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死に戻り令嬢は皇太子と婚約破棄して辺境王の許嫁になり国を救いましたが愛しているのは一緒に処刑された男です  作者: 赤林檎


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23.コリーナ・ザーランド(中編)

「話を続けよう。コリーナ嬢はその不思議な出来事の世界では、私と共に火炙りの刑に処せられた。そこで亡くなったはずが、コリーナ嬢は今ここで我らと共にある。これがどういうことかわかるだろうか?」

 ウルバンは台の横にいるコリーナを見てから、兵士たちを見まわした。

 彼の問いかけに答える者はいなかった。


 ウルバンは台を降り、コリーナの腰をつかんでふわりと持ち上げて台に載せた。

「なにをするの!?」

 ウルバンは戸惑うコリーナを、愛おしげに見つめた。

「我らの内で、そこに立つのにふさわしいのは貴女だけです」

 ウルバンは台に上がらないまま、コリーナの手をとった。コリーナを台の中央へと連れて行くと、自分は少し横にずれてから、兵たちに向き直った。


「コリーナ嬢が地位も名誉もなにもかもを捨て、我が兄を救わなければ、この国は私によって滅ぼされていた!」

 ウルバンは力強く言い放った。

「この国では、皇太子の許嫁を指して『聖女』と呼ぶ時、『無知な女』という嘲りとして用いられることがある。このお方は紛うことなき本物の聖女であられるが、嘲りとしても使われる呼称を用いるわけにはいかない」

 ウルバンは肩越しにコリーナを見た。

 コリーナは困惑しながら、ウルバンを見つめ返す。彼がなにをしたいのか、コリーナにはまるでわからなかった。

 ウルバンは寂しげに空色の目を細めてから、兵士たちへと視線を戻した。


「救世主だ! この国を滅びの運命から救った、このお方こそ、救世主なのだ!」

 ウルバンが叫んだ。


「救世主か……!」

「そうか、救世主……!」

 あちらこちらで声があがった。


「ああ、そうだ! 我らはここまで、救世主を護衛してきたのだ!」

 ウルバンの言葉を聞いた兵士たちが、一斉にひざまずいた。

 シシーとギーゼラも、コリーナの方を向いてひざまずいた。


「俺は、我が救世主に従い、血肉と、心、魂をもって尽くす!」

 ウルバンが右の拳で胸を叩いた。辺境軍の軍人が命を賭ける時にする、誓いの所作だった。

 ウルバンは兵士たちに向き直った。


「これより、俺はたとえ一人ででも、救世主を推戴し、救世主の望む世を作る。俺はもはやこの国の辺境王でも、辺境総大将でもなく、皇帝に命じられた婚姻もしない」

 コリーナは呆然としてウルバンの宣言を聞いていた。

 コリーナは自分が救世主だと思ったことなどなかったし、このようなかたちでウルバンが皇帝から命じられた自分との婚約を破棄するなどとは考えもしかった。


「俺はこれまでの経緯から、救世主がなんらかの方法で皇帝を討つつもりだと考えている。俺はそれをお助けする。――救世主と俺は、この国の反逆者となる」

 ウルバンもまた、コリーナに向かってひざまずいた。


「お待ちなさい! 二人ではありませんよ!」

 ギーゼラがウルバンの横に並び、ひざまずいた。

「乳母殿」

 驚くウルバンに、ギーゼラは決意に満ちた目を向けた。

「あなたは三人目ですよ。コリーナ嬢の始めたこの戦いに、最初に加わったのは、このわたくしです」

 ギーゼラは片手で胸を押さえ、自分であることを主張した。

「皇帝エアハルトはわたくしの夫の仇です。コリーナ嬢はわたくしにおっしゃいました、『我らの敵、共に討つべし』と!」

 ギーゼラはウルバンに力強くうなずいてみせた。


「では、俺は三人目で……」

「いいえ、違います!」

 叫びながら、シシーがギーゼラの横に並び、ひざまずいた。

「三人目は私です! そうですよね、お嬢様! 私なしでは、ホーラン男爵だって助けられなかったですよね!」

「そうね、シシーが三人目ね。軍法会議で警備兵を退けてくれて助かったわ」

 コリーナはシシーに笑いかけた。なぜ急にこんなことになってしまったのか、という戸惑いを押し隠して。

 ウルバンにはなにか考えがるはずだ。それを台無しにするわけにはいかなかった。


「それなら、四人目は僕なんじゃないかい?」

 ツァハリアスがウルバンの隣、ギーゼラとは反対側でひざまずいた。

 ツァハリアスは体調も元に戻り、表情も明るくなっていた。

 ツァハリアスはウルバンと目があうと、茶目っ気たっぷりに片目をつぶって見せた。


「五人目はウルバンさんでいいとして、このオレが六人目だ」

 ヨストも進み出て、ツァハリアスの隣でひざまずいた。

「もー! ヨストさん、勝手に決めないで下さいよ! 普段はマッツ、マッツってうるさいのに、こういう時に限って、『おい、マッツ、どうする?』とか言ってこないんすから!」

