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最終到達地点 ~ギルド会館の管理人〜  作者: ヨシムラ


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第4話 剣豪の親父②

店内の一番奥、他の客席よりも一段低く設えられたボックス席。そこに、背丈は190cm近くあるだろうか、ラクビー選手を思わせる屈強な体格の男が、まるで玉座に腰掛けるかのように深く沈み込んでいた。広い肩幅に分厚い胸板。腕を組むだけで周囲を威圧するその姿は、この店そのものを支配している象徴であるかのようだ。

年齢は29歳。人身売買や臓器の闇取引を主軸とする半グレ集団の幹部。その左右には、目つきの悪い手下の半グレが2人控え、店員たちもまた、さりげなく視線を巡らせながら空気を読んでいる。

店内に漂う緊張感は、じわりと湿った重さを伴い、確実にこの男を中心に張り詰めていた。とはいうものの、その均衡は、すでに静かに崩れ始めている。


その緊張の中心に、いつの間にか“異物”が立っていたからだ。

突然現れた少女。身長は170cmほどで、八十郎とさほど変わらない。細身の体を包むのは、安価で飾り気のないスウェット上下。アクセサリーの類もなく、髪型も整えすぎていない。夜の繁華街、しかもこんな店にはまるで似つかわしくない、真面目そうな印象の美少女だった。

だが――その瞳だけが、決定的に違っている。

底知れぬ冷たさ。人を人とも思わぬ、澄み切った闇が、静かに宿っていたのだ。


彼女の名は六惺。

趣味は外道をいたぶり殺すこと。

生粋の悪でありながら、確かな心を持つ純血の魔女である。


突出した空間把握能力を持つ八十郎は、半径10m圏内に存在するものの動き、その呼吸や体重移動のわずかな変化までも、常に把握している。人混みの中であろうと、暗闇であろうと、それが揺らぐことはなかった。

