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死に戻り令嬢は皇太子と婚約破棄して辺境王の許嫁になり国を救いましたが愛しているのは一緒に処刑された男です  作者: 赤林檎


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18.辺境王アロイス・ホーラン(前編)

 ウルバンと辺境王妃の私兵たちは、伏兵のいる場所へと敵兵を追い込む勢子の役目を担っていた。

 ウルバンが辺境王アロイスのふりをして、彼らの先頭を行くはずだった。

 元は『金持ち男爵』であるはずの辺境王アロイスに見えるようにと、ウルバンはヨストとマッツによって辺境王妃の私兵用の私兵服を着させられていた。辺境王妃の私兵たちは、ジュストコールを揃って着用しないことで、ウルバンとの差を出していた。


 彼らが通過点の一つである、『もう一人の辺境王アロイス』がお茶をしている岩場の下にさしかかった時だった。

 かつて辺境軍の兵士をしていたザーランド侯爵の私兵たちが、ウルバンを見て叫んだ。


「あいつ、本当に『狂王妃』のところに戻ってきてたのか!」

「本物です! あいつが辺境王アロイス・レミッシュです!」

「あいつ、あいつが、『ホーラン男爵』を買ったウルバン・ホーランだっ!」


 ザーランド侯爵は裕福であり、商業の盛んな土地を治めていた。

 商業が盛んということは、人が多く集まる場所ということだ。

 各地から集まる行商人たちを護衛してくる半獣半人の傭兵も、半獣半人を商う奴隷商人たちも、逃亡奴隷を追う奴隷狩人も、ザーランド侯爵の領地には大勢いた。

 ザーランド侯爵にとって、辺境軍から逃亡してきた兵士たちをまとめて購入するなど、実にたやすいことだった。


 ザーランド侯爵は承認欲求の強い男でもあった。彼は常に名声を求めていた。彼は、彼に仕える筆頭騎士団長ロタール・ラヤンに、アロイスを討ち取って名を上げてくることを命じた。あの『無敵の戦神』辺境王アロイス・ホーランを討ち取った男の主として、己の名が世に知られることを望んだのだ。


「ロタール様にお知らせしろ! ここに本物の辺境王がいる!」

 騎士の一人が、彼の従騎士であるらしい若い男に命じた。

 若い男は命じられるままに、ロタールを探して戦場を駆けて行った。彼の探す男が、退職を願い出るために、すでに帰路についているなどとは思いもしないで。



「おい、どういうことだ!」

 ヨストは叫びながら、元辺境軍の逃亡兵の胸に剣を突き立てた。

「こいつら、お前を辺境王アロイスだと言ってやがる!」

 ヨストはウルバンをふり返った。

「ヨストさん、なに言ってるんすか!? 辺境王アロイス殿下っすよね!?」

 マッツも戦斧をふるい、元辺境軍の逃亡兵を切り刻んだ。

「そうですよ、ヨストさん! どういうことだって、なんですか!? そちらのお方が辺境王殿下じゃないですか!」

 アイケも槍で元辺境軍からの逃亡兵の背中を突きながら、マッツの言葉に同意した。

「そうじゃねぇんだ! そういう話じゃねぇよ!」

 ヨストは地面に倒れている元辺境軍の逃亡兵の亡骸を見まわした。

「しっかりしてくださいよ、ヨストさん!」

 マッツがヨストに馬を寄せた。

「我らは辺境王アロイス殿下の私兵である! 死にたい者はかかって来るがよい!」

 アイケが槍を掲げて、ザーランド侯爵の私兵を威嚇した。

「ヨストさんはダメだ! アイケ、命令だ! その調子でザーランド侯爵の私兵を追い込んで行け! 俺はヨストさんを落ち着かせる」

「アァッ!? マッツ、オレがどうダメなんだよ!?」

「承知! マッツさん、どうかご無事で!」

 アイケは「お前ら、行くぞ! あいつらに悪夢を見せてやろうぜ!」と辺境王妃の私兵たちを鼓舞した。

 ウルバンとアイケ、辺境王妃の私兵たちは、ヨストとマッツを残して進もうとした。


 ヨストが左手の剣を鞘に納めて馬を繰り、ウルバンを追いかけた。

「ヨストさん、ダメっすよ!」

 簡単に横を抜かれたマッツが、馬を方向転換させているうちに、ヨストはウルバンの背中を斬りつけた。

「なにをする!」

 ウルバンがサーベルでヨストの剣を受けた。

「もー、ヨストさん、ダメですって!」

 マッツの戦斧がヨストに迫り、ヨストは左手用の剣を抜いて、戦斧を弾いた。


「マッツさん!」

 アイケがふり帰った。

「行け! 俺が残る!」

 ウルバンがヨストに向き直った。

「エゴン、お嬢様にヨストさんがウルバンさんに挑んでいると伝えてこい!」

 アイケが指示し、エゴンが「承知!」と答えながら、隊列を離れていった。

「アイケ、勝手な指示を出すな! お前にそんな権限はねぇだろ!」

「自分は輸送兵長であります! 部下を伝令として送り出す権限くらい持ってます!」

「小賢しくなりやがって!」

 ヨストが舌打ちをした。

「お前ら、行くぞ! 後ろは気にするな! 我らは辺境王殿下の私兵だ! 殿下が先頭におられなくとも、ザーランド侯爵の私兵ごときに遅れは取らぬ!」

 アイケが再び槍を掲げると、辺境王妃の私兵たちは雄叫びで応えた。


「ヨスト私兵長、なにがしたいんだ?」

 ウルバンはヨストからサーベルを引き、構え直した。

「このお方が辺境王殿下ですよね!?」

 マッツの構えた戦斧が、心の内の動揺を表すように揺れた。


「マッツもアイケも、そんな間抜けじゃねぇだろ? こいつ、本物の辺境王じゃねぇか!」

「だから……!」

「マッツ!」

 ヨストとマッツが同時に怒鳴りあった。


「言いたいことはわかってるっすけどね、ヨストさん。今はそれを問題にするタイミングじゃないっすよ! 話し合うなら、二千人のザーランド侯爵の私兵をなんとかしてからっすよ!」

「それじゃあ、遅せぇんだわ! ここで俺らが死んじまったら、誰がお嬢様をお守りするんだ? ――自分が娶る相手に向かって、旅の間ずっと半獣半人のふりをして仕えてやがった、そこにおられる変態の人間サマからよっ!」

「変態……」

 ウルバンが驚いた顔をした。

「ハッ、白々しい! なにをびっくりしたみたいな顔してやがる! 変態だろうが! 好き好んで『卑しい半獣半人』のふりなんかしやがる人間に、まともな野郎なんざいねぇ!」

「それはそうっすけど、今は敵を追い込まないと……」

「そんな程度なら、アイケでもできるだろうがっ!」

 ヨストが吠えた。


「その程度で済まなかった時のために、ウルバン将軍と俺らがいたんっすよね!?」

「その時はアイケに死んでもらうしかねぇ。それがオレら私兵の仕事だろうが。あいつだってわかってんだろ」

「ヨストさん……」

「辺境王アロイス殿下」

 ヨストはまっすぐにウルバンを見つめた。


「なにを企んでやがるか知らねぇし、知りたくもねぇ。俺はただ、閣下とお嬢様の敵を討つのみ。お嬢様を騙す男は敵。俺にはそれで充分だ」

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