だわさとポッポさん
会議が終わった。大きなあくびをひとつ。
「さーて、帰りましょっかねぇ。」
外階段へ出ると、秋晴れの高い空、涼しい風が吹いている。
だわさは自分の長靴を探した。
長靴にズボンの裾を押し込んでいると、声がした。
「なんて心地よい風が吹いているんでしょうね。あなた、あそこに見える丘の上に行くとしたら、どうやって行くかしら。」
声の方を見ると階段の鉄の手すりに止まったポッポさんが、自分の羽の手入れをしている。
だわさは答えた。
「そりゃあ、このまま目の前の丘まで飛んでいけたらいいけれどさ、私があそこまで行くとしたら、この階段を降りて、丘の麓までてくてく歩いて、それから丘の土手を登って行くしかないだわさ。」
ポッポさんは羽の手入れを止めて、顔を上げた。
「あら、やっぱりねぇ。そこに着いてるやつじゃ、飛べないのね。私はここから羽を広げてスイと行けるのよ。あの丘まで簡単にね。だってここからだと目の前じゃないの、あの丘は。」
そう言ってポッポさんは片方の翼をバサッと広げて見せた。
だわさは4階から同じ高さに見える丘を見て、自分の両腕を広げて見た。
「これが羽なら行けるだわね。」
「根本的に違うのね。あんたのそれが、私だとこれなの。しかし何ね。私は丘へひとっとびできるけど、あんたのように荷物を持ったりできないの。」
だわさはポッポさんを見て、言った。
「しかし…ポッポさん、かご持ってるだわ。」
ポッポさんの持つかごの中には赤い実が入っている。
「そうね。」
ポッポさんはかごの中の赤い実をつついた。食べたのかと思ったがつついただけだった。
「この実はね、あの丘にある木から採ってきたの。それからこのかごはね、私のおばあさんからもらったのよ。そこへ行かずとも、こうして集めたのを持って帰ったら、みんなしてこの実が食べれるでしょう。」
ポッポさんはかごを鉄の手すりにそっと置いた。
「さて、そろそろ実をおばあさんに持って行かないと。」
そう言うとポッポさんはバサッと両方の翼を広げ、その場で何度か羽ばたいたかと思うと、手すりに置いたかごを両足で掴みふわりと風に乗って飛んで行った。
翼を広げて飛んでいく姿はまるで引力など存在しないかのようで、だわさは不思議だった。
ポッポさんが去った後、ひらりと羽が落ちた。
だわさは羽を拾い上げ、頭のてっぺんに刺してみた。
チクリとしたが、頭の上で風にふわふわなびく感じが良さげであった。
「よし。」
だわさは元気よく階段を降りた。