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空穿つ砲と飛べない鳥  作者: 月立淳水
空穿つ砲と飛べない鳥
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三章 星々(1)

■三章 星々


 翌日、ジェレミーが工場の視察を終え歩いていると、彼を早足に追い越していくものがあった。

 その時左手に何かを握らされたことに気が付き、手を開いてみると、紙が丸められたメモらしきものである。開いてみると、住所と時間だけが殴り書きされていた。


 ジェレミーはあわてて自分を追い抜いて行った男を確認したが、長身痩躯の男はすでに路地を曲がって消えていた。

 指定された時間は間もなく、住所もすぐ近くである。昨日ニナに頼んでいた件もあり、もしやと思ってジェレミーはそこを訪ねてみることにした。

 小さな単身住宅の一室。


 呼び鈴を押すとすぐに通るよう指示され、ジェレミーは指示に従って部屋に歩み入った。

 正面にリビングルーム、ソファに一人の男が座っている。彼はジェレミーを認めるとさっと立ち上がった。それは、先ほどジェレミーの手にメモを握らせた男に間違いのない風貌であった。


「ようこそ、ジェレミー・マーリン。ビクター・オカダからの紹介で、と言えば、話は通じるかな」


 彼は自ら名乗らずジェレミーの名を呼んだ。


「はい、その、つまり、『連盟』の方、ですね」


 ジェレミーはすぐに状況を理解し、確認する。


「その通り。仮にジャックと呼んでくれたまえ」


 仮名を名乗り、それから一歩踏み出して、ジェレミーに握手を求めた。ジェレミーもその手を握り返す。大きく熱を帯びた手だった。


「率直に聞きたい。ビクターからは、君が独立に興味を持っていると聞いたが」


 ソファに座るようしぐさで示しながら、彼が尋ねた。ジェレミーは、入り口を背にしてソファに浅く腰掛ける。一方、席をすすめたジャックは、ジェレミーのソファの横に立ったままだ。ジェレミーは右上にジャックの顔を見上げる形となる。

 それから、ジャックの質問にどう返すべきか、と考える。どこまでしゃべるべきか、ここはあえてもろ手を挙げて独立運動に賛同して彼の歓心を買うべきか、と思ったが、しかし、のちのことを考えれば、すべてを率直に話そう、と思い直した。


「ある意味では、その通りです。政府の規制には合理的な理由があり、企業はそれに従っているにすぎません。この惑星の暮らしをよくするためには、合理性を超えた特例が必要になります。しかし、合理性が苦しい暮らしや職業選択の不自由を強いる最大の理由は、何光年も離れた土地同士が同じ国であるからです。ですから、解決策の一つとして、独立を選択することは無理からぬことだとは思います」


「最良の手段とは言わないところを見ると、本当に独立運動を進めることには、あまり賛成ではないということかな?」


 ジャックは少し眉をあげてさらに突っ込む。


「そう、もう一つの僕の確信は、この独立運動が成功する道のりには相当な困難を伴うということです」


「相当な困難か。それは、どの程度の困難だと思う」


 さらなる詰問に、ジェレミーは一度大きく息を吸い込んで呼吸を整えた。


「僕は……僕の感覚では、暴力に頼った独立運動はほぼ間違いなく失敗すると考えています」


「ほう」


 大きく見開いたジャックの目は、何を意味しているのだろう。

 ジェレミーを敵と認識したか、別の興味の色か。


「言うまでもありませんが、この星は生活品のほぼすべてを地球に頼っています。地球は母体、この星は胎児のようなものです。胎児が母体を相手に戦うというのはナンセンスです」


