三日月勇者の身代わりクエスト〜これには深い訳がある
三日月勇者の身代わりクエスト
(戦士ゼム視点)
「ぐぉぉぉー!」
腹の底から声を出して、魔王の唸り声を真似てみる。
(こんなんでいいのかな?)
剣士のカイが、うっかり一撃で魔王を倒したからよく分からない。
(まぁ、俺達しか聞いた事がないんだから適当でいいか)
俺は深く考えるのをやめて、魔法士のリズが操る魔王の動きに声を当てた。
何故俺達が魔王を演じる事になったのか。
これには深い訳がある。
『三日月を持つ者、聖なる輝きを得て悪き魔王を討ち滅ぼす』この神託を受けて、額に三日月のアザを持つ王子が勇者だと言われていた。
俺達は、その王子の身代わりを演じて魔王討伐を手助けする為に集められた冒険者。
三人の共通点は、Aランクの冒険者で身寄りが無い事だ。
危険なクエストだと分かっていたけど、高額の報酬に釣られて依頼を受けた。
まさか5年も一緒に居る事になるとは思っていなかったけど、三人で過ごす時間は心地よくて、魔王を倒した後も一緒に冒険がしたいと思うようになっていた。
だから、魔王を倒したのがカイだと知られるのはまずい。
なぜなら、国としては勇者は王子である方が対外的に都合がいいはずで、カイが本物の勇者だったと分かれば、真実が漏れる前に俺達の口を封じるか、監視ついでに都合良く使われて飼い殺しにされる可能性が高いからだ。
それに、俺達は自由を好む冒険者。
何かに縛られるのは好きじゃない。
5年も依頼という名の命令に従ったんだから、しっかり報酬をもらって早く解放されたいし、勇者の称号は王子が持っていた方が国の為に上手く使ってくれるだろう。
「ゼム、カイが戻ってきたわ」
リズの掛け声が合図になった。
まずは、王子が聖剣を抜いたらリズが魔法で強風を飛ばして、聖剣だけを後方に弾き飛ばす。
ここで、何故かカイが持っていた本物の聖剣と王子の持つ模造品をすり替えた。
それから、カイの護衛付きで王子を魔王の目の前に導いて、王子が聖剣で魔王の亡骸を貫くと同時に、聖剣に魔法で閃光を飛ばして魔王の最後を演出した。
「ぐぁぁぁー!!」
俺がさっき聞いた魔王の断末魔を真似ると、黒い塊となった魔王が床に倒れ伏して全てが終わった。
裏方の俺達は怪しまれないように、魔王に囚われていた振りをする。
心配そうな顔をして、カイは俺達に駆け寄り声を掛けた。
「ゼム、リズ、大丈夫か?」
「俺達助かったのか?」
「私、怖かった!」
リズ、演技だとしてもカイに抱き付くのはやりすぎだぞ!
こうして、俺達の身代わりクエストは終わった。
戦士ゼム設定〜
大きな町の孤児院育ち。(あまり良い環境ではなく猜疑心を植え付けられる)
基本他者との関係は広く浅く。
こんなに長く濃密な人間関係は初めてで、二人の事が大好き。
おちゃらけ脳筋と思わせて、一番色々な可能性を考えているお喋り。
特技 盾での防御とゴリ押しの剣技で何とかなるくらいの腕力。