表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
導きの王  作者: 能ある鷹
PR
2/2

第一章:導きの出会い

薄曇りの空から、細かな雨がぱらついていた。

石畳を駆け抜ける少女の声が、朝の街に響く。

「ジーン! 急いで急いで! 朝の依頼なくなっちゃう!」

「走る意味はない。依頼書は逃げん」

黒い獣が、呆れたようにため息を吐いた。

狼にも狐にも見える不思議な獣だった。夜色の毛並みに、金色の瞳。小柄な体つきのくせに、妙に偉そうである。

その隣を走る少女ハナは、振り返って頬を膨らませた。

「そういう問題じゃないの! 今日は高報酬依頼の日なんだから!」

「どうせお前の食費で全部消える」

「うっ……」

図星だった。

ハナは露骨に目を逸らす。

その様子に、ジンは鼻を鳴らした。

「そんなに好きなら、報酬を直接食料にしてもらえばいい」

「ジンって時々ひどいよね!?人でなし!」

「人じゃないからな」

「もう!」

ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、二人は巨大な建物の前へ辿り着いた。

白亜の外壁に、青金の紋章。

五つの世界を繋ぐ中立ギルド、《導きの庭》。

先導者アイリスによって治められているギルドだ。

扉を開いた瞬間、酒と紙と鉄の匂いが流れてきた。

朝だというのに、中は既に冒険者たちで賑わっている。

「ハナちゃんおはよー!」

「今日は依頼失敗すんなよ!」

「うるさい!」

「威張るな」

いつものように軽口を返しながら、ハナは掲示板へ飛びついた。

その時だった。

「きゃっ!?」

小さな悲鳴。

次の瞬間、人混みを突っ切るように一人の少女が飛び出してきた。

肩辺りで切りそろえられた銀髪に、動きやすそうな軽装。服装自体はよくある旅装束だが、どこか仕立てが良い。

その後ろから、鎧姿の男と黒髪の青年が追いかけてくる。

「リリ様!待ってください!」

「だから急に止まらないでって言ったのに!」

盛大に揉み合いながら走ってきた三人組は、綺麗にハナへ突っ込んだ。

「いったぁぁぁ!?」

「うわぁぁごめんなさいっ!!」

床に転がるハナの上で、銀髪の少女リリが青ざめる。

ジンは少し離れた場所で、冷めた目をしていた。

「朝から騒がしい連中だな」

鎧姿の男ジャンが疲れ切った顔でため息をついた。

黒髪の青年、アキも静かに頭を下げる。

「申し訳ありません。こちらの不注意で……」

「全然だいじょーぶ!」

ハナはぴょこんと立ち上がると、ぱんぱんと服を払った。

「それより君たち新人?見ない顔だよね!」

「あ、うん!今日ここに来たばっかりなのよ!」

リリはぱっと笑った。

その拍子に、胸元で小さな首飾りが揺れる。

深い青色の宝石が埋め込まれた、繊細な銀細工の首飾り。

旅装束には不釣り合いなほど高価そうだった。

「あっ」

リリは慌てて首元を隠す。

それを見て、ジャンが頭を抱えた。

「……リリ様」

「し、しょうがないでしょ!」

アキが静かにため息を吐く。

「リリ様はすぐ気が緩みますから」

「うるさいわよ、アキ」

「?」

ハナは首を傾げた。

「その首飾り、綺麗だね!」

「え?」

「青空みたい!」

リリは一瞬警戒したような顔をして、すぐに作り笑いをした。

「…ありがと」

ジンだけが、じっと首飾りを見ていた。

「この子はジン! 頭いいんだよ!」

ハナがひょいっと抱き上げる。

ジンは嫌そうな顔をしたが、抵抗はしなかった。

「バカそうな三人組だがお前よりは賢そうだな、ハナ。」

「うわまた言った!この嫌味犬!」

リリが思わず吹き出す。

「ふふっ、変なの」

「変って言った!?」

「事実だろう」

「ジン!!」

騒がしい。

なのに不思議と嫌ではない。

そんな空気が、その場に広がっていた。

その時、不意に鐘の音が響いた。

ギルド中央の階段から、一人の女性が姿を現す。

長い白銀の髪。

慈愛を宿した紫水晶の瞳。

見る者全てを安心させるような微笑み。

先導者アイリス。

ギルド内の空気が一瞬で静まる。

「おはようございます、皆さん」

柔らかな声。

それだけで空気が和らぐ。

アイリスの視線がハナへ向く。

「ハナ、今日も元気ですね」

「アイリス様ー!こんな時間に珍しいですね!!」

ハナは嬉しそうに手を振った。

その顔を見て、アイリスは優しく微笑む。

まるで、本当の母親のように。

「……あら?」

アイリスの目が、リリ達へ向いた。

「見ない顔ですね」

三人の空気が、僅かに固まる。

だがアイリスは何も追及せず、穏やかに微笑んだ。

「《導きの庭》へようこそ。ここは、過去も身分も問わない場所です」

リリが目を見開く。

「居場所を求めるなら、歓迎しますよ」

その言葉に、三人は顔を見合わせた。

ジャンが静かに息を吐く。

アキが小さく頷く。

そしてリリは。

「……じゃあ!」

ぱっと笑った。

「わたしたち、ここに入ります!」

ハナの目が輝く。

「ほんと!? じゃあ一緒に依頼行こうよ!」

「行く行く!」

「まずは登録手続きをしてください」

「細かいわよ!ジャン!」

「細かくありません」

「普通です」

「アキもうるさい!」

ギルド中に笑い声が広がる。

「じゃあ改めて!」

ハナが勢いよく手を差し出した。

「今日からよろしくね、リリ!」

リリも満面の笑みでその手を握る。

「うん!よろしく、ハナ!」

「ジャンです」

「アキです。以後お見知りおきを」

「こちらこそー!」

騒がしい笑い声が、朝のギルドに響く。

その中心で、アイリスは静かに微笑んでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