――しかし今、その常識が崩れた。

目の前に立つ少女の存在を、完全に見逃していたのだ。

ぞくり、と背筋を冷たいものが這い上がる。これほど近くまで接近され、気配すら感じ取れなかった記憶は、これまで一度もなかった。


〈この女……敵性存在だ〉

〈疑いようがない〉


思考が一気に研ぎ澄まされる。頭の中が澄み渡り、視界が冴えわたる。室内を漂う埃が、ふわり、ふわりと舞う軌道さえ、まるでスローモーションのように目に入ってくる。

全神経が戦闘モードへと切り替わっていく。警戒指数は第一級戦闘レベル。

周囲の視線が、遅れて一斉に少女へ集まり、店内の空気はざわりと乱れた。椅子が軋む音、誰かが息を呑む気配。混乱が、波紋のように広がっていく。


六惺は不満げに眉をひそめ、八十郎をまっすぐに睨みつけた。その視線には、苛立ちと冷酷さが同居しているようであった。


「彼等を殺さないおつもりですか。この時代に生まれた剣豪さんにしては……ずいぶんと、甘い性分のようですね」


彼女の言う「彼等」とは、言うまでもなく半グレ、そして反社会勢力に属する者たちのこと。

だが、それ以上に八十郎の心を強く打ったのは、魔女の口から放たれた『剣豪』という言葉だった。

心臓を鋭利な刃で突き刺されたかのような衝撃。

八十郎は『妖刀村正』を振るう殺し屋であり、その刀はこれまでに四桁に届くほどの生き血を吸ってきた。伝説と呪いを併せ持つ刃。その存在を、なぜこの女が知っているのか。


〈この女……俺が剣客であり、なおかつ殺し屋であることを、最初から承知しているのか〉


八十郎の武器は、刃渡り1mを超える大太刀『妖刀村正』。

20年前、海外旅行中に家族全員をテロリストに殺された絶望の淵で、死を覚悟したその瞬間、体の奥から“それ”は現れた。

剣術を学んだことなど一度もない。それにもかかわらず、神技と称される剣技の数々を、呼吸するように使いこなしていた。

家族を惨殺したテロリストたちは、その場ですべて斬り伏せられ、八十郎は天涯孤独となった。それ以後、母国へ戻ることはなかった。


なぜ妖刀が体内に存在していたのか。

なぜ剣を知らぬはずの自分が、剣を振るえるのか。

そもそも、自分は何者なのか。

八十郎はいまだ、その答えに辿り着けていない。

とはいうものの、目の前に立つ高校生のような少女が、その謎を知っているのではないか――そんな予感が、胸の奥から湧き上がってくる。


気づけば、八十郎は口を開いていた。


「お前は……俺のことを知っているのか?」


「もちろんです。私ほど君のことを知っている者はいないはずですよ」


その声音には、殺し屋を知る者のそれとは違う、奇妙な親しみが混じっていた。古くからの知己のようでもあり、試すようでもある。

八十郎は困惑し、さらに問いを重ねようとした、その瞬間。


「ガタンッ!」


奥のボックス席から、半グレの幹部が勢いよく立ち上がった。

突如現れた魔女の存在に凍り付いていた思考が、ようやく動き出したのだ。殺意と恐怖が入り混じった表情で、六惺を指差し、怒声を張り上げる。


「お前……魔女だな! 俺を殺しに来たのか!」


張り詰めた声が店内に響く。

その問いに、六惺はほんのわずか――口元だけを動かして笑った。冷気を帯びた微笑み。感情の温度が完全に切り落とされたその表情は、まるで氷で鍛え上げた刃物のように鋭く、見る者の神経を逆撫でする。


「はい。君のような生きる価値の無いクソ外道を殺すことは、私の趣味ですから」


淡々と、あまりにも平然とした声だった。

殺意を隠そうともせず、誇るでもなく、ただ事実を述べる調子。とはいうものの、その一言一言には、相手の存在を否定し尽くす冷酷さが滲んでいる。


その名は六惺――生粋のサイコパス。

彼女の趣味は、ただ一つ。法が裁ききれなかった外道を、容赦なく葬り去ること。半グレ集団、不良、反社会的勢力。これまで彼女が消してきた対象は数知れず、無差別でありながら、選別は極めて明確だった。


190cm近い巨躯――半グレの幹部が、一瞬の迷いもなく動いていた。

腰元から護身用の6連式リボルバーを引き抜くと、金属が擦れる「チャキッ」という乾いた音。手首の返しは滑らかで無駄がなく、射程は30m。初速は音速に匹敵する。完全に実戦向きの動きだった。


この男は銃に慣れている。

これまでその引き金で、幾つもの命を終わらせてきた。躊躇などない。言葉も要らない。

引き金が引かれる――


――「カチッ、バンッ、バンッ、バンッ!」


火薬が爆ぜ、乾いた銃声が連続して店内を叩く。

ガラスのグラスがカタカタと揺れ、床のタイルに微かな振動が走る。空気が「ピリッ」と裂けたような感触が、鼓膜を刺した。


突出した空間把握能力を持つ八十郎は、その一連を余すことなく捉えていた。

幹部の筋肉の収縮、引き金の戻り、弾倉の回転――そして、弾丸の軌道までも。


六惺までの距離は10m弱。

狙いは完璧。動作も非の打ち所がない。常識的に考えれば、魔女は即座に蜂の巣になる。そうなるはずだったのだ。


――だが。


次の瞬間、八十郎の認識は完全に裏切られる。


時間の流れが歪む。

情報処理速度が跳ね上がり、世界全体がスローモーションに落ち込んだかのように感じられた。弾丸は、空気の粒子を押し分けながら、ゆっくりと、あまりにも不自然な軌跡を描いて進んでいく。


