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超科学の異世界が俺の戦場!?   作者: 夢野天瀬
第0章 プロローグ
100/233

97 釈放

2019/1/24 見直し済み


 殺風景な室内、灰色の壁と、それよりもやや暗い色の床、それは清潔感を漂わすと同時に、日常を過ごす部屋でないことを感じさせられる。

 それでも、その空間が巨大な空飛ぶ戦艦の中であることを考えれば、この簡素な硬めの椅子となんの飾りもないテーブルが置かれた部屋でも、鉄に囲まれた空間よりはマシだと言えるだろう。

 殲滅の舞姫と激闘を繰り広げたのは、二日前のことであり、既に予選は終了している。

 拓哉、クラリッサ、カティーシャの三人は、対校戦が行われている軍の施設ではなく、ミラルダ初級訓練校が所有する飛空艦の中にある小さめの会議室にいた。

 その理由は簡単だ。軍の施設にいると、いつ何が起こるか分かったものではないからだ。

 そんな理由で、質素とも簡素ともいえる会議室で、これからの行動について話しているのだが、唐突に入り口のドアが開け放たれた。


「やっと、解放されたぞ~~! こんちくしょ~~!」


 入ってくるなり不機嫌な声が響き渡ったことで、冤罪で捕まっていたリディアルたちが解放されたことを知る。


「どうだった。ムショの飯は?」


 拓哉が少し意地悪な声をかけると、キャスリンがずかずかと前に出てきた。


「本当に酷いのよ! マジで刑務所みたいなところだったんだから」


 その様子からすると、どうやら、かなり酷い待遇だったようだ。

 まあ、投獄されていたのだから、それも当然だろう。

 最低限の設備こそあれ、先進的な造りであれ、ただの牢屋なのだ。


「マジで、あれはないわ。トイレなんてオープンやったし」


 キャスリンに続いて、メイファが憤慨の様子で、反応に困る愚痴をこぼした。


 ――気持ちは分かるが、男の前でその話はどうかと思うんだが……


 男が聞いてはいけない話だと感じて、少し気が引けていたのだが、そんなことなどお構いなしに、見ためは美少女だが男勝りなティートが、更に耳を塞ぎたくなるようなことを口にし始めた。


