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月の使徒  作者: ゆきみや
8/11

行方不明

「見えた!」


 あの角を曲がって商店街へ走ればウルフの店だ!

 後ろを確認すると、追っ手はこない様子で一安心。

 動けるハンネスも、ヴィランの治療で手一杯なのだろう。

 まさか風の町に大麻の売却人がいるとは思わなかった。

 風属性の人々は植物に詳しい。だからこその犯罪なのだろう。


 商店街を一目散に走り抜けると、ウルフの道具屋前まで来れた。

 ウルフは商品の手入れをしていたが、僕を見るなり急いでレジ前まで駆け寄ってきた。

 僕が全力疾走して店にやってきたので、何かしらの予感を察したのだろう。


「クロハおめえ、随分と早い帰宅だな。連れの病気は治せたか? 魔具はどうしたんだよ。それに、何でそんな傷だらけで――」


 そう言われ、自分の服装を見た。身体中を風の刃で切られたせいで服のあちこちから血が滲み、足と脇は撃たれて血を流している。痛くないはずがない。激痛だ。

 だけれど、そんな事を言っている場合じゃない。


「話は後でするから! 今すぐこの町を出るんだ!」

「何を言っているんだいきなり……」


 ウルフは急な提案に、物凄く戸惑った様子を見せた。

 やっぱり知らないんだ。何もかも。


「事情は後で話すから! 一緒に来て!」

「おいおい」


 僕はウルフをレジから引っ張り出すと、強引に連れていこうとした。

 ……が、その手をウルフが振り払う。


「お前何言ってるんだよ! いきなり連れ出されて意味が分からない! それに、魔具は使ったら返せって言ったよな?うちの商売道具を失くされたら困るんだ」


 ウルフは僕の行動に納得がいかない様子だった。当然だ。

 だから、僕は全ての真実をウルフに打ち明けた。

 ウルフはただ呆然としていて、相当ショックを受けていたのが見て取れる。


「嘘……だよな?」

「本当なんだ、信じてくれ。とにかくここにいたら、ウルフが危ないんだ。一緒にここから逃げよう」


 僕がウルフに手を差し伸べると、ウルフは黙って下を向いた。


「分かった。けど、ちょっと待ってくれ」


 ウルフはそう言うと後ろを向き、レジ後ろにある旅人達と撮った写真を、自身の鋭い爪で全てを引っ掻いて傷つけ、雄叫びを上げながら、写真達を引きちぎった。

 そんなウルフに、僕はどう言葉をかけてやればいいのか分からなくて。ただただ、ウルフの行動を黙って見守ってあげるしかなかった。


 ウルフが全ての写真をちぎり終わり、こちらへ振り向いた。

 彼は嗚咽を我慢しながら、静かに涙をこぼしていた。

 自分が行ってきた全ての行動が、旅人を狂わせていたなんて。そんなこと、考えもしなかったのだろう。

 気付かずに自分の手で旅人を欺いていて、ただ人を助けたいと願い、なのに無知なせいで大切な人々の精神を崩壊させていた罪は、彼にとって重い所ではない気がする。

 僕はその顔を直視出来なくて、思わずウルフから顔を背けてしまった。


「一緒にこの町から逃げよう。そうすれば――」

「俺は警察隊に自首をする」


 静かに彼が口にしたその言葉は、自身の罪の重さ、酷い罪悪感を感じての言葉だろう。


「自首をして、牢屋の中で反省したい」

「ウルフは何も悪くないだろ! 君は何も知らなかったんじゃないか」

「だけれど罪を犯したことに変わりはないだろ!」


 ウルフが声を荒らげている姿を見るのは初めて見た。

 強く拳が握られていて、微かに震えているのが分かる。

 怒り慣れていないような声を発し、ウルフは自身の目からこぼれ落ちてくる涙を手で拭った。


「警察隊へは通報していない。裏商人も捕まりたくないから、ウルフが逃げて収入が減った所で何も言わないだろう。ウルフは優しい。だからいくらでもやり直せる」


 僕がそう言っても、ウルフは黙ったままだ。

 だけれど、動揺しているのが分かる。迷っているんだ。このまま逃げていいのか。自首するべきなのかを。


「今から向かうネクア王国は王国とだけあって、こことは桁違いに広く、商人も数え切れない程いる。そこでまた商売をすればいいんだよ」

「俺にもう、道具屋なんか……。また変な物を買わされて、裏の住人に利用されるだけだ」

「その点なら、裏と繋がりのある僕のダチを紹介する。彼は表向きでは情報屋として働いているけど、裏の魔具もひっそりと販売している奴です。裏商人から変な物を買うよう勧められたら、まず彼に電話で相談して―――」