 マッツがヨストの後ろにひざまずいた。

「それで、マッツ、どうするんだ?」

「今さら……っ! 俺は一軍馬公閣下の命に従って、ヨストさんの護衛を続けますよ。言ってみれば、俺は『救世主の弟の親父』の護衛っすよね」

「間違っちゃいねぇが、『救世主の弟の親父』ってのも、妙な感じだな」

 ヨストとマッツはいつも通り、軽口を叩きあった。


「これよりこのヨストさんの護衛部隊は、救世主の反乱軍となることになった! 仕事内容や待遇が変わるため、離脱して領地に戻りたい者はただちに隊列を離れるように! また、領地に戻った後で、閣下とゲルハルトさんに事情を説明し、このアイケの指示に従ったことを伝え、別の仕事をいただくように!」

 アイケが立ち上がって辺境王妃の私兵たちに向き直り、指示を出した。

 アイケは離脱者をしばらく待って、誰もいないことを確認した後、再びコリーナに向かってひざまずいた。


「俺も反乱軍になる! 離脱したい者は各自で辺境軍に戻ってくれ!」

 フォルカーも立ち上がって辺境軍の兵士たちを見まわし、誰も離脱しないとわかると、またひざまずいた。


「僕にここまでついてきてくれたみんな、ありがとう。すごく助かったよ。ザーランド公爵家の私兵ごっこはここまでのようだ。金杯王城に戻るも、旅に出るも、みんなの好きにしてほしい」

 今度はツァハリアスが立ち上がり、元は金杯軍であるザーランド公爵家の私兵たちに言うと、私兵たちは全員が一斉に立ち上がった。


「困りましたな。どうやら『金杯王城の宝』は、我らが誰か知らないらしい」

 戦槌を担いだ老年にさしかかりそうな歳の大男が、まわりの私兵たちに言った。

「もしかして、我らの妃殿下のことも、まったくご存知ないので?」

 小楯を左腕に装備し、腰に剣を下げた小柄な男が、ツァハリアスに訊ねた。

「我らの妃殿下って、君たちには、コリーナとは別に妃殿下がいるのかい?」

 ツァハリアスが訊き返した。

「今は亡き先の皇太子、エーベルハルト殿下。諡号『聖賢皇帝』。あの尊き我らの主の、お妃様です」

 戦槌を担いだ男が説明した。


「元はルジアン公爵令嬢のギーゼラ・ルジアン様。わたくしの先代の皇太子の許嫁であり、わたくしの指南役となってくださったお方よ」

 コリーナが言うと、ギーゼラが立ち上がった。


「現皇帝のエアハルトは、わたくしが子を授かると皇太子殿下を毒殺し、我が父と兄にその罪を着せて処刑しました。我がルジアン一族も多くが処刑されるか、平民に落とされました。わたくしは金杯王殿下の助命嘆願に救われ、義母上のお力添えのおかげでコリーナ嬢に仕えることができ、金杯王殿下とコリーナ嬢に守られて今日まで生き永らえてきました」

 ギーゼラの言葉を聞いた私兵たちが、一斉にひざまずいた。

 ギーゼラもまた、コリーナに向かってひざまずいた。


「我らの宝よ! 我らは、エーベルハルト殿下の名の元に集った者たちです! 金杯王殿下は闘技場を作り、半獣半人を戦わせて楽しむ残忍な男という汚名を着ながら、我らを庇護し、鍛練する機会を与え、力を蓄えさせてくださっていたのです!」

 小楯と剣を装備した男が、ツァハリアスを強い眼差しで見上げた。

「六人目というなら、ここにいる我ら全員が六人目ですな!」

 戦槌を持つ男が、どこか楽しげに言った。


「そうだったのかい? 僕は知らなかったよ。コリーナは知っていたのかい?」

 ツァハリアスが困惑してコリーナを見た。

「前世……、辺境王殿下の言うところの予知夢で知ったのよ。ドレスを縫ってくれたベーベルがいるでしょう? 彼は元はルジアン男爵令息。ギーゼラの一族の者よ」

 コリーナが教えると、ツァハリアスは驚いて私兵の中にベーベルの姿を探した。

「黙っていて申し訳ありません」

 ベーベルがツァハリアスに謝った。

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