「何言ってるんだ。キャスのナニは臭いし、メイは空砲をぶっ放すし、ルミは寝ながらするし、同じ部屋に居るこっちの身にもなってくれ」


「うぎゃ~~! ティト、何言ってるのよ、人前で!」


「く、空砲……お腹が元気な証拠やで!」


「眠い……睡眠不足……」


「あれだけ寝ておいて睡眠不足か? ある意味、鉄の心臓だな……」


 ティートが思いっきり暴露すると、慌てたキャスリンが顔を真っ赤にして怒りはじめ、少し顔を赤くしたメイファが弁解するのだが、ルーミーだけは平常運転だった。

 そして、ルーミーの驚くべき性質を知って、呆れたベルニーニャが肩を竦めた。


 ――そんな話をされても反応に困るんだが……まあ、みんな元気だったということで、取り敢えず良しとしようか。


 返す言葉もなく、どんな反応をすれば良いのか悩みつつ頬を掻いていると、少しナルシスト的な仕草でトーマスが話しかけてきた。


「それはそうと、僕たちがいない間に大活躍だったみないじゃないか。女の子達のハートを独り占めか?」


 ――いやいや、ハートを独り占めどころか、白い視線を総取りしたぞ! なんてったって、今や黒き鬼神は、両刀使いのロリコンで名を馳せているからな……


 拓哉は嫌なことを思い出し、必然的に表情が暗くした。

 すると、ごつい様相と相反して、優等生であるレスガルが心配そうな表情をみせた。


「タクヤ君、どうしたのですか? 顔色が冴えませんが」


 まあ、鬼神はまだしも、両刀使いとロリコンが自分の代名詞になりつつあるのだ。誰でも同じ境遇になれば気落ちすることだろう。

 しかし、拓哉は内に溜まった不満に触れることなく、それについては適当に誤魔化し、みんなの状態をたずねた。


「いや、何でもないんだ。気にしないでくれ。それよりも調子はどうだ? 二日後には決勝トーナメントが始めるぞ」


 リディアル達は、既に勝ったことを知っていた。

 実際、どこまで知っているかは分からない。ただ、拓哉は彼等が知っていることを前提に話を進めた。

 すると、リディアルが即座に反応する。


「決勝トーナメントに進んだのは聞いたが、結局、どうだったんだ? 殲滅の舞姫は、強かったか?」


「ああ、それについては、これからゆっくりと話そう。みんな、座ってくれ。ああ、飲み物があった方が良いかな」


 リディアルに反応しつつ、リモコンでソファーを展開させるボタンを押す。

 その途端、床が開いて機能以外になんの取柄もないソファーが出てくる。

 みんなには、それに座るようにいい、飲み物を出してくれるロボットを呼ぶ。

 その間、拘束されていた者たちが愚痴や罵りを垂れ流し、このお礼は何としても倍返しにしてやると騒ぎたてるのだった。









 全員が落ち着いたところで、拓哉は、これまでの話やこれからの行動について説明することにした。

 予選が終わったのは昨日なのだが、残りのメイビス上級訓練校との試合も完勝して、全勝で決勝へと進むことになった。

 それ以外の結果は、A組において拓哉達に負けたデスファル上級訓練校が三日目のカミラに勝利して二勝一敗で予選通過した。メイビス上級訓練校は一勝二敗、 カミラはどこにも勝てずに三敗となり、その二校が予選で脱落した。

 B組に関していうと、ミルルカが訓練生会長を務めるクワトロ上級訓練校が二勝で一抜け、『幻影の殺戮者』と呼ばれる二つ名持ち、ケルトラ=デンローシャのいるロートレス上級訓練校が一勝一敗で決勝進出となった。偵察部隊養成校であるロビア上級訓練校が予選で敗退した。

 ただ、拓哉にとって気になることがあった。

 クワトロは、ミルルカの能力的な問題で、彼女を欠いた戦力で団体戦に参加していた。それは理解できる。

 しかし、問題はロートレスだ。そっちも二つ名持ちが参加していなかったのだが、その理由が分からない。温存したのかと思いきや、個人戦にもエントリーされていと聞いて、拓哉は頭を悩ませてしまった。

 周囲では、そのことを訝しく感じている者が多かったが、中には不謹慎だと騒ぐ者も居たようだ。

 その不気味な存在が決勝一回戦の相手なのだ。慎重になるのも当然だろう。

 ただ、クラリッサは、別の悩みで顔を顰めていた。


「そうなると、決勝もデスファルとの戦いになる可能性があるわね」


 彼女は少し嫌そうな雰囲気を漂わせる。

 それも当然だ。予選では勝ったものの、必ず勝てる相手ではない。

 その証拠に、拓哉が操る機体はスクラップになってしまったのだ。

 実際に、それを見ていないリディアル達には、いちいち言葉で話すよりもということで、対戦記録を見せていた。


「おいおい、あれとまたやるのか? こんなのを避けられるのって、タクヤくらいのもんだぞ! オレ達だったら瞬殺だ」


「だよね~~~! これは無理だわ」


 お手上げと言わんばかりに、物理的に両腕を上げたリディアルが愚痴をこぼすと、すかさずキャスリンがそれに同意した。


 ――どうやら、リディ達は、試合の記録をみてビビったようだな。まあ、それも仕方ないか……


 彼等の様子を見て、試合記録を見せたことを後悔する。

 別に、彼等が悪いわけではない。それほどまでに殲滅の舞姫が異常なのだ。

 しかし、クラリッサはそれに不満を感じたようだ。冷たい眼差しをリディアル達に向けた。


「それなら、決勝も私と拓哉だけで出ましょうか。その方が良さそうだし……」


 怖気づいたリディアル達を横目に、彼女は冷やかな面持ちで、さり気無くキツイ言葉を叩きつけた。

 すると、なぜか、いの一番に反発したのは、眠そうなルーミーだった。


「みんな、何しに来たの?」


 その舌足らずな一言は、そのトーンとは相反して、日和っていたリディアル達に突き刺さったようだ。

 誰もが思い悩むように、顔を俯かせる。しかし、自分達の目的を思い出した者が居た。


「そ、そうだよ。は、初めから分かってたことだよね。ボク等は経験のためにきてるんだよね。だったら、ここで怖気づくのはおかしいよ」


 勢い良くそう口にしたのは、一番ひ弱そうに見えるファングだった。

 機体に乗ったとたんに人格の変わる彼は、普段はそれと打って変わって大人しいはずなのに、その場に立ち上がったかと思うと、両手を握り拳に変え、力強い声で言い放った。

 その声が沈んでいた者達に活力を与えたのか、彼に続いてトルドが口を開いた。


「そうだな。どうも底辺生活が長かった所為か、少しばかりビビり過ぎてたみたいだな」


「そうよ。ダメ元で来てるんだから、今更、ビビる必要なんてないのよ」


「おいおい、ダメ元ってなんだよ。勝つ気で来たんだよな?」


「そうですよ。対戦相手が強いのは当たり前なんですから」


「そうだね。これから僕が女の子達のハートを奪う番なんだから、怖気づく必要なんて何もなかったんだよね。これは逆にチャンスじゃないか。そうだよね。ここで良いところを見せれば、一気に女の子達の心を鷲掴わしづかみできるじゃないか」


