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成敗



「ぐっっっ……くぅ……」


 男女平等パンチによって吹き飛んだシスティーは、苦しそうにうめき声を上げている。

 情け容赦なく殴ったつもりだが(字面だけ見ると酷い)、戦闘不能には負いこめなかったようだ……あいつもあいつで、それなりに防御魔法を扱えるらしい。


「ほら、これで有言実行だぜ」

「……中々、やるじゃない」


 うずくまっていた身体を起こし、システィーはキッと俺を睨んだ。

 その口元は、薄っすらと笑っている。


「はっ、ははっ……きゃはははははっっっ‼ 君、やっぱりとっても面白いじゃないの! そこらの冒険者とは出来が違うわ! きゃはははっ!」

「お褒めに預かり光栄だよ」

「きゃはははっ……って、調子乗ってんじゃねーぞ、このダボが‼」


 いきなりぶち切れやがった。

 あの女自身が爆弾みたいな性格だな、おい。


「たかが一撃入れただけでいい気になるなよなぁ⁉ こちとら、おめーが赤ん坊の頃から人を殺しまくってんだ‼ 弁えろよ、ダボが‼」

「キャラ変わり過ぎだろ」


 さすがについていけないって。

 しかも俺が赤ん坊の時からって……一体あんた、何歳?

 かなりお年を召しているなら、あの笑い方はきついぜ?


「……っと、いっけなーいいっけなーい。私、熱くなると言葉遣いが荒くなるのよねー。きゃははっ!」

「いや、今更無邪気に笑われても笑えねー……」

「うっさいんじゃボケェ‼ 【サンダー・ボム】‼」


 えらくいきなり戦いが再開したが、さっきと同じように対処すれば問題は……


「……っ!」


 余裕綽々に構えていた俺を嘲笑うかのように、システィーの放った爆弾は軌道を変え。

 ライズ目掛けて、一直線に進んで行った。


「ちぃっ!」


 無理矢理地面を蹴り上げ、最速最短で後方に跳躍――爆弾がライズに届く前に、間一髪で受け止めることに成功した。


「きゃはははっ! そうよねそうよね、君はそいつらを庇うしかないわよね! だって、そのために格好よく登場したんだもの!」

「……だったら何? 実際こうして守ってるんだから、あんたの攻撃は失敗だろ?」

「失敗? ええまあ、今のはそうね……でも、そうやって他人を守りながら私を倒せるのかしら?」

「……」

「君の防御魔法、()()()()()()()()()()()()()()()()()()? ……もっと正確に言えば、君の身体を覆うように魔力の鎧を身に纏っている、ってところじゃない? 私の爆弾を防ぐ時、わざわざ抱きかかえているのがその証拠よね。きゃははっ!」


 まずった、気付かれたか。

 システィーの言う通り、【悪魔の加護(イリーガル)】が影響を及ぼしているのは俺の身体にだけ……奴の魔法を無力化するには、俺自身を盾代わりにしなければならない。


「だったらその女を狙い続ければ、必然的に君は身動きを取れなくなる……そんな状態じゃ、私を倒すなんて無理よね」

「……無理って言い切るのは早計じゃないか? 俺がここから遠距離攻撃をすることだってできるだろ?」

「確かに、その可能性は充分あるわ。でも、私を『ぶっ飛ばす』なんて啖呵を切る人間が、遠距離魔法を使えるなんて思えないけどね……きゃはははっ!」

「……」


 これはまた、随分と冷静に分析されたもんだ。

 俺の攻撃手段は専ら徒手空拳なので、あながち間違いでもない。

 いやまあ、実際のところ()()()()()()()()()()()()()()()()()()……この状況は、あの魔術を使うのに相応しくない。

 だって。

 俺は全く、追い詰められていないんだから。


「さあ、その身一つでどこまで防げるかしらね! きゃはははっ! 【サンダー・ボム】! 【エクスプロード】!」


 システィーの両手から、二対の爆弾が射出される。

 片方でも取り漏らせば危ないか……なんて、悠長に構えている暇はない。

 俺は急いで振り返り、へたり込むライズに左手を差し出した。


「ライズ、手を出して」

「え……ど、どうして……」

「トーストに頼まれたから。君を守ってくれって」


 半ば無理矢理、ライズの手を取る。

 痛みと焦りで汗ばんだ手のひらを強く握り込み、俺は魔術を発動した。


「【血の契り(ブライド)】」


 人間を媒介にし、魔武器を錬成する悪魔の術。

 天使の力である魔法では、絶対に辿り着けない禁忌の領域。


「……炎銃ライズ」


 生み出されたのは、赤々と燃える銃身を携えたライフル。

 ライズの魔力を弾丸に変え、紅蓮の炎を撃ち出す魔武器。


「【魔炎爆(バルモア)】」


 銃口から放たれた赤褐色の魔力はシスティーの爆弾を飲み込み、勢いそのまま前方の森を包み込んだ。


「きゃ、きゃああああああああああああああああああっ⁉」


 燃え盛る炎の奥から、耳に残る断末魔が聞こえる。

 かように、悪というものはいつか成敗されるらしい。

 だったら俺も――いつの日か、こうして焼かれる日がくるのだろうか。





「――――……んん」


 魔武器から人間の姿に戻ったライズが、静かに声を漏らしながら体を起こす。

 エリザ同様、状況が理解できずに呆然としているようだったが……すぐにハッと気づき、倒れたトーストの元に駆け寄った。


「トースト! ねえ、トースト! ねえったら!」


 目に涙を貯め、必死に縋りつくライズを見て――ほんの少し、心臓が痛む。

 アスモデウスを亡くした時の俺と、重なったからだろうか。

 もちろん、あそこまでみっともなく取り乱してはいないけれど。


「……今は気を失ってるだけだよ。でも、早いとこ街に戻って治療した方が良い」


 声を掛けるか一瞬迷ったが、このまま放っておいたらトーストたちが危険である。

 今は一刻も早く、マーカーを使って脱出するべきだろう。


「そ、そうね……うん、その通りだわ。待ってて、すぐにマーカーを設置するから……」


 半分放心しつつも、気丈に準備を進めるライズ。

 目の前の脅威は去ったが、仲間の命が危ないことに変わりはない……彼女が焦るのも当然だ。


「……なんて、俺がわかることでもないんだろうな」

「? 何か言った?」

「いや、何でもない……トーストたちは俺が担ぐから、ライズには道案内を頼んでいいか?」


 俺の独り言を気にする余裕もないのだろう、ライズは「わかったわ」とだけ返事をし、マーカーを起動する。


「ごめんね、トースト……ごめんね、みんな……」


 脱出の際、譫言のようにそう呟いていたライズの顔を。

 俺は、直視できなかった。



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