そこで彼が見たもの――


魔女は、動いていない。

避ける素振りすら見せていない。にもかかわらず――


――弾丸が、避けた。


音速で飛翔するはずの鉛弾が、意思を持つかのように六惺の身体をかわす。右へ、左へ。上下に揺れ、空中で微細に軌道を変えていく。

光の筋が空間に刻まれ、螺旋を描くように彼女の周囲を滑っていく。一瞬たりとも触れない。重力さえ拒絶されているかのようだった。


林檎が自然に落ちる――その当然すら否定する挙動。

弾丸は「標的を撃ち抜く」のではなく、「避ける」存在となっていたのだ。


≪なんだ、この超常現象は……自然法則が狂ったのか? 女の周囲に、何か異常なフィールドでも形成されているとでも言うのか……!≫


店内の人間たちは、ただ幹部が狙いを外したのだと思っていた。

しかし、リボルバーを握る本人だけは違う。彼はこの6連式リボルバーに、絶対的な信頼を置いてきた。命を預け、数え切れない修羅場を共に越えてきた相棒である。


外すはずがない。

外れる理由が、どこにもない。


それが――裏切られた。


理解不能な現実に、幹部の思考は一瞬で白濁する。

全身の毛穴という毛穴から冷や汗が噴き出し、背筋を氷水が流れ落ちる。正体不明の魔女を前に、初めて“死”の輪郭を明確に意識したのだった。


六惺は、その様子を静かに見下ろしていた。

観察するように、感情を挟まず、ただ事実として。


「念のため、告知しておきます」


淡々とした声が、凍った空気を切り裂く。


「その鉛弾が当たろうと、私は無傷です。君が私の餌食になる未来は、変わりありません」


一拍置き、視線を向けたまま、続ける。


「無駄ではありますが……土下座して、許しを乞うて下さい」


その言葉は、宣告だった。

戦闘の始まりではなく、終わりを告げる――静かな死刑宣告である。


「うおーーーー、この化物が!」


幹部の喉奥から、獣じみた雄叫びが爆発する。怒号は床を叩き、空気を震わせ、まるで地面そのものが軋むかのようだった。

身体の奥底から、熱い衝動が込み上げてくる。

――撃て。残っている弾を、全部だ。

思考よりも先に、指が引き金を引いていた。


バンッ!

乾いた銃声が、空気を切り裂く。衝撃波が肌を打ち、硝煙の匂いが鼻を刺す。


続けざまに、バン、バンッ――。

だが八十郎は、その光景を叫ぶことも、止めることもできず、ただ静かに見つめていた。魔女――六惺が、何かを“した”のかどうか。それすら分からない。ただ、世界のルールが書き換えられていく瞬間を、目撃しているような感覚だけがあった。


4発目。

5発目。


撃ち出された弾丸は、確かに六惺へ向かっていた。

やはりというべきなのだろうか。

弾道が、ほんのわずかに、しかし明確に“逸れていく”


間違いない。

――弾丸そのものが、魔女を避けている。


物理法則を無視した挙動。常識では説明不能。あり得ない。

弾丸は六惺の身体の手前で、小さく弧を描き、シュル……と、かすかな空気の擦過音すら聞こえるほどの速度で、周囲を滑るように通過していく。まるで世界全体がスローモーションに引き延ばされたかのようだった。


そして――6発目。


ジャイロ回転し、音速で飛翔するはずの弾丸が、六惺の眼前で、ぴたりと――

空中に、止まった。


≪おい、なんだこれは……6発目が空中で止まっているだと? あり得ない現象にも限度ってものがあるだろう!≫


八十郎の中で、“常識”という枠組みが、ガラガラと音を立てて崩壊していく。

否定する余地すらなかった。頭は完全に停止し、思考回路はフリーズした古いコンピュータのように固まり、警告音すら鳴らせない状態に陥っていたのだ。


だが、それで終わりではない。


次の瞬間、さらに輪をかけて“あり得ない”光景が、眼前に展開される。


空中で停止した弾丸――その先端が、ゆっくりと、しかし確実に動いた。

くるり、と。

まるで自らの意思を持つかのように、弾丸は逆さまになったのだ。


ベクトルは、180度反転。

進行方向にかかっていた力は、前後完全に逆転している。


人間という生き物は、自らの認識能力をはるかに超えた現象を前にすると、意外なほどあっさりと理解を放棄する。恐怖や疑問を抱くことすら諦め、ただ目の前の事実を“そういうものだ”と受け入れてしまう。

