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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
102/233

99 個人戦

2019/1/25 見直し済み


 軍事施設の室内訓練場は、相も変わらず閑散かんさんとしていた。

 これから個人戦の抽選が始まるというのに、こんな有様となっているのには、大きく二つの理由がある。

 ただ、どちらも至って簡単なものだ。

 片方は見れば分かる通りで、この対校戦には関係者しか集まっていないことだ。

 もう一つは、大きな声では言えないが、この抽選には裏があり、思いっきり出来レースとなっている所為だ。

 そんな寂しいく怪しい抽選会場で、黒き鬼神――拓哉を見つけるが、何を考えたのか、ミルルカは声を掛けることなく、その場を後にした。

 会場に口煩くちうるさいテリオスを残して自室に戻ると、ドカリと硬めのソファーに腰を下ろす。


 ――まあ、私と有力候補が初戦で戦うことはあるまい。なにしろ、暗躍している者たちが居るからな。それにしても、ここまで汚染されているとはな……


 溜息をつきつつ、この腐った軍の状態に嘆いてしまう。

 そして、将軍たる叔父のことを考える。

 ミルルカの叔父――ピート=ダグラスは、正義感の強い男だ。そして、現在の状態に頭を悩ませていた。


「ふふふっ、それは、私も同じか……血は争えないということだな」


 叔父のことを言えないという思いが、独り言を口にさせる。

 しかし、彼女は個人戦について思考を巡らせはじめた。


 ――よもや初戦で黒き鬼神と当たることはないと思うが、純潔の絆(やつら)のやることだ。可能性がないとも言えないな。そうなると、例の策を実行するしかないのだが……


 黒き鬼神との戦いを想像し、異常な力を持つ拓哉に、どう対抗するかを模索する。

 しかし、その答えは分かっている。何度も考えた結果、それしか見いだせなかったのだ。いまさら考えても仕方ない。

 それは、彼女の力だけでは勝てないという結論だ。

 黒き鬼神の噂を耳にした時、よもや、こんな事態に陥るなど想像もしていなかった。

 それ故に、あんな賭けをしたのだが、己の目で見た限り、これが現実だと思い知らされる。

 それと同時に、メイド服を着た自分の姿が脳裏をよぎる。


 ――だめだ。メイド服だけは阻止せねば……


 正直、自業自得なのだ。テリオスがこの場に居れば、間違いなくそう告げただろう。それを想像したのか、彼女は顔を顰めて、虚空に向けて声を発する。


「トト、出番だ」


 この部屋には、誰が見ても彼女しかいない。ところが、彼女の声に反応して、どこからともなく返事があった。


「あれ、ミルル、もうお手上げなん? アハハ」


 ――くっ……小癪な。だが、ここで機嫌を損ねるのは、得策ではないな……


 嘲りの言葉に、彼女は仏頂面を見せるが、ここで協力してもらえなくなるのは、さすがに頂けないと考え、表情を取り繕う。


「ああ、さすがに、今回はお手上げだ。悪いが頼む」


 少し悔しさの混じった声色で認めると、何もない空間に小さな光が生まれた。

 それは、スイスイと宙を泳ぎ、ミルルカの肩に止まった。

 すると、光は収まり、小さな存在が現れた。


「え~よ! でも、その代り、美味しいハチミツを用意するんよ?」


「ああ、分かっている。約束は違えん」


 ――ハチミツで済むなら安いものだ。


 商談が上手くいったと考えたのか、ミルルカがニヤリと笑みを見せる。

 それは、実に容易い取引であり、彼女がメイドになることを考えれば、恐ろしく安価な報酬だった。

 しかし、トトと呼ばれた小さな存在は、全く気にしていないようだ。


「やった~! はっちみつ! はっちみつ! はっちみつーーーー!」


 喜びの声をあげつつミルルカの肩から飛び立つと、トトは小さな羽を動かしながら宙を舞う。


 ――おいおい、お前はミツバチか! 喜びのレベルが低いぞ!