 ジェレミーは、ふと思いついた比喩を混ぜながら、簡潔に考えを言葉にした。


「なるほど。しかし、胎児は自ら生まれる日を自ら選ぶものだ」


 指摘を受けて、ジェレミーもそのことを理解している自分に気が付く。そう、やはりいつか誰かが、そのへその緒を切って生まれ出る決断をしなければならないはずなのだ。

 そして、血を流さぬために決断を先延ばしにするということは、アンビリアの人々の、ニナの、貴重な青春を、安全のために売り渡しているに過ぎない。


「あなたのおっしゃることは、……もっともです。それでも僕は、今、この星の萌芽となる熱意ある集団を失ってはならないと思うのです」


 彼が工場でのインタビューで受けた印象。アンビリア生まれの人々が持つ集団的無気力の性向。それに唯一抗しうるのが、この『連盟』だと感じている。

 いずれこの星で唯一本物の熱意を持ち続けるだろう集団。

 だからこそ、ジェレミーは、危険を冒してでも連盟の幹部と話をすべきだと思ったのだ。


 ジャックは、ジェレミーの正面に回りこみながら上からジェレミーの顔を覗き込んだ。

 彼らの強い決意は、どこまで進んでいるのだろう。つまり、もはや決行の日を待つのみなのか、まだ酒場の愚痴友達の集まりにすぎないのか。実は、自分一人が実に馬鹿馬鹿しい先走りをしているだけにすぎないのではないか、という考えが頭に浮かぶ。


「興味があるな、君が、我々を失ってはならないと考える理由が」


 しかしそのジャックの言葉はは質問の形をとっていなかった。

 ずっと立っていたジャックはそこで初めてソファに腰を落とした。


「私も、少し前までは君と同じことを言ったよ。この貴重な熱意ある集団を失ってはならない、とね。だが、その時期は終わるのだよ。君はそれがまだずっと先だと思っている。私はそうではないと思っている。それだけの違いなのだ」


 彼は両手を目の前で組んだ姿勢のまま、ジェレミーの両目を覗き込んだ。

 ジェレミーの沈黙を、ジャックはどうとらえただろうか。

 その答えはすぐに分かった。


「……君の考えは理解した。ビクターに連絡しておく。幹部会に出席したまえ」


 彼のその言葉に、ジェレミーは、ひとまず彼らと話す機会を得られたことに安堵し、丁寧に礼を述べて、彼の前を辞した。


***


「こちらが、ジェレミー・マーリン。どうしても意見を戦わせたい、ということで参加してもらった」


 ビクターは、ジェレミーをそばに立たせて、その小さな部屋で簡単に紹介した。

 この部屋は、廃坑の中に大量に運び込まれたコンテナの一つである。星間船の臨時貨客用客室モジュールと同じようにコンテナを改造しているため、マスクや防寒具なしでも快適に生活できるように作ってある。

 この惑星では、屋外のセキュリティはきわめて甘い。異なる国籍の居住区間でさえ、屋外を通れば気づかれずに行き来することさえできるのだという。


 その屋外の、もっとも早い時代に採鉱が行われ、その後、掘削困難な岩盤に行き当たって放棄されたこの廃坑こそが、系外惑星独立連盟の秘密の会合施設なのである。

 そして、ジェレミーの前に座る十二人が、その連盟におけるアンビリアの最高幹部たちであり、かつ、四惑星に広がる連盟全体の首脳でもあった。

 紹介を受けて、ジェレミーは面々に対して軽く頭を下げた。そして目を上げて、正面に視線を奪われる。


 中央にはやや日焼けしたように見える肌の色をした長躯痩身の男。それは間違いなく、先日面会した、ジャックと名乗った男であった。

 ジェレミーと事前の面識があったことなど全くそぶりに表さないところは、彼の対人コミュニケーションスキルの高さをうかがわせた。

 その右には肌が白くあごひげをたっぷりと蓄えた巨体の男、左には顔が細長く長い金髪を後ろで束ねていることが印象的な男。


「こんにちは、ミスター・マーリン。私が、議長のアキレス・コギアンテス。副議長のサミュエル・マクジョージと同じく副議長のマイク・バンディ。連盟にようこそ。歓迎する」