とはいうものの、それは決して納得ではない。ただ、思考を続ける余裕がないだけなのだ。


八十郎も、まさにその状態だった。

常識に照らす意味はない。考えれば考えるほど、頭がおかしくなる。ならば――受け入れるしかない。

ものの、本能に従って「次に起こること」を予測した瞬間、その予感は、恐ろしいほど正確に形を成す。


反転した弾丸の先端は、6連式リボルバーを構える半グレ幹部の体勢を、寸分違わず捉えていた。腰を落とし、両手で照準を絞るその姿勢。引き金にかかった指。眉間の位置。

すべてを計算したかのように、弾丸は“元の持ち主”へ向かって飛び出す。


ズバッ――!


6番目の弾丸が、背丈190cm近い巨漢の額を、一直線に貫いた。

音は鈍く、しかし決定的だった。


銃口から発射され、幹部の頭部を貫通するまでの時間は、わずか0.05秒以下。

理解する暇など、あるはずもない。巨体はスローモーションのようにぐらりと揺れ、そのまま前のめりに崩れ落ちる。ドサリ、と重い音。

命は、抵抗する間もなく、その身体から抜け落ちていたのだ。


額に穿たれた穴から、真紅の炎が噴き上がる。

パチパチ……と、小さく爆ぜる音を立てながら舞い上がるそれは、血ではない。炎だ。魂そのものが燃えているかのようだった。


懺悔の炎。

魔女によって命を奪われた者の魂は、肉体の死と同時に裁かれ、跡形もなく焼き尽くされていく。


店内に残された半グレの残党や反社会勢力の従業員たちは、目の前で起きた光景に凍りついた。

静寂はまるで時そのものが止まったかのようで、誰一人、状況を飲み込めずにいた。


その沈黙を破り、誰かが叫んだ瞬間。

決壊したダムの水のごとく、一斉に出口へと走り出す。

生き残るための本能が、全員に「逃げろ」と命じたのだ。


八十郎は何もせず、ただ視線を送っていた。

魔女はその視線の先を冷徹に見据え、いずれ外道へと堕ちる者を見届けることを密かに楽しみにしていたのだろう。


密室に残ったのは、たった2人――八十郎と六惺。

彼女の目的は半グレ幹部の殺害である。

その目的は既に達成されていた。


だが、思わぬ遭遇があった。

八十郎である。

魔女に関する情報を持たないはずの彼は、しかし本能に従い警戒体勢を敷いていた。


まず、八十郎が口を開いた。

正体不明の女へ向け、ありふれた質問を投げかける。


「俺の質問に答えろ。殺された男が呼んでいた通り、お前が魔女だというのか」


「はい。私の名前は六惺。純血の魔女で間違いありません」


その声は冷たく鋭く、しかし確かな力を帯びていた。八十郎の視線が自然と彼女の瞳に吸い込まれる。光を失わず、だが感情を読み取りにくいその瞳は、まるで静寂な湖面のようである。波一つ立たぬ、しかし深く底知れぬ力を宿した水面。背筋にぞくりと寒気が走ったのは、錯覚ではないだろう。


