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邂逅



 ダンジョン内で階層を移動するには、入り口同様魔法陣を使う。

 各エリアのどこかにある魔法陣を探し出し、順々に深層へと下っていくのだ。


「……成果、芳しくなし」


 八階層まで潜ったが、目ぼしい魔石は手に入らない。

 一階層で倒したゴブリンたちは論外として、それ以降も鳴かず飛ばずである。

 やはり、深部までいかないと強力な魔物は現れないようだ。

 まあどっちにしろ最下層までいかなければならないので、道中の成果を気にする必要もないけれど。


「……ん?」


 先刻の反省を活かしてしっかり警戒しながら進んでいると、微かに戦闘音が聞こえた。

 魔物は基本的に人間のみを襲うようインプットされているので、戦いがあればそこには人間がいることになる。


「……よし」


 なるべく関わり合いたくないので、真逆に進路を取ることにした。

 幸いと言うべきか、あれだけ派手に音を鳴らしていれば周囲の魔物の注意も引いてくれるだろうし、今のうちに階層移動用の魔法陣を探すとしよう。


「……」


 が、違和感。

 いや、違和感というより確かな予感と表現した方がしっくりくる……戦闘音が段々と近づいてきているのだ。

 敵から逃げているのか、はたまた追い詰めているのか。

 どちらにせよ、急いで移動した方がよさそうだ。


「ギャアアアアアアアスッッッ‼」


 しかし判断が遅かったようで……音は無視できない位置まで接近してきた。

 さすがに鳴き声で魔物の種類を判別することはできないが、大型種の声量らしいことは窺がえる。

 さて、一体どういう状況になっているのか……


「きゃああああああああっ‼」


 女の子の悲鳴。

 連続する爆発音、木々が薙ぎ倒される破壊音。

 十中八九劣勢の状態。

 さあ、どう動く?


「……先手必勝」


 地面を強く蹴り、悲鳴の元へ。

 ここまで近づいてきてしまった以上、野放しにするのは得策じゃない……手早く叩くのが吉だろう。


「【アイスレイド】‼」


 突如、凄まじい冷気が前方から流れてきた。

 事態を把握するため、背の高い木をつたって樹上から観察する。


「……」


 魔物視認――アイアンキャタピラー。

 鋼鉄の殻を纏った芋虫型の魔物で、身体を丸めて地面を転がり相手を押し潰すのが特徴。

 特筆すべき点は体長の大きさくらいか……軽く十メートルはある。

 見た目通り、あれに潰されれば並みの人間に命はない。


「……」


 続いて確認――逃げているのは青い髪の少女一人。

 あれは……昼間、ギルドにいた女の子か?

 彼女以外に人影はなく、一人で必死にアイアンキャタピラーの猛追から逃れている。

 氷属性の魔法で応戦しているが、鋼の外殻には通用しないようだ。


「……とりあえず止めるか」


 アイアンキャタピラーくらいならわざわざここで迎え撃つ必要もなかったが、あの子を見殺しにするのも違うだろう。

 今夜食べる飯が不味くなるのはごめんだ。


「五、四、三、二、一……」


 目標との距離を測り――跳躍。

 空中で右足を大きく振り上げ、けたたましく転がる鋼の塊目掛けて踵を落とす。

 ズズン。


「……ふう」


 敵の動きを止めるための攻撃だったが、普通に殺してしまった。

 やはり黒魔法陣に出現する個体より柔らかいのだろう……一手間減ってラッキー。


「あ、あの……」


 後に残った魔石を拾い上げていると、尻もちをついた女の子が声を掛けてきた。

 踵落としの衝撃で吹き飛ばされるのがチラッと見えていたけれど、思いの外元気そうである(他人事)。


「その……アイアンキャタピラーはどうなったんですか?」

「どうって、見ての通り。ぺしゃんこになってあの世逝き……魔石になってずた袋の中へ、って感じ」

「……あなたが倒したのですか? 踵落とし一発で?」

「そこで見てたならわかるだろ? 君の氷魔法はダメージ与えてなかったみたいだし、分け前の相談だったら乗る気はないぜ」


 実質、というか事実俺一人だけで倒したのだ、魔石は独り占めで当然。

 がめついとは言わせない。


「分け前は別にいらないのですが……すみません。あの魔物を外殻越しに物理的に倒すなんて、少し驚いてしまって」

「ああ、普通の人間からしたらちょっと硬いらしいね」

「……まるで、あなたは普通の人間じゃないみたいな言い方ですね」

「まあな。悪魔に育てられたからさ、変わってる自覚はあるよ」


 俺の言葉を聞いた少女は、大きな青い瞳をさらに丸くする。

 ガラス玉を埋め込んだような煌めきを放つその瞳に、思わず見とれそうになった。


「……ギルドでオズワルドさんを殴った時は怖い人だと思いましたけれど、そういう冗談も言うのですね」

「冗談じゃないんだけど……まあいいか」

「私はエリザ・ノイマットといいます。あなたのお名前を伺っても?」

「……ジン・デウス。別に覚えなくていいぜ、君のことも忘れるだろうし」


 俺の名前を聞いた少女――エリザは、よろけていた姿勢を正してこちらに向き直る。


「ありがとうございました、ジンさん。あなたは命の恩人です」

「大袈裟だな、やめてくれ。あのままあいつを放っておいたら俺も困るし、利害が一致しただけだよ」

「例えそうだとしても、命を助けられたことは事実です……何とお礼を言ったらいいのか。この御恩は一生忘れません」

「いや、そういうの困るんだけど……」


 他人にかしこまられた経験なんて皆無なので、どう接したらいいのかわからない。

 おどおどする。


「それより、他のお仲間はどうしたの?」


 とりあえず話を逸らすため、一応気になっている疑問をぶつけると、


「……オズワルドさんたちは、私を置いて下層に下りていきました。追放、ってやつですね」


 エリザは、悲しそうに顔を伏せたのだった。


「追放か……」


 それはまた、何ともキャッチーでポップな言葉である。



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