椿の花
花はいずれ散る。だからこそ、強く生きる。
一人の少女がいました。
彼女は、特にこれといって特別良いところはなく、平凡な中学生でした。
ただ…彼女には両親がいませんでした。
幼い頃に、妹たちと一緒に雨の日の孤児院の前に、捨てられたからです。
だけど、今の友人に出会うきっかけにはなりました。
彼女は走ることが好きでした。
陸上部のレギュラーを務めるぐらいでした。
彼女はいじめられっ子でした。
小学三年生になった日、転校生としてきた男子に、突然。
彼女はとても泣き虫で、馬鹿と言って良いほどのお人好しでした。
最初は、周りのせいと考えましたが、成長していくに連れて自分を責めて行きました。
彼女は、心を閉ざしかけ始めました。
友人にも、冷たく接し始めました。
そんな自分が大嫌いになってきました。
そんなときに、彼女はあることに徐々に気付き始めました。
──息苦しい…昔より走れない…もしかして…病気…?
日に日に彼女の中で、疑いは確信に変わっていきました。
死への恐怖が…日に日に高まっていきました。
けれど彼女は、誰にも話しませんでした。
彼女なりの思いやりでした。
──せめて……最後に……
彼女は、手紙を書き始めました。
友人達、そして学校に…
数日後、彼女は眠りにつきました。
友人にも、学校にも、そのことが知らされました。
後日、彼女の通っていた学校にて緊急集会が開かれた。
そこで、彼女の遺した手紙が読まれた。
ところどころ、消した跡がありました。
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私は、病気でした。
病院に行けば、助かるかもしれません。
けれど、私は、このまま死のうかと考えました。
理由は、いえ、なんでもありません。
それでは。
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友人たちは、その内容に驚きました。
何故かって…彼女から送られた手紙と、全く違うからです。
内容も、分量も…
友人宛てに送られたものには、文字が震えていたり、涙の痕らしきものが見えました。
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この手紙を読んでいる頃には、私はこの世にはもういないでしょう。
こんなことになって、ごめんなさい。
でも私にはもう、生きる希望がないの。
私ね、知っちゃったの。私の病気がどういうものか。
たとえ治ったってね、もう走れないの。永遠に。
だって、手術したら、足はなくなっちゃうのよ?
私の好きなこと、何か知ってるよね。
ごめんね。勝手にこんな...こんな...
あなた達に、たくさんひどいことしちゃったよね。
ゆるしてくれるなんて、思ってない。
けどね、せめて、これだけは言わせて。これだけは覚えていて。
「私の分まで生きて。私がいなくても、あなたたちなら大丈夫。
だって、〝私は生きてる、あなた達の記憶の中で〟」
...なんてね、それじゃあね。
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友人達は、手紙を読み終えて、泣きました。
何度も何度も、泣きました。
「馬鹿じゃないの…!!」
「…ひどいよ…」
「…何故…私達に相談してくれなかったのです…?」
「…」
「…お姉ちゃん…」
『──ごめんね…実樹、撫子、泉美、燈炉、灯香里…
こんな私を……愛してくれてありがとう…
私の分まで…生きて……』
椿の花は、酷い散り方をする。
しかし、自身の存在を残している。
それはまるで…