第9話 ようやくヒロインっぽいのが出てきた件について
「た、助けてムン君……お願いだよ、助けてよぉ……」
そこには腐るほど見飽きた少女がいた。手を伸ばす。だけど、どう足掻いても届くことはない。どれだけ必死に足を動かしても、彼女との距離は全くもって縮まらない。どれだけ走っても、エスカレーターを逆走するかのように同じ場所に居続けるような滑稽な光景が作り続けられるだけだった。
「やめろ……やめてくれっ!!」
何故だか分からないが堪えようのない不安が胸を駆け巡る。その不安が間違いではなかったとすぐ理解った。不安が肥大するほど彼女の体が黒い靄に覆われていくのだ。
なんだあの靄。あれは嫌だ。とても、とても見たことがあるようなものでとても嫌な予感がする。
次第に靄は形作不死者に成り果てた。不死者は大きく口を開く。それはまるで地獄の門のようにしか思えなかった。
「きゃあああああああああああ!!!!!!!」
そして彼女の頚は無慈悲にもゾンビに噛みつかれてしまった。
◆
「夢か……」
目を覚ますと全身が汗でぐっしょりと濡れていた。今更になってこんな何故、幼馴染の夢を見たのか。
あの後、オタクに優しいビッチギャルを屠った後に僕は一度自宅の帰ることにした。自宅への帰路はあまり覚えていない。レベルアップもしたがいつもとは違い途方もない虚無感を覚えて、ふらふらと歩いていた記憶しかなかった。
家に着くと僕はそのまま自室のベッドに倒れ込んだようだ。
「なんかやってるかな」
気晴らしにテレビをつけるとやはり真っ黒だった。まぁ、そりゃ世界でゾンビが溢れているのだ。ろくにテレビが放送されるわけもない。
『マジカール★リビングデッーーード!!!』
「え、何これ」
適当にチャンネルを回すといきなり音声が飛び出した。液晶画面にはゴスロリ服に包まれた少女のアニメーション。いわゆる魔法少女というやつだ。日曜の朝九時に放送されている幼女先輩御用達の番組だが、その秀逸なキャラデザや軽快そうに見えて血を血で洗うような重厚なストーリーが評判で大きい友達にも大人気だったりする。かく言う僕も毎週嗜んでいるほどさ。
しばらくチャンネルをそのままにしたが延々と同じアニメ番組が延々と垂れ流されているだけだった。どこぞの馬鹿が放送局でも乗っ取ったんだろうか。とりあえず本日も世界は滅茶苦茶なようです。
◆
「ははっ……幼馴染ものばっかりじゃんか」
幼女御用達アニメにも見飽きて、自室のライトノベルや漫画、口にはとても出せないそれを眺めていると自然と口から零れた。
ライトノベル類もそうだが、特に男の聖遺物は幼馴染ものばっかりだった。僕は引きこもって以来、関係ないと自分に言い聞かせ続けていた。結局のところ目を逸らしいていたが、幼馴染に未練タラタラだったのだ。
「今更気づくなんて遅すぎるよなぁ……」
思い返せば幼馴染とはあまりいい思い出がない。
昔はそうでもなかった。中学に上がるまでなんて常に一緒にいたし、漠然とずっと一緒にいると思う。それが崩れた契機は幼馴染がヤンキーみたいなのと付き合い始めたからだ。そしてそれが僕の不登校の理由。自分でも呆れ果てるぐらい情けない理由だが、当時はそれぐらいにショックだった。
しかし、彼女は僕が引きこもった後も何度も訪ねに来た。当時の僕は荒んでいて、声を大きく帰れと叫んだ事をよく覚えている。
今思うと何故あの時、彼女の手を取らなかったのか。もし取っていたらどうなっていただろうか。まぁ、こんな世界になった後に言ったところで後の祭りでしかないが。
「今更遅いのはもう分かってる。だけど……」
脳裏に浮かぶのは名前も知らない彼女の最期だ。自分が死ぬと知っていながら、眩しいぐらい綺麗な微笑を浮かべる彼女。そんな微笑を浮かべる彼女がヤツ等に食い尽くされてしまうのだ。
「アイツがあんな風に死ぬのは御免だ」
まずは自分の生活確保が最優先だ。そこは譲れないし、譲るつもりはない。しばらくは保存食等でもってはいるが、いずれは自給自足も考えないといけないだろう。
そして、その傍らに幼馴染を探そう。
別にもう僕と幼馴染の間に何かあるわけではないし、何の得もないのだろう。
でも後悔はしたくない。
「うん。幼馴染に、陽乃に会いに行こう」
そう強く決めた。
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