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ハーピィとほのぼの暮らす〜元夫婦で転生したらしいです〜

作者: リーシャ

色んな人が居るのにその空間は真っ白。


そこにはハキハキと歩く人は居ない。


どこか足取りはフラフラしていて、ぼんやりしていて彷徨う様に歩いていた。


いつから此処に居たのか、いつまで此処に居るのか、分からない。


でも、嫌な気持ちにならない。


何となく待っていなければならないと思ったのだ。


誰を待っているのかも何故待っているのかもそれすら知らないのに。


迎えに来てくれると言っていたから。


何度か意識がはっきりしている足取りの人に貴方の番ですよ、と声を掛けられたが人を待っていますのでと言って座り続けた。


コツンと足音が聞こえてまた貴方の番と声を掛けに来たのかと思ったのだが、その靴の人はいつまでも声を掛けてこない。


「ミスカ」


誰の名前なのだろう。


そもそも己の名前なんて遠の昔に忘却している。


此処に長い間居たからかもしれない。


「迎えに来た。遅くなって悪い」


何となく良い声だと思った。


懐かしいという気もする。


何でだろうと考える前にその人は膝を付いたのか胸板が視界に入る。


「行こう」


どこに行くのだろうか。


「待ってなきゃいけないから」


一言添えれば皆納得していく。


けれど、彼は違ったらしく即答した。


「ああ、知ってる。それは俺だ。だから、もう待たなくて良い」


その発言にとうとう上を向いて相手を見た。


この人俺だって、言った。


なら、見れば己の待ち人が思い出せる筈。


ぼんやりした眼で強面なその顔を見た時、同時に手を引かれて立ち上がる。


自然に立ち上がった衝動に驚いた。


この人について行こうと心が、魂が思っているのだろう。


何故か分からないがそう感じた。


立ち上がると手をやんわり掴まれて、手を引かれ前へ歩む。


久方振りに足を動かしたが鈍い感覚も無く自然な動作で動かせた。


多分、肉体でないからだ。


此処が生前居た物質界でないのは本能で分かる。


周りに居る人も肉体があるようには見えない、けれど、形は人型。


此処に来たときにそういう説明をする人から来いた話では、此処は生まれ変わる場所らしい。


生まれ変わる為の受付、市役所のようなところだと。


けれど、生まれ変わるには約束の内容を守れないと思ったので待った。


受付から離れて長い時間を椅子の中で過ごし、通り過ぎたり待ち人を見つけやすい様に時折周りを見たりした。


途中、受付の人が来てこれ以上此処に居ると魂が削れてしまうと言われた。


それでも待っていなくてはいけないと強い信念を伝えて放置してもらった。


魂は削れてしまうけれど、削れても会えるのなら構わないと思ったから。


「そこの貴方、もしかしてその方の待ち人ですか?」


職員が話しかけて来た。


相手が対応してそうだと言うと職員は神妙な顔でこちらへ、と案内口調で座る場所へ足す。


その間、自分の意識はどこかふわふわしていた。


何かを話しているようだけれど、耳が遠くて聞き取り難い。


「その方は長い間此処に留まられて魂が削れてしまい弱ってます」


「もしかして消滅するのか」


「いいえ、只、記憶を持ったまま生まれ変わりをなされても完全に全てを思い出す事は出来ないと思われます」


「その代わり、それに見合った能力を添えてくれりゃあ良いさ」


「そうなりますとこのプランはどうでしょう」


「いや、こっちで良い」


「この世界は比較的危険地帯も多いですよ」


「行き過ぎた力は―」


「はい、ですが―」


聞いていても分からないのでいつものようにぼんやりと下を向いて待つ。


もう待ち人を待つ必要がないけれど、なんだか身体が上手く動かなくて聞くという動作でさえ辛い。


息切れはしないけれど重い重りを付けられて海に沈んでいるかのように感じる。


眼を閉じたらそれこそ二度と覚ませなくなりそうな気が。


決まったのか男がこちらを見て行こうと言う。


どこに行くのかと聞くと二人で暮らせる世界だと言われて、待ったのだから当然の事だと納得。


でも、欠けてしまった己で良いのだろうか。


「でも」


「お前の意見なんて聞く気はない。黙って付いてこい。不自由はさせないからな」


押してくる発言だが、不快に感じない。


ゆるりと手を握れば男は嫌がることなく寧ろぎゅっと握り返してくれた。


それだけで不安もなにもなくなる。


これからどこにいくのかも分からないけど、ついていきたいと薄く心が動く。


もう心なんてなくなった筈なのだけど、と首を傾げた。


役所の人のような男に案内されて扉の前に立つ。


ここはなんなのだろうと思う前に、男の名前を聞いておきたい。


共に行く人なのだから。


「……名前」


「それは向こうについてからだ」


男はこちらの言いたいことを汲み取ったのか、淡く笑みを浮かべ手を取り、ドアノブの上に乗せる。


「一緒に開けるんだ、わかるか」


こくりと頷く。


初めての経験に手を握れば男の手も添えられて、ゆるりと力が加えられる。


―キィ


明るい光が歓迎するように自分を包み込む。



目を開けると一軒家があった。


こじんまりしていて好きな雰囲気だ。


足取りはまだふらふらしていて、とてもではないが歩けないから休める事が大層嬉しい。


男は足取りを迷わせることなくずんずんと進めていて、住めるのだろうかと疑問に感じつつ、かちゃりとドアは開く。


「お前はまだ休む必要がある。寝てろ」


「はい」


頷いてぼんやりする頭で寝た。


起きてもやはり頭がぼんやりしていた。


記憶の欠損というのはこういうことなのだろうか。


意識が薄く。


感情も強く湧いてこない。


このままこうなのかもしれないが、別に良かった。


