いちまんごせんねんのうちゅうりょこう
「おそらのうえにはなにがあるの?」
「うちゅうさ」
「うちゅう?」
「ああ、ぼくたちがすんでるこのちきゅうよりも、ずっとずーっとひろいんだぞ」
「へぇ〜」
いつだったかわすれてしまったけど、おとうさんがぼくにこんなことをおしえてくれた。
†
それからしばらくのひにちがすぎた、あるあたたかいよるのことだ。
そのよるおそく、ざわざわとむなさわぎがして、ぼくはパチッとめをさました。
りょうどなりのおとうさんとおかあさんはぐっすりとねむっていた。
ぼくはふたりのあいだからしずかにぬけだしてベッドをおりると、しのびあしでへやのそとにでた。
げんかんからそとにでると、やまのうえのほうでなにかがピカピカとかがやいていた。
ぼくはこれからなにか、とんでもないことがおこるんじゃないかとおもって、おそろしかった。
いえのなかにもどってねむってしまいたいゆうわくもあったけど、ぼくはピカピカのしょうたいをたしかめることにした。ぼくは、ひかりにむかってはしりだした。
やまみちのとちゅうで、だれかとすれちがったようなきもしたけど、ぼくはきにせずにはしりつづけた。
……ブオォォォン……
やまのうえのほうにすすむにつれ、そのおとはだんだんおおきくなってきた。
やまのてっぺんにあるひろばにつくと、ピカピカひかるおおきなまるいえんばんが、よぞらにプカプカとうかんでいた。ブオォォンというおとは、そのえんばんからきこえていた。
えんばんがぼくにピカピカをむけてきた。ぼくはまぶしくて、めをギュッとつぶった。
もういちどめをあけると、えんばんがぼくのちかくにおりてきていた。ブオォォンのおとはちいさくなって、えんばんがちゃくりくするときこえなくなった。
えんばんは、おとうさんのくるまよりもおおきくて、ぼくのいえよりはちいさかった。
えんばんのいちぶはドアになっていた。それがパカッとひらいて、なかからロボットみたいなうちゅうじんがふたりでてきた。
ふたりはぼくのめのまえでギイギイとおしゃべりをはじめた。
『オイ、ドウシテチャクリクシタンダ? ジュウミントノセッショクハ、キンシサレテタダロ』
なにをしゃべっているのかはわからなかったけど、なんとなくそんなことをいっているようなきがした。
『コノコドモヲ、チキュウジンノサンプルトシテツレテカエロウ』
そういったもうひとりのうちゅうじんが、ぼくのめのまえまできてりょうてをのばしてきた。
ぼくはにげようとおもったけど、こわくてうごけなかった。
ぼくはうちゅうじんにかかえられて、そのままえんばんのなかにつれていかれた。
ぼくとふたりのうちゅうじんがなかにはいると、プシュッとおとがして、ひらいていたドアがしまった。
ぼくはそのまま、えんばんのおくのまるいおおきなへやにつれていかれた。そこには、さらにふたりのうちゅうじんがいた。そこでやっとゆかにおろしてもらえたけど、もうにげだすことはできなかった。ふしぎなことに、へやのなかにはいったはずなのに、ぐるりとへやをかこむかべはぜんぶまどになっていて、そとのけしきがそっくりそのままうつっていた。
『デハ、シュッパツスル』
そんなこえがきこえたかとおもうと、じめんがぐわんとゆれた。
ころびそうになったけど、ちかくにいたうちゅうじんがぼくをささえてくれた。
「うわあ……」
まどのむこうには、かぞえきれないほどのほしがかがやく、まっくろなよるのやみがひろがっていた。
「あれって……」
まどのいちめんに、おおきなおおきなあおいほしがうつっていた。
……ちきゅうだ。
そのほしは、いつかおとうさんとテレビでみた、ちきゅうにそっくりだった。
……ぼくはいま、ちきゅうをとびだして、うちゅうにいるんだ。
ぼくはうつくしいあおいほしをみたことで、はじめてそのことにきがついた。
えんばんのしょうたいは、うちゅうせんだったのだ。
ちきゅうのはんたいがわには、まっかにもえるたいようもみえた。
うちゅうせんがちきゅうのそばにいたのは、ほんのみじかいあいだだった。
うちゅうせんはギュンとかそくして、ちきゅうもたいようも、まめつぶのようにちいさくなっていった。
『わたしたちのほしはとてもとおくにあるけど、このうちゅうせんならふつかもかからないよ』
「すごいね!」
ぼくをつかまえた、おせわずきなうちゅうじんが、ちきゅうのことばではなしてくれた。
