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恋愛少女御崎さん



 私の名前は渡辺さん。恋に恋する現役女子高校生だ。




「で? 茅吹くんとはあれからどうなの?」


「えっ、ちょっとそこいきなり行っちゃう? しょっぱなど真ん中訊いちゃう?」


「まぁ話したがりのナベちゃんがだんまりな所からもなんとなく察するよねー」


「え? いやいや特に何もないし。ってかさらっとディスるんじゃない。普通に刺さるぞそれは」


「まーたそうやって矛先逸らす……マジに訊かれたくないならあたし達訊かないよ? でもなーんかそういう感じじゃないっぽいんだよなー……」


「おいおいまたお説教かぁ? あんましガタガタ抜かしてっとちゅーして黙らせるぞ?」


「……あんたのそれって照れ隠しだったんだね。最近やっと分かってきたわ」




 宮内さんがこっちを見ることもなく言う。宮内さんに分かってもらえた。また一つお近づきになれたね。嬉しい。でも言えない。ツンデレか私は。


 今日も私たち3人は東谷さんの家に集まり、何をするでもなくぐだくだと時を過ごす。いつの間にか季節は11月。秋が来たと思っていたら、景色の端々はもう冬に侵食されかかっている。




「適当な所で報告はちゃんとするからさ。ひとまず心配するような事はないとだけ言っておく」


「えっそれもうほとんど答えじゃん」


「馬鹿言え。この私がそうとんとん拍子に男と上手くやれると思うか?」


「ナベちゃんは口ばっかだから、どっちかって言うと上手くヤられる方じゃない?」


「おっとぉ!? ここで思わぬ方向から酷い風評被害だ! 温厚な私もこれには憤りを隠せない!」


「事実じゃん」


「お前もか宮内氏……ってか宮内氏がこういう話に乗ってくるの珍しいな。なんだ、お前も男を知って女になったか?」




 宮内さんはちらりと私を一瞥しただけだった。え、無視? ひどくない?




「ミヤちゃんは乙女だけど、惚れた男は一年越しで手に入れる執念の女だもんねー」


「えっちょ、なんでこっちに流れ弾が飛んでくるわけ? ってか東谷さんそれ言わないでって言ったやつ……」


「……聞いてないんですけど」


「え、いや、あの……」


「私宮内さんからそういう話、全然聞いてないんですけど……!」


「……ごめん。機会があれば話そうとは思ってたんだけど……」




 宮内さんがシュンとする。あー、かわいいなぁ……なんでこんなにかわいい子をあんな唐変木にくれてやらなきゃならんのだ……いっそ駆け落ちでもするか……?


 私は以前に目の当たりにした神田さんのスキャンダルを暴いてやろうと一瞬本気で考えた。……でも復讐が怖いからやっぱりやめておこう。盗聴盗撮とかやっててもおかしくないオーラあるもんな……宮内さんは一体どうやってあの人とやり合ってるんだろう……?




「…………」


「うぅ……ごめんって! 今から話すから! あ、あいつとは一年の時に話したことあって……い、いやっ! その時は気になりはしたけど好きってほどじゃ……いやちょっと好きになりかけたけど……!」




