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告白少女渡辺さん



 私の名前は渡辺さん。まだ愛を知らない現役女子高校生だ。場所は学校の最寄り駅、時間は夜……イヴの夜、待ち合わせの20分ほど前。


 周りは待ち合わせをするカップルばかり。時間が夜ともなれば、露骨にくっついていちゃいちゃしだす奴らも珍しくない。茅吹くんはいったいなぜ、こんな時間を指定したのか……


 くそ……とんでもなく居心地が悪いぞ……っていうかこの雰囲気の中にいること自体がかなり恥ずかしい。おいそこのカップル! 私の目の前でちゅっちゅし始めるんじゃない! 短いやつは百歩譲って許すが長くて濃厚なのをおっぱじめるのはやめろって……あぁ、もう……




「お待たせしました。先輩」


「ひっ……!? かや、ぶきっ! き、今日はよろしくっ、お願いします……っ?」


「いや、緊張しすぎですよ。そんなんで大丈夫なんですか?」


「だ、大丈夫って、え……? そんなに、激しく……?」


「あのー、先輩?」


「あ、いや大丈夫だ。大丈夫……うん。時に茅吹氏、今日はまずどこに行くんだね?」


「家です」




 ……は?


 いま……いや、そんなはずはない。デートもまだ数えるほどしかしてないし。私とこいつはまだそんな関係じゃないし。最近よく手は繋いでるけど……聞き間違いかな……?




「……すまん。よく聞こえなかったみたいだ。もう一度頼む」


「だから、僕の家ですよ。と言ってもアパートの部屋ですけど」


「いきなりかよ! がっつきすぎだろ草食系!」




 全然聞き間違いじゃねぇ!




「いきなりではないです。それなりにデートもしたじゃないですか」


「いやっ、でもなお前、あの……っ……そうだ! まだキスだってしてないじゃないか私たち! ちゅー! まだだったよな! ってか私まだお前のこと好きとか言ってない……」


「嫌いですか?」


「好きです……っ……ってそうじゃねぇ!」


「僕も先輩が好きです。よし。あとはキスですね」




 --あ。一瞬フリーズしてた……えっ、私いま、告白……っ……てか好きって、言われたっ……! う、やばい……にやついてしまう……!


 と、私の思考が容量オーバーでパンクしている間も、茅吹くんが私をじっと見つめていたことに気づく。こ、この雰囲気は……まさか、そういう……っ!? ここ、人めっちゃいるんですけど!?




「ま、待て……! マジでやる気か、おい……っ!? 本気で? ここで……?」


「歯、ぶつけないように気をつけて下さいね」


「や、やめろ……近づいて来るな……! 分かった! 降参だ! 参った……! まいったからぁ……! ここじゃ……はずかしいって……っ!」


「えぇ……まったくもう。先輩は意外にわがままですね。じゃあ部屋ならいいですか?」


「こんな人前で平気でそんなことをできる神経の方がおかしいと思う……」


「部屋でキス、してくれるんですね?」


「うっ……はい……」




 それ自体はやぶさかではない、けど……口に出して認めさせるのは、こう……何かのプレイみたいで恥ずかしい……


 そんな私の煮え切らないようで煮え切っているような迷いを置き去りにして、結局私は茅吹くんに連れられるまま、彼のアパートへ向かった。電車で。場所、教えてくれれば最寄り駅まで行ったのに……




「どうせバイトで出てたんで、手間は増えてないですよ」


「え、バイトしてるの?」


「はい。居酒屋で。たまにですけど」


「ふーん……」




 そう言えば私、こいつのこと全然知らないよな……こんなんでいいのかなぁ……いや、それよりも気になるのは……




「……茅吹さ、私の私生活とかあんまり訊いてこないよな。気にならないの?」


「先輩は気になります? 僕の私生活」


「質問を質問で返すな。私は……ごめん、考えたことなかったかな」


「僕もあまり気になりませんね。先輩が僕を好きだってのは結構前から分かってましたし。それ以外のことはあまり気にならないです」


「そういうもんか……ってちょっと待て! 私、お前に好意を伝えたの、今日が初めてなんだけど……」




 って、言ってる側から恥ずかしくなってきたよ……しちゃったよ、告白……顔、赤くなるぅ……




「草食動物は耳が良いんですよ。周囲の危険から身を守るために」


「え……盗み聞き……?」


「ガチで引かないで下さい。勘が良いってことです」


「あぁ……確かに、茅吹は気づかいできるよなぁ。そういうとこ、すごいと思う」


「好きですか?」


「えっ……すき、だよ……っ」


「…………」


「……なんか言えよ」


「いや、思ったより破壊力が……」




 あ。赤くなってる。珍しい……


 そうして二人で馬鹿みたいなことをしている間に、私たちは無事に茅吹くんの借りているアパートに着いた。


 えっ、本当に来ちゃったけど……これたぶんキスだけじゃ済まないパターンじゃ……止める人とかいないし。お家だし。えっ……どうしよう……




「どうぞ。入って下さい」


「あ、はい……」




 勧められるままに中へ。椅子のような物はないので、ベッドに腰掛ける。目の前にそれらしいテーブルもあるし。


 思ったより片付いてるな。男の一人暮らしなのに……私の部屋より片付いてるかも……


 あ……茅吹くんのにおい……


 --うわっ! うわっ! なんだよにおいって! 変態かよ! 変態みてえ、私!




