本当に事故なんです!第四王子の顎を風魔法で殴っただけなんです!
本当に不可抗力なんだけど、なぜか第四王子殿下の顎を殴ってしまった。
信じて、本当にわざとじゃないの!!
孤児院で育った私は魔法の才能を認められて、魔法塔という訓練機関で鍛えてもらっている最中なんだ。
魔法塔で制御訓練を終えて、卒業資格をもらうと就職率はなんと99.9%!
各地に魔法で動かす機械がたくさんあるから、それの点検や魔力補充などの仕事が山ほどある。
新たな魔法機械をつくるというもっとエリートの仕事もあるし、たまにお偉いさんの護衛魔法師に引き抜かれる人もいるし、とにかく魔法師はどこでも引っ張りだこ。
99.9といっても、実質100%だ。
時々貴族のお嬢様で魔法の素質を見出されて訓練は受けるけど、卒業しても嫁いで行って就職しないパターンが時々あるくらいで、ほとんどはどこかの魔法師になる。
そんなわけで、私も地方の整備魔法師あたりになれたら御の字だな〜なんて思いながら、日々訓練を頑張っている。
魔法塔は、寮あり無料食堂ありなので、私たちみたいな孤児にも相当ありがたい。
今日はお休みだったから、育ててもらった孤児院に幼馴染たちと顔を出しに来ていた。
幼馴染であり、同じ孤児院育ちのドルクとケインも、同じ魔法塔の訓練生だ。
私たち3人は歳も近いし、子どもの頃から一緒に遊んだり、生活を助け合ってきた。
だって3人して当たり前みたいに魔法が使えるから、それで競い合ったり、ちびっこたちの面倒を見るのが私たちからすると普通だったんだよね。
孤児院の真裏に、ひろーい原っぱがあって、そこでよく誰が一番高く水の魔法をあげられるかとか、しょっちゅう競争していた。
魔法の素質ありがたまたま3人揃っていただけで、それってだいぶ異常なことだったらしい。
私たちの噂を聞いてスカウトしにきた塔の大人が、あんぐりしてビビっていたのをよく覚えてるし、「……なんだこの孤児院、怖ぇ」って言っていたもの。
最初は馬鹿にされたのかとドルクとムスッとしていたんだけど、実際魔法塔に連れて行かれたら意味がわかった。
私たちのやっていたことって、訓練内容にも組み込まれていることだった。
自分たちで教わる前にできていたっていうね、私たち天才じゃない?
ま、言い始めたのはケインだから、ケインがすごいんだけどね。
ケインは穏やかだし頭もいいし、私やドルクみたいな短気じゃないからね、スカウトマンの発言も全然怒ってなかったよ。
そんなわけで、3人揃って帰省中なのだ。
「ねえねえ、ミカリ姉ちゃん!魔法やって!風でビューーッてなるやつ!」
「ドルクももっとできるようになったんだろ!見せろよー!」
「ケイン兄ちゃん、お風呂の魔法やって〜!」
早速、ちびっこたちに囲まれている。
「なーに、強風に煽られたいの?」
「魔法はお前たちの遊び道具じゃねーの。あと、俺だけなんで呼び捨てなんだよ、こらガキども!」
「ん〜、水と風と熱の魔法だからなぁ。外の原っぱに行こうか」
それぞれ引っ張られて、結局原っぱに出てきた。
「じゃあ、ドルクは僕と手分けして汚れを落とす魔法ね」
「はあ、めんどくせえなぁ…」
「ミカリは最後の仕上げね」
「思いっきり乾かせばいいのね!」
「加減するんだよ?ただでさえ、ミカリは威力が強いんだから」
「馬鹿力だからな」
「ドルクうるさい」
いつも通りぎゃあぎゃあ言い合いながら、ドルクとケインは子どもたちの服ごと霧状の水をかけた。
冷たくならないように熱魔法を混ぜるのが繊細な作業で、私は正直苦手…。
「はい、みんな自分で頭ゴシゴシしたり、服の汚れも摘み洗いしてね〜」
ケインの掛け声に、子どもたちはきゃっきゃしながら楽しそうに動き出す。
温かいシャワーのようなものだけど、孤児院どころか庶民の家にそんなものない。
まだまだ一般家庭普及する魔法機械は少ない。
