創作しか見つめていない少女の話
第一印象は野暮ったい、トロい、鈍い、鈍感、要領の悪い。
そんな最悪な印象。
当たり前だろう。
年頃の女が染めたこともない真っ黒な髪で、長い前髪に分厚いメガネ。
背中まである黒髪はいつだってポニーテール。
洒落っ気の一つでもないのか。
化粧もしなければ、ピアスの穴もないし、アクセサリーも一切つけていない。
その上口下手で一人でいることを好む。
そんな奴をどうやってプラスに捉えればいいんだ。
理解に苦しむ。
彼女を遠くから見つめるだけで気分が憂鬱になってしまいそうだ。
だが俺は彼女に接触してしまう。
図書室に本を返しに行った時、窓際に大量の本が置かれていた。
小説と小説の書き方みたいなものばかり。
一体誰がこんなものを…と思いながら本を眺めていると、その本の下敷きになっている原稿用紙を見つけた。
よっと…本を脇にどけ、原稿用紙を抜き取り目を通す。
それは小説のようだった。
どのシーンなのかはわからないが、文体と周りの本からしてそうなのだろう。
『少女はガラス玉のような瞳を少年に向ける。キラキラと少年を反射する瞳に、少年は釘付けになった』
ファンタジーっぽい綺麗に揃えた文体。
じっと目で文章を追ってゆく。
「…なに、してるの」
カツッと足音が聞こえた。
声の主に目をやるとそこには彼女がいた。
長い前髪の隙間、眼鏡のレンズ越しにこちらを伺っている。
まさかと思い手元の原稿用紙を彼女に向ける。
「これ、おま…」
お前の?と聞こうとしたらそれは遮られ、手元から原稿用紙を奪われていた。
目の前にはその原稿用紙を大事そうに抱えた彼女。
眼鏡の奥の瞳はわずかに釣り上がっているようにみえる。
「お前小説なんて書くんだな…」
まるで野良猫のように警戒心をむきだしにする彼女に、警戒心を下げるよう話しかける。
が彼女は警戒心を下げるどころか上げている気がしなくもない。
「君には関係ない」
そういって俺の横を通り過ぎると、せかせかと本を重ねて帰り支度をする。
本に触れた時の彼女の瞳はガラス玉のような瞳そのものだった。
キラキラと反射するその瞳には俺は映ることはないのだろう。
いや、違う。
きっと彼女がキラキラと映し出す世界は小説だけなのだ。