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エリザの事情



「で、俺たちはどこに向かってるんだっけ?」


 ダンジョンを出た俺とエリザは一旦ハリノアに戻り、その足で森の中を進んでいた。

 気持ち的には一度街で休憩したかったのだが、エリザに促されるままの急な出発である。


「明確に決めてはいませんけれど、とりあえずコルカを目指そうかと」

「コルカ? 地名?」

「街の名前です。この辺りでは栄えている部類に入る都市ですね」

「それはつまり、さっきのところより人が大勢いるってことか?」

「はい。ハリノアは田舎街ですから」


 あの規模感で田舎……なら、俺が住んでいた山はどう表現するのが適切なのだろうか。

 そのものそのまま、山か。


「目的地はわかったけど、どうしてそこに向かっているのかという根本的な疑問にはそろそろ答えてくれるのか? 落ち着いたら話すの一点張りで、まだ聞いてないぜ」


 流されるままにエリザの後をついてきたが、果たして行動の真意は定かではない。

 まあ特にやることもないので、ついてこいと言われれば従うだけだが。

 我ながら意志がない。


「ああ、すみませんでした……そうですね、ほとんど杞憂みたいなものですが、保険といったところでしょうか」

「何に対して?」

「先ほどのダンジョンでの一件に関して、です。客観的に見れば、私とジンさんはオズワルドさんたち『覇王の道』を襲った規則違反者ですから……オズワルドさんが喧嘩に負けた話を言いふらすとは思えませんが、念のために彼らとは距離を取る方がいいかと」


 ふうん……そういう意味の保険なら、いきなりハリノアを出たのもまあ納得はできる。

 一つ腑に落ちないのは、なぜエリザと俺が共に行動しているのか、だ。

 ダンジョンを出たら一緒にいる義理もないだろうに。


「なあ、エリザ。行先を示してくれるのはありがたいんだが、別に仲良しこよしでいなくたっていいんだよ? コルカについたら別行動ってことで」

「……」


 途端に押し黙るエリザ。

 ……気まずい。


「えっと……」

「……ジンさんは、私と一緒にいるの、嫌ですか?」


 上目遣いで瞳を震わせながら、エリザが迫ってきた。


「嫌とかじゃなくて……君にもいろいろ、やりたいこととか目的とかあるんじゃないの? 俺といたって良いことないんじゃない?」

「目的、ですか」


 エリザはふっと目を伏せ、それから首を小さく横に振る。

 この仕草が否定を意味するのは、いくら育ちの悪い俺でも察することができた。


「……騎士団はご存じですか、ジンさん」

「まあ、名前くらいなら。実情は全く知らないけど」


 アスモデウスに課された修行の一つ、「ドキドキ耐久読書レース」で見かけた記憶がある。

 確か、ここイーレン王国が建国してから続く、国防のための組織だったっけ?


「騎士団とは、王国軍が設立する遥か昔から存在する伝統ある軍団のことです。聖天使団と協力し、イーレン王国を戦火から守ってきました」

「で、その騎士団様がどうかしたのか?」

「……私の生まれたノイマット家は、代々騎士を輩出する名家なのです。ですが、騎士団に入団できるのは男性のみ。女として生まれた私は、ただ次代の子をなすためだけの道具として扱われました。一区画に軟禁され、外出もままならず、ただ漫然と日々を過ごす人形だったのです」

「女に生まれたから、ね……どうでもいいことに縛られてるんだな」

「それも人間ですから」


 俺の率直な感想に対し、何とも言えない表情を浮かべるエリザ。

 笑っているのか、泣いているのか。

 それとも――諦めているのか。


「どこかに違和感を覚えつつも、これでいいんだと言い聞かせている自分がいました。私はノイマットの娘。女として生まれた責務を全うすればいいのだと……けれど、次第に違和感に耐えられなくなり、ついには家を飛び出したのです」

「そして今じゃ立派な冒険者か。不良娘だな」

「はい。私は不出来な娘ですが、代わりに自由を得ました。何にも代えがたい、掛け替えのないものです」


 言って、エリザはしっかりと微笑む。


「私の人生の目的は、()()()()()()()()()()()()()()()()()。好きな時に好きなことをして、好きなように眠って好きなように遊んで……ダンジョンに潜るのはまだ怖いですが、自由じゃなきゃ怖い思いもできません」

「……」


 自由。

 自由とは、つまりなんだ?

 アスモデウスと死に分かれ、一人で旅をしている俺は。

 果たして――自由なのか?


「ジンさんは死にかけている私を助けてくれました。自由に生きたい私にとって、その恩は何よりも深いのです。ですから、できればこの身が朽ちる時まで、ジンさんのお役に立ちたいのです」

「……俺の役に立とうとしたら、自由に生きられなくなるんじゃないか? またぞろ、エリザのことを魔剣に変えるかもしれないし」

「それでもいいのです。エリザ・ノイマットは、ジン・デウスの役に立ちたい……好きな時に好きなことをする、ですよ」

「……」


 真っすぐ見つめられ、思わず顔を逸らす。


「……じゃああれだ、俺のことを嫌いになったら……その時は離れてくってことだな」

「理論的にはそうなりますね。難しい問題です」


 特に否定もせず、エリザはふむぅと唸った。

 が、すぐにいつも通りの笑顔を浮かべ、


「……でも、ジンさんを嫌いになる方が難しいと思いますよ。こう見えて私、重い女ですから」


 嫌に得意気に、胸を張ったのだった。



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