1話
ゾンビが蔓延って、世界が終わってから、どれくらい経ったんだろう。
気づけば、私と優くんは、二人きりになっていた。
食料も……もう、ほとんど残っていない。
「……困ったな」
静かに呟いた優くんの声が、胸の奥を締めつける。
でも、私――
それよりも、怖いことがあるんだよ。
(……また、誰かに見つかっちゃうのかな。優くんが。私じゃない“誰か”に)
春「……あ、あの、これから……どうするんですか……?」
声が震えるのは、寒さのせいじゃない。
優くんの答えが怖いから。
「外に出るしかないよ」
「……っ、そ、そうですよね……」
分かってる、分かってるのに。
外は怖い。でも、それより――
(また誰かが現れて、優くんがその人を守って、優しくして……)
(――そんなの、見たくない。耐えられない)
⸻
「行けるなら、今日行こう」
「きょ、今日ですか……っ?」
あわてて聞き返す。
……でも、ダメ。そんな顔じゃ疑われちゃう。
「わ、私……全然、平気です。優くんがそう言うなら……」
(ほんとは、もっと一緒にいたかった。
何でもない話をして、笑って……そのまま、誰にも見つからずに、ふたりきりで……)
「怖いけど、食料が残ってるうちに行きたいしね」
「……はい……そう、ですね……」
(ああ、お願い……私の“勇くん”でいて)
⸻
「行くなら、一番近くの女子校だと思う」
「じょ……女子校……」
なんで……
どうして、“女子”ってつく場所なの?
(女子がいる場所、女子がいた場所、女子が生き残ってるかもしれない場所――)
胸がチクリと痛んで、自然と手が震える。
でも勇くんは、そんな私を心配そうに見てくれて――
「正直、女子校なのは不安だけど……もしもの時は、君だけでも」
「っ……! だ、ダメです、そんなの……!」
(置いていかないで、私をひとりにしないで。
“他の女の子”のもとに行かないで――)
「……でも、優くんが一緒なら、私……頑張れます」
口に出せるのは、そこまでだった。
本音を出したら、引かれちゃうかもしれないから。
⸻
ゾンビを避けて、たどり着いた女子校。
「やっぱり……他に行かない?」
優くんが小さく言ったけど、私にはもうわかってた。
ここしか、生き残る道はない。
それは、わかってるのに――
(ここには、“敵”がいる)
「ここしか……ないですよね。私、ついていきます」
「最悪は、これを使って」
手製の武器。
でも私の頭の中では、違う使い道がぐるぐると。
(……誰かが優くんを奪おうとしたら、私――)
⸻
そのときだった。
「――待ってたよ!!」
誰かの声。
女の子の、声。
(……待ってた? 誰を?)
反射的に、優くんの前に立っていた。
私は、ただのクラスメイト。彼女でもなんでもない。
でも――
「え……?」
視線の先にいたのは、笑顔の女の子。
私の知らない誰か。でも、優くんは……
「って、優くん!? よかった、生きてたんだ!」
(やっぱり……知り合い……)
心臓が冷たくなる。
でも、笑わなきゃ。いい子でいなきゃ。
「……よ、よかったですね……知ってる人で……」
(――でもね、私、絶対に譲らないから)
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