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偉い人



 全くの無抵抗でギルドを出ると、立派な馬車が三台、待機していた。

 以前俺が乗ったようなボロ馬車ではなく、しっかりとした客車付きである。


「ここからしばらく移動する。くれぐれも大人しくしているようにな」


 集団の中で一際偉そうな軍人に言い含められ、俺たちは固い椅子に腰を下ろした。

 ガタンッ、と荷台が跳ね、馬車の動き出しを告げる。


「……」

「……」

「……」


 沈黙。

 このまま目的地まで黙っていてもいいが、確認すべきことはしておこう。

 まずは……、


「……なんで君まで付いてきたわけ?」


 俺の視線の先で、青い髪の少女――エリザがビクッと震える。


「それは……だって、ジンさんもライズも仲間ですし、お二人だけで行かせるわけにはいきませんから」

「そ……まあいいけどさ」


 よくもまあ、自ら好き好んで軍に連行されるもんだ。

 仲間想いなのか、ただの馬鹿なのか……両方だな、うん。


「とりあえず手錠はされていませんし、私たちを手荒に扱うつもりはなさそうですね。本当に話を聞きたいだけなのでしょうか?」

「どうだかな。今気にしても仕方ない」


 俺たちの処遇はいずれわかることだ。

 だから今は、別の確認が先である。


「……で? 軍との間に何があったんだ、ライズ」


 俺はエリザの隣に座るライズに視線を移す。


「……特に何があったわけでもないよ。闇ギルドに遭遇したら軍に報告する決まりになってるから、その通りにしたんだ。赤魔法陣ダンジョン探索中に襲われて、返り討ちにしたって」

「それで?」

「それで……ジンさんのことは、秘密にしてた」


 俯きながら続けるライズ。


「だってジンさん、単独でダンジョンに潜ってたでしょ? それってバリバリの規則違反だし、報告するわけにもいかなくて……だから、『紅い月』のメンバーだけで何とか討伐できたってことにしたの」

「その嘘がなぜか露見した、ってことか」


 ライズのパーティーメンバーではない、何者かの存在……そいつを怪しんでの、今回の騒動というわけだ。

 つまりまあ、何と言うか……。


「つまり、ジンさんのせいってことですよね?」

「直球勝負に持ち込むな」


 エリザは軽く嘆息し、首を左右に振る。


「ジンさんがしっかりとルールを守っていれば、ライズは嘘を吐かなくて済んだのですよ? そうすれば、ギルドで衆目に晒されながら連行されることもなかったのです」

「わかってるよ……」


 こうして二人に迷惑を掛けているのは、俺の単独行動が招いた結果だ。

 悪いとは思っている……そこそこに。


「だとしたら、軍の目当ては俺ってことか……ルール違反のお咎めなのかねぇ」

「その程度の用件だったら、ここまで大事にはならないと思いますが……なにせ、あの聖天使団が絡んでいるのですよ? 超ド級のトラブルを起こさない限り、目を付けられることなんてないのに……ご愁傷様です」

「悼むな。まだ死んでない」


 王国最強の魔法組織、聖天使団。

 まさに悪魔の天敵だ……天敵という字面そのものが、既に因縁めいてはいるが。


「比較的丁重に扱われていますし、罪人って感じではないのでしょうけれど……いざとなったら即、ジンさんを売りますからね」

「命の恩人をなんだと思ってるんだ」

「この人は前々から規則違反を繰り返していたのです。是非是非厳正なる処罰をお願いします」

「ロープレをするな」


 感情に訴えようとするんじゃねえ。

 いざとなったら、虚偽の申告をして全員道連れだぜ(理不尽)。


「ま、何考えても杞憂だな。馬車の旅でも楽しもう」

「楽しむも何も、景色、見えませんけれどね」

「振動を楽しむんだよ」

「暇人の極致ですか」


 そんな風に、他愛もない会話を続けること数時間。

 実に緊張感のないまま、馬車は目的地で停止した。


「着いたぞ。降りろ」


 眩しい光に目を細めながら地面を踏み、ここが森の中だと気づく……どうやら軽く一山くらいは越えてきたらしい。

 通りで振動が強かったわけだ(腰痛い)。


「当然だが、この場所のことは一切他言無用だ。くれぐれも外部に漏らすなよ」

「漏らすも何も、ここがどこだか見当もつかないよ。心配し過ぎると老けるぜ」


 最後の一言が余計だったのか、男が睨みつけてくる。


「もう、ジンさん。大人しくしていてください」

「してるじゃん。動いてないよ」

「ついでに口も閉じてください」

「ふぁい……」


 エリザに唇をつままれ、無理矢理閉口させられた。

 割と屈辱的である。


「では行くぞ」


 軍人たちに周囲を囲まれながら行軍していると、自然の中には似つかわしくない建造物が出現した。

 山小屋というには些か大き過ぎるその建物に入り、エントランスを抜けて廊下を進む。


「……なあ、ここ何だと思う? 軍の秘密施設とか?」

「黙ってください」


 再び唇をつまもうとしてくるエリザの指を回避しながら、突き当りの部屋まで辿り着いた。


「リース様! 例の者たちを連れてきました!」


 先頭に立つ男が扉を開け、俺たちだけ中に入るようにとジェスチャーする。

 促されるまま入室し、観察。

 縦長の部屋に長机が一つ、採光効率の良い大きな窓に、高価そうな調度品が数点……そして。

 椅子に腰掛ける、白髪の人物が一人。


「ようこそ、自慢の別荘へ……私の名前はリース。聖天使団序列五位の、ただの偉い人だよ」



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