恐れるという気持ちが沸かないからだ。


こんな状態の女に看病して付き合ってくれている男は献身的である。


相手にとっては知り合いかもしれないが、嫌ではないのだろうか。


こちらを見つめる目がとても優しく、溶けそうになる。


こういっては変だが、その瞳は安心する。


慣れているというか、ポカポカする。


そうして二人で過ごしていると黒い小鳥が隣で鳴いていた。


いつから居たのかは知らないが、ちゅんちゅんと可愛い。


「あ、名前」


食べ物も自分で取れることをからだが思い出しし、己で食べているともやもやしていた頭の中が微かに晴れる。


「そういやそうだな」


男は今さらな言葉に気にした様子もなく、名前はショーンだと言われる。


名前を何度も反芻させ、違和感なくしんなりと耳に染み込む。


「私は」


言おうとしたが思い出せない。


まだ魂の欠損は治ってないからかも。


相手は焦るなと慰めてくる。


ショーンと呼ぶにはまだ頭がもやもやしていて、呼べそうにない。


「焦るな」


時間はたくさんあると聞いて、なぜだか嬉しくて涙が出た。


そうだ、時間はたくさんある。


いっぱい好きなことをしよう。


太陽の下で布団を敷いて寝てみた。


だれもいないので簡単に出来る。


黒い小鳥も参加してくれた。


まるで人間のように賢い。


「小鳥、さん」


「チュピ」


返事をした。


言葉を理解してくれていると思うのは流石にお花のようにふわふわし過ぎなのだろう。


「帰ったぞ」


ショーンが仕事を終えてきた。


聞いただけのことだが、冒険者になってモンスターを倒したりしていることを言っていたような。


「あ、こっち、です」


声を出して直ぐに庭に来てくれる。


声は小さかった筈だ。


耳が良いのだろう。


「珍しいな」


ここまでこうして行動することにたいしてのことだろう。


それまではボーッとしていてなにもしてなかったから。


「はい」


「おれも横に行って良いか」


頷く。


まともに会話したのは初めてだ。


いつもほぼ男が話しかけてきてこれをまともに動かない頭がぼんやり聞き流している。


魂が定着してないから、と説明を受けたけど上手く考えられないので、その説明すら頭に入ってこなかった。


それからまた数年。


漸く物事を把握出来るようになった。


それまではやはり頭がぼんやりして、意識も薄い。


「今はかなりはっきりしてて、あなたがいて良かった」


彼、ショーンへ話しかける。


良かったなと言われる。


しかし、それにしても。


何度も何度も確認したが、彼とはここへ移動する前は夫だったらしい。


どうにも、天国で待合室でずっとそこに座っていて、刺激もない日々だったせいで魂が時間を止め、動き出すまでこんなに経過してしまったとか。


それに関して待合室の案内をする人が説明してくれたけれど、私が頑なに首を降らず話を無視したのだという。


「私はなんで異世界に転生したのかな」


それに関してはプランに関係がある、とショーンは言う。


プランとは?


―フォォン


彼は目前に映画に出てくるホログラムのような見た目のものを出して、見せてくれる。


それはステータスという。


ステータスとはなんともアニメ系小説らしい表現だ。


現代らしい見方。


ショーンは微かに笑みを浮かべて頷く。


ミスカはボードを見てこれはなに?と聞く。


それはスキルと書かれている部分。


スキルの欄を出すためにやり方を教えてもらう。


翼の戦士というものがミスカのスキルらしいと知る。


それに関してプランがあるからなと笑う。


「戦士って何?なんだか戦闘を思わせるもののような」


「ハーピィの卵を貰った。これを育てりゃ良い」


「もしかして、この子の他に居るの?」


黒い小鳥かと思っていたが、ハーピィだったらしい。


ハーピィならば賢いのが納得。


良くお喋りしていたけれど、本気で伝わっているとは思わなかった。


「まだまだあるぞ。ほら、これを見ろ。沢山せしめてきた」


と、彼はガチャと表示されているタブレットに似たデバイスを目の前に見せてくれる。


せしめてきたという男は楽しげだ。


それを見るとなぜかこちらも頬が緩む。


心が喜ぶ。


よくわからないけど。


ガチャというものを試しに引いてみた。


虹色のものがころんと出てくる。


初めから高レアだなと驚く彼。


高レアらしい。


自分にはわからないけれど、そうらしい。


首を傾げて、ころんとしたものを触る。


ふわっとカプセルが溶けて消える。


まるで雲のように。


じっとみていると、そこから出てきたものは鳥の体をした、顔は人間。


「お、ハーピーだな」


ショーンは嬉しそうに、楽しそうにハーピーというものをみる。


ハーピーは懐いていて、可愛い。


懐いているところから始まるなんて、まさにシステムだなと説明口調のショーン。


二匹目のハーピーは育てる必要がないくらい賢かった。


ミスカは、それから花壇を作って水をやる作業を任された。


とりあえず一日中なにもしないままでは、いつまで経っても停滞したままなので、水やりして魂を刺激した方がいいらしい。


ハーピーも手伝ってくれる。


そのため、ずっとみておく必要がなくなったと彼は出かけるようになった。


この付近を調べたいとのこと。


ミスカはシャワーっと水やりをして虹を作る。


「なんて長閑」


ここまで長閑な暮らしなんて、よいのだろうか。


ハーピーが水汲みをしたジョウロを持ってきてくれたので、それを手に取る。


軽くその頭を撫でると、嬉しそうに鳴いた。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

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