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潜行



「じゃあ、エリザは『覇王の道』ってパーティーに入ったばっかなんだ」


 九階層に続く魔法陣を探しながら、俺とエリザは森を歩く。


「はい……まだ一カ月そこそこでした」

「そんな短期間で首を切られるなんて、人格に問題あるんじゃ?」

「うう……ジンさん、デリカシーという言葉を知らないのですか」

「意味は知ってるけど使い方と活かし方は知らない。で、君はなんで追放されちゃったわけ?」


 エリザは軽くため息をつき、事の経緯を説明し出す。


「……昼間、ダレンさんの命令を無視したのが直接的な原因ですね。新参者の私が反抗するなんて生意気だと、置いていかれてしまいました」


 滅茶苦茶俺のせいだった。


「えっと……なんかごめん」

「いえ、いいんです。元々気の合う方たちではなかったので、いつかはこうなるんじゃないかと思っていました……『覇王の道』に入ったのは彼らが氷魔法の使い手を探していたからなのですが、私が活躍できるダンジョンは一週間前に攻略し終えたんです。いずれにせよ用済みだったのでしょう」

「だからってその辺にポイってのは酷いな」


 ゴミじゃないんだから。

 たまたま俺が居合わせたからよかったものの、不用心な仕打ちだ。


「ま、俺に魔法を使わないでいてくれたことには感謝しておくよ。無駄に戦うのも面倒だったし」

「感謝されるようなことでは……ジンさんの暴力は不条理なものではありませんでしたし、私も規則違反になってしまいますからね」


 言いながら、何かに気づいたように辺りを見回すエリザ。


「その……つかぬことを伺いますけれど、ジンさん」

「ん?」

「まさかとは思いますが、ソロでダンジョンに潜っているのですか?」

「そうだけど、何か問題ある?」

「も、問題大ありです!」


 俺の雑な返答を聞いたエリザは、わかりやすく慌て出す。


「ダンジョンには最低三人以上のパーティーで挑まなければならないという規則があるんです! そもそも、赤魔法陣ダンジョンに一人で入るなんて自殺行為ですよ!」

「へー」


 ここでも規則か……アスモデウスの言っていた通り、人間の作るルールってのは面倒くさいものが多いらしい。

 人間らしく生きてという彼女の遺言も、中々無茶な注文である。


「まあ、もう入っちまったもんはしょうがないし、先に進むしかないだろ。規則違反ってのも、エリザがチクらなければバレないだろうしな」

「うう……あなたが命の恩人でなければ通報しているところですが、ここは我慢します……」

「配慮に感謝するよ……とにかく今は魔法陣を探そう。最深部まで先は長いし、時間を無駄にしたくない」

「……最深部?」


 ふと、エリザの身体が固まる。


「……ジンさん、このままダンジョンを攻略する気なのですか?」

「そりゃ、そのために潜ってるからな……それに、脱出魔法陣は最深部にしかないだろ?」


 一度ダンジョンに入ると、最深部にある脱出魔法陣に辿り着くまで外には出られない……行きはよいよい帰りは恐い、である。


「えっと……一応尋ねますけれど、()()()()は持っていますよね?」

「まーかー?」


 聞いたことがない単語なので脳内で処理できない。

 エリザのドン引きな表情を見るに、それを持っていないのは非常識なことなのだろう。


「そんな……ソロでダンジョンに潜る時点で規則違反なのに、マーカーまで持っていないなんて……命知らずにもほどがありますよ」

「で、そのマーカーってのは何なんだ?」


 俺の問いに面食らいながらも、エリザは説明を続ける。


「……ジンさんの仰る通り、脱出魔法陣はダンジョンの最深部にしか存在しません。ですから、普通のパーティーはいつでも外に出られるようにマーカーを準備しておくんです」

「そいつがあると好きな時に脱出できるのか?」

「はい。マーカーは二対一組になっていて、片方をダンジョンに設置、もう片方は再度潜る時のために手元に置いておきます。一度マーカーを設置すれば、入り口から直接その階層へ移動できるんです……いわば中継地点ですね。高難易度ダンジョンの設置済みマーカーは高値で取引されるのですよ」

「へー」

「ちなみに、そうやってマーカーの売買を専門にする冒険者のことをシーカーと呼びます。熟練のシーカーたちは、黒魔法陣ダンジョンの深部にまで潜ってマーカーを設置してくれるのです」