 中央に座っていたジャック改めアキレスは立ち上がって自己紹介し、向かって右と左の両副議長を順に紹介した。

 つまり、ジェレミーの面接官は連盟の最高権力者だったのだ。


「それで、ジェレミーと呼んでいいかな、ジェレミー、まずは座ってくれたまえ。よろしい。それで、君が、君だけしか持たない貴重なコネクションを使って編み上げた理屈の上では、確かに我々の独立の考えが正しい答えの一つだと確信している、とビクターから聞いたが、そうなのかね?」


 アキレス自身も座りながら、ジェレミーに発言を求めた。

 ジェレミーは促されて着席し、そして、再度、この面々の前で彼の考えを話すように求められていることを知る。


「はい。今現在の政府の規制は、ある意味で合理的であり、これに特例を求め続けるよりは、独立という手段をとることも一つの解であると考えています」


 ジェレミーは簡単に答え、続けて、


「しかし、独立にもいくつかの形があります。大きく分けるなら、粘り強い交渉による妥協の結果としての制度個々の独立か、軍事的な勝利による完全な独立か。僕は皆さんの志向が――」


 ジェレミーはぐるりと面々を見回した。彼らがどちらを志向しているのか、それはビクターやアキレスの話からほぼ明らかなのだが、あえて指摘し確かめなければならない。


「――皆さんの志向が、後者であると考えています。それは、大変な危険を伴い、きわめて困難であるとも」


 ジェレミーが最後まで言うと、


「そうだな、君の指摘するとおり、我々は、まさに軍事的な勝利を目指している。そして、それが困難だということも知っているよ」


 サミュエルと紹介されたひげ面の巨漢が口を開いた。巨躯にも関わらず高くみずみずしい声だった。


「あぁ、言い忘れたね、僕は、この連盟における、戦略・戦術面の立案を担当しているんだ。繰り返すが、我々が軍事的な勝利を収めることは、確かに困難だ」


 言いながら彼は顔の前に指を立てる。


「だが、問題は初期条件だよ。何もない平原に超大国である合衆国や、その他歴々の国々の連合軍を並べ、それに我々の『独立連盟軍』が相対して、これを戦術的に撃破できる可能性は、もちろんゼロだろう。一方、もし、連合軍が我々の本土に対して一列縦隊でしか通過できない回廊を設定できれば、相手の侵入を完全に防ぐ作戦は、可能なのだ。このアンビリアこそが、その回廊だ。回廊を集中的に防衛して時間を稼ぐうちに、我々の生産力はもっと上がっていくだろう。十年単位の戦いになるかもしれないが、いずれは拮抗し、境界を設定して休戦することも可能だ」


 おそらく何度も繰り返した話なのだろう、彼はすらすらと革命軍の戦略をそらんじた。

 ほかのメンバーは、おおむね、サミュエルの勇ましい論説にうなずいている。

 ある程度までなら、上手くいくかもしれない。


 そんな思いさえ、ジェレミーの中に湧いてくる。

 だが、合計しても百万に満たない人口の諸惑星の生産力で、十年を超える戦いを、戦い抜けるだろうか。

 歴史上、誰も成したことの無い星間防衛という作戦が、本当に机上論の通りに運ぶだろうか。


 不安要素を挙げればきりが無い。

 だが、ただ一点、彼らの決起を思いとどまらせたいと思う動機がある。

 血を吸う闘争を避けたい、という、たった一人の女性の想い。


 それだけでも、僕は彼らを説得すべき理由があるのだ、とジェレミーは思う。


「僕にもまだ具体的な希望は見えませんが……ただ、ご存じのとおり、コネクションはあります。どうでしょうか、あなた方が決起するまであと何年間かを、僕に預けてもらえませんか。決起する前に、僕が成したことを評価して、それから考えても遅くないと――」


「だが計画を止めるわけにはいかん!」


 テーブルの一端に座る名前を知らない男が叫ぶようにジェレミーの発言を遮った。

 アキレスは軽くうなずきながらも、左手を上げてその男を制した。そして口を開き、


「……彼の言うとおり、我々の計画は止められないんだ」


「失礼ながら、その……決起は、いつなんです」


 ジェレミーは、ついに核心の質問を口にした。彼らがどこまで計画を進めているのか。

 場合によっては彼の努力はすべて無駄になるのだ。

 そしてそこに巻き込まれる友人たち……一人の女性。


「それは、たとえ君であっても、知らせるわけにはいかない。実を言うと、このメンバーの中でさえ、知る者は半数しかいないのだよ。だが、残念ながら君の成果を待つほどの時間は無い、とだけ言わせていただきたい」


