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最終到達地点 ~ギルド会館の管理人〜  作者: ヨシムラ


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第30話 聖騎士教会からきた女子騎士②

数時間前。異国の空気がまだ肌に馴染まぬうちに、その街を一人歩く少女の姿があった。魔女がいる街――そう囁かれるこの都市の雑踏の中を、金髪の少女はキャリーバッグを引きずりながら進んでいく。ゴロゴロ……と車輪が石畳を噛み、微かな振動が腕へと伝わっていた。


少女の名はAstrid(アストリッド)|。年齢は16で、つい先日、その数字を名乗るようになったばかりである。彼女は聖騎士教会に所属する騎士で、手すきが良さそうな指通りのいいサラサラとした金髪が印象的だった。北欧出身の女性にしては小柄な部類に入り、身長はおよそ165cm。真っ白な肌に線の細い体躯をしており、顔立ちは整ってはいるものの、誰もが振り返るような“美少女”という類ではない。


白いシャツにジーパンという実用性だけを重視した服装に、重たそうなキャリーバッグを携えている。化粧っ気はなく、装いにも気を遣っている様子は見られない。とはいうものの、それは無頓着というより、この都市へ来た理由が“観光”ではないからだった。


アストリッドの騎士階級は兵士(ボーン)級|である。聖騎士教会の序列はチェスの駒によって示され、兵士級はその最下層に位置する。雑用、囮、補助といった役割を担い、(ルーク)級|以上の者たちを支えるためだけに存在する、消耗前提の立場だった。


聖騎士教会がAstridに与えた任務は『調査』であり、この都市へ集結しているという“要注意人物”たちの目的を探ること。要注意人物には、伝説の殺し屋、最強の人狼、錬金術師、黒魔術士の枢機卿、そしてその他大勢の黒魔術士たちが含まれている。


Astridは、序列が自分より上である白色塔(ルーク)級|の聖騎士と、この都市のどこかで合流する手筈になっていた。しかし、金髪の少女騎士にとって、ここはあまりにも異質な場所だった。


初めての海外であり、苦手な都会でもある。空気は濁り、スモッグガスが肺に絡みつく。クラクションやエンジン音、人々の怒声といった煩雑な音が波のように押し寄せ、視界の果てまで積み重なる建物群は、まるで山脈のような圧迫感を放っていた。胸の奥が、ざわりと波打つ。


彼女は戦争孤児の難民だった。幼くして両親を失い、教会に引き取られ、修道女になるのだと疑いもせずに信じていた日々。静かな祈りと労働だけが続く未来を、当たり前のものとして思い描いていた。


しかし15歳の時、転機は唐突に訪れる。“才能”を見出されてしまい、聖騎士教会の兵士級へ転籍することなる。一般的には大抜擢とされる処遇だったが、ものの、実態は違った。兵士級とは、教会にとって使い捨ての駒であり、命を賭けさせるための存在にすぎない。それは少女にとって、“死刑宣告”に等しいものであった。


それから1年。訓練を受け、剣を握り、血の匂いを教え込まれ、初任務として純血の魔女がいる都市へ派遣されてきたのである。聖騎士教会の騎士は常に死と隣り合わせで、とくに兵士級は消息不明になる者が後を絶たない。任務を放棄し、逃げる者も多くいる。


志が高いとは言えないAstridも、もしこの先に待ち受ける災難を知っていたなら、同じ選択をしていたかもしれない。だが彼女は知らなかった。教会からは「簡単な調査任務」だと聞かされており、純血の魔女がいる都市という言葉の重みを深く理解していなかったからだ。この街が最も危険な地帯だという認識すら、持たずにいた。


金髪の少女騎士(アストリッド)|は、人混みによる軽いめまいを覚えながら、聖騎士教会から支給されたスマホの画面を見つめていた。入国時、空港で届いた1通のメール。その内容は『伝説の殺し屋』に関する情報だった。差出人は聖騎士教会であり、その表示を見て警戒心は自然と緩んでいたのだろう。


偽メール。なりすまし。にもかかわらず、彼女は疑わなかった。メールを送った犯人は、純血の魔女――六惺である。金髪の少女騎士のメールアドレスを入手し、彼女を“お洒落カフェ”へ誘導するために仕組まれた罠だった。丁寧すぎる案内のおかげで、Astridは迷うことなく目的地へ辿り着く。


8車線の道路は車で詰まり、アスファルトからは熱気が立ち上る。気温は35度を超え、じっとりとした湿気が肌にまとわりついていた。歩道は人で溢れ、その脇に設営されたテラスデッキ席。そこにいたのが、『6』に愛された魔女――六惺と、調査対象の男である。


名は八十郎。お洒落とは無縁の世界に生きてきたような、どこにでもいそうな冴えない中年の男だ。カフェの雰囲気にまるで馴染んでおらず、その向かいには高校生のように見える少女が座っていた。恋愛経験などなさそうな無垢な外見の少女で、Astridの目には、親父が金を払い、美少女に不埒な行為を企んでいるようにしか映らない。当然、その少女が極悪無比のサイコパスであるなど、少女騎士が知る由もなかった。


一方で、剣豪・八十郎はすでにAstridの存在を把握していた。しがない親父を装いながら、その空間把握能力は異常な域に達している。周囲すべての人間の位置、視線、気配――そのすべてが彼の掌中にあった。知らぬふり、気づいていないふりをしながら、六惺もまた北欧から来た少女の存在を気に留めている様子はない。


金髪の少女騎士の任務は、要注意人物たちがこの都市へ集結している目的を探ることだ。標的の一人である剣豪は、今まさに目の前にいる。本来なら接触すべきなのだろうが、それはあまりにも危険だった。


物陰に身を潜め、どう動くべきか悩んだ、その瞬間――ピッ、とスマホが震え、通知音が鳴る。発信元は、聖騎士教会。画面に表示された、その内容は――


≪Astrid。殺し屋である八十郎から、六惺(向かいに座っている女)を救いだせ!

危険度F級(初心者レベル)≫

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