 宙を舞う羽の生えた小人に視線を向け、ミルルカは思わず肩を竦める。

 対価が大きくなれば、自分が不利になると理解しているが、あまりにも容易い自分の相棒に呆れてしまったのだ。

 その存在――トトは、人間ではない。だからといって虫でもない。

 そう、トトは妖精なのだ。

 今回に関しては、む無く妖精の力すら借りることになってしまった。

 それについて、いささか己の不甲斐なさを感じなくもないが、向こうも異世界からの召喚者だし、これくらいは許されることだと判断する。


 ――よし、これで戦えるぞ。まっていろよ、黒き鬼神! いや、タクヤ=ホンゴウ! 目に物を見せてやるぞ。くくくっ。


 ミルルカは宙を楽しそうに飛び回るトトを眺めつつ、黒き鬼神との戦いの場景を想像し、戦いの時を待ち遠しく思うのだった。









 唯でさえ人の少ない抽選会場は、異様な雰囲気に包まれていた。

 その理由は幾つかあるが、最も大きな理由は、一回戦の組み合わせの所為だろう。


「ここまで露骨にやってくるとはね……」


「まあ、想定範囲内だわ」


 カティーシャが愚痴をこぼすのだが、クラリッサは全く表情を変えずにサラリと答えた。

 もしかすると、これを望んでいたのかもしれない。それほどまでに、クラリッサは動じていなかった。いや、いまにも笑みを浮かべそうだ。

 そんなクラリッサをチラリと見やる拓哉は、特に悲観することなく肩を竦めた。


 ――まあ、これくらいのことは予測していたが、確かに、カティの言う通り露骨だよな。


 個人戦の一回戦における拓哉の相手は、クワトロ上級訓練校のミルルカだった。

 拓哉としては、裏のあるインチキ抽選なんて、どうでも良かったのだが、これも礼儀だというクラリッサに無理やり連れてこられたのだ。

 というか、ララカリアとのグラス事件があってからというもの、彼女はひと時も拓哉から離れなくなった。


「これって、抽選をやる意味があるの?」


 その余りの露骨さに、キャスリンが呆れた様子で本音をこぼす。


「ハッキリ言ってないな」


「だからといって、抽選をしない訳にもいかないでしょ?」


 即答する拓哉に、クラリッサが半眼を向ける。

 決して、拓哉に不満がある訳ではない。抽選結果自体は本望だが、裏で画策している者に不満がない訳ではない。その気持ちが、呆れた眼差しとなって表れたのだろう。


「でも、これって、どんな仕組みなの?」


 間違いなく不正だと断言できるのだが、その方法に疑問が残る。

 キャスリンがそれについて言及した。

 そもそも、抽選は機械的に行われている。それは先進的なこの世界では当然のことだろう。ただ、そのプログラムが初めから回答を持っているのであれば、そのボタンを押す必要もない。


「まあ、建前が大事なんだろうさ」


「おいおい、大きな声で言うことじゃないぞ」


 キャスリンの疑問に、呆れ顔のリディアルがすかさず答えた。

 その内容は、他に聞かれると面白くないものだ。それこそ、また冤罪で独房に放り込まれる可能性すらある。

 それを察したトルドが、すぐさまたしめた。


 ――トルドの意見も分かるが、それは誰もが理解していることだろうし、今更だな。でも、冤罪で捕まるのは勘弁だ。


 周囲を見回しながら、その気配がないことに安堵する。

 すると、今度は、レスガルが真面目な表情で不満を漏らす。


「それもそうですが、デスファルがシードの位置にいるのが意味不明ですね」


 参加校が七校であり、個人戦は各一校から代表をエントリーするのだが、どういう訳か、一回戦はデスファルが不戦勝となっていた。

 デスファルのやり口を知っている拓哉達からすると、この組み合わせは、もはや出来レース以外のなにもでもなかった。

 そのトーナメントの組み合わせを簡単に説明すると、以下の通りだ。


 一ブロック

 ミラルダ初級訓練校×クワトロ上級訓練校

 ロビア上級訓練校×メイビス上級訓練校


 二ブロック

 カミラ上級訓練校×ロートレス上級訓練校

 デスファル上級訓練校 不戦勝


 特記すべきことは、複数のエントリーが認められている個人戦で、どの訓練校も一組しかエントリーしていないことだ。

 これについては、カティーシャがこそこそと集めた情報を披露した。


「みんな、団体戦を見てビビっちゃったんだよね。ロビア、カミラ、メイビスの三校に関しては、棄権したいという話もあったみたいだけど、実行委員会がそれを許可しなかったみたいだよ」