このうちゅうじんのなまえは、「タウ」といった。
それからのうちゅうせんでのたびは、ぼくにとってはたのしいひとときだった。
まどからじっとうちゅうをながめて、「あれはなに?」となんどもきいてタウにおしえてもらった。
ブラックホール、ちょうしんせい、……いろんなことをおそわった。
タウとゲームをしてあそんだりもした。タウいがいのうちゅうじんは、ぼくにはかまってくれなかった。
タウはたべものもくれたけれど、おいしくはなかった。
しばらくたつと、ぼくはたまらなくねむくなってしまった。ぼくはタウにかかえられてべつのへやにはこばれ、おおきなおとなようのカプセルにいれられた。
『……ごめんなさいね』
ねむってしまうまえ、タウがそういったきがした。
†
めがさめると、カプセルのふたがひとりでにあいて、ぼくはおきあがった。
みちあんないのロボットが、ぼくをもとのひろいへやにつれていってくれた。
うちゅうじんはなんにんかいたはずだけど、このときはタウひとりきりになっていた。
タウはへやのまんなかのシートにすわっていた。
「まだつかないの?」
ぼくがたずねると、タウはすわったままでふりかえった。
『ああ、おきたんだね。もうぜんぶおわって、いまはきみがいたちきゅうにかえっているところだよ』
「え! そうなの?」
『うん』
ぼくはびっくりした。
タウのはなしによると、ぼくもうちゅうじんのほしにおりて、そこでなんにちかすごしたそうだ。
でも、ぼくはなにもおぼえていなかった。
『すこしかなしいことがあってね。おもいださないほうがいいよ』
「そうなんだ」
タウのいうことはよくわからなかったけど、おもいだそうとするとあたまがズキズキといたくなった。
いたくてたまらなくなったぼくは、あたまをかかえてしゃがみこんだ。
『あらら……。だからいったのに』
タウがあきれたようなこえでいった。
それからまもなく、ぼくらはちきゅうにかえってきた。
あおくてきれいなちきゅうは、しゅっぱつまえとかわっていないようで、なにかがまったくかわってしまっているようなきもした。
「……ここはどこ?」
『ぼくたちときみがであったばしょだよ』
ぼくはまた、あのやまのうえにかえってきたらしい。
でも、おなじやまなのかどうかわからなかった。
みどりがなくなって、すっかりはげやまになっていたから。
「ぼくのおうちは?」
『……いってみようか。すこしつきあうよ』
ぼくはやまのうえからあちらこちらをみわたしたけど、むきだしのじめんにポツポツとくさやきがはえているぐらいで、ひとがすむようなたてものはどこにもみあたらなかった。
『きみのいえがあったのはこのあたりだね』
「えっ……」
そこにはなにもなかった。
はだかのじめんに、ぴゅうぴゅうとかぜがふいていた。
「……おとうさんとおかあさんは?」
なきそうなこえがでた。
めがしらがあつくなっていた。
『いちまんごせんねんまえになくなっているね』
そうきいて、ぼくのめからなみだがあふれた。
『……きみがもといたじだいでは、「ウラシマこうか」ってことばがあったみたいだけど……そんなのせつめいされても、わからないよね』
タウがなにかしゃべってたけど、ことばのいみはわからなかった。
――ぼくがタウのほしにいってかえってくるあいだに、いちまんごせんねんものじかんがすぎてしまったなんて、このときのぼくにわかるはずがなかった。
『……しかたないか。そもそも、「もとのところにかえせ」ってめいれいされたんだし』
タウはしゃべりつづけていた。
でも、このときのぼくのこころは、おとうさんとおかあさんにもうにどとあえないかなしみでいっぱいだった。
『――じゃあ、かえろう。きみがもといたところに』
ぼくはタウにてをひかれるまま、うちゅうせんをとめたばしょまでもどってきた。
それからまたうちゅうせんにのって、ちきゅうのそとへとびたった。
ぼくはなみだをながしながら、タウのはなしをきいていた。
『いいかい? もとのじだいにかえったら、まっすぐおうちにかえるんだ。よりみちをしてはいけないよ』
「……うん」
『もうひとつ。いえにかえるまでは、だれにもみつかってはいけないよ。もしだれかにみつかりそうになったら、かくれてやりすごすんだ』
「……わかった」
タウはおなじことをなんども、ねんいりにはなしてくれた。
ぼくはなみだのあとをぬぐって、タウのことばにうなずいた。
