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アーニアと少年の事

ずいぶん時間が空いてしまいましたが、第六話をお届けします。

今回は柄にもない話に手を出した事もあってかなり手こずりました。

果たして納得して戴ける内容になっていますかどうか分かりませんが、

楽しんで戴けると幸いです。


「確かこの辺に置いてたと思うんだけどなぁ。」


ルミネスは、書庫として使っている部屋の中でずらりと並んだ本棚の間をグルグル巡りながら本を探していた。

実験が失敗した時に自分の身に起こった現象の原因を探っていて以前に読んだ文献の中に成長速度に関するものがあったような気がしたからだ。

目星をつけた本棚の前に踏み台を持ってくると上の段の本を物色し始める。程なくして目当ての本を探しあてたが、内容を確認するとガッカリした顔で本を戻した。


「成長速度を抑えるであって、成長が巻き戻るわけじゃないのね。」

「そもそも若返るってのが異常なのよ。何だってこんな事に。」


 ルミネスが試していたのは成長速度を制御する方法に関する実験だった。

実験は成長速度を遅くする為の物だったのだが、若返るというような効果が出るはずはなかった。

成長速度を遅くするのと若返るのとではまるで次元が違う話だ。


「とにかく、糸口を見つけるにしてももう一度最初から考え直しね。」


 書庫から出てきたルミネスは、ちょうどそこに通りかかったサラに呼び止められた。


「アーニアさん、ここにいたんですね。探しました。」

「ん、何かあったの?」

「あったと言う程の話ではないんですけれど、お手紙が二通届いています。」

「どこから?」

「一通目は、マルグリット先生です。急いでいるという話ではなかったのでいつもの定期便だと思います。」

「先生も筆まめねえ。さすがに今回は返事書いとかないと悪いわね。」

「アーニアさん、前回は返事書いていないんですか。

先生、お可哀そうに。」


ジト目で睨むサラの視線を明後日の方向を見てかわすルミネスだった。

バツが悪くなったルミネスは、ごまかす様に少し早口でサラに尋ねた。


「で、も、もう一通の方は?」

「それなんですけど、」


ジト目のまま返事をするサラにごめんと手を合わせるルミネス。

サラはあきれ気味にため息をつくとその後を続けた。


「アーニアさん、この差出人に心当たりあります?」

「ちょっと見せて。」


どうぞと差し出された封筒を受け取ると差出人を確かめる。


「うーん、心当たりないわね。

クラウス・トランベルトかぁ、どこかで聞いたような気はするけど。」

「あと、宛名のところを見てください。」

「アーニア・フランニコス様って、ウィザーズネームが付いていないわね。」

「そうなんです。アーニアさん宛で仕事絡みならウィザーズネームが付いてきますから、プライベートだと思ったんですけど。」

「念ためにちょっと確認してみようか。」


ルミネスは、短い呪文を唱えつつ手に持った封筒の上で小さな二重丸を指で描く。

二人は封筒をじっと見ていたが、何も起こる気配はなかった。


「トラップの類は無いみたいだし、内容を確認してみましょ。」


ルミネスは封筒を開くと中から数枚の便箋を取り出して内容を読み始めた。

始めの内は真剣な表情で読んでいたルミネスの顔がみるみる赤くなって耳たぶまで真っ赤になった。


「これは恋文ですね。」

「〇×◆◎☆&%¢っ」


横合いから不意にかけられた声に言葉にならない声をあげてサラを見上げた。


「サラ、読んだわねっ!」

「いえ、アーニアさんの表情があんまりにも面白かったのでつい。」


悪びれた様子もなく、あははと笑うサラだった。

手紙には、サラと喫茶店に居る所を見かけて以来、ずっと忘れられずいることやさんざん悩んだ挙句にどうしても思いを伝えたくて手紙を書いていることなどが切々と書かれていた。