だから、魔法塔にはシャワーどころか浴槽まであって、はじめて見た時はびっくりした。
これは似たようなものを再現したら、孤児院の子どももお風呂に入れられるじゃん!と3人で簡易的にした魔法だ。
まあ、ほとんどケインが魔法を組んだんだけど。
「そろそろいいかな。ミカリ〜、風ちょうだーい」
ケインの声に、私は少し離れたところから強風をぶっ放した。
私がやるとどうも大きくなってしまうから、物理的に離れるのが楽ちん。
さっきリクエストされた通り、ビュービューの風を送った。
「ぎゃははっ!さむーい!」
「ミカリ姉ちゃんすげえ!」
「おい、ミカリ!温風にしろよ、風邪引くだろが」
「ドルクがそっちでうまいことやってよ〜!」
「調整が下手くそなんだから、こういう時にも練習しろや」
「はあ!?一気に乾かさないと、服がびちょびちょで気持ち悪いじゃん!」
「ミカリ、ドルク、喧嘩しないの〜」
結局、ドルクとケインが補助してくれた。
私はそれがなんだかんだ嬉しかったりする。
こうやって3人一緒は、卒業までの大事なことだったりしてね。
「ミカリ姉ちゃん、もっと大きいのもできる!?」
「できるよー!どれだけでも大きくするのは得意だからね!それだけは魔法塔でも褒められるもん」
「それだけな」
「ミカリは思い切りがいいから」
「やって!やって!」
「ええ〜、しょうがないなあ」
やってと言われたら応えたいし、最近の訓練は魔法の調整ばかりだから久しぶりに思いっきり魔法を使いたい!
「はいはーい、離れてね〜!」
子どもたちとかなりの距離をあけて、私は勢いよく風魔法を横一直線に飛ばした。
だけど、あまりの威力の強さにドルクとケインがすぐに慌てた。
「馬鹿!お前っ!」
「ドルク!防護壁!」
「ぎゃああごめん!止めてええ!!」
私の放った風が、ケインの防護壁を弾いて角度を変えて、さらにドルクの防護壁で勢いが弱まり庭の入り口の方へと向きを変えた。
そのまま霧散してくれたらよかったのだが、その先にたまたま人が現れて、なんということだろうか…、その人の顎に見事に当たった。
風なのに、コツーンという音がした気がした。
その人がよろめいて、後ろにいた人に抱き留められているのが、こんなに遠くなのによく見えた。
私、視力2.0なんだよね…。
「あっ」
「やば」
「げえっ!?」
私たちは離れたところから顔を見合わせて、急いでその人のところへ向かった。
孤児院の人間ではないし、外部の人かな。
あああっ、外部と揉め事なんて、孤児院にとって最悪すぎる…!
「すみませんでした!」
「この馬鹿、申し訳ありません」
「お怪我はありませんでしたか?」
3人で次々と謝ったけれど、顎に風をぶつけられた人はにこやかに笑っていた。
後ろに控えているガタイのいい男たちの方が怒っているような…?
「君たちは魔法師かな?」
穏やかな声がして、私たちは首を振った。
「魔法塔の訓練生です」
「ああ、では君たちが噂の孤児院3人組だね」
そう言って、綺麗な男の人はにっこり笑った。
私たち、噂されるような何かをしたっけ?
目配せしてもドルクもケインも心当たりがなさそう。
頭も切れるケインも知らないなら、どうやら私たちの知らないところで何か噂になっているらしい。
「この孤児院から3人もいっぺんに訓練生になった者が出たと報告をもらっていてね、他にも魔法の使える子がいるかもしれないと見学させてもらっていたんだよ」
「そうだったんですか」
そう返事したけど、なぜかケインは顔を青くした。
どうしたんだろう?
「報告ということは、あなたは…」
ケインの声が珍しくわなわなと震えていて、私もたぶんドルクも嫌な予感がした。
「ああ、挨拶がまだだったね。私は魔法師統括官補佐兼第四王子のメイドリーだ。よろしくね、未来の魔法師たち」
えっ…、と私たちは固まった。
統括官補佐の兼任の後ろについた方のが、まずくないか…?
