本編 7
昔の面影が残っていたから名前が出てきたけど、身長はぐんと伸びたし、スーツが様になってるし、足が長いからスラッとしてて…素直な感想は…カッコいい。
効果的な努力を積み重ねて得た自信や余裕を感じた。
アンニュイな目が私に降り注いでいて、何故だかいやらしくも感じて。…なぜ私に降り注いでいる?
視線を辿り、私の格好を目に映すと息が止まった。
「っ……!」
ギリギリお尻を隠しているであろう長さの黒のワンピースだった。二層になっているけど、長めではあるがスケスケで、捲れていたのだ。
いきなりだったし油断もしてたから足は揃えてなかったし、丈は短いから…もしかして見えてしまったかもしれない。
慌てて手で隠すけど、今度は胸元のVラインがずれて溢れそうだったから引き上げた。ストラップが肩から浮いた。
「ふふ……」
口元に手を当てて笑った。目尻が下がり柔らかな印象になる。
あ。秀だ。懐かしさが込み上げてくる。
「安心して。着替えをさせたのは僕ではなくハナだから。目隠しさせようとしたけど、それを口実にいろんなところを触る可能性もあったからやめておいたよ」
私はベッドの上に下着が見えないように座り直した。
改めて見ると、キングサイズのベッドだったし、ただの鎖だと思っていたものはリードで私につけられた首輪と繋がっていた。
息が荒くなる。今になって状況が分かってきた。私はハナさんにここまで連れてこられて…囚われた!
首輪を外そうとガチャガチャするけど、鎖がそれに合わせて鳴るだけだった。
「首輪の内側は痛くならないような素材でできてるのを選んで正解だったね」
血の気が引いている私に対し、冷静に過去の自分を褒める秀。そんな秀の後ろに黒髪をオールバックしている…
「ね、ハナ?」
「はい、秀様」
男バージョンのハナさんがいた。顔のパーツが一緒だから分かった。
黒の蝶ネクタイに黒のスーツ姿、白い手袋を装着し、黒い小さな物入れみたいなものを持っていた。
「これ、外して! 逃げたりしないし、どうせ逃げられないでしょ!?」
「うんそうだね。だけどまだ外せない」
「なんで!」
「僕への誓いの印を刻むためだよ」
「誓いの、印……?」
秀はベッドの側まで来て左腕の袖を捲った。細くて白い腕が光に当たる。絹のような綺麗な腕に、黒い龍が生きていた。立体的で鱗も細かくて浮いて出ているようにも見える。
「例えばこれ」
「……」
「藤堂家の証。この印は藤堂の血を引く者に代々引き継がれていて、彫り師も特定の人にお願いすることが決められている。特別な技術が使われるからね。まぁこれは自分の意思で入れたわけじゃないけど、知っている人から見たら藤堂の人間だということが分かるわけだ」
「……」
「何かを見分ける時に使えたり、証明するために使える」
「……」
自分の腕をしまい、私に目を向けて微笑む。微笑んでいるだけなのに…なぜか私はびくっとしてしまった。言葉でも表情でもないなにかを察知した。
「僕への誓いの印を刻む前にやりたいことがあってね。……ハナ」
「はい、秀様」
ハナさんは、私に持っていた黒いものを差し出してくる。そこには鈴や七つの円が重なっている模様のもの、口枷や手錠の物騒なものまであった。
秀はそれらを見ている私の様子を観察していた。
「聖につけた首輪に装飾ができてね? どれかつけようと思うんだけど……どれがいい?」
「……首につけるものじゃないものがあるけど?」
「ん〜そうだっけ?」
「……」
「僕としては、どれでも嬉しいけどね。鈴だったら音で居場所が分かるし、ヒーリング効果があるんだって。音色で癒されることもあるんじゃないかな」
「……」
「鈴の隣にあるのはシードオブライフというもので、神聖幾何学模様なんだ。花のような形に見えるよね。聖って文字が入ってるから気になって調べたんだけど…」
「え?」
「ふふ。嘘だけどね?」
「……」
「恩恵を受けようと思って。願いを込めてっていうか……聖には教えて上げないけど」
「なんでよ!」
「ねーハナ?」
「はい、秀様」
「……」
掴めない人だ。ヒーリング効果を気にしてくれるところから昔のような優しさが見えるのに、からかったり秘密にしたり、意地悪なところがある。それに。
「どれにする?」
私を試すような、見極めるような視線を感じる。圧を感じる。
自ら口枷や手錠をつけて自由を奪われたいと言う人はほぼいないだろう。選択肢には入れたけど、秀も私がそれらを選ぶとは思ってないだろう。
それでもわざわざ私に見せてくるあたり、私をねじ伏せることは容易だといいたいのではないだろうか。抵抗できないようにすることも可能だと、大人しくしろ、と。そう言いたいんじゃないだろうか。