トロトロに熱い手
姉は破壊的に男運が悪い。
友達の彼を好きになったあげく、付き合う事になったがいいがその男は裏で有名なタラシ。
四股してたとかしてないとか。
まぁ結局2ヶ月で別れた。
だから止めとけって言ったのに。
「尋も携帯変えよ?」
泣き腫らした目は必死に冷やして化粧でいつものように笑う姉は、とても間抜けで可愛い。
「別にいいけど」
どうせ変えるつもりだったから了承する。
「尋はどれがいい?」
繋いだ手がじんわり暖かい。
「これは?
イロチでオソロにしよ?」
「ハイハイ」
姉はオソロが大好きだ。
大学生にもなって兄弟でオソロもないとは思うが、それで蓉が喜ぶならばそれでかまわない。
俺は唯誰よりも蓉に幸せになって欲しいだけなのだから。
結局俺達はお揃いの携帯を購入した。
蓉が水色で俺が黒。
「尋は彼女と上手くいってる?」
タリーズで休憩をしていると蓉がふと尋ねてきた。
「別れたっていったじゃん」
「あれからいないの?」
「あれからって別れてまだ一ヶ月だよ?」
「ふーん。尋、実はもてるからすぐに新しい彼女がいると思ってた。」
けたけた笑いながら、鞄のタバコに手を延ばす。
蓉はいつもソブラニーのピンクを吸う。
「久々に蓉が煙草吸うの見るな」
「…しばらく禁煙してたんだもん」
あいつが煙草嫌いだから、とは言わない。
「吸いすぎんなよ」
蓉は薄く笑った。
彼女はヘヴィに吸う。
情緒不安定な時は最低で一日4箱吸っていた。
蓉曰く、泣きたくなると煙草を吸いたくなるらしい。
泣きそうなら、いつだって傍にいるのに。
俺は自分で宣言するのもなんだがシスコンだ。
蓉を大事に思うし、大切にしたいし、可愛いと思う。
親とか友達といるより蓉といるのが好きだ。
たぶんそれは双子だから。
なんといえば、少しでも理解してもらえるだろうか。
同じ人間だから、というのが一番近い気がする。
蓉が痛ければ、俺も痛い。
蓉が幸せになれれば、俺も幸せになれる。
だから俺は、蓉を愛してやまない。
「ねぇ、尋、あれ、美和子?」
やけにぶつぶつ、きりながら蓉が指差した先にはショートカットの女が立っていた。
そして、その隣には、あいつが。
「見んな。」
「……気づいちゃうんだもん。」
泣きそうな顔で俯いて、煙草を大きくすう。
「大丈夫、もう泣かないから。」
嘘付けよ、泣きそうなのに。
思わず手の平で蓉の視線を塞ぐ。
「…尋の手凄く熱い」
「血行がいいんだよ」
「手が冷たい人は心が暖かいとかなんて嘘よね。
尋の手は溶岩みたいにトロトロ熱くて、馬鹿みたいに優しいんだもん」
「蓉、俺は蓉以外に優しくないから半分はその迷信あってるかもよ?」
蓉が微かに笑った。
それはため息のように、息だけで微かに笑ったのだが。
俺はこの馬鹿で間抜けで破壊的に男運のない姉がどうしようもなく愛しい。