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ウィンベル管の事

第二話に続いて、第三話です。


第二話はほっこりエピソードだったので少し面白い要素を入れてみようと頑張ってみました。

目論見が上手く行っておりますかどうかは、読者の皆様の判断にお任せします。

どうか、皆さんが楽しんでいただけますように。


 その日は珍しくルミネスが一人で街に出ていた。

ルミネスは、研究に没頭してしまうとつい何日も外に出掛けない事になってしまうが、別にインドア派という訳ではない。

単に調べものをしたり、実験を繰り返したりしていると他の事に意識が向かなくなってしまうだけだ。

とはいえ、あまりにも外に出ないのでサラに引っ張り出される羽目になることも少なくない。


「少しは日光を浴びないと病気になっちゃいますよ。」


 サラは心配してよくそう言うのだが、別に真っ暗な部屋の中にとじ込もっている訳じゃ無いんだから部屋の中でも日光には当たってるんだけどなぁと思っていた。外出する事が殆どないとは言ってもルミネスの血色が悪いと言うことはなく、この姿に成ってからはむしろ血色は良くなっている位だ。


「さて、とにかく用事を早く済ませて戻らなくちゃ。」


 今日の用事は発注していた実験器具の試作品ができたという連絡を受けたので出来映えの確認と出来に問題がなければ、出来上がった分だけでも受け取ることだ。いつものガラス細工職人に頼んでいるので大丈夫とは思うのだが、少し不安な所があったのだ。


「今回はいつもより細かい指定しちゃったからなぁ。」


 イメージ通りの出来になっていると良いけどなぁ等と考えながら職人の店への道を急いだ。

この姿になって不便になった事のひとつに移動時間が余計に掛かるようになったという事がある。

元々背が低い方ではあったが、今ほど歩幅は狭くなかったと思う。やっぱりこの姿になった時に縮んだんだろうなぁ(涙)とこぼすルミネスだった。

 歩幅が小さくなってしまったルミネスが道を急いで歩く姿は、何とも可愛らしく、ルミネスをよく知る人達からよく声をかけられる。


「おや、アーニアちゃん、お使いかい?」


ちょうど店の中から出てきたパン屋の主人に声をかけられた。


「おじさん、ちゃん付けは止めてよ。この格好でちゃん付けされるとホントに子供と一緒になっちゃうじゃない。」

「あー、いや、あんまり可愛いもんでついね。(笑)

今日はサラさんは一緒じゃないのかい?」

「サラは自分の用事で外出中。」

「サラさんが居なくて大丈夫かい?」

「子供じゃないんだから大丈夫よっ!(怒)」

「あっはっは、そうじゃなくて荷物とか大丈夫なのかい?」


 実際の話、ルミネスの今の体格だと大きな荷物が運べない。

力不足ということもあるが、背が足りないので引き摺ってしまうのだ。それで受け取った器具を持ち帰るときに駄目にしたこともあった。


「今回は大きな物はないから大丈夫よ。」

「そうかい。じゃあ、気を付けてお行きよ。」

「ハイハイ、ありがと。」


 歩みが遅いということは、それだけ知り合いに遭遇する確率が上がるということで、ルミネスはこの後、三人の知り合いに声をかけられた。皆、親切心から声をかけてくれているのは分かるのだが、ルミネスにしてみればありがた迷惑だったりするわけで職人の店につく頃にはちょっと疲れぎみなっていた。


「やっと着いた。何かいつもの倍くらい疲れたわ。」


 ルミネスは、気を取り直すと店の扉を開けて中に入っていった。


「おじさん、いる~?」

「おお、ルミネスさんかい。例の試作品だね。」

「早速、見せて。」

「見せても何も、そこに置いてるよ。そろそろ来る頃だと思ってたからね。」


 ルミネスは辺りを見回してみるが、実験器具の試作品らしい物は見つける事が出来なかった。


「???」


 ルミネスは首を傾げて考え込んだ。

店の主人はニヤニヤしながらルミネスの様子を見ている。


「おじさん、ふざけてないでちゃんと教えて!」


少しムッとしたルミネスが店の主人に言った。

店の主人は、「ソコソコ」と言う感じで指を指した。

指先が向かう先を見たルミネスは頭の上に「?」をいくつも浮かべて店の主人に聞き返した。


「これ~?」

「それ。」

「私、鳥の人形を頼んだ覚えはないんだけど。」

「よく見てくれよ、形は人形っぽいが人形って訳じゃ無いんだぞ。」


 カウンターの上に置いてあったガラス製の人形はよく見ると頭の部分に短い管が出ていて、そこを指で押さえることでピペットと同じ役割を果たせそうだった。

ピペットと言うのは、薬品を一定量入れるときに使うガラスの管だ。沢山の量入れるときに使う物だと管の真ん中辺りに膨らみがあってそれだけ多くの液をいれることができるようになっている。今回のルミネスが頼んでいた物は少量の液を狙った場所に落とすために真っ直ぐの管ではなくて管の形に注文をつけていたのだ。


「確かに、ウィンベルのくちばしみたいな形にしてって頼んだけど。

なんで体までくっついてるの? ピペットとして使うだけなら体は要らないわ。」


 ウィンベルと言うのは水辺に住んでいる割りとありふれた鳥だ。この鳥はくちばしの形に特徴があって、長くて細いくちばしが大きく弧を描いて下向きに曲がっているのだ。ルミネスは今まで真っ直ぐのピペットを使って実験をしていたが、真っ直ぐのピペットだと落とし所を見るために傾けて持つことになる。そうするとピペットの先に水滴がくっつく位置がまちまちになって狙ったところに落としにくかった。

