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決意表明



「闇ギルド、ね」


 確か、エリザとの会話の俎上に載ったことがある。

 王国の在り方に反発しているテロリストで、時には冒険者を襲うこともあるとか何とか……絶賛、その現場に居合わせちまったわけか。


「話には聞いてたけど、噂通りの小悪党だな。ちまちま冒険者なんてイジメて楽しいのか? あんたたちには大義があるんだろ?」

「あら、知ったような口を利くわね……まあ、上の方の連中には立派なお題目があるらしーけどー? 私みたいな下っ端にはそんなのカンケーないのよ。きゃははっ!」

「自分から下っ端を名乗るなんて、あんたも普通に変人だな」

「だって事実だもの。それに恥じてもいないしね。私はこうして自由に暴れられればそれでいいのよ」

「破壊主義で快楽主義ってことか。くだらない」


 ポロっと感想が漏れたが……実際、それほどくだらないとは思わない。俺自身、日々を無駄に消費しているだけに変わりはないのだから。

 ただまあ、目的の果たし方が気に食わないのは確かだった。


「刹那主義で享楽主義なのよ……それにほら、殺す相手があのいけ好かないデリオラの弟子だなんて、サイッコーに楽しいでしょ?」

「……まあ、そうなんだろうな」


 言葉の端々に何度か登場しているデリオラという人物は相当な有名人らしいしが、当然この俺が知っているはずもない。

 が、ここで茶々を入れると話が間延びするので、適当に相槌を打つことにしたのだった。


「ふうん? 共感されるとは意外ね……挑発のつもりだったんだけど。もしかして、君も冒険者なんてクソくらえって口かしら?」

「別に、何の思い入れもないだけ。ただの職業だろ、こんなの」

「きゃははっ! 君、やっぱり面白い人ねー。大体の冒険者は無駄にプライドが高いものだけど、あなたは違うみたい……ますます変人だわ」


 愉快そうに口角を上げるシスティー。

 まるで、新しいおもちゃを見つけた子どものようだ。


「君みたいな面白い冒険者を殺すのはもったいないけど、でも一応、命令だから。この場にいる人間はぜーいん皆殺しにしなきゃいけないの……悪く思わないでね」

「ま、他人の行いを悪いだ何だって言う筋合い、俺にはないからな」

「それはまたどうして?」

「さあ。少なくとも、あんたには関係ないよ」


 俺は静かに腰を落とし、臨戦態勢に入る。

 システィーの魔法が【悪魔の加護(イリーガル)】を貫通することはないだろうが、広範囲に被害が及ぶ以上、ライズやトーストを守りながら戦う必要が出てくる。

 はてさて、そんな戦い方はしたことがないのだが……どうしたもんか。

 なんて、柄にもなく周囲の心配をしていると、


「な、何してるのジンさん! 早く逃げて!」


 後ろから、ライズの張り詰めた声が聞こえてきた。


「その女は闇ギルドのメンバーなの! 駆け出しのあなたが敵う相手じゃない! 早く逃げないと殺されちゃうわ! 私たちのことはいいから、すぐにここから離れて!」


 喋るのもやっとだろうに、大声で叫ぶライズ。

 この状況で、助けに入ってきた俺の心配をするとは……何と言うか、あれだ、彼女も真面目な人間らしい。

 全く。

 どいつもこいつも。


「何してるの、ジンさん! その女の強さは半端じゃないわ! Aランクの私たちがボロボロなのよ、見ればわかるでしょ!」

「……ああ、見ればわかるよ。あんたたちが雑巾みたいにボロボロで、今にも殺されそうってことがね」

「じゃあ、どうして助けになんてきたのよ! そんなの、命をドブに捨てるようなものじゃない!」

「せっかくこうして登場したのに、随分な言い草だな」


 言い方はともかく、やはりライズは俺の命を案じているらしい。

 藁にだってすがりたいだろうに……不器用な奴だ。

 不器用で、真っすぐな人間だ。


「……」


 やいのやいのと言い続けるライズを無視し、俺はトーストに目をやる。

 全身全霊を懸けて仲間を守ろうとした男が、俺みたいな若輩者の出現をどう思っているのか……少しだけ気になったのだ。


「――――――た、のむ」


 意識を失いかけ、命の灯すら消えかかっているトーストだったが。

 確かにはっきりと、口を動かしていた。



「――――ライズを、助けてやってくれ――――」



 声は聞こえずとも、そう伝わった気がする。

 直後、彼は電池が切れたかのように後ろに倒れ始めた……ギリギリでその巨体を受け止め、そっと地面に寝かせる。

 意識はなくなったが、まだ息はあるようだ。


「……」


 ……てっきり、お前みたいな新参者の出る幕じゃない、なんて悪態を吐かれると思っていたのだけれど。

 ライズを助けてやってくれ、か。

 まあ、意識が朦朧としていたせいで、俺が誰だか判別できていなかった可能性は大いにある……だとしたら、何だか騙してしまったようで申し訳ないが。

 ただまあ。

 頼まれたからには、精々働かせてもらおう。

 命懸けで仲間を守った男に対する、最低限の礼儀として。

 良い人間は、報われるべきだ。


「あら、よーやくくたばったのね、そいつ。俺は死なん! とか、仲間には指一本触れさせん! とか、口ではご立派なことを言ってたけど、結局弱っちい奴は弱っちいのよ……きゃははっ! 有言不実行ほどイライラするものって、この世にないと思わない?」

「……イライラするもんなんて、他にも腐るほどあるだろ。誰だって、常に何かにムカついてるもんさ」


 俺の混ぜっ返しに対し、まあ確かにねと頷くシスティー。

 あくまでも飄々と、余裕を崩さない女だ。

 だが、それでいい。

 そうでなければダメだ。

 あんたはとことん、悪者でいてくれ。


「じゃあここで一つ、有言実行ってやつを見せてやるよ」

「ふうん? 一体何をしてくれるのかしら?」

「至極簡単な話さ……お前をぶっ飛ばす」



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