 トルドが自嘲気味に自分の考えを口にする。

 すると、キャスリン、ティート、レスガルが思い思いの気持ちを吐き出た。

 最後はトーマスの訳の分からない活力で締めくくった。


 ――おいおい、ここで女の子は関係ないだろ……まあ、精神的に持ち直してくれることに越したことはないが……


 トーマスの考えはちょっと理解できる範囲ではなかったが、彼等がやる気になってくれたのは良いことだと感心する。

 すると、リディアルが固くしていた表情をにこやかものに変えたかと思うと、なにやら意味深な視線を拓哉に向けた。


「ところで、オレ達でも活躍できる作戦はあるんだよな?」


 ――元気になった途端にこれか……俺は策士じゃないんだけど……


 実のところ、拓哉にとって、作戦は操縦ほど得意としていない。それでも、みんながやる気を出しているのを嬉しく思いつつ、決勝戦の作戦について思考をフル回転させた。









 ここは暗い、いや、暗いでは物足りないだろう。そう、真っ暗な部屋だ。

 男は真っ暗な部屋に置かれた椅子に座っていた。

 ここは軍が用意した宿舎ではない。

 彼は軍を全く信用していなかった。

 なにしろ、一言で軍と一括りにしても、その内情は様々であり、複数の勢力が暗躍しているのだ。

 思いもしない目や耳があるに違いないと考えて当然だろう。


 ――それにしても、報告は聞いていたが、あの黒き鬼神の強さは予想をはるかに超えていたな。


 真っ暗な部屋で、彼は一人ほくそ笑んでいた。

 しかし、直ぐにその表情を引き締める。何者かが部屋に侵入したことを察知したからだ。

 ところが、暗い部屋の中には、彼が居るだけで他の者など存在しない。

 ただ、間違いなく気配を感じていた。それでも、そのことを訝しく思ったり、不審に感じたりもしない。ごく当たり前のように、何もない空間に問いを投げかける。


「カリナか。どうだった?」


 男の低い声が静かな部屋の空気を震わせると、誰も居ないはずなのに返事があった。


「良くないですね。いえ、拙いと言った方がよいかもしれません」


 その声は、彼に比べて、かなり高い声だ。

 間違いなく、女性の声なのだが、その姿はどこにもない。

 それでも、不審がることはなかった。いや、これが当たり前かのように頷いた。

 そして、一つだけ念を押す。


「そうか。報告は念話で頼む」


 どこに誰の目があり耳があるか分らない。それ故に、細心の注意を払っているのだ。

 というのも、彼は自分を超える能力者を山ほど知っていた。ただ、能力が高いことだけが素晴らしいとも思っていない。その活用方法が大切であることを知っているのだ。


「分かりました。ケルトラ隊長」


 カリナは、彼――ケルトラ=デンローシャの名前までを肉声にするが、その後の報告を念話で行う。

 彼女からの報告を聞き、ケルトラはピクリと眉を動かした。

 そう、もたらされた情報は、彼女の言う通り少しばかり拙い状況だったのだ。


『どうされますか?』


『どうといわれても、今は動けん』


『確かに……でも、それでは……見捨てると?』


『いや、そういう訳にもいかん。が……ただ、今は動けん。限界まで我慢するしかあるまい』


『そうですか……』


『ただ、ことを起こす時は、迅速じんそくに頼むぞ』


『もちろんです』


 未だ姿を現さないカリナとの念話を終わらせ、ケルトラは両のまぶたを閉じて想いにふける。


 ――ああ、リーア、もう直ぐお前の望んだ世界への未来みちが見えてくるぞ。


 今は亡き妹を思い起こしつつ、彼女の望みであり、彼の望みでもある未来を実現することを願う。

 すると、見えない存在が声を発した。どうやら、未だそこに居たようだ。いや、ケルトラはそれを知っていた。

 そこに見えなくとも、その存在が己の任務以外で、彼の側を片時と離れないことを知っているのだ。


「黒き鬼神は、予想以上のようですね」


 ――ん? どうやら、録画された対戦を見たようだな。


 ケルトラがチラリと虚空に視線を向ける。

 カリナは、暫くの間、任務でここから離れていた。それ故に、拓哉の戦いを目にしていない。


「ああ、期待以上だった」


「では、これからが楽しみですね」


「そうだな。ただ、だからと言って、決して楽な道ではあるまい」


「心得ています」


 ケルトラとしては、厳しい口調で答えたつもりだったのだが、どうも彼女はそう受け取らなかったようだ。

 その存在の心躍るような響きの声色に、再び瞑目めいもくしたケルトラは、少しだけ微笑みで顔を歪ませた。


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