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空穿つ砲と飛べない鳥  作者: 月立淳水
空穿つ砲と飛べない鳥
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六章 地球・二(3)


『だがジェレミー、本当の独立とはなんです?』


『つまり、独立を脅かされない安全保障手段を確保した上での、独立の宣言だよ』


『そんなものがあるとは思えませんが』


『しかし、あるんだ。アレックス、まず、聞いてほしい。戦争を回避する最大の方法は、戦争することが破局につながると思わせることだ。今、地球上は、大国がお互いに核兵器を保有し、そのにらみ合いが何世紀も続いている。表面上は友好的でも、もし牙をむけばお互いの国を滅ぼせるという完全破壊が約束された上での、お互いの承認と言えるだろう。もし、系外惑星が、地球の各国に対して、一方的にそのような手段を持ったとしたら、少なくとも対等の独立は可能だろう?』


『もちろんそうでしょうが、私が指摘したいのは、そんなものはないということです』


『そう、アンビリアの地表にはそんな兵器はないし、逆に、地球の地表にもアンビリアを瞬時に滅ぼせる兵器はない。だが、宇宙空間には浮かんでいるんだよ。名は体を表すという慣用句の通り、誰もが最初にそれを呼んだその名の通りのものが』


『……カノン!』


『そう、人類が持った最も大きな大砲だよ。もちろん、カノンは宇宙旅行のために設計されている。だがね、知っていると思うが、カノンは、投擲距離を好きなように選ぶことができる。最大投擲距離以内であればね。誤差を承知なら投擲距離が制限値を超えても構わない。ああ、言いたいことはわかる、いくらカノンでも、アンビリアから地球の表面上の一国を狙い撃つなんていう芸当はできないだろう。しかし、投擲距離をきわめて小さくすれば、当然その誤差も極めて小さくなる。簡単な計算だよ。六光年の距離を誤差三百万キロメートルで撃てるカノンがあったとした場合、それを百万キロメートルの距離で撃ったときの誤差はいくつか。ああ、計算しなくていい、その答えは、わずか五十メートルだよ。どのような堅固な要塞も五十メートル以内の誤差で瞬時に破壊できる兵器が、地上百万キロメートル余りの軌道上に浮いて砲口を突きつけているんだよ』


『……つまり地球の星間カノン基地を、地上を狙い撃つ大砲として使ってしまおうということですか。……可能ですね、当然可能なのでしょう。なぜ私がそれに思い至らなかったのか、今は不思議なくらい、当然のことです。誤差五十メートルでどこからともなく超光速で降り注ぐ弾丸、それは大変な脅威です。一方的な攻撃手段となる……そんなものはあり得ない、と言った言葉は取り消さなければなりませんね。星間カノン基地さえ手にすれば』


『その通り』


『さて……遠征、カノン基地の占拠……小勢でも可能ですね、後は弾丸ですが……当然、弾丸は星間船ということになるのでしょうね』


『そう。だから、僕は、僕が自由にできる星間船を手に入れる必要があったんだ。今回の反乱騒ぎで僕はあなたを出し抜いて英雄になり、それを得た。済まなかったとは思っているが――』


『そのことは言いっこなしですよ。……しかし、巨大な星間船と言え、満載で一万トン足らずです。確かに、一万トンの物体を音速の何十倍という速度で叩きつければその威力は計り知れないですが、地球上の大国が震え上がるほどの兵器と言えるでしょうか』


