あの方にご登場願うの事
どうも、風璃ケイいちです。
随分、間が空いてしまいましたが、二話目をお届けします。
今回は前回の話で出てきたあの方の登場です。
主要登場人物はこれで出揃ったことになります。
基本はこの三人でいくつもりです。
増やしすぎると自分がコントロール出来なくなりそうなので。
ともあれ、お楽しみいただけると嬉しいです。
前回の騒動から二日と経たずに王宮からの呼び出しが掛かった。
サラとしては怪我をさせたわけではないのであわよくばうやむやになる事を期待していたが、
そうはいかなかったらしい。
二人が王宮に到着すると直ぐ、謁見の間に案内され王の登場を待つことになった。
程なくして王が現れ、召喚の理由について側近の大臣から説明が始まった。
・・・・・・
「では、ルミネス殿とサラ殿はその三人組に襲われたと言うのだな。」
「はい、街を散策中に肩が触れたとかで因縁をつけられました。」
「ふむ。自分たちは被害者であると?」
「自分たちの身を守るためにやったことです。」
「・・・」
謁見の間にはどんよりとした空気が流れていた。恐らく大臣の中の誰一人として何が起こったのかを推測出来るものはおらず、判断を下すことができなかったのだろう。
会話の殆どは大臣とサラの間で行われ、ルミネスは黙って控えていたが、よく見ると時折その肩が震えていた。
王はそのやり取りをじっと聞いていたが、
命にかかわるような事態にはなっていない事、問題の三人が他の市民にも迷惑を掛けていた事をあげ、
今後はもう少し穏便に事を運ぶようにと釘を刺した上で不問にすると告げた。
大臣の中には不満を感じる者も居たようだったが、王に意見をする程の事ではないと考えたのだろう、謁見はそのまま御開きとなった。
二人が解放されて謁見の間を出ると王宮の召し使いが足早に近づいて来た。
軽く会釈をするとサラに小声で何かを伝えて、そのまますぐに立ち去って行った。
「あの方がお呼びだそうです。」
「そう来ると思った。いつもの部屋でしょ、行きましょ。」
ルミネスは容姿に似つかわしくない落ち着いた口調で言うと
先に歩き出した。
サラは、ルミネスの側へ駆け寄ると並んで歩きながらボソリと言った。
「アーニアさん、さっき吹き出していましたね。」
「・・・」
「・・・」
「あ、ゴメン。バレてた?」
サラは、軽くため息を漏らした。
「長い付き合いですから…。あっ、着きましたよ。」
サラは、ドアを軽くノックすると中に声をかける。
「魔導士ルミネスと助手のサラ、参りました。」
「待っていたよ、どうぞ。」
明るい男の声が応えた。
サラは、凝った意匠が施されたドアをゆっくりと開けると、少しかしこまった声で言った。
「ご無沙汰しております、陛下。」
「いやぁ、ほんとにご無沙汰だったねえ。」
ソファーで寛いでいた男は服装こそ違え、先程謁見の間で玉座に座っていた王その人だった。
「それからこの部屋では陛下は無しでね、サラ。プライベートな部屋だから。」
「すみません、ハル、久しぶりだったので。」
「気にしてないから、そんなに畏まらなくていいよ。
さあ、こっちに来て座って、何か飲み物を用意させよう。」
ルミネスは、ウィリアム王の様子に苦笑しながらソファーに腰を下ろした。
「相変わらずみたいね、ハル。」
「アーニーもね。ああ、有り難う、お茶はそこに置いておいてくれれば、後はこっちでやるから。」
ウィリアム王がお茶とお菓子を持ってきた召し使いにそう告げると、召し使いはニッコリ笑ってごゆっくりと言って立ち去った。
「前回の呼び出しは、東の森に大きなハゲを作った件だったかな。」
「いえ、それはもうひとつ前の件です。前回の件は街外れの牧草地に大穴を開けたやつですね。」
二人の会話を黙って聴いていたルミネスが若干引きつりつつ、話に加わってきた。
「あのね、それじゃあ私がまるで破壊魔みたいに聞こえるじゃないの。」
「えっ、違うと思っていた(のかい・んですか)?」
見事にハモっていた。
「あー、二人がどう思ってるのかよーくわかった。」
ルミネスはぷぅっと膨れっ面になると、ぷぃっとそっぽを向いた。
ウィリアム王とサラは顔を見合わせると苦笑しながらルミネスに謝罪する。
「いやぁ、ゴメン、ゴメン。そんなつもりはなかったんだけど、まぁ、そう聞こえなくはないねぇ。(笑)」
「すみません。でも結果的にそうなっただけと言うのは解ってますけど、自重はして戴かないと。(笑)」
