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宮廷の庭師と先代の王の事

随分、間が空いてしまいました。

空きすぎて忘れてしまっている方もいらっしゃるかもしれません。

風璃ケイいちです。

今回はリアル事情の事もあってモチベーションを維持することが難しく、

何度も書き直す羽目になりました。

結局、短めの話になってしまいましたが、これ以上間をあけるのも心苦しいので今の状態で公開します。

少しでも楽しんでいただけると幸いです。

 辺りは、夏の日差しの照り返しで白く光っているように見えた。

あちこちに出来た影が白く染まった景色をまるで一枚の切り絵のように見せている。

 季節がめぐり、日差しが少し厳しくなってきた日の午後。

ルミネスは、王宮から少し外れた所にある住宅地の中を歩いていた。

日差しよけにつばの広い帽子をかぶり、袖なしのワンピースを着た姿は家路を急ぐ少女のように見えた。


「ちょっと暑くなってきたわね。」


 そう言って額の汗を軽く拭ったルミネスは迷うことなく歩いて行く。

サラから貰った包みが入ったバスケットを持ち直すと目的の家を見て呟いた。


「ほんと、普通の民家には立派過ぎる庭よね。半分、商売も兼ねているとは言え。」


 ルミネスが向かっている家は作りは普通の民家だったが、庭園風の洒落た庭が建屋の周りに広がっていた。まあ、本職だしねと呟くとルミネスは入口にある花のアーチをくぐり、ドアをノックしながらくだけた様子で声をかけた。


「お父さん、お母さん、いる? いつもの薬を持ってきたわよ。」

「アーニアかい? ちょうど一息入れていた所だよ。お入り。」


 中から初老の女性が答えるとアーニアはドアを開けて中に入って行った。


「アーニア、元気にしてたかい? 前に来てからどのくらいぶりかねぇ。」


 入ってきたアーニアを抱きしめながら嬉しそうに話しかけたのはアーニアの母親、アンナだ。

同じように抱きしめ返すアーニアの顔も嬉しそうに綻ぶ。


「ええ、元気にしていたわ。もっともこんな姿だけどね。」

「やっぱり元に戻るのは難しそうかい? まあ、私は小さい頃のアーニアにまた会えて嬉しいけどね。」


 アンナの言葉に苦笑しつつ、「まあ、ね。」とお茶を濁すルミネスだった。


「お父さん、腰の具合はどう?」

「ああ、サラさんの薬のおかげで何とか大丈夫だ。もっとも、昔の様にはいかないがね。」


ルミネスは、父の言葉に「無理しちゃだめよ。」と笑いかけた。

ルミネスの父、オルクは宮殿の庭を預かる庭師だった。庭の一角にある小さな家に住み込んで庭の世話を一手に引き受ける仕事をしていた。庭師としての腕は近隣の王達も知る程で訪れた賓客は皆、庭の見事さに賛辞をもらした。先代の王の信任も厚く、宮殿の庭はフランニコスに任せると言わせる程だった。庭がとても好きだった王は、公務の間を縫ってオルクの元に訪れた。そして小さな家に度々訪れた王はルミネスをとても可愛がってくれた。当時、まだ小さかったウイリアム王と知り合ったのもこの時期だ。