 ――それよりも、デスファルが決勝でしかクワトロ上級訓練校と当たらない組み合わせ事態、策略の臭いしかしないな。まあ、奴等の仕業だろうけどさ。


 抗議の時に知ったデスファルの会長と副会長を思い出す。

 拓哉からすれば、彼等の言い分は、呆れを通り越して無知としか思えなかった。

 それこそ、自分達がルールから逸脱していることは棚上げし、感情論だけを振りまわした挙句、それが正しいと主張するのだ。もはや、討論の余地すらない。

 逆に言えば、そこまで狂っていなければ、これほどの不正を堂々と行うこともできないだろう。

 ただ、クラリッサは別の意味で不快感を露わにする。


「どんな組み合わせでも、私は全く困らないのだけど、想像以上に純潔の絆が蔓延はびこっているようね。そっちの方がウンザリするわ」


「おいおい、少しは周囲を気にしろよ」


 クラリッサの歯に衣を着せぬ物言いに、拓哉は慌てて苦言を申し立て、すぐさま周囲を警戒する。

 対校戦の問題だけならまだしも、自分達が純潔の絆の対抗勢力であることを知られる訳にはいかないのだ。

 しかし、彼女は全く気にしていないようだった。

 その証拠に、彼女は憤慨した様子で話を続ける。


「だって本当のことよ。誰もがそう思っているのだから、聞こえたって、今更よ。まあ、結界があるから聞こえることはないでしょうけど」


「それだって、読唇術というのもあるからな」


「こんな話を読まれたって、何の問題もないわ。極秘事項でもなければ、公然の事実なのだから」


 今にも鼻を鳴らしそうなクラリッサを窘めてみたものの、馬の耳に念仏とは、このことだろう。

 しかし、拓哉は反論することはなかった。というのも、ティートとファングが、こそこそと話している内容が聞こえたからだ。


「そう思わね~か? ファング」


「そういえばそうだね。ティトの言う通りかも」


「だろ? だって全く話にも出てこないんだから」


「もしかしたら、居ないのかも……タクヤ君だって、これくらいの戦闘なら単独で戦えるし……」


「いったい、何の話だ?」


 二人の会話が気になった拓哉が割って入った。

 すると、ティートが頷く。


「ああ、鋼女のことだ。ナビが誰なんだろうって話さ」


 ――なるほど……そういえば、全くその話を耳にすることがないな。二つ名持ちのナビだけに、噂の一つくらいあっても良さそうなものだが……


 ティートの話を尤もだと考えていると、首を傾げたキャスリンが自分の意見を口にする。


「あの~、テリオスさんじゃないの?」


 どうやら、いつも一緒にいる副会長が、ナビではないかと思っているようだ。

 周りから見れば、それが妥当な答えだろう。ただ、ミルルカのナビについては、クワトロ上級訓練校の訓練生ですら知らないのが事実だ。

なにしろ、彼女はいつもナビなしで訓練を行っていたのだ。

 それと知らないリディアルが頷く。


「確かに、そう考えるのが自然だよな」


 リディアルに限らず、他の幾人かも、それに頷いた。

 しかし、カティーシャが待ったをかけた。


「ちょっと待ってよ。テリオスさんだよね。二つ名ではないけど、氷の貴公子といえば、有名なドライバーだよ?」


「それって、なにや?」


 カティーシャが口にした異名に聞き覚えがなかったのだろう。メイファが首を傾げた。

 途端に、レスガルがダメ出しする。


「メイ、少しは情報に目を通すべきです。クワトロ上級訓練校では、テリオスさんのことをそう呼ぶのですよ。まあ、鉄仮面とも呼ばれてますが」


「ぷっ! うふふふ……鉄仮面……そのままなの」


 何が琴線に触れたのか、ルーミーが眠そうな顔のまま笑い始めた。

 ただ、そうなると、またまた誰か分からなくなる。

 すると、トーマスがナルシスト的な動作で前髪を掻きあげた。


「じゃ、誰がナビなのかな? あんな美女のナビとか、羨ましい」


「それって、どういうことだ? 私に対する当てつけか? なあ、トーマス」


「い、いや、そういう意味じゃ……ティ、ティト、今日も美しいね。でも、そんなに怒ると台無しだよ?」


「うっせ! ぶっ飛ばすぞ。こんにゃろ!」


 彼の発言は、相棒であるティートの逆鱗に触れてしまう。

 ティートは、こめかみをヒクヒクさせながら、その綺麗な顔を歪ませた。いや、それどころか、握りこぶしを振り上げた。

 しかし、そんな騒動など全く気にしていないのか、クラリッサがサラリと流す。


「誰でも同じよ。倒すだけだわ。負ける気なんて全くないし。そうよね? タクヤ」


 ――さすがは氷の女王だな。恐ろしく強気だ。つ~か、俺に振るなよ……


 強気なクラリッサから話を振られ、何と答えようかと迷っていると、突然、その発言を褒めたたえる声が聞こえてきた。


「さすがですね。その意気で頼みます。偶にはガツンとやられた方が、会長の実にもなるでしょう」


 そう、その言葉を発したのは、今まで話題になっていた氷の貴公子――テリオス=マカフィだった。


 その鉄仮面と呼ばれる何も表現しない面差しを眺めながら、その発言がどんな意味を持っているのか、そして、どうして自分達のところに訪れたのかと、拓哉は返事をするのも忘れて考え込むのだった。


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