 ジェレミーはアキレスの言葉に考え込んだ。彼らの決起は、相当に近いということだ。

 これを止める。

 それはどのように説得できるだろう。


 どのような危険を指摘しても、必ず勝機を見出す反論を形作ることは可能だし、彼らの心情が『闘争と勝利』に大きく傾いている以上、これを論理的に破ることは難しいだろう。

 舌先三寸で彼らの計画を引き伸ばすことは、もはや難しい領域に差し掛かっている、とジェレミーは感じている。


「正直に言います。僕はあなた方を止めるためにここに来ました。しかし、それが不可能だとすれば……これ以上、僕にできることは無いかもしれないと考えています」


 何かできることは無いのか。

 そう考えながらの、ジェレミーの言葉だった。

 それは、ただ、彼らとの対話を一句でも多く交わすためだけの。


 会話の時間を延ばすことが、決起を遅らせる唯一の手段かもしれないと考えながら。


「早合点する必要は無い。君の成果を待てないとは言ったが、君の成果が我々の闘争に役立つ可能性を、私は考えているのだよ。私の感じた限り、君自身も、この惑星の革命が必要だと感じているし、計画の最後には、ある程度強行的な手段が必要だとも考えているはずだ。我々の力がいずれ必要だと言った君の言葉は、そういう意味だろう?」


 アキレスは、ジェレミーの深い意図を正しくくみ上げているように見えた。

 確かにジェレミーは、彼の指摘の通りに考えている。

 単に粘り強い交渉だけでなく、どこかで最後の一押しが必要になるだろう、と。


 戦争まで必要かは分からない。でも、熱意ある集団による大規模なキャンペーンが必要なのだ。


「……おっしゃるとおりです」


「であれば、君の『粘り強い交渉』は、我々の助けにもなるはずだ。何より我々は、いずれ政府や系外惑星開発機構への強いコネクションが必要になる。硬軟織り交ぜた交渉のためには、ね。それがあれば、流れる血は減らせるに違いない。君はこれまで通り、粘り強い交渉を続けてほしい。それは、我々に必要なコネクションを整えることになる。一方、我々は、君のビジネスに、必要なら手を貸せると思う。どうだね」


