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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
103/233

100 一回戦を前にして

2019/1/25 見直し済み


 裏でせっせと働く者たちの成果を確認し、抽選会場を後にした拓哉達は、速やかに飛空艦へと戻ってきた。

 拓哉としてはこうなる予感がしていたので、そもそも見に行く必要もないと思っていただけに、ただただ疲れただけだった。

 それでも、クワトロ上級訓練校で氷の貴公子と呼ばれるテリオスと話すことができたのは、少なからず行幸ぎょうこうといえるだろう。

 しかし、その成果がないに等しいことを考えれば、やはり意味がなかったとも言える。

 ただ、テリオスに関しては、少しばかり成果があったのではないだろうか。

 最後に残した言葉は、少なからず、拓哉に疑問を持たせることに成功していた。


「ねえ、タクヤ。あの言葉って、どういう意味かしら」


 どうやら、クラリッサも同じことを考えていたようだ。


「一試合目で戦えてよかったです。というやつか?」


「そう、それ! まあ、彼等が対校戦の順位を気にするとも思えないけど、訓練校の評価的には、良い結果を残したいと考えるはずよ。それなのに、初戦……それも一試合目で戦えることを、本心から喜んでいるようだったわ」


 そう、テリオスは表情を変えず、拓哉に本意だと言い残して去っていったのだ。

 その意図が分からず、拓哉達はあれやこれやと考えているのだが、そこにカティーシャが割り込んできた。


「まあ、普通に考えると、早く戦いたいということだと思うけど……それ以外の何かありそうだよね。例えば、勝つにしろ負けるにしろ、早く終わらせなきゃいけない理由があるとか。まさか、本当にぎゃふんと言わせて欲しい訳じゃないと思うけどね」


 ――カティの言う通りだと思う。だが、いつまでも悩んでも仕方ない。


 これ以上の考察に意味を感じられなくなった拓哉は、そこで話を打ち切ることにした。


「どっちにしろ、試合は明日だ。今更、色々悩んでも仕方ない。さっさと休もうぜ」


 拓哉とミルルカの試合は、個人戦初日の一戦目だ。

 ここで、うだうだやっていても意味がない。それこそ、悩ませることが目的かもしれない。

 同じように考えたのか、二人とも賛成らしく、黙って頷いて席を立った。


 ――ん? やたらと素直だな。なんか嫌な予感がするぞ……


 二人の行動を訝しく感じていると、クラリッサが拓哉の右腕、カティーシャは左腕を抱きしめた。


「ど、どうしたんだ!?」


 動揺する拓哉を他所に、二人は強引に立ち上がらせる。

 もちろん、胸の感触を最高に思いつつも、立ち上がったのは拓哉だけだ。


「じゃ、行きましょうか」


「そうだね。ゆっくりと体をいやそうか」


 笑みを浮かべた二人は、そう言って拓哉をバスルームに連行する。

 結局は、拓哉本人のみならず、下半身も元気に立ち上がったのは言うまでもないだろう。









 飛空艦の食堂に入ると、拓哉達を除く全員が集まっていた。

 この拓哉達と言うのは、もちろん、クラリッサとカティーシャを含んだ三人だ。

 ただ、朝が早かった所為か、ルーミーだけは、見事に船を漕いでいる。


「ゆっくり休めたか? 今日の対戦、絶対に勝てよ!」


 クラリッサとカティーシャに挟まれた状態で食堂に入ると、リディアルが直ぐに景気よく拓哉の背中を叩いた。

 ところが、拓哉には、それに応えるほどの覇気がなかった。


 ――勝つのは、いいんだけどさ……ゆっくり休めたかと聞かれると、答えに困るよな……


 実のところ、昨夜は、何時にも増して大変だったのだ。

 あまり詳細を語ると、ノクターン行になりそうなで割愛するが、それこそ卒業式を迎えるかと思うほどに大変だったとだけ伝えておこう。

 その所為もあって、リディアルの返事に困っていると、ナルシスト的な動作でトーマスが前髪を掻きあげた。


「気持ちは分かるけどね。対戦前夜に頑張りすぎは、どうかと思うよ? というか、両刀遣いとか、どんな風になるんだろうね。少し興味があるね」


 その言葉の内容からすると、どうやら勘違いしているらしい。

 男子と思われているカティーシャはさておき、クラリッサのような美しい少女と同じ部屋で暮らしているのだ。誰だって、既に大人の階段を登っていると考えるだろう。

 ところがどっこい。拓哉の奥手は半端ない。いまだ貞操を守り続けているのだ。ああ、もちろん、本人が頑なに守りたいと思っている訳でもない。

 ただ、大人の階段を登っていない拓哉としては、その手の話が出ると思わず反論したくなる。

 しかし、拓哉が弁解する前に、まなじりを吊り上げたキャスリンが、やたらと興奮気味に立ち上がった。


「三人プレーなんて不潔よ! それに、両刀だなんて……野獣だわ」


 ――野獣……ついに、俺は人として見られなくなってしまったのだな……


 さすがに、身内から罵声を浴びせかけられ、拓哉もショックを受ける。

 拓哉は頭をぶん殴られたような衝撃を受け、弁解するどころか呆然としてしまう。

 すると、憤慨ふんがいするキャスリンに、ティートが突っ込みを入れた。


「なに言ってるんだ。ただのヤキモチだろ? お前も入れてもらえばいいじゃないか。三人プレーはダメでも、お前が入って四人プレーなら問題ないんだろ? というか、野獣から襲われたい癖に」