ドルクがガバッとこちらを見て、ケインの悲しそうな視線が飛んできた。
そんな目で見られなくても、やばいってわかってるよ…!!!!
第四王子の顎を風で殴っちゃった……。
あ、魔法塔除名かも。
「ほっんとうにすみませんでしたあああ!!!」
その場で地面に頭を擦り付けたけれど、これじゃ足りないかもしれない。
ああ、私のせいで孤児院が吹っ飛んだらどうしよう。
「あれ?どうしたの」
王子の声がして、ほら顔を上げてと微笑まれた。
「だって、今、風で…」
「ああ!大丈夫だよ、咎めたりしないから」
「えっ」
「突然出てきた私も悪いし、攻撃の意図があったわけでもない。護衛も対応できなかったし、君だけのせいじゃないから。痛くもなかったし、気にしないで」
この人、慈悲の塊ではなかろうか。
とにかく私の首の皮一枚繋がったことがわかった、ありがとうございます!
「ところで、君の魔法の威力はいつもあんな感じなの?」
「い、いえっ!訓練ではもっと抑えるように勉強しています!」
「他の2人は防護壁が使えるみたいだけど、君も使える?」
「はい!使えますっ!」
子どもの頃に、ドルクとケインと魔法を競い合っているうちに防護壁もできるようになった。
お互い容赦なく魔法を浴びせていたから、防御もできないと危なくて自然と3人とも身についた。
「君たち2人も彼女くらい、勢いよく魔法を使えるの?」
「ミカリほどではないですが」
「ここで際限なく魔法を使ってきたので、ある程度は」
ドルクとケインがそう答えると、王子はなぜか満足そうに笑った。
「それはさぞかし魔法塔の訓練が大変だね」
王子は私の手を取って立ち上がらせると、私たち3人に言った。
「君たちに、騎士訓練の相手役をお願いしよう」
はい…?
そんな仕事、魔法師にあったっけ?
「今見たと思うけど、騎士は魔法耐性が弱くてね、課題のひとつなんだよ。だから直接戦わせるのがいいなと思案していたのだが、君たちが適任のようだ」
え、戦えってことですか、怖。
「魔法塔にはこちらから申請を出しておくよ。君たちは各地の整備に回すより、そっちの方がずっとよさそうだ」
王子は1人嬉しそうに話を進めて、ではまたねと帰って行った。
私たちは何が何やらで顔を見合わせるしかなかったし、ドルクにはめちゃくちゃ怒られたけど、魔法塔に帰っても本当にお咎めなしだった。
その代わり、後日近衛騎士の訓練に3人で呼ばれた。
「手加減なしで魔法を使っていいから、よろしくね」
と、特別訓練の見守り人として第四王子は笑っていた。
魔法が使えない相手に攻撃するのは基本的には禁止なのに、解禁されて、私たちは昔原っぱで遊んでいたように魔法を使いまくった。
3人が互いに競えば1人で受け止めるのがいつもの遊びだったけれど、3人で力を合わせて1つに向かっていくのは思いの外、快感だった。
「なんだこれ、楽しい〜!」
「ほれ、ミカリ!さっさとフォロー回れよ!」
「2人とも、防護壁甘いよ。怪我しても知らないからね」
たくさん暴れ回って、無遠慮に魔法を使って、第四王子に大変褒められることとなった。
魔法塔では新たな就職先として、魔法騎士のような仕事が検討され始めたらしい。
ま、整備よりは遥かに向いているから、そんな仕事に就けたら楽しそうでいいなあ!
ていうか、騎士の皆さんは魔法が使えないのに、なんで炎とか風とかを剣で切って、応戦出来るわけ!?
面白すぎるんだけど!
さっそく私は、ドルクとケインと騎士対応魔法の作戦会議を始めるのだった。
了
お読みくださりありがとうございます! 毎日投稿133日目。
(追記)誤字報告ありがとうございました!修正いたしました!(2026.5.15)(2026.5.18)(2026.5.26)