 深い階層まで潜るだけ潜って、マーカーを置いて帰る仕事か……俺には向いていないな。

 普通に魔物を倒していった方が実入りがよさそうだ。


「てっきり、もう少し探索したら脱出するのかと思っていましたけれど……その様子だと、本当に最深部まで行くのですね」

「もちろん……ま、エリザはそのマーカーとやらで外に出なよ。ここら辺は安全そうだし、周りを見ててやるからさ」

「あー……それがですね……」


 途端に、何か言いづらそうに口をもごもごさせるエリザ。


「……もしかして、君も持ってないの?」

「……私たちはシーカーではないので、パーティーで一つのマーカーしか持っていないんです。その一つはリーダーであるオズワルドさんが持っています」

「じゃあダメじゃん。最深部まで行かないと」

「いえ、オズワルドさんは十階層にマーカーを設置するはずなので、そこまで行ければ大丈夫……なはずです」


 自信なさげだが、とりあえずエリザは十階層まで下りたいらしい。


「あの……こんなことを言うのは差し出がましいのですが、ジンさんも一緒に脱出しませんか? 一人で潜るなんて危険過ぎますよ」

「俺なら大丈夫。っていうか、君たちだって四人で攻略してたんだろ? 一人も四人も変わらないさ」

「いや、それは充分差があると思いますけれど……」

「一桁の内は誤差。それに、昔から修行と称したイジメを受けてたお陰で一人で潜るのは慣れてるんだよ……あ、ギルドには内緒な」

「もちろん言いませんが……」


 エリザは心配そうにこっちを見つめてくる。

 俺の言葉を愚かな蛮勇だと思っているのか……とりあえず信じられていないのは確かだ。


「例え俺が野垂れ死んだとしても、エリザには関係ないだろ? 心配するのは勝手だけど、今は自分が無事に脱出することだけ考えなよ」

「命の恩人に簡単に死なれては困ります。しっかり恩返しさせてください」

「まるで恩の押し売りだな……そんなに言うなら、最深部まで付き合ってくれてもいいんだぜ?」


 もちろん断られるとわかっての軽口だ。

 この子がついてきてくれると()()()()()のは確かだが、無理強いするほどでもない。

 ……と、思っていたのだが。


「……わかりました。ジンさんに救って頂いた命です、従います」


 俺の予想に反し、エリザは覚悟を決めた面持ちで頷く。

 恩義に厚い少女だことで……あまり真っすぐ見つめられても挨拶に困るが。


「腐ってもSランクパーティーの一員でしたし、お役に立つ自信はあります。先ほどは無様な姿を晒しましたけれど、氷魔法が利く魔物になら遅れは取りません」

「一応自信はあるんだな。意外って言ったら失礼かもだけど」

「いえ、いいんです。無理にでも自分を奮い立たせないと逃げ出しそうなだけですから」

「いや、そんなに嫌なら別についてこなくていいって」

「もう決めました。私はジンさんのために戦います」


 真面目人間。

 良い奴なのだろうが、こと戦場においてはこういう人間から死んでいくのだろう。

 オズワルドが嫌悪するわけだ。


「……ま、一緒に来るなら止めないさ。ただし、分け前の話だけはきちっとしておかないとな。無用なトラブルは御免だぜ」

「魔石は全てジンさんに差し上げます。本当なら私は死んでいたのですから、何も受け取る権利はありません」

「……」


 訂正……真面目を取り越して馬鹿。

 離れたところから見ている分には面白いが、身近にいると厄介なタイプである。


「……さすがに無報酬ってわけにはいかないから、君の活躍具合に応じて出来高制でどう? レートは俺基準」

「いえ、受け取れません」

「受け取れ。命令」

「……わかりました」


 強制すればある程度は聞いてくれるらしい。

 別にエリザの力に頼る必要はないのだが、魔力を温存できるならそれに越したことはない……精々頑張ってもらうとしよう。


「じゃ、決まりだな。俺たち二人でダンジョンを攻略する。そっちの報酬は適当に。おっけー?」

「承知しました。必ず役に立ちます」


 馬鹿真面目に決意を表明したエリザをつれ、俺は下層を目指す。



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