「うきゃ~~! ティト、何をいってるのよ! そ、そんなことない。野獣とだなんて、襲われたいだなんて……こ、こんなところで、何を言ってるのよ! ティトのバカ! 変なこと言わないで!」


 顔を真っ赤にしたキャスリンが、慌ててティートに罵声を浴びせかける。

 ただ、ヤキモチについては、全く否定できていない。

 しかし、朴念仁の拓哉が、彼女の気持ちに気付くはずもない。

 ところが、クラリッサは恐ろしく敏感だ。

 キャスリンの態度を目にした途端、その美しい顔が般若と変わり、冷たい視線を向けた。


「キャスリン。あなたのことは、良き仲間だと思っていたけど、それも今日までみたいね」


 ――おいおいおい! どうしたんだ、クラレ。いきなり、なに言ってるんだ。


 結局、怒れるクラリッサを宥めすかし、落ち込むキャスリンを元気づけ、なんとか場が落ち着いたところで、やっと朝の食事をることになったのだが、重い空気が清浄されることはなかった。

 そんなところに、リカルラが大きな胸を揺らしながらやって来たかと思うと、にこやかな表情を見せた。


「調子はどう? 今日の相手は強敵だけど、大丈夫よね?」


「まあ、いつもの通りです」


「問題ないです。速攻で片付けてみせます」


 拓哉が当たり障りのない言葉で答えると、クラリッサが強気の台詞で上書きした。


 ――自分の相方ながら、この女の自信はどこから湧いてくるのだろうか……


 リカルラに対抗するかのように、自慢げに胸を張るクラリッサに慄く。

 自分のナビゲーターとしては、これくらいの方が心強いと思う反面、彼女の揺るがぬ自信には、少しばかり疑問を感じる。

 ただ、その視線は、二人の胸から離れないところが、童貞の悲しい宿命かもしれない。

 しかし、リカルラは端から争う気がないのだろう。全く気にした様子もなく、視線をカティーシャに移した。


「カーティス君、少し話があるの。ちょっといいかしら」


 突然の誘いに、カティーシャがキョトンとした顔で自分を指し示すと、リカルラはそうだとばかりに頷いてみせた。


 ――どうしたんだ? これまでカティだけを呼んだことなんてないんだが……


 カティーシャと同様に、リカルラが何を考えているのか全く読めなくて、拓哉は首を傾げてしまう。

 しかし、彼女は食べていた料理をそそくさと口に詰め込むと、ゆっくりと席を立った。


 ――ふむ。急用でも食べ物を粗末にしないところが素晴らしいな。


 リカルラについて食堂を後にするカティーシャを眺めながら、そんな如何でも良いことを考えていると、訝しげな表情のクラリッサが耳元で囁いた。


「何事かしら。私の挑発もサラリと流していたし……」


 ――おいおい! わざと挑発してたのか!? その心を言え! 場合によっては、お前の叔母になるかもしれない相手だぞ?


 胸の大きさなんて関係ないと豪語しつつも、胸の大きな女性なら誰でも挑戦状を叩きつけるクラリッサに呆れつつも、それをぐっと飲み込んで、自分の考えを伝える。


「さあ、ただ、カティだけというのが気になるな。何か隠密行動を頼むんじゃないのか?」


「そうね。胸は小さいけど、隠密サイキックは、かなりの技量だものね」


 ――だから、胸は関係ないだろ! どんだけ胸を気にしてんだ!? もしかして、鋼女の胸も気に入らなかったのか? あのバトルは、その所為か?


 ついつい要らぬ詮索をしていると、彼女は拓哉の好みを熟知しているかのように続きを口にした。


「だって、大きい方が好きでしょ? カティの前では言えないみたいだけど、見ていれば分かるわよ」


 ――うぐっ、見透かされている……た、確かに……だが、それには語弊があるぞ。


 確かに、拓哉は胸が好きだ。というか、女性の胸が嫌いな男なんて居ないだろう。もし居るとすれば、少しばかり遺伝子に問題があるはずだ。もちろん、胸以外が良いという考えを否定しないし、大小の好みもあるだろう。ただ、胸が嫌いな男は、少なからず本能に反していると言えるだろう。