「先輩、お茶淹れましたけど……なんで顔隠してるんですか?」


「いや……なんでもない。気にしないで……」


「はぁ……あの、先輩が好きだって言ってくれて、嬉しかったです」


「い、いきなりか……」




 茅吹くんがテーブルを回りこみ、私の隣に座る。少し遠いのは、私を警戒させないための気づかいか……




「こういうのはいきなり切り出す方が高い効果を見込めるんです。先輩……渡辺さん、好きです」


「やめろ……」


「なぜですか?」




 なぜ? それはこっちのセリフじゃないか。納得するにはまだ早い! 私はまだ、愛、とかいう得体の知れないものの正体を知らないぞ!




「結論だけ言うんじゃなくて……! どうして好きなのか、言ってくれなきゃ分からないだろうが……っ」


「……信じられませんか?」


「そんなことない……茅吹が私を好きなのは、なんとなく伝わってる。でも……何か理由がないと、こわい、っていうか……分かるだろ?」




 私自身の中に確かにありながら、考えれば考えるほどにこんがらがって、こじれて、ますますよく分からなくなっていく……茅吹くんよ、お前の中にもそれがあるというのなら、説明してみろ。愛とは……なんだ……?




「誰でもよかったです」


「……っ!」




 ……そう、だよな。結局みんな、誰かを愛している自分でいたいだけなんだ。そしてあわよくば、自分も愛してほしいなんて思うんだ。自分以外の誰かに、自分を肯定してほしい。全部、自分のためだ。相手は誰でもいい。


 薄々分かっていた。愛とはつまり、自己愛だ。


 私は、納得してしまった。あぁ、すっきりした。


 ふいに目頭が熱くなった。慌てて俯く。駄目だ、泣いちゃ駄目……そんなの見られたらかっこ悪いし……




「……っ……」


「……って言ったらどう思いますか?」


「深く傷ついた。私、帰る」


「駄目です。聞いて下さい」




 手首をぎゅっと掴まれた。必死で目をそらす。冗談で泣かされそうになるのはもっと恥ずかしいぞ……




「…………」


「最初は可愛い先輩だな、と思ってました。でもいつからか、先輩がそう言い始めた時から、惜しいなと、思うようになったんです。誰でもいいから貰ってくれないか、なんて先輩みたいな人が言うセリフじゃないですよ」


「ご、ごめん……」


「いいえ。謝るべきは先輩ではないんです。なぜならそれで気づいた、僕の先輩に対する感情は……100%独占欲なんですから」


「そんな……っ」




 独占欲。あの茅吹くんの優しさが、そんなあまりにシンプルで鋭利な欲望によるものだったなんて、にわかには信じられないことだった。


 茅吹くんは、私が逃げられないと分かったら豹変する。いつかの東谷さんの言葉が脳裏に浮かんだ。私は思わず、問い詰めるように言葉を重ねる。




「……でも、お前は優しかったじゃないかっ。二人でいる時はいつも……私からは、何もしてやれてないのに……!」


「それは先輩をその気にさせるためです。こうやって簡単に部屋に連れ込めるくらい、心を許して逃げられなくするためだったんです」


「……ほんとに……っ?」


「はい。それは今も全く変わりません。先輩には、僕なしでは生きていけなくなってもらいます。それが僕の望み……僕にとっての好きの意味です」


「……えっと……私はそれを聞いて、逃げればいいのか……?」


「ええ。おそらくは」


「そうか……」




 ……と言っても、私は今茅吹くんに手を握られているので、逃げようとしても逃げられない。逃げられないし、たぶん抵抗もできない。


 と、私の視線を追った茅吹くんが、慌てたように手を離した。無意識だったのか……?


 っていうか茅吹くん、わざわざ逃げられるように手を離してくれちゃってるけど、いいの? 逃げるよ? 部屋を飛び出して近くの交番に駆け込むよ?


 茅吹くんはそれ以上、何も言おうとしなかった。


 私は……




「……キス、するぞ……っ」


「逃げないんですか?」


「お前がそうさせたんだろ……っ……はやくしろ……」




 過去最大級に恥ずかしいんだからな。心臓ばっくばく言ってるからな……!




