雪女
好きな相手ができた。
けれど、自分は相手と違う。絶望的な壁がある。
だから、すがるように、約束を託す。
違う存在としての私を、誰にも教えないで。せめてあなたは、私を遠いものだと言わないで。
好きな相手と共にありたいという、ささやかで、だからこそ渇いてやまない願い。
それを叶え過ごす、満たされ、溺れる、かけがえのない時間。
相手との間にそびえているはずの壁は、かつて相手に託した約束と共に心の底に押し込めた。抱えた不安は見ないふり。一緒にいたかったから。
しかしあるとき、約束は破られてしまった。
再び、自分は相手と違うものとしてしか居られなくなってしまった。
約束を違えたからと、殺めることなどできはしない。そうであればそもそも相手の元へなど来なかった。
ただ悲しかった。
相手を案じて。
相手との間の子を案じて。
自分を融かす温かな夢を惜しんで。
ずっと。好きだ。好き「だった」などと忘れ去ることはできない。
呼んでほしい。
触れてほしい。
それでも、自分は違うのだ。
こぼれたものは、吹雪に消えた。
雪女が来るのは、きっと監視なんかではなくて――ただ好きだから。