 ただ、それと男女の恋愛は関係ない。そのはずだ。

 それ故に、拓哉は即座に否定する。


「確かに、嫌いじゃないけど、誰でも良い訳じゃないぞ」


 拓哉の台詞は、全く否定になっていなかった。それには目をつむって欲しい。これは男の性というものだ。

 しかし、目を瞑れない者も居たようだ。


「落ち着けキャス! まだ大きくなる可能性はあるからな!」


 発狂寸前のキャスリンに向けて、ティートがさり気無くフォローするが、どうやらそれは藪蛇やぶへびだったようだ。


「ティトは、自分が大きいからそんなこと言えるのよ。その大きな胸、あたしがもい(・・)であげるわ」


 数時間後には強敵との対戦が控えているというのに、拓哉は朝からオッパイバトルに巻き込まれて、思いっきり疲弊することになってしまった。









 昨夜から今朝にかけての裸ネンゴロ事件に引き続き、オッパイバトルで完全にダウンした拓哉は、疲れた様子で格納庫にやってきた。

 当然ながら、その原因であるクラリッサも一緒に居る。

 最終的に、勝者となった彼女は、どこかご満悦といった様子だ。

 実際、いさかいには不満があるものの、その豊かな胸で眼福を得ている拓哉としては、あまり文句を言える立場ではなかった。


 ――はぁ~、まあいいんだけさ。それよりも、随分と騒がしいな。


 クラリッサをチラリと見やって溜息を吐く。実際、その行動も見透かされているのだが、それと知らない拓哉は、飛空艦の格納庫が慌ただしいことに意識が向く。

 そこでは、団体戦が終了したことで、他の機体の撤収作業が進められており、対戦に負けず劣らずの慌ただしい光景が作り出されていた。

 それを眺めつつ足を進めていると、拓哉の機体の前で忙しく作業をしているララカリアが目に映る。


「おはようございます」


 ララカリアは振り向いたのだが、その様子がどこかおかしい。なにやらモジモジとしている。

 それどころか、それを目にしたクラリッサの様子も激変した。ララカリアに向けた視線が恐ろしく冷たい。


 ――ん? どうしたんだ?


 二人の間に何かあったのだろうかと考えるが、そこで団体戦の優勝パーティーのグラス事件を思い出した。


 ――ああ、あれか……触らぬ神に祟りなしって奴だな。


 藪蛇を恐れた拓哉は、二人の態度について言及するのを止め、整備について尋ねることにした。

 なにしろ、朝からオッパイバトルに巻き込まれたばかりなのだ。寝た子を起こしたくないと考えるのも当然だろう。


「機体の方はどうですか?」


 拓哉が機体について尋ねると、途端に、ララカリアは我に返る。

 ハッとしたかと思うと、いつもの調子で応じた。


「問題なしだ。お前に頼まれていたやつもぶち込んだし、コーティング用のサイキックプログラムも修正してあるぞ。これで前よりは長くもつだろう」


「ありがとうございます。助かりました」


「れ、礼にはおよばん。いや、礼なら――」


「ミス・ララカリア」


 少ない時間で尽力してくれたことに礼を述べると、ララカリアが何か言おうとしていたのだが、それを掻き消すように、クラリッサが声を張り上げた。


「わ、分かってる。じょ、冗談だ」


 般若の形相を見せるクラリッサに向けて、ララカリアは肩を竦めてみせた。

 そして、表情を引き締めると、彼女は拓哉に視線を向けた。

 ただ、拓哉の目には、彼女の表情に不安の色が滲んでいるように映る。


「相手は鋼女だが、もちろん勝ってくるんだろうな」


 ――ああ、相手が、相手だからか……


 不安の理由を察した拓哉は、強気の発言で彼女を安堵させるつもりだ。

 いつになく気合いを入れて頷く。


「愚問ですね。それは言うまでのないことです」


 どうやら、拓哉の意思が伝わったのか、ララカリアの表情が一気に明るくなる。

 彼女は何時のように、拓哉の腕をバンバンと叩くと、一言だけ返してきた。


「期待してるぞ!」


「はい!」


 笑みを見せるララカリアと別れ、拓哉とクラリッサは、手慣れた手順で機体へと搭乗する。

 先にクラリッサがナビゲーターシートに座り、続いて拓哉がドライバーシートに着く。

 いつものように、シートベルトを着用していると、後部座席のクラリッサから声が掛かる。

 その声色からして、かなり真剣な様子だ。


「恐らく、彼女が訓練生の頂点よ。今日勝って、まずは訓練生のトップになりましょう。それになんの意味もないけど、多くの者に黒き鬼神の力を知らしめることは、今後の展開において重要なことだと思うわ」


 彼女の考えや想いを全て理解することは出来ない。ただ、拓哉も負ける気はなかった。戦うからには必ず勝つつもりだ。

 それを上手く表現できなくて、結局は、ありきたりの一言を口にする。


「さあ、サクッと片付けるぞ」


 そう口にしたものの、後々、「あれって、やっぱりフラグだったんだ」と、己の迂闊うかつさを呪うことになる。


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