「魔女ってのは、人間じゃないってことか?」


「一般的な定義とは異なるかもしれません。ですが、魔女とは私のこと。それ以外の何者でもありません」


言葉に迷いはなく、ただ静かに真実を告げている。八十郎は一瞬、言葉に詰まった。頭の奥で理屈を探そうとするが、直感が先にその存在を理解してしまった。


「……そうか。まあ、それは置いておこう。もう一つ質問だ」


「はい。何なりとお答えさせてもらいます」


「先ほどの弾丸のことだ。明らかに物理法則を無視した動きをしていた。あれも魔女の力だと言うのか?」


六惺の唇がわずかに動いた。沈黙の間に、遠くの瓦礫がカラカラと崩れる音、街路に漂う埃の香り、微かな風に乗る冷気までも、空気の中で静かに響く。戦いの前触れは、音や匂いにまで染み込んでいたのだ。


「はい。魂が籠っていない攻撃は、私に届くことはありません。それが何故なのかは、実際のところ、よく分かりません。そんなことはどうでもよく、ありませんか?」


「いやいやいや。どうでもよくなんてないだろ! あの最後の弾丸はなんなんだ! 軌道まで逆にするって、おかしいんだよ! あり得ないことなんだよ!」


「あー。6番目の弾丸のことですか?」


「…」


「あれは『魔女の呪い』ですよ!」


「なに。『魔女の呪い』だと?」


「はい。私は『6』という数字に愛され、護られているからです!」


八十郎の眉が僅かに寄った。混乱と驚愕が交錯する。だが、六惺の声には一切の揺るぎがない。確信と静けさだけが、空間を支配していた。


「『6』に愛される魔女……俺が聞きたいのは、弾丸の方向が前後逆になった——その理由が何故ということだ!」


「つまり、6番目に発射された弾丸。それに『魔女の呪い』がかけられた、とでも理解してください」


まるで空想世界の物語を聞かされているようである。だが、八十郎は違和感よりも、なぜか直感的な納得を覚えた。話の整合性というより、魔女が嘘を吐いていないことが、肌で感じられたのだ。とはいうものの、混乱していないかと問われれば、嘘になる。


六惺の冷たい瞳が、静かに剣豪を見据えていた。彼女がここにいる理由。それは外道である半グレの幹部を討つためであることは間違いない。標的は既に葬られた。にも関わらず、ここに残っている理由は、まだ八十郎に用があるからなのだろう。


その空気に押され、八十郎の体が無意識に硬直する。六惺の存在感が、空気の流れを震わせる。まるで「さあ、戦いを始めろ」と挑発するかのように、戦闘の気配が静かに膨らんでいる。


「剣豪さん。君がこの街に来た目的は、観光のためではないのでしょう?」


「俺がここに来た目的だと。そんなことを聞いてどうするつもりだ?」


「質問した理由ですか。君がこの都市に来た目的は、私を殺すためではないかと思っておりまして」


「ちょっと待て。俺の流儀は無用な戦いをしないことだ。お前を殺す理由などあるはずが無い」


街灯の明かりが、二人の影を長く揺らす。風が微かに建物の隙間を抜け、瓦礫をカラカラと鳴らす。緊張で張り詰めた空気の中、二人の間に微細な振動が走る。戦闘前の静寂が、まるで重い鼓動のように感じられた。


「剣豪さんはこの状況を理解していないようですね。それでは改めて問います。君は何をするためにここへ来たのですか」


「おい。何故、同じ質問をするのだ。俺の言葉が聞こえていなかったのか」


「すいません。君に喋っているわけではありません。剣豪さんは少しおとなしくしていてもらえないでしょうか…」


「俺に話しをしていないだと。誰に向けて喋っていると言うんだ!」


「誰って。それは君の中にある——『妖刀村正』ですよー!」


「何。妖刀村正に、話かけていると言っているだと?」


「君がここへ来た目的。私の血。魔女の血を吸うために、この都市へやってきたのでしょう?」


六惺の一言で、八十郎の体内に眠る『妖刀村正』が、じわりと反応を始める。血潮が滾るように、刀の意思が意識の隅でうねる。剣豪はかつてないほど鮮明にその存在を感じた。


—————妖刀は持ち主の制御を無視し、刃先として体内から姿を現そうとしていた。

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