 ジェレミーは、このあたりが妥協のしどころかもしれない、と考える。おそらくアキレスは、血気盛んなメンバーの手前、精いっぱいの譲歩をジェレミーに示したのだろう。

 加えて、彼ら、どれほどの数かは分からないが、彼らのひそかな協力さえ得られる。

 おそらく、彼らの影響力を行使すれば、鉱工業の生産性に影響を及ぼせるだろう。


 ジェレミーのコンサルタントとしての成果をオコナー社に認めさせることは容易くなる。

 それはジェレミーの発言力を大きく増していく。

 アキレスは、そこまでの意味を込めて、ビジネスに手を貸す、という表現をしたのだと、ジェレミーは正しく理解した。


「……確かに、僕のビジネスにとっても悪くない関係かもしれません」


 ジェレミーはうなずいた。


「よろしい、では、すでに君は我々の同志だ。みんな、構わないね」


 アキレスの総括に、一同から一斉に、異議なし、と声が上がった。

 ジェレミーは、あの議長は僕を同志と宣言することで僕の退路を断ったのだな、と、ぼんやりと考える。

 貴重でもあり脅威でもあるコネクションを持つ男を、そのまま放つ危険を冒したくなかったのに違いない。


 そのような思惑に絡め取られている自覚はあったものの、彼らの中にあって影響を及ぼせる立場を得たことに、ジェレミーはひそかに満足する。

 まだもしかすると、悲惨な闘争を防ぐ猶予と手立てを得られるかもしれない、と。

 この『同志』という言葉は、そのよすがだ。


 十分な成果とは言えないかもしれない。

 だが、少なくとも、彼らには味方と認識された。

 やがて、秘書らしき女性がモジュールの外から飲み物とつまみを運び込んできた。ジェレミーの目の前にもグラスとそこに注がれたブランデーらしき琥珀色の液体が置かれた。


 グラスが全員に行き渡ると、アキレスの乾杯の声で、ジェレミーの参加を歓迎することを主目的とした宴が始まった。

 ジェレミーがグラスを斜めに持って揺れる液面を眺めながらぼんやりと何かを考えていると、よう同志、と言いながら彼の肩に腕を回すものがあった。ジェレミーは生半可な返事をしながら顔を上げる。


「俺たちはね、何も血なまぐさいことが好きで独立だ戦争だと叫んでいるわけじゃない。いいかい、今やアメリカ合衆国は世界を支配していると言ってもいいが、その昔は、小さな植民地の集まりだった。それが、一致団結して闘争し独立を勝ち取ったんだ」


 その男はすでに酒臭い息を吐きながら。


「単なる植民地だった貧しい国が、戦争で自由を勝ち取って、最後には覇権国家だ。彼らにはできたんだ。俺たちだってそれを夢見る権利はあるだろう」


「なるほどスコット、そうだな」


 と、副議長マイク・バンディが割り込んでくる。


「しかしね、今の、合衆国の覇権的立場を支えているものは何だと思う?」


「経済か、資源かね。系外惑星の開発地の大半は、合衆国国籍の企業が押さえている。資源の力による支配は強いだろうね」


「そうじゃない、もちろんそれも重要な要素だが、もし軍事国家が突然誕生して合衆国を叩きのめす、そんなことが起これば、合衆国は大変なダメージを受けて、覇権から転がり落ちてしまうだろう?」


「そんな国、現れっこないさ」


「なぜだね、ロシアや中国がそうならないという保証はないぞ」


 マイクの指摘に、スコットは黙り込んでなにやらぶつぶつとつぶやいた。


「答えは簡単さ。核兵器だよ。核兵器があるから、核兵器保有国同士はお互いの戦争を封じられ、合衆国が有利な経済競争に引きずり込まれる羽目になっているのさ」


 と、マイクは得意げに自説を披露した。


「要するに、核兵器という史上最大の暴力による支配システムなのさ、根本のところではね。しかし、星間距離をはさんでそのような支配システムを作り上げることができるか? 光年の距離をまたいで相手を瞬時に滅ぼすか、瞬時に相手の継戦能力を奪うような攻撃手段があるかどうか。たとえば核ミサイル。カノン投擲後再反転してのろのろとターゲットに向かって飛んでいる間に易々と迎撃されるだろう。核ミサイルじゃぁ、瞬時にお前を滅ぼせるぞ、と脅すことは不可能だ。つまり、地球と僕らの間には距離という最大の要塞がある。彼らの支配システムから我々はすでに逃れているのだよ。だから、ひとたび独立すれば我々は資源競争で彼らを圧倒できる」


 だが、ジェレミーは思う。

 本当にその要塞を打ち破る攻撃手段はありえないのだろうか。

 彼らがそのような攻撃手段を持てば、独立ははかない夢だ。


 逆に、今この瞬間に、系外惑星連盟がその攻撃手段を手にすれば、戦争など起こさずに瞬時に独立を勝ち取ることも可能だ。双方がその手段を持ったとしても、拮抗状態による独立は保障される。

 暴力革命を否定するためにこの場に来たジェレミーだが、あるいは、究極の暴力こそが暴力を封じる最良の手段かもしれない、と考える。

 その後もジェレミーを囲む輪は途切れることはなかったが、話題の中心にいながらも、その話題はすでに頭に入らなかった。


 ジェレミーの中では、彼らの考える独立戦争とは別の何かが、徐々に見え始めていた。



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