 私が黙っているのを怒っていると思ったのか、宮内さんが真っ赤になって暴走し始めた。かわいいしこのまま放っとくのもありだけど……




「別に怒ってないよ。私に気を使ってくれたんだろ? ちゃんと分かってる。一応一年半は付き合いあるんだからな?」


「わ、渡辺さん……!」


「う……宮内さんから苗字で呼ばれるの、なんかくすぐったいな……名前でいいよ」


「え、でも下の名前知らない」


「うそぉ!?」


「うん。嘘」




 嘘かい……宮内さんめっちゃニコニコしてるし……やっぱ照れるな。慣れないことは言うもんじゃないよ……




「はぁ……それに、どうせ東谷さんが無理やり聞き出したんでしょ?」


「あーバレたかー」


「……で? おせっかい焼きの東谷さんは実際どうなんですかね?」


「どうって?」


「やっぱり彼氏は尻に敷くタイプ? それとも全部お世話してダメにしちゃうタイプ?」


「あたし交際経験ないって言ってなかったっけ?」




 ちっ。引っかからないか……




「あー、でも私も気になるな。東谷さんって男子といるとどんな感じなのか」


「お? 宮内氏良いねー。ノってきたねー」


「今私が機嫌良くなかったらあんたをグーで殴ってる所だよ」


「なんでっ!? 特に理由のない暴力が渡辺さんを襲う!」


「あたしはねー」




 東谷さんは唐突に切り出すと、寝そべっていた上半身を起こして、ベッドの上で正座をした。……ベッドの上で。




「ーーこう見えて尽くすタイプだよ?」


「あーオカンタイプかー」


「っぽいよね。っぽい」


「なんかあたしだけ反応違くない? レッテル貼り大好きな一般論信者みたいな決めつけ、良くないと思うなー」


「また頭良さそうなこと言ってるよこの子……横文字使えばいいってもんじゃないよ! なんだよレッテルって! 日本語で話せよ!」


「……あぁ、うん。なんかごめん」


「あ、あれ……? な、なんでごめん……?」


「あんた、なんか回を追うごとにバカになっていってない?」




 え、なんか本気で心配されてない? 大丈夫か、私の一般常識……ってか回って何の回だ。




「っていうか、東谷さんはなんで彼氏作らないの? 告白とかしょっちゅうされてるの、私知ってるよ」


「お、いいねー宮内さん! グイグイ行くねー!」




 いてっ! 蹴られた……! すぐ手や足が出てくるなこの子……ひょっとして神田さんにも暴力で対抗してるんじゃないか……? そう考えると、ちょっと神田さんが不憫だな……




「べつに、対した理由はないよー。ただそんな気分じゃないってだけで」


「わお。さめてるぅー」


「うーんでも、強いて言うならずっと片想いしてるのかも……小学生の時、好きな男子がいてねー。フられちゃったんだけど……」




 苦笑混じりに語る東谷さんは、いつもの奔放なパワーを感じさせる目つきではなく、恋をする少女の顔をしていた、ような気がする。え、マジなやつか、これ……




「小学生って……それってすごい一途なんじゃ……」


「……東谷さん、やっぱり私と結婚しよう」


「ナベちゃんは自重してねー」




 超テキトー自由人な女友達は、実はオカンで魔性で一途な良妻でした。なんかラノベのタイトルでありそう。


 いやでも、これ実際かなり報われない話だよ? 片想いに囚われたまま何年も新しい恋ができないって……本当に大丈夫? ある日突然潰れちゃったりしない?


 あぁでも……こうやって私たちにそんなことを話してくれて、しょうがない妹を見るような優しい顔で笑みをこぼす東谷さんを見て、ちゃんと仲良くなれてるんだって嬉しく感じてる自分がいる。……どうしよう。本当にこの2人と結婚しても良い気がしてきた。




「せめてっ……せめて1回だけでいいんでヤらせてはいただけませんか!?」


「え、やだ」


「あんたはどうしてそう突き抜ける方向を間違えるんだよ……」


「思い出作りのレズ○ックス!」


「感傷も何もあったもんじゃないなっ!」




 と、こんな感じで取り合ってもらえないのが残念でならない。




「ーー割と本気なんですけどねぇ……」


「なるほど……つまり神田さんともそんな感じで思い出作りしたんですね?」


「……いやいやいや! 私はノーマルですよ! 結婚しても良いなって思った子がたまたま女の子だっただけで……」


「あぁ。それ、神田さんも言ってました。その手の人の口説き文句か何かなんですか?」


「あの人そんなこと言ってたの!? 変態じゃん!!」




 別の日の放課後、私は親友2人への想いのたけを、駅前のカフェで偶然会った御崎さんにぶつけていた。いや、この前のお礼と報告をしてたら、つい話に花が咲いちゃって……ひょっとしたら私は天然の女たらしの素質があるのかもしれない。




「……まぁあの犬畜生がクレイジーでサイコなバイセクシャルである事は疑いようのない事実ですが」


「ひどっ」


「思い出作りは確かに大事だと思います。別れはいつか、絶対にやって来るものですから。ですから私は……」


「私は……?」


「……一緒にお風呂で洗いっこを推します」


「えぇ……? なんかやたらそれ推すね?」


「そりゃあ、今や私の性癖の一つですし。それに裸の付き合いで絆が深まるのはマジですよ。実証済みです」


「えっ。ちょっと待って今さらっと2つくらいとんでもないカミングアウトしなかった?」


「……とにかく! 私は渡辺さんの恋も友情も陰ながら応援していますので……! 頑張って下さい!」


「あ、うん」




 御崎さんは私の手をがっちりと握ると、まっすぐに目を見て言った。なんかめちゃくちゃ目がキラッキラしてるけど、思いっきりおもちゃだと思われてないか、私?




「ちなみに、身長が低くツンデレ気味のマスコット系少女は肉体的な接触に弱いという統計的データがあります。積極的にスキンシップを取ると距離を縮めやすいと思いますので、参考までに」