かといって、ピペットを真っ直ぐに立ててしまうと狙った場所を見るときにピペット自身が邪魔になってしまう。

そこで管を大きく曲げて管の先は真下をむくようにすれば、水滴の位置が安定するのではないかと考えたのだった。


「ルミネスさんの注文では管の先の太さが恐ろしく細いことになっていただろう?」

「そうね、かなり細かい作業に使うつもりだから。」

「そうすると管の先の方が脆くなっちまってちょっとぶつけた程度で壊れちまうんだ。

しかも管が曲がっているから普通に机の上に置こうとするとか先を机にぶつけやすい。」

「つまり、ピペットの先が壊れにくくなるように台を付けたって言うのね。」

「そういうこった。」

「理屈はわかったけど、なんで目玉がついてたり、台の部分がご丁寧に鳥のからだの形になってるのよ!」

「そんなもん・・・」

「そんなもん?」

「俺の趣味に決まっている、可愛いだろ。」

「・・・・」


 ルミネスは些かげんなりした顔をしたが、自分の条件は全てクリアしていたのでそれ以上突っ込まなかった。突っ込んだところで使うのに支障はないと言われてしまえばそれまでだ。

使ってみる為に引き取ることにしたルミネスは、店の主人に簡単に包装してもらって持って帰ることにした。

何となく引っ掛かりを感じながら。

 包みを受け取ったルミネスが家路を急いでいると行きと同じく町の知り合いから声をかけまくられた。

元々気さくな性格で小柄なルミネスは結構人気者だった。国を代表するクラスの魔導士なのだが別に偉ぶるわけでもない。加えて今の姿に変わってしまって以来、可愛らしくなってしまったものだからすっかりアイドル状態だ。まあ、嫌な思いをすると言うわけではないのでルミネスも満更でも無かったりする。今日も何だかんだで焼きたてのパンやらクッキーを袋一杯に貰ったりして帰りつく頃には荷物が倍に増えていたのだから。


「さて、さっきのピペットの具合はどうかな?」

早速、袋から取り出して管の先の形や頭の部分に付いている管の状態を確認する。

これなら今からやろうと思っている実験にもうまく使えそうだ。

器具のできのよさにニコニコしてピペットを眺めている所にサラが入ってきた。


「アーニアさん、頼んでいた器具はうまくできて・・・。ぷっ。」


ルミネスの姿を見たサラが吹き出した。

きょとんとするルミネス。


「アーニアさん、ソレ何ですか?」

「何って、頼んでいたピペットだけど・・・。」


ルミネスはしばらく訳がわからないと言う表情をしていたが、何かに気がついたようにハッとして、イチゴのように真っ赤になると大声で叫んだ。


「って、あーーーっ。あのおやじ、狙ってやったわねーっ!」


 部屋の中に入ってきたサラが見たのは、ガラス製の鳥の人形を嬉しそうに眺めているルミネスの姿だった。

そう、まるで貰ったおもちゃが嬉しくてたまらないと言った様子の子供の姿そっくりの。

あんまりかわいい姿だったので思わず吹き出してしまったサラであった。


「あのおやじ、次に会ったら絶対もんくいってやるっ!」


 ルミネスも包みを受けとるときに何となく引っ掛かってはいたのだ。

単に趣味って言うだけでこんな形にするだろうかとか。

この形にするために相当手の込んだ細工を施しているし、趣味にしたってやり過ぎじゃないかとか。

そう言えば、包みを渡すときにあのおやじなんか妙に嬉しそうだったのよねと思い出したルミネスであった。

ルミネスが荷物を受け取って店を出るときに店の主人が後ろ手にVサインをしていたのナイショの話である。


 試作したピペットを気に入ったルミネスはピペットの追加発注をした。

今後の発注分には凝った細工は要らないと但し書きをつけて。

他のピペットと区別をするためにこのピペットをウィンベル管と呼ぶようになったのはそれからしばらく後の話である。

あの凝った細工が施されたウィンベル管は今でもルミネスの寝室に飾ってあるそうだ。

時折、手に取って眺めているのをサラが何回か目撃したそうである。


ピペットという実験器具に関しては馴染みがない方もいらっしゃると思いますので、少し追加で説明しておきます。

文中でも簡単に説明していますが、科学実験に使用するガラス製の管です。

管の真ん中よりも上の所に線が書いてあって、管の先からその線の位置まで液を入れると管に書いてある量の液が計り取れると言う器具です。

メスシリンダーを使っても量を計ることはできますが、同じ量を何度も計る必要があるときはメスシリンダーで目盛りを見ながら何度も計るより簡単ですし、計り間違いを防げるという利点があります。

もし興味があったらネットで調べてみてください。


さて、文中で出てくるウィンベルという鳥ですが、完全に架空の鳥というわけではなくて、実際に存在する鳥がモデルです。

ネットでチュウシャクシギとかホウロクシギと言う名前で調べてみるとどんな姿なのか見ることができます。

ご興味がありましたらどうぞ。


今回は今までの話に比べると少しお話らしくなったんじゃないかと思っています。

今後もこんな感じで短い話の連作形式をメインに進めていこうと思います。

そういう意味での「スモールトーク」(よもやま話)です。

話と話の間の繋がりはかなり緩く設定していますので、各話毎に気軽に感想、ご意見を戴けると嬉しいです。

よろしくお願い致します。

でわでわ。


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