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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

私の村に、異世界の勇者は現れた

作者: 朝日桜七
掲載日:2015/06/18

初投稿です。

長編を投稿したくて、ちくちく書いているのですが、煮詰まってきたりしたので、短編を一気に書き上げました。

鬱です。嫌いな人は回れ右でお願いします。

 私が彼のことを好きになったのは、いつのことだったろう。


 彼が腕や肘を擦りむきながら、魔獣の出る森の中から、私の好きな紫色の花を取ってきてくれた時だろうか。


 両親に隠れて潜り込んだ酒場の屋根裏で、漂う酒気に気分を高揚させながら、口付けを交わした時だろうか。


 私が村のすぐそばに現れた猪の魔獣に襲われた際、庇って傷を負った彼をつきっきりで看病した時だろうか。


 気付けば私の隣には彼がいるのが当たり前で、いつか彼と愛を育み、身を重ね、誓いで結ばれ、家を持つのが、当たり前だと思っていた。

 彼も同じように思っていたはずだし、そう口にしてくれたこともあった。


 彼は私を守るためと言って、毎日はげしく剣の稽古をしていたし、私と一緒に暮らすためと言って、薬草や魔獣の知識を重ね、狩りや採集に精を出していた。


 いつだって彼は、私を見ていた。



 ☆ ★ ☆ ★ ☆



 この村に異世界からの勇者が出現したのは、ある夏の日のことだった。


 村は、未曾有の危機に晒されていた。

 見たこともないような巨大な魔獣が、村を破壊していた。

 門番をしていた近所のお兄さんも、この辺りで一番腕が良いと評判の鍛冶屋も、猟師だった私の父も、無惨にも殺された。千切れた腕や脚が村のあちこちに飛び散り、血飛沫を上げながら内臓を喰らう魔獣に、その恐怖に、誰も逆らえなかった。


 魔獣が次の獲物に私を選んだ時、彼は剣をとって、勝てないと分かっているのに、魔獣に飛びかかった。

 わずかに魔獣が振るった腕がかすめただけで、彼は叩きつけられ、血を吐いた。私の名を、泣きながら、呼んだ。


 その時だった。

 天が割れ、雷より大きな音と眩しい光が生まれた。

 渦のような風が吹き荒れ、そして、その中心に、勇者がいた。


 勇者が何かを唱え、辺りにいた村人の傷は皆たちどころに癒えた。死者を蘇らせることはできなかったが。

 村人たちは勇者に助けを求めた。

 すぐに勇者は、剣を抜き、魔獣に何もさせずに、一刀両断にした。

 本当にあっけなかった。今までの犠牲は何だったのだろうと思うくらいには。



  ☆ ★ ☆ ★ ☆



 勇者が来て、一月が経った。

 その間、勇者は村の再建に尽力した。


 私は父を亡くし、母を支えて生計を立て直さねばならなかった。墓を作り、必死に働き、彼に会う時間もあまり取れなかった。


 彼は勇者の強さに感動し、憧れ、毎日のように剣の手ほどきを受けた。彼には才能があったのだろう、見違えるほどに上達していった。

 異世界に来たばかりの勇者には家がなかったが、両親を早くに失くし、たったひとり暮らしていた彼が、自分の家に住めばいいと言って、そうなった。


 気付けば彼の隣には勇者がいるのが当たり前で、いつか勇者がこの村を発つ時には、彼もついていくのだろうと皆が当たり前に思っていた。


 そうして、無事に再建された村を勇者が発とうという前の晩。

 彼を探していた私は、見てしまったのだ。



  ☆ ★ ☆ ★ ☆



 彼と勇者は、太い木の幹に背を預けて、並んで座っていた。

 勇者は、彼の唇を、奪った。


「私が異世界に放り込まれた時には、本当にどうなるかと思った。けれど、君と出会ったおかげで、私はこの世界のため、戦おうと思えるよ」


「俺も、あの魔獣にこの村が滅ぼされかけた時に、君が来てくれて、本当によかったと思ってる。俺は、運命だと思ったんだ。あの魔獣を切り裂く君の姿は、本当に格好良くて、素敵だった」


「私だって女の子なんだ。格好良いと言われたって、あまり嬉しくはないぞ」


「君の可愛いところは、一緒に暮らしているうちにいっぱい知ったよ」


 今度は彼が、勇者に口付けた。

 そして抱き寄せて、身体をまさぐろうとする。


「ここではダメだ! 続きがしたいなら、家で……」


 恥ずかしそうに勇者は言いながら、彼の手を押さえて立ち上がった。


 私は、隠れて、ふたりが立ち去るのを待った。


 私は……私は……。


 私は、きっと、世界を滅ぼすだろう。


 勇者がいなければ、この世界は滅びる。少なくとも、この村には、また凶暴な魔獣が現れて、私たちを滅ぼしてくれるだろう。


 神か誰かは知らないが、勇者を遣わした存在を、私は心底憎む。

 魔獣をたやすく屠る力を得て、人々を魅了してやまない勇者を憎む。

 何の積み重ねもなくあっさり勇者を信頼し、憧れ、すべてを託す人々を憎む。

 勇者にしか倒されない悪意ある存在を憎む。


 きっと彼らは、情事の最中だろう。あるいは激しい行為を終え、まどろんでいるところかもしれない。

 今しか、私がこの憎しみを刃に変える時はない。


 彼もろとも。


 そうして、私は、殺した。

 明日、村を発つ者はいない。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

感想等いただけると幸いです。

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