『僕のアイデアの出発点は、実はやはり核兵器なんだよ、アレックス。僕がこれを思いついたのは、独立連盟の会合なんだ。彼らは、核兵器が合衆国の覇権を支えている、と語った。その時に、カノンの持つ特性の一つと核兵器という概念が結びついたんだ。これはラジャンに聞いたことで、自分でもいくつか文献を読んで確かめてみたことなんだが、カノンでの反転と再反転というシーケンスにおいて、再反転のときにそこに物質があった場合、再反転が粒子単位でわずかに遅れたり、跳ね戻されたり、ということが起こる。さらには、確率的に、原子核同士が核反応距離にあるような位置関係で再反転してしまうケースさえも起こる。この時に起こるのは、もちろん核融合だ。莫大なエネルギーが放出される。……僕には詳しい理論はわからないけれどね、少なくはない量になるはずだ。加えて、僕は、その弾丸となる星間船に、核融合燃料を満載にしてみようと思う。きっと船殻も地球の岩盤も効率的な核融合燃料ではないからね。船自身に積まれた核融合燃料、つまり重水素原子が、地球の岩盤を構成する原子核による反発を受けて再反転位置を狂わされ、たまたま別の重水原子と融合するような位置取りになることは、少ないだろうけど、一万トンに近いそれがあればそれでも相当な量になる。反応率が低いにしても小規模な核爆発は起こせるはずなんだ。これは脅威だよ。地球上のどの場所でも五十メートルの誤差で核爆発を起こせるというのは。しかも、迎撃手段はない。弾丸は超光速でどんな観測装置にもかからずどんな手段でも相互作用不可能な状態で爆撃地点に到達し、突如爆発するんだ。市民の安全のために、それを迎撃する手段がない以上は、戦争を回避するしかないと思わないか』


『……あなたは優しげな顔をして恐ろしいことを考えるものですね。これはもう戦争と呼べるものじゃない』


『そう、完全に一方的で完全な破壊手段だ。つまり、僕らがすべきことは、戦争の結果の譲歩としての独立じゃない。圧倒的な力による情勢の支配だ。一度力を見せるだけでいい。永久に戦争は起こらない。地球の国家は永遠に地上百万キロメートルより遠くには手を伸ばせなくなる』


『……目が覚めた気分ですよ。あなたの考えは、独立じゃない。新たな覇権の形の創造であり、汎宇宙的な覇権国家の設立です。人類文明のあり方が変わる』


『……あなたにそこまで言われると自惚れそうだよ。だが、結局は、相手がこれをどうとらえるか、にかかっている。効果的に力を見せなきゃならない』


『デモンストレーションが必要ですね』


『だから、あなたに協力をお願いしたんだ。諜報員のネットワークでデモンストレーションのための無人地帯を作ってもらいたい。無為に人命を奪うことはしたくないんだ』


『なるほど、私のコネクションを使って、どこかに広い実験場を、ということですか。何とかなるかもしれません、たとえば核融合発電所の爆発などのデマを流す方法はありそうです』


『しかし、星間カノンは発射間隔が二時間ある、相手が、たとえば一回の爆撃は甘んじて受けてでもその隙に反撃すれば良い、と考える可能性がある。地球にある星間カノンは二基だから発射間隔は一時間になるが、それでもつけ入るすきを与えるかもしれない、あるいは弾切れを待とうとするかもしれない。そこで、僕はラジャンに、イントロダクションカノンを回収してくるように頼んである。小径だが星間カノン付属の大核融合発電所で充電を繰り返せば、速射砲として使えると思う。弾丸は何百と持ち込むコンテナだ。これを使って絶え間なく爆撃ができるし、カノン基地奪還のために飛び立ったシャトルを相当な遠距離で撃ち落とせる。この小カノンのの威力をも示す必要があるだろうから、何か所か、適当な場所を見繕ってほしい。おそらくこちらは核爆発にまで至らないだろうから、むしろわかりやすく破壊力を見せつけるために都市近郊がいい』


『なるほど、そこまでお考えですか。協力できると思います。ただ、あなたは先ほどから爆発規模を少し控えめに見ているように見えます。万一、想像を超える大爆発が起こった時に備えましょう。人が少なく、あるいは、封鎖すれば数キロメートルは誰も近づかなくなる、そういう場所を選びます。いや、最初の一発は、万一、すべての燃料に火が付いたら大変なことになるでしょうから、数十キロメートルは退避可能な場所を選びましょう。幸い、すでに心当たりがあります。しかし、そうなると作戦は面倒ですよ、まず――』



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