ルミネスの横で一緒に内容を読んでいたサラは真面目な顔でルミネスに言った。


「とても真面目で素直な内容だと思いますよ。情熱的ですし。」

「大真面目に書いてあるっていうのはわかるけど・・・」

「けど、なんですか?」

「この字、どう見ても子供の字よ。文章の感じからすると12、3歳位の。」

「まあ、そんな感じですね。」

「私の歳、幾つだと思ってるのよっ、大人と子供でしょ。」

「だからこそ、ちゃんと答えてあげてほしいと私は思います。

彼はまだ子供かもしれませんけど、書かれている気持ちに嘘はないと思います。」

「・・・とりあえず考えてみるわ。単純に返事だけすればいいという話ではないと思うし。」


サラはそれ以上は何も言わなかったが、これだけかわいいんだからこういうことが起きてもおかしくなかったのよねと考えていた。

今までは周りの人間が事情を知っていたから起こっていなかっただけで。

ルミネスはまだどうするか決めかねているようだったが、どういう結論を出すにせよ、こちらも真剣に返事をしてあげてほしいと思うサラだった。


・・・・・・・・・


 ルミネスは、悩んでいた。

内容はもちろん例の恋文の返事のことだ。

ルミネスは両親が住込みで王宮の庭師をしていた関係でほとんど王宮の中で暮らしていた。

勉強の為に留学するまではちょっとした買い物以外はほとんど王宮の外に出たことがなかった。

その所為でまともな恋愛経験は0だった。それこそ同年代の子供といえばハル位しかいなかったのだ。

恋文をもらった経験も全くなかった。今の自分の歳のことを考えるとどう考えても断るしかないと思うのだが、事情を説明しても信じてもらえるかどうか怪しかったし、こちらがふざけていると思われるのは嫌だった。

悪い印象を持たれたくないという時点で満更でもないということなのだが、本人はそのことに気が付いていないらしい。


「もうっ、こういう時、どう返事すればいいのよっ。」


 クラウスの家はトランベルトの名前で調べるとすぐに分かった。

最近、文官として王宮に上がることになった貴族がトランベルトだったのだ。

つい数日前にハルの部屋を訪ねた時に新しく来る文官の話が話題になっていた。

聞いたことがあると思ったのはその所為だった。


「とにかく、返事しないでいるのはまずいわよね。少し考えさせてくださいって返事しとこう、うん。」


----------

クラウス・トランベルト様


 お手紙ありがとうございます。

突然の手紙でとてもびっくりしました。

お気持ちは嬉しいのですが、すぐにお返事をできそうにありません。

少し考える時間をください。


アーニア・フランニコス

----------


「アーニアさん、先延ばしにしても結局同じことになると思うんですけれど。」

「@%&$#@」


 口をパクパクさせながら顔を真っ赤にしてサラをにらむルミネスにサラが続ける。


「何で人が書いている手紙を横から読むのか、ですか?」

「そうよっ。失礼じゃないの。」

「言われていることはごもっともですけれど、リビングで百面相しながら書いているのもどうかと。」

「だって、どう書いていいのかよくわからないのよ。」


 これは思っていたよりもテンパっているかもと思うサラだった。

ルミネスが恋愛経験がなさそうなのは手紙をもらった時の様子からわかっていたのだが、聡明なルミネスなら何とかできるだろうと思っていたのだ。

少し考えてサラはルミネスに問いかけた。


「結局、アーニアさんはどうしたいんですか?」

「年の差を考えたら断るしかないでしょ。」

「年の差とかそういうこと抜きで、アーニアさんの気持ちを聞いているんですけど。」

「私の気持ち?」

「手紙を読んでみて、好意を感じているかどうかです。好意を感じていないなら断ればいいと思います。」

「でも断るんだったら、何か理由が。」

「付き合う気になれないでもいいと思いますよ。それこそ気持ちの問題ですし。」

「・・・」

「真剣に考えた結果がそうなら素直に返事をすればそれで伝わると思います。」


 サラに正論を言われたルミネスは少しふくれっ面でいった。


「あのこっちが赤面するくらい真っ直ぐな手紙を読んで好意的に思えないわけないでしょ。

素直で良い子なんだろうなぁって私だって思うわよ。」

「クラウス君に興味は?」

「あるわ。だって私、こんな形で同年代の子と付き合ったことなかったし。」

「だったら、付き合うかどうかはともかく一度会ってみたらどうですか?

