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目的



「えっと……これはどういう状況なのでしょうか……」


 目を覚ましたエリザは、高々とそびえる氷の壁を前に言葉を失う。


「あ、起きた? 気分はどう?」

「少し頭がクラクラしますが他は大丈夫です……って、そんなことより何があったのですか? ジンさんの手を取ってからの記憶がないのですが」


 状況を飲み込めていないエリザのために、俺は事の顛末を説明した。

 人間を魔武器に変える魔術を使い、エリザを魔剣にしたこと。

 エリザの魔力を使ってオズワルドたちを氷に閉じ込めたこと。


「……なるほど。そんなことがあったのですね」


 エリザはうんうんと頷いてから、


「えいっ」


 俺の右肩をポカっと殴った。


「……何?」

「何、じゃありませんよ。人間を魔武器に変える魔術なんて、そんないわくが一つじゃ足りない技を勝手に使わないでください。私が人間に戻れなかったらどうするつもりだったのですか」

「許可なく使ったのは悪かったけど、一々説明してる時間もなかったしさ。人間に戻せるってのはアスモデウスから聞いてたから、心配ないと思って」

「全く……いくらあなたが命の恩人だからって、殺されたいわけではないのですよ? 次からは事前に告知してくださいね」


 頬を膨らませ、可愛く怒りを表すエリザ。

 次もいきなり武器に変えて怒らせたくなる。


「……その、アスモデウスさんというのが、ジンさんを育てたという悪魔なのですか?」

「そ。ちょっとは信じる気になった?」

「にわかには信じ難いですが……アスモデウスさんは今は何をしていらっしゃるのですか?」

「死んだよ。少し前に」


 事実を端的に伝えると、エリザは申し訳なさそうに俯いた。


「すみません、出過ぎたことを……お悔やみ申し上げます」

「いや、別にいいよ。悪魔にお悔やみってのも皮肉だし……まあ彼女が死んだから、俺はこうして一人古巣を出て旅をしてるってわけ」

「彼女……女性の方だったのですね」

「見た目はな。厳密に女だったのかは知らないし知りたくもない」


 あの人が母親だったのか父親だったのか、そんなことは今となってはどうでもいい。

 重要なのは、アスモデウスという悪魔に育てられたこと。

 それだけだ。


「アスモデウスが死に際に『人間らしく暮らしてね』なんてほざきやがってな。他にやりたいこともないし、まずは冒険者になってダンジョンに潜ろうって算段さ」

「……人間らしく、ですか……」


 急に歯切れが悪くなるエリザ。

 俺の言葉の何かが引っ掛かったらしい。


「……そういう事情でしたら、このダンジョンで手に入れた魔石を持って帰ることはできませんよ、ジンさん」

「えっと……なんで?」

「私たちは現状、規則違反状態……不正にダンジョン攻略を行っています。よって魔石を持ち帰ることは違法です」

「合法でも違法でも金になるならいいよ。エリザに迷惑は掛けないさ」

「いいえ、ダメです。人間らしく暮らすためには、人間の作ったルールに従わなければいけません」

「……」


 馬鹿真面目が再び登場してきやがった。


「初めは事情を知らなかったので協力するつもりでしたが、今はもうダメです。アスモデウスさんはきっと、ジンさんに立派な人間になってほしいと願っていたはずですよ」

「いや、あの人はそんなこと思わないって……」

「自分の子どもに、悪の道に進んでほしいと願う母親がいると思いますか?」

「まあ、あの人は悪魔だしな。そう願ってもおかしくない」

「でもジンさん、あの『人』って呼びますよね」

「……揚げ足取りだぜ」


 アスモデウスは悪魔だ、人間じゃない。

 それは()()()()()()()()()()()()()

 痛いほど、身に染みていることだ。


「とにかく、今回の攻略で得た魔石は処分しましょう。となると最深部まで潜る必要もありませんね。オズワルドさんのマーカーを使って脱出しましょう」

「勝手に話を進めんな……いや、マジで余計なお世話だって。アスモデウスの話は忘れてくれ。そして君だけ先に脱出してくれ」

「ジンさんを置いてはいけません……それに、アスモデウスさんに胸を張れる人間になるのでしょう? ここは我慢ですよ」

「クズ人間も人間だろ? 俺は別に真人間になりたいわけじゃ……」

「それこそ揚げ足取りで屁理屈です。せっかく素晴らしい力を持っているのですから、正々堂々冒険者としてダンジョンを攻略するべきですよ。このままじゃ悪者になってしまいます」

「……」


 こうも真っすぐ見つめられると、下手に反論する気も起きなくなる。

 人間らしくねえ……アスモデウスも随分と厄介な呪いをかけてくれたものだ。

 そしてこのエリザという少女も、実に厄介な性格である。


「……わかったわかった。とりあえず、この場は君に従うよ。オズワルドたちの氷を壊して、マーカーとやらを頂くとしよう」

「わかってもらえて何よりです」

「……ちなみに、君の恨みを晴らすって形で元仲間に痛い目を見させたけど、それは人間として正しいのか?」

「ふふっ……もちろんです。人間とは複雑な生き物なのですよ、ジンさん」


 ニコッと笑うエリザ。

 俺を責めていた時とは違い、一つの悪びれもないようだ。

 なるほどどうして。

 人間ってやつは、一筋縄じゃいかないらしい。



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