戦ゲームでも経験済みだった。


 ――いつか、俺もサイキックを身に着けて、俺TUEEEしてやるからな! いや、それよりも……他に気になることがある。


「なあ、クラレ。奴らは、どうやってこっちの位置を確認してると思う?」


 機体を躍らせるかのように操作し、次々と迫りくる誘導弾を躱しつつも、すかさず疑問を口にする。

 しかし、彼女は、まるでお手上げよとでも言わんばかりに肩を竦めた。


「さあ、私にも分からないわ。可能性からすればサイキックだと思うけど、そんなサイキックなんて聞いたことがないもの」


 彼女が知らないとなると、もはやお手上げだ。

 拓哉は思わず溜息を吐きたくなる。しかし、だからといって、戦えない訳ではないし、諦めるつもりもなかった。

 というのも、その攻撃は一旦上空に上がってから降りてくる。

 その軌道は、それほど難しいものではない。

 どちらかといえば、舞姫のアタックキャストの方が厄介だと言えるだろう。

 それに、拓哉達の機体が地にある以上、その攻撃を避けてしまえば、障害物か地上に着弾して、それ以上追いかけてくることはない。


 ――となると、ミルルカの位置さえ掴めば、戦いに然したる影響はないな。


 一瞬にして考えをまとめた拓哉は、クラリッサに頼み事をする。


「クラレ、あの上空に放たれている誘導弾の位置から、向こうの場所を逆算してくれ」


「分かったわ。少しだけ時間をちょうだい」


「ああ、方向は分かってるんだ。機体はそちらに向けて走らせる」


 そう、ミルルカの攻撃は、舞姫のアタックキャストと違って、近距離戦闘では使い物にならないだろう。


 ――さっさと近距離戦闘に持ち込むしかない。


 クラリッサの解析を待つことなく、拓哉は降り注ぐ攻撃を縫うように避け、機体を目的方向へと走らせた。









 ――私達の挨拶は気に入ってくれたかな。まあ、少しズルいとは思うが、これも戦闘力だからな。文句は言わせないぞ。


 既にマークした敵影の動きをモニターで確認しながら、ミルルカは休みなく砲撃を続ける。

 とはいっても、彼女はトリガーを引くだけだ。それこそ、拓哉が見ればインチキだとクレームを入れることだろう。


「あちゃ~! また外れたっちゃ。ミルル、あれなに? 速過ぎるんちゃ」


 後部座席にちょこんと正座する手の平サイズのトトが、予想以上の難敵を前にして愚痴をこぼしている。ただ、その声は、ヘッドシステムを通した肉声ではない。

 彼女は、直接、ミルルカの頭に話しかけてきているのだ。

 それは、この世界の人間ならサイキックによる念話だということになるのだが、彼女が使っている能力はサイキックではない。

 その力は、彼女たちが持つ特有のものであり、この世界の人間の想像を絶する力だった。

 そんな力を有した彼女は、当然ながら人間ではない。そもそも、この世界には存在しない生命体なのだ。


「あ~腹が立つっちゃ! 妖精を舐めたら許さんけ~ね!」


 そう、少しおかしな言葉を使う彼女は、ミルルカが自分のナビとして異世界から召喚した妖精だ。

 もちろん、彼女自身が最悪の気分を味わいつつ、異世界に転移して連れてきた。最強のナビゲーターなのだ。


 ――まあ、少し生意気なところは困りものだが、食べ物で釣れるところは、お手軽で助かる。


 そのお手軽なトトの力は、多岐たきにわたる。

 本来なら見えもしない相手をマークし、出来るはずもないロックオンをしたのは、彼女の察知能力だ。序に、砲弾を追跡モードで軌道変更しているのも彼女の力だったりする。

 という訳で、ここまでの戦闘では、ミルルカは唯の砲台にしかなっていない。


 ――まあ、これは挨拶代わりだ。だいたい、これで片が付くとも思っていないから、大目に見てもらおうか。


「どうだ、トト。仕留められそうか?」


 ダメだと知りつつも、ニヤケ顔をこらえながら、後部座席のトトに声をかけた。

 背中の透明な羽をパタパタと動かしながら、彼女は悪態を吐く。


「ぐぅ~~、悔しいっちゃ~~! なによ、あれ! あんなのインチキなんちゃ。ズルいんちゃ。うちの攻撃をあんなに簡単に避けるなんて、あんなん、人間じゃないんちゃ」


 ――いやいや、お前が言うか? それって、お前が口にする台詞せりふじゃないだろ……


 トトに呆れつつも、モニターを確認して注意を喚起かんきする。


「物凄い速度で接近してくるぞ。予想通り、近接戦闘で片を付けるつもりなんだな」


「くふふふ、うちの攻撃に恐れをしたんちゃ」


 ――勝手に言ってろ! だが、黒き鬼神と呼ばれる男は、そんなに甘い相手じゃないぞ。ただ、奴は接近戦なら己の土俵どひょうだと思っているのだろうな。くくくっ、甘いぞ。大甘だ。さあ、見せてもらおうか、お前の本領というやつを!


 ミルルカはモニターに映し出された黒き機体の表示を眺めつつ、拓哉との戦いに心躍こころおどらせる。まるで、最愛の者に向けるかのような歓喜の笑みを浮かべて。


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