「先輩……かわいいです」


「やめろ……! 似合ってないのは、分かってるんだ……」


「似合ってないのが良いんじゃないですか……でも、これなら大丈夫そうですね」


「えっ、な、何が……?」


「理由ですよ。さっきのは嘘です。確かに最初は独占欲も強かったですが、最近は先輩のために尽くすこと自体、悪くないと思ってるんですよ」


「あ、ありがとう……?」




 ……なんだかいまいち話が見えてこない。




「はい。でももし僕が先輩を独占するためだけに甘い顔を見せて調教していたとしても、先輩は僕に付き合ってくれるんでしょう?」


「調教って……」


「僕も同じです。それじゃあ結局、理由なんてどうしたって後付けになっちゃいますよ。考えるだけ無駄です」


「むぅ、一理ある……」




 ……いや、やっぱり結構テキトーじゃないか?




「むしろ僕としては、先輩が僕を好きだと言ってくれてることの方が不思議なんですが……ねぇ、先輩?」


「それは……っ! すごく恥ずかしいやつじゃないか……! 頼むから……勘弁して……っ!」


「僕に言わせといて、それはないんじゃないですか?」


「あの……それは、君が優しくしてくれるから、っていうか……」


「でも、それは欲望を隠した、偽りの優しさかもしれないですよ?」


「いいんだ。たとえそうだとしても……感じるんだ。君が、私を大事に思ってくれているって。動機は何だっていい。その方向が私に向いてくれていれば……執着が、嬉しいんだ……!」




 ……過去最大級の恥ずかしさ、絶賛更新中。もうまともに顔も見られないよ……




「……なんだ。先輩だって、好きにされたいだけじゃないですか」


「いいかた! 私はビッチじゃない!」


「知ってますよ。先輩は処女です。今日付けでは、まだ」


「やらないよ!? 明日もちゃんと処女だよ?」


「はい。先輩ならそう言うと思って、今日は何も用意してません」


「用意って何!? 普通の準備だよね? 変な道具とかじゃないよね……?」


「ははは……やめて下さいよ。今言ったら、先輩のリアクションが薄れるじゃないですか」


「私に何させる気だ!」


「まずはキスでしょうね……」


「ぁ……っ……」




 いつの間にか茅吹くんは私との距離を詰めていた。私の方を見てニヤニヤと笑って……今まで見た中で一番いやらしい笑い方かもしれない。


 でも……そんな彼に、最後は私から顔を近づけていくんだ。私を独占したいという彼の願望は、実のところもう既に叶っているのかもしれなかった。彼との距離は、どんどん近くなって……


 ……そこからのことは、ほとんどが語るに値しないことなので省略する。キス以上のことはしていないし、それがなんでかと言えばつまり、私がその……ハマってしまって、気づいたらもう帰らなければいけない時間だったからだ。




「ハマったせいでハメ……やめようお下品すぎる」


「それで? 茅吹くんとのクリスマスデートはうまくいったのー?」


「おかげさまで、まぁ」


「おぉー! よかおめだよー! いやーこれでやっと、東谷さんも安心できるってもんだねー」


「どうも、ご心配をおかけしまして……」


「……さぞ楽しいクリスマスだったんでしょうね……性夜のお楽しみ……ホワイトクリスマスってね……」


「ねぇ、宮内さんどうしたの……? こんなこと言う子じゃなかったよね?」


「……ちっ」




 宮内さんがグレた……しのう。


 死を覚悟する私に、東谷さんが困ったような苦笑まじりに説明する。




「どうも時雨くんと思うように行かなかったみたいで……」


「あぁ……」


「どうせ私なんて……わたしなんてぇ……っ」


「おぉ、よしよし……こっちへおいで。慰めてあげよう」


「非処女の抱擁なんていらない……」


「まだ処女だよ」


「じゃあいく……」




 宮内さんを優しく抱いて頭を撫でてあげる。身長がだいぶ違うため、大変撫でやすい。そして温かい。もふもふ。




「でも来週は時雨くんと一緒に温泉行くんだよねー?」


「またあいつらと一緒だけどね……どうせ私は他の女のおまけでしかないんだぁ……」


「よしよし。宮内さんはおまけじゃないよ。こんなにかわいいし」


「……かわいい……?」


「うん。かわいい」


「すきぃ……」


「あぁ^〜」


「あたしはー?」


「あ、東谷さんはママだから」


「ママは好きだよ」


「えー……」




 複雑な顔をする東谷さんと。なんやかんや幸せそうに笑う宮内さん。二人の親友と共に、私はこの冷たいようで暖かい世界で、これからも愛を探し続けていくのだ。


 なぜならそう、愛とは探し求めるものなのだから。




〜fin〜

お読み頂き、ありがとうございました。

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