「ウイリアム様はお元気でおられるかい?」


 薬を受け取ったオルクは、ルミネスに尋ねた。


「ええ。とてもお元気よ。公務で相変わらずお忙しいみたいだけれど。」

「そうか、お元気か。しかし・・・」

「ストップ。お父さん、その話はなしよ。」

「そうだったな。すまん。」


ルミネスは、軽く首を横に振ると少し困ったような表情で言った。


「結果的には良かったんじゃないかって思うのよ。もし結婚していたら今みたいには話せなくなっていたかもしれないって、そんな風に思うこともあるし。」

「そんなものかい?」

「そんなものよ。」


そんなやり取りを隣で黙って聞いていたアンナがルミネスに向かって「それはそうと」と話しかけてきた。


「最近、若い男の子と付き合い始めたって噂を聞いたんだけど、どうなってるんだい?」


ルミネスは口元に持っていきかけたカップに向けて盛大に噴き出した。

隣でその様子に気が付いて身をひるがえしたオルクの横に噴き出したお茶が大量に飛び散る。

「なによ、腰、大丈夫そうじゃない」といった様子でジト目でオルクをみるルミネスだった。


「そんな噂、どこから聞いてきたのよ。」


ちょっとふて腐れたような表情でルミネスが言うと、アンナがさも当然という顔で答えた。


「アーニアはね、自分で思っている以上に皆から気にされているの。私が聞かなくても自然と話が伝わってくる程度にはね。」

「そんなこと言って、どうせ皆、噂話に目がないだけでしょ。」

「そう言う人はいないとは言わないけれど、皆、それなりにあなたの事を心配しているのよ。」

「さしずめ、噂の出どころは、パン屋のオヤジね。」


ルミネスの言葉にさあねという身振りをするとニッコリ笑いながら続けた。


「まあ、あの人がアーニアの事を一番心配しているのは確かね。で、どんな子なの?」

「うっ。どんな子って・・・。」


顔を赤くして「言わなくちゃだめ?」と目で訴えるルミネスに「だめ。」と目で答えるアンナ。

盛大にため息を吐くと観念したようにボソボソと話し始める。


「素直でとても賢い子よ。私の歳の事も知った上で普通に接してくれるし。」

「かなりの美少年って話だけど。」

「まあ、確かに可愛い子だけど、それが理由で付き合っているわけじゃ・・・。」

「良かった。その様子なら大丈夫そうだね。幸せかい?」


アンナのストレートな問いに顔を赤くしながらも嬉しそうに頷くルミネスだった。


「しかし、今のアーニアの姿を見ていると先王様が儂に留学の話を持ってこられた時を思い出すよ。」


アンナとのやり取りを見ていたオルクが懐かしそうに言った。


「本当に先王様には感謝しても感謝しきれない程の恩を受けているからなあ。」

「私も先王様の事は忘れてないよ。本当の娘みたいに可愛がってもらってたから。」


そもそも王宮付きとは言え、庭師の娘に魔導士の弟子になるだけのコネがあるはずもなく、庭師としての知識以外はさっぱりの父親が娘の才能に気が付けるわけもなかったのだ。度々、庭師の小屋に訪れていた先王は一所懸命に話をするアーニアの頭の回転の速さや記憶力の良さにすっかり惚れ込み、王子の学友として扱ってくれた。王宮にある書物の閲覧を許し、自由に勉強させてくれたのだ。アーニアは先王の期待に応え、みるみる知識を吸収した。留学の話が出るころには先王と初歩的な魔導に関して議論できるまでになっていた。


「ちょうどあの頃の私は、このまま勉強を続けていて良いのか迷っていたの。」

「ああ、ちょっと様子がおかしいと思っていたときね。」とアンナ。

「気が付いてたの?」

「そりゃあ、毎日のように王宮の書庫に通っていたアーニアが家で考え込んでいれば、気が付くわよ。」


苦笑しながら思い返す様にルミネスが続ける。


「二人とも朝から晩まで仕事をして頑張ってたから、私だけ勉強だけしていて良いのかなって思っていたの。」

「アーニアだって勉強頑張っていただろう。」とオルク。

「私のは、ただ色んな事を知ることや考えることが楽しくてやっていただけだもの。頑張っているなんて思ったことなかったよ。」

「なら、儂もおんなじだ。儂は庭師の仕事に誇りを持っているし、愛してもいる。仕事をつらいなんて思ったことはないさ。旨くいかずに悔しい思いをすることはあってもな。」


うんと頷きながらルミネスが言った。


「そうね。今ならそれもわかるけど、当時の私はわからなかった。そんな時に先王様が言って下さったの。勉強で得られた知恵は直ぐには役に立たないかもしれない、けれど勉強を続けていればきっとみんなの役に立つときがくる。だから勉強できる時に勉強しておきなさいってね。」

「それでアーニアは留学する決心をしたのね。」

「うん。留学の話は少し前から聞いていたんだけど、私だけが家をほったらかして留学に出ていいのかなって思ってて、返事を先延ばしにしていたのよ。」

「まあ、儂もアーニアの事は賢い娘だとは思っていたが、まさかウィザーズネームを戴ける程の魔導士になるとは思っていなかった。もし先王様に出合っていなかったら今のお前はなかっただろう。」

「お優しい方でしたからねえ。」

「ああ、とても気さくな方だった。」


「そういえば、マルグリッド先生はどうされているんだい?」

「相変わらずのご様子よ。今でもよく手紙を戴くわ。」

「返事はちゃんと書いているの?」

「さすがに毎回は無理ね。学院から引退されたから時間があるみたいで一月と置かずに送られてくるから。」

「全く、筆不精は誰に似たのかしら。」

「まっ、まあ、なるべく返事を書くようにするんだぞ。先生にもずいぶんお世話になったんだからな。」


矛先が自分に向いてばつが悪くなったオルクが話を終らせにかかった。

アンナの矛先が自分にも向きそうに感じたルミネスが慌てて話題を変えようとする。


「そう言えば、ハルがね、」

「ちょっとアーニア、仮にも王様の事を・・・」

「まあ、いいじゃないここだけの話よ。」

「まったく、お前は。」


久しぶりの一家水入らずに話が弾み、なかなか話は尽きなかった。

薬を届けに来たはずが話が弾んで泊りになるのもいつもの事。

その日、家の光は遅くまで消えることはなかった。

そして話を終えて床に就くルミネスは思うのだ。

大らかな両親、優しかった先王様、気の置けない親友のハル、世話好きの先生、支えてくれるサラ、私はなんてすてきな人達に囲まれているんだろうと。クラウスもきっと自分にとって外せない人になるだろう。

さあ、また明日から頑張らなくちゃ。私の事を必要としてくれる人が居てくれるんだから。

久しぶりの実家のベッドで普段は感じない温かな安心感に包まれてルミネスは眠りについたのだった。


今回はルミネスと両親の会話を中心にルミネスの過去について触れてみました。

もうちょっと詳しい話は別の機会に語ろうと思います。

今回はざっとどんな事があったか位の内容に留めています。

クラウス君のエピソードをもうちょっと入れようかとも思ったんですが、

そちらに話を持っていくと帰ってきそうにないので止めておきました。

クラウス君に関しては割と気に入ったので今後も折を見て登場させたいと思っています。

さて、次のお話ですが、今のところ、未定です。

ネタはいくつか積んでありますが、どれについて書くかはまだ決めていません。

自分のモチベーションの事もあるので様子を見つつ決めたいと思います。

気長にお付き合い下さると助かります。

でわでわ。


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