喉を焼く酒
ウィスキィとアマレットが軽く喉を焼く。
久々の大好きなゴッドファーザーは私を、あやしてくれなかった。
「唯、好きだったのに。
どうして、裏切られるの。」
カラン、と鳴るキューブアイス。
暗い照明の下、呆れた友人の小枝が、酒臭い溜め息を吐く。
真っ黒な丸いカットのボブに軽く手を遣り、赤い口紅の剥げた唇を緩慢に動かす。
「芙蓉、いい加減にしないよ。」
「何よ、飲んで、忘れろって言ったじゃない、嘘つき。」
「愚痴なら聞いてあげるわ、でも同じ事言うのやめなさい。
いい、男なんざ所詮ヤルしか考えてないの。
それは生物学上仕様のない事なのよ。
より多くの雌と交尾して、より多くの子孫を残そうとする。
わかるわね?」
「じゃあ、女は雌は雄の生殖を満たすためなら子宮があれば、なんだっていいの?
毎月女は命の半分を殺す作業に苦しんで、血を流すのに。男は無駄に腰振って命の半分殺してんのに気持いいのよ。
オーガズムとか感じちゃうのよ。
なんで、女ばっかりこんな苦しいの。
不公平よ、憐れよ、惨めだわ!!」
小枝はギムレットのオリィブを串から咬みきった。
ゆっくり咀嚼した後で、ゆっくり唇を開いた。
「いい?だから動物は、雌の方が強いじゃない。
交尾をしたいかしたくないかは雌に決定権がある。
それが当然なのよ。雌が産む苦しみを負うのは、へにゃちんの遺伝子を残すためじゃないのよ。
より強い雄の遺伝子からより良い個体を残すためでしょう?
だから人間だって昔は女が強かったのよ。
言うでしょう、太古女は太陽だったって。
考えてみなさいよ。
男って生き物を。」
あたしはまた出てきた涙を乱暴に拭いたいけど
マスカラやらアイラインが崩れるの嫌で丁寧にハンカチィフで抑えた。
「穴があればいいのよ」
あら、鼻水まで垂れてきそうだけど我慢して、男について吐き捨ててみる。
「常に自分に対する賛辞を要求するし、
そう聞くバカ男のテクなんざ評価するまでもないのよ」
「そう。つまり奴らは憐れなのよ。
雌に認めて貰って尊厳を保とうとしてる。
だからあんたがたかだか男一人でメソメソするなんて、勿体無いじゃない。
たかだか男一人よ?
所詮偉そうにしてみたところで人工比率から言えば男は余るのよ。
そんな糞みたいな男を思うより、もっといい男を探しなさいよ」
「でもね小枝。
男といい男の比率だとね、
いい男って凄く少ないと思うの。
その希少ないい男はいい女が取って行くのよ」
小枝は肩を震わせながら笑って、
「そりゃそうだ。
でも、あんたはいい女よ」
猫みたいなアーモンドアイを優しく緩ませて小枝が言う。
暖かい、柔らかい手で頭を撫でて貰ったら
胸の中で固まっていたぐつぐつしたものが少し溶けた気がした。
「ちょっと男を見る目がないけど、いい女だわ。」
小枝は男がみたら膝まつきたくなるような
極上のアカシアの蜂蜜の笑顔で笑って、囁いた。
「次はいい男に惚れなさい。」
思わず、はい女王様なんて言いたくなったのは内緒だ。