「はぁ」




 めちゃくちゃ具体的なアドバイスされた。




「えっと……それじゃあオカン系フリーダム少女の場合はどうすれば良いでしょうか……?」


「はぁ……? なんか適当に、飲むと体がぽかぽかして嫌な事全部忘れちゃうドリンクでも飲ませておけばガード緩くなるんじゃないですか?」


「うわ雑! っていうかほんとろくでもないな! 未成年だからね? 飲めないから!」


「あー、はいはい……それじゃあ地元じゃ常勝無敗の必殺テクで悩殺すれば」


「だから雑っ! っていうか君年下だよね? 御崎さんじゃなくて御崎ちゃんだよね? 襟章で学年バレてるからね!?」


「……ちっ」


「あー! 舌打ちした! 今舌打ちしたよね!?」


「……渡辺センパイは大変立派なモノをお持ちですし、そちらで誘惑あそばされては?」


「負の感情の出処そこかぁー!!」




 私としては御崎ちゃんの高身長スレンダー体型が羨ましかったりするんだけど、言ったらさらにこじれそうなので心の内にしまっておいた。


 そんなこんなで、またある日の放課後、東谷さんの部屋にて。




「ねぇもうこたつ出そうよー。あったでしょ去年」


「……ここあたしの部屋だよねー?」


「あ、ごめん私もこたつほしい」


「ミヤちゃんもそっち側かー……だいたいこの部屋エアコンあるじゃん」


「エアコン消してこたつ出そうよぉ」


「ナベちゃんはバカなのかなー?」


「こたつー」


「絶対こたつの方がいいって。断言する。こたつ抜きで厳しい冬は越せない!」


「こたつー」


「ミヤちゃん……あぁ、もう。じゃあちゃんと運ぶの手伝ってよー?」


「東谷さん大好き!」


「こたつ大好き!」


「ミヤちゃん……」




 私たちは東谷家の物置から小さなこたつを引っ張り出してくると、3人がかりで部屋まで運び込んだのだった。結構重かった。物置寒いし。




「あ゛〜〜疲れたぁ〜〜……」


「ぬくいぃ〜……」


「まだ11月の半ばくらいなんだけど、2人ともそんなんで大丈夫?」


「東谷さん」


「うん?」


「日本の冬はね、生き物が生きていける環境じゃないの。冬眠しなきゃ死んじゃうんだよ?」


「ミヤちゃんが寒がりなのは分かったけど、そろそろ真顔でボケるのやめてくれないとあたしが常識人みたいになっちゃうんだって」


「心配しなくても東谷さんはもう私たちの頼れるお姉ちゃんだよ。なぁ? 末っ子よ」


「うん……2番目のお姉ちゃんに比べたら何倍も頼りになるし、何十倍も常識人だよ……」




 宮内さんは早くもこたつで脳まで溶けかかってるな。ふむ。今なら行けるか……




「宮内さん」


「ぅあ……?」




 私はこたつに突っ込んだ足を上からぽんぽんと叩く。たしか宮内さんはお膝に乗るのが好きだったはずだ。そこにこたつによる心理的距離の接近が加わり、ハードルはおそらく低いはず。


 宮内さんがもぞもぞとこたつにもぐった。足の間で温かいものが動く感触と同時に、こちら側に顔を出す愛らしい小動物。私の足の間から。私のお腹の辺りに顔をくっ付けて、気持ちよさそうにすりすりしている。なんだこれ最高かよ。




「……ぷぁっ」


「あ^〜」


「あー……さっそく2人がポンコツになってるよ……」




 仕方ないよね。これがこたつの魔力だよ。東谷さんも、ちゃんとお願いすればこっちに入れてあげるのに。




「……っ」


「ん? どうかしたかい?」


「おっぱい、じゃま……っ」




 ハハハこやつめ。


 とここで私は、御崎ちゃんにもらった気がしないでもないアドバイスを思い出す。上半身を東谷さんの方に向けて、胸を張ってみた。どや?




「……」


「……」


「すぅ……すぅ……」




 無反応……おっぱいは効かない、っと……




「……ふぅっ」


「ナベちゃんさぁ」


「うん?」


「大きいおっぱいって、歳とると絶対垂れるよねー」




 わぁ! めっちゃ効いてた! でもそうじゃない! どちらかと言えばそれは私に効く! やめて!




「いや、これは御崎ちゃんがこうしろって……」


「ふぁ……? みさっ、みさき……?」


「あ、宮内さん起きた?」


「みさきちゃんに、あったの?」


「うん。知り合い?」


「えぇっとぉ……かんださんと、みさきちゃんと、わたしで……しりあい……?」


「……oh」




 御崎ちゃんも宮内さんの恋敵かよ……ってことはあの神田さんと御崎ちゃんの間に割って入ったのかこの子は……ポテンシャル半端ないな……。いや、それよりもその3人を骨抜きにする時雨くんって一体……


 ……待てよ? つまり、御崎ちゃんが言ってた恋人ってのは時雨くんのことで……ひょっとしたら御崎ちゃんは神田さんや宮内さんとも一緒にお風呂に入ってたりして……う、羨ましい……っ!




「なぁ、宮内さん、御崎ちゃんと一緒にお風呂入ったりした?」


「…………」


「……っ……!」


「……すぅ」


「あぁああぁぁぁぁみやうちぃぃいいいい!!!」


「……はぁ……」




 私はこの部屋の小さなこたつの中で、悲しいほどに複雑に絡み合い、すれ違う愛を感じて吼えるのであった。

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