歳の事を気にしているなら、直接話してみればいいと思います。私もフォローしますから。」


 ルミネスはサラの意見を聞いて少し冷静に考える余裕が出てきたようだった。

しばらく考えて少し吹っ切れたようにサラに言った。


「そうよね。私は大人なんだから大人の余裕をもって対応しないといけないわよね。」

「そうと決まったらクラウス君に返事を書いてあげてください。そうですねぇ。三日後に喫茶店で会いましょうって。」

「わかったわ。」


----------

クラウス・トランベルト様


 お手紙ありがとうございます。

突然のお手紙でとてもびっくりしました。

お手紙だけではどんな方なのかよくわかりませんし、一度直接会ってお話しませんか。

よろしければ、三日後に私を見かけたという喫茶店でお会いましょう。


アーニア・フランニコス

----------


 ルミネスが書いた手紙はついでがあるからとサラがトランベルト家に届けに行った。

普通は出入りの商人などを通じて届けるのだが、そうなるといつ届くのか指定しづらい事もあってサラがメッセンジャーを買って出たのだ。

そもそも同じ街の中にいるのに手紙のやり取りをすること自体、かなりブルジョアな行為だったりするのだが。

 クラウスからの返事は翌日早くに届いた。よほど急かされたのか届けに来た商人は息を切らしていた。

手紙を受け取ったルミネスは少し不安そうな様子で手紙を開封したが、返事を読み始めると思わず笑みがこぼれていた。

クラウスは返事をもらえた事がよほど嬉しかったのか、ありがとうございますとうれしいですを連発していた。

そして、ぜひお会いしたいですと書かれていた。

 返事をもらったルミネスの様子を見ていたサラは、やっぱり満更でもなかったのねと思っていた。

今の容姿の所為もあって傍目に見ていると恋する少女のような表情に見えた。見ていて思わず、こちらの表情もほころんでしまうようなそんな様子だった。

後はクラウス君がこちらの話を信じてくれるかどうかだけど、こればっかりは話してみないとわからないし。

これでアーニアの人付き合いの幅が少しでも広がればと思うサラだった。


・・・・・・・・・・・


 手紙を出してから三日後、約束の時間よりも少し早目に喫茶店に向かって歩く二人の姿があった。

若干緊張気味のルミネスとその様子をニコニコしながら見守るサラの姿はまるで姉妹の様にも見えた。

ルミネス達が喫茶店につくと既に席にかけていた少年が立ち上がってルミネス達に一礼した。

緊張しているのが見た目にもわかるほどコチコチだった。

ルミネスはというと何とか笑いかけようとしていたが、やはり緊張でぎこちない表情になっていた。


「あら、美少年。」


 クラウスを見たサラは思わず呟いた。クラウスはあまりがっちりしたタイプではなく、どちらかというとスマートな感じの美少年だった。

アーニアと並ぶと何とも絵になりそうな雰囲気だ。サラは、二人のあまりにも初々しい様子に心の中で身もだえしつつ、ルミネスを連れてクラウスがいるテーブルに向かった。

そして、緊張のあまり立ったまま動けなくなっているクラウスに声をかけた。


「クラウス・トランベルトさんですね。」

「は、はい、そうです。」


 緊張の所為か、少しトーンが上がった声で答えるクラウスと隣のルミネスに取り敢えず座りましょうと呼びかけて自分もルミネスの横に座った。

なかなか話し出さないルミネスに小声で促すと一旦椅子に座りなおした。

ルミネスは少し迷うそぶりを見せたが、口を開いた。


「お手紙ありがとう、突然の事でびっくりしたけど嬉しかったわ。」

「こちらこそお返事ありがとうございます。とてもうれしかったです。」


 それは嬉しそうにクラウスが答えた。


「あのね、私の名前をいったい誰に聞いたのか教えてもらっていい?」


 予想外の質問に戸惑った様子でクラウスが答える。


「そこにあるパン屋のご主人に聞きました。何か不味かったんでしょうか?」


 軽く首を振りながらルミネスが答える。


「そんなことはないんだけど、ちょっと気になったから。

じゃあ、改めて自己紹介するわね。ルミネス・アーニア・フランニコスです。」


「クラウス・トランベルトです・・・!?