「解ってるわよ、めいわくかけてるのは。」
ルミネスがちょっと拗ねて言った。
ルミネスが起こした騒動のほとんどは魔導技術の実験中に起こっている。
ルミネスが行う魔導技術の実験はどれも内容が高度すぎて宮廷の魔導士達には理解できないものだった。
高度な実験はそれなりに危険を伴うものだ。ルミネスもそれについては重々承知しているので準備に怠りはないのだが、生来の気の短さが災いしてつい魔力制御が雑になってしまう事が失敗の主因だった。
サラが小言の時に言っていたあれである。
「そう言えば、覚えているかい? 僕達がまだ十歳位の頃に…」
ウィリアム王が嬉しそうに小さい頃の思い出話を始めると三人は時が経つのも忘れて会話を楽しんだのだった。
・・・・・・・・・
「王様、お元気そうでしたね。」
「まあね。何かと気苦労は多そうだったけど。」
王宮から戻ったサラとルミネスは、研究所を兼ねた自宅のリビングでくつろいだ様子で話していた。
王宮から呼び出しを食らった後にしては何とも深刻さがない様子だ。
この手の呼び出しには既に慣れっこになっている事もあり、サラもあまり気にしていない様子。
そうみるとサラもルミネスに感化されて来ているのかもしれない。
「そう言えば、元の姿に戻る為の研究は進んでいるんですか?」
ルミネスは、可愛い眉をひそめて言った。
「まだ進展はなしね、残念ながら。」
今でこそ12,3才の容姿のルミネスだが、実はサラよりひとつ年上だ。
背丈は元々あまり高くなかったが、見た目は年齢なりの容姿だったのだ。
まあ、けして大人っぽいと言う感じでは無かったのだが。
ある事件(事故?)で今の姿になって以来、元に戻る方法を探しているが、成果は上がってなかった。
「もっとも、今の姿の方が風当たりは少ないから助かってるけどね。」
ルミネスは少しイタズラっぽく言って、ぺろっと舌を出してみせた。
「その分、私への風当たりが強くなっているんですけれどっ!」
サラが少しむくれてみせた。
「ゴメンって、そこは申し訳ないと思っているんだよ、ホント。
私もさすがに何時までもこのままって訳にはいかないと思っているから。」
「本当におねがいしますね、アーニアさん。私も出来る限りは食い止めますけれど。」
さすがに今日は疲れましたからとサラは、ルミネスにも休むことを勧めた。
「そうね、ハルから1つお願い事をされているんだけど、明日でも大丈夫だし。」
二人はそれぞれの寝室に向かうと早々に床に就いたのだった。
次の日の午後、王宮にルミネスからウィリアム王宛に荷物が1つ届いた。
王は大変喜んで包みを受けとるとしばらく席を外す事を伝えて自室に戻った。
「アーニーの事だから直ぐに送ってくれると思っていたけれど、まさか昨日の今日とはなぁ。」
苦笑混じりに笑いながら包みを開けると中には透明な球体の中に封じ込められた綺麗な花が入っていた。
「かなり難しい注文だと思ったんだけど、本当にアーニーはスゴいよ。」
ウィリアム王は、上の姫の誕生日プレゼントに枯れない花を用意できないかと相談したのだった。
ドライフラワーであれば、長持ちする花を手に入れることは可能だが、それでも乾燥した花は脆く一寸した事で崩れてしまう。生花であれば崩れてしまう様なことはないが、小まめに水を変えてやっても長持ちさせる事は至難の技だ。ウィリアム王は、ドライフラワーではなく生花でできる限り長持ちする物を作れないかと頼んだのだ。話を聞いたルミネスは二つ返事で引き受け、次の日には品物が届けられていた。
ルミネスからの手紙にはこう書かれていた。
「ガラス球の台座に魔導を仕込んでいます。ああ、爆発するような危険な物じゃないから大丈夫。
柔らかい日差しが当たる場所に置いておけば、二月位は軽く持つはず。さすがに生花だから生命力が尽きちゃうと枯れるからね。アーニア」
「ありがとう、アーニー。姫もきっと喜んでくれると思うよ。」
ウィリアム王は、お付きの召し使いを呼ぶと姫へのプレゼントに可愛らしくつつんでほしいと言って執務室に戻ったのであった。愛娘の喜ぶ顔を思い浮かべながら。
この形式であとがきから読む方はいらっしゃらないと思いますが、
今回の話の目的はあの方と二人の関係を簡単に理解してもらうために書きました。
少なくともあの方とルミネスは気がおけない関係であることは伝わったと思います。
今後の話の中であの方とルミネスの昔話とか、サラとあの方の話とかも書きたいと思っていますが、いまはまだ思案中です。
でわでわ。