おとうさんと、おかあさんのいるいえにかえりたい。
……ただそれだけを、つよくねがいつづけていた。
きがつくと、うちゅうせんのまえにくろいおおきなやみがひろがっていた。
「ブラックホール……?」
すべてをすいこむ、くろいてんたい。タウがそうおしえてくれた。
うちゅうせんはブラックホールのまんなかにむかってすすんでいく。
『いっしょにいられるのは、ワームホールのとちゅうまでだ』
シートにすわったタウが、きかいのモニターをみながらそういった。
このあとぼくは、こがたのポッドにのせられて、ホワイトホールというものをとおりぬけるらしい。
「タウは……?」
『ぼくのことはきにしなくていい。きみをおくりだしたら、ちゃんとじぶんのほしにかえるから』
「……ありがとう」
ぼくはタウにおれいをいって、ひとりのりのちいさなポッドにのり、シートベルトをしっかりとしめた。
ポッドのなかのスピーカーから、タウのこえがきこえた。
『バイバイ。げんきでね』
せなかがシートにおしつけられるようなすごいいきおいで、ポッドはうちゅうせんからとびだした。
まっくらやみだったけしきは、シャボンだまみたいなにじいろにかわって、それからぜんぶがまっしろになった。
†
ドスンとおとをたてて、ポッドはやまのなかにちゃくりくした。
ぼくはシートベルトをはずし、そとにでた。
やまのうえには、あのよるとおなじピカピカのひかりがみえた。
かえってきたんだ。
ぼくはだれにもみつからないようにきをつけて、やまをおりていく。
とちゅう、ぼくそっくりのおとこのこがやまをのぼっていくのをみかけたけど、かくれてやりすごした。
いえにかえってへやにもどると、おとうさんとおかあさんはすやすやとよくねむっていた。
ぼくはふたりのあいだにもぐりこんで、てをつないでねむった。
†††
「やまのうえのほうで、おかしなひかりをみたひとがいるんだって」
「どうせまた、だれかのイタズラでしょう?」
つぎのひのあさ。
おとうさんとおかあさんがテレビをみながら、そんなはなしをしていた。
「おとうさん、おかあさん」
「うん?」
「どうしたの、たくみ?」
ぼくはいった。
「あのね。ぼく、おおきくなったら、うちゅうにいきたい」
ふたりはめをまんまるにしておどろいた。
――それからぼくが、つぎにうちゅうにいくまでにおこったできごとは、またべつのはなしだ。
(おわり)
お読みいただき、ありがとうございました。
以下、大人向けの解説を記します。
このお話を小さなお子さんが読んだ後、疑問に思いそうなことに対して、作者としての設定を交えつつ解説します。
●宇宙人は何をしていたのか? タウはなぜ命令に背いてタクミと接触したのか?
はっきりとは決めていないのですが、宇宙人は地球を侵略する計画を立てていたかもしれない、というような想定です。タウは地球人に同情して、タクミを母星に連れて帰ることで犠牲を最小にしようとした……というような設定です。
●タクミが宇宙人の母星を訪れたとき、何があったのか?
これはかなり残酷な人体実験のようなことが行われた想定です。
地球に帰ったタクミは、元のタクミとは異なるタクミかもしれません。
例えば、実験中の事故で元のタクミは死んでしまい、宇宙人がタクミを復元したモノになってしまっているかもしれません。
小さなお子さん向けのマイルドな説明としては、「宇宙人の秘密を知ってしまったから、記憶を消された」のようなものが考えられます。
●「ウラシマ効果」とは?
これは有名で色んな創作作品で登場するので、知っている方も多いかと思います。検索すると良い記事が出てくるので、ここでの説明は割愛します。
●ホワイトホール、ワームホールとは?
これは現在の科学でははっきり存在するかはわからない、仮説上のものです。
本作では、ほぼほぼご都合設定となっています。
ホワイトホールでは時間の流れが逆転していると言われているそうで、このようなお話とさせていただきました。
●タウはどうなったの?
これもはっきりとは決めていません。
死んでいてもおかしくないと思いますが、彼らの種族は時間を超越して存在していそうなので、割となんでもアリな気もします。
【スペシャルサンクス】
『インターステラー』というSF映画を観たことがあり、展開を考える上でこちらからヒントを得たことは否めません。とても良い映画なので、未視聴の方はぜひご覧ください。