ルミネスって、魔導士のルミネスさんなんですか?」


 目を丸くするクラウスにルミネスが頷いた。


「ええ、私が魔導士ルミネスよ。」

「その事については私も保証しますよ。サラ・アーチボルトです。」

「助手のサラさんですね。すごいや、父からお二人の話をよく聞かされていて。何か夢みたいです。

でも、ルミネスさんが僕と同じくらいの歳だとは思いませんでした。」


 やっぱりそうなるよねという表情をしたルミネスが申し訳なさそうに切り出した。


「その事なんだけど、実はいろいろ事情があってね。」


 あんまり公にしたくない内容だから他の人に話すのは控えてほしいんだけどと前置きをして実際に起こった事を掻い摘んで説明した。

話を聞いていたクラウスは目を丸くして話に聞き入っていた。


「でね、そういうわけで今の私はこんな姿だけどクラウス君よりずっと年上になっちゃうのよ。」

「はい、それはお話を聞いて分かりました。」

「クラウス君は今、何歳なの?」

「今、12歳です。誕生日が来れば13歳になります。」

「10歳以上も年上の人と付き合うのはいやでしょ。」


 クラウスは少し考えてからはっきりとした口調でいった。


「アー、いえ、ルミネスさんとお話してみて思っている以上の人だと思いました。

とても知的だと思ったし、話していてとても楽しいです。

僕はルミネスさんがいやでないなら、これからも会いたいし、お話したいです。」


 ルミネスはクラウスの言葉に多少面喰った様子だった。10歳以上年上である事を告げられたら嫌がられると思っていたから。

サラは、その様子を見てクラウスをすごいと思った。もしかしてルミネスよりもしっかりしているかもとさえ思っていた。


「ほんとうに私で良いの?」

「はい、よろしくお願いします。」


 クラウスのあまりの真っ直ぐさにルミネスも心が決まった。

そして、花が咲くような笑顔でクラウスに話しかけた。


「こちらこそ、ありがとう。

私もクラウス君と話が出来て楽しかった。

まずは、友人としてお付き合いを始めましょう。

それで気持ちが変わらなければでいい?」

「はい。」


 ルミネスの笑顔を眩しそうにみてクラウスも笑顔で返事をしたのだった。


「ねえ、クラウス君。私の事はアーニアで良いわよ。普段会っている人にはそう呼んでもらっているから。」

「はい、アーニアさん。」


 それからの時間は二人はすっかり打ち解けて色々な事を話した。

クラウスが今どんな勉強をしていてどんな事に興味があるのかとか、ルミネスが最近起こした失敗の話とか今研究している事の話とか。

楽しい時間というのは瞬く間に過ぎてしまう物で日も傾きかけてきたので一旦お開きとなった。

ルミネスとサラは、クラウスを家の前まで送り届けた後、自宅への帰路についた。


「会ってみて良かったでしょう、アーニアさん。」

「うん、会って話してすっきりしたかな。手紙もらってからモヤモヤしてたから。」

「良い子ですね、クラウス君。それに思っていた以上にしっかりしているし。」

「それにとても頭がいいと思うわ。私の話を理解しようとしてすごく真剣に聞いてくれたし。」

「・・・」

「なによ。」

「すっかりお気に入りですね。」


 真っ赤になったルミネスに少し吹き出しそうなサラが楽しげに言った。

それから二人は他愛もない会話をしながら自宅へと戻った。

サラには悪いけど、このままの姿でも良いかもと心の中で思うルミネスだった。


・・・・・・・・・・・


 翌日、ルミネスはパン屋の主人の所で「なぜ、ルミネスを付けた名前で教えなかったのか」を問い詰めていた。

パン屋の主人は少し困った顔でこういったのだった。


「ルミネスの名前まで教えてたら、どうしてアーニアちゃんが今の姿になったのか説明しなきゃならないだろ。

俺にそんな説明が出来ると思うかい?」

「それはそうだけど。」


 ルミネスですら説明するのに躊躇するような内容をパン屋の主人にしろというのは無理がある。

不満タラタラの顔ではあったが、納得せざる得なかった。


「それはそうと、アーニアちゃん、あの少年と付き合い始めたんだって?」

「もうっ!」


 真っ赤になったルミネスはそれだけ言うとその場から立ち去ったのだった。

後にニヤついたパン屋の主人を残したまま。


第六話、如何だったでしょうか?


何せ、書いている本人が経験豊富と言うわけではないので

それはもう書いては消しの繰り返しでした。


さて、中でルミネスが手紙に向けて使っていた術について少し補足しておきます。

あの術は、トラップに対して反応するわけではなくて罠をしかけた人間の悪意を残留思念から見つける術です。なので、全く悪意がない状態で仕掛けられた罠だと反応しません。最も罠を仕掛ける時点で何らかの悪意を持っているはずなので反応するでしょという物です。ちょっと調べてみる程度の術だと思っていただければと思います。


次の話をどうするのかについては今のところ未定です。

何か見通しが立ったらまたご報告しようと思います。

でわでわ。


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