「そいつがまた、俺をはめようとしたら?」


 ウルフが僕の言葉を遮る。その言葉は力強かった。

 自分を騙した裏の人間への怒り、憎しみが溢れていた。


「僕のダチは心の底から良い奴だよ。裏と繋がりはあるけれど、絶対に嘘はつかない。僕が保証するよ。もし彼がウルフに嘘を教えたら、僕が彼をボコボコにして牢屋にぶち込むから」


 僕がウルフの目を見て、真剣に答えると、疑いが晴れたのか、ウルフの表情が少し明るくなったように見えた。


「……こんなことを教えてくれるお前が、俺をはめようとする友人を紹介するはずがないよな」

「そういうことだよ、行こう。あ、でも連れが公園で待っているから、公園へ寄り道しても大丈夫?」

「おう。お前となら、どこへでもついていけそうだ」


 ウルフは簡単に荷物をまとめて布で包むと肩へ背負い、僕の後ろをついてきた。


「なんかそれ、泥棒みたいだね。リュックとかはなかったの?」

「うっせえな! リュックなんて持ってなかったんだよ!」


 ウルフは笑顔で、僕のいじりにも答えてくれた。

 僕が嘘をついている可能性もあるのに。出会ったばかりの旅人と店主だけの関係だったはずなのに。それも全く疑わずついてきてくれた。

 どこまでも純粋な心をしている。まるでアイネみたいだ。


 あ、そうだ。アイネにも連絡を取らなくちゃいけない。

 肩に乗っている伝鳥に呼びかけてみるも、やはり向こうからの返事は来ない。いつまで昼寝をしているんだ……。

 ここから公園まで走るとなると、もう夕方くらいになるだろう。

 子供をいつまでもほったらかしにすることは出来ない。


「ウルフ、悪いんだけど連れは子供なんだ。伝鳥で呼びかけをしても、全く返事がない。何かあったんじゃないかと思うんだ。公園までは走るよ」

「獣人の運動神経舐めるなよ。俺ぁー先に行く。ガキンチョの服装はどんな感じなんだ?」

「黒いワンピースを身につけていて、髪の毛は茶色。後ろに2つ結びをした小さめの女の子だよ。よろしく」

「おし、分かった。公園に到着してからすぐ捜索してみる」


 ウルフはそう言うと、店の屋根に飛び乗り、商店街の店の屋根達を一目散に駆け抜けていった。

 流石獣人だ。素で屋根に飛び上がるなんて到底出来ない芸当。

 ウルフの行動に思わず見とれてしまったが、自分の頬を両手で強く叩く。

 いけないいけない。僕も走って彼に追いつかなければ!

 僕も彼に続き、公園へ向かって一目散に走り出した。



 ―――――



 少年が地下室の入口を強引に突破し、去った後も、私は怪我をしたヴィラン様の傷の手当をしていた。

 ヴィラン様は少年が放った光の光線を体へもろに浴び、全身火傷の重症だった。綺麗な赤いドレスは無惨にも焼け焦げ、編まれた髪の毛も焦げてなくなり、肩につくぐらいの長さになられてしまっていた。

 雷鳥にやられ、気を失った下っ端の見張りは、腕が赤く腫れ上がっていて重症。

 あの雷鳥は指揮棒に攻撃をしていた。なのにこれだけの威力とは……。雷鳥相手となると、私は回避出来てもヴィラン様が危なかった。

 子供を相手に、みっともない姿をさらけ出してしまった。


「皆殺しにする、か」


 子供とは思えないような口調だった。彼は戦い慣れているのか?何なんだ一体。得体の知れない生き物を相手にしているようで、気持ち悪かった。

 私はすぐさま携帯で闇医者と連絡を取り、ここへ来るようにと伝えた。


 しかし、気がかりだ。あんな小僧が雷鳥の最大数を使い魔にしていた。雷鳥は飼い主がSSランク以上でなければ扱えないはずだ。SS級の動物は、使い魔にする位としてはかなり格上。

 捕獲依頼に行った人々のほとんどは捕まえられずに逃げ帰ってくるか、返り討ちにあって殺されるかの2択だ。

 それを上限の3匹保持だと……? 有り得ない!!

 光属性の人間は光の屈折、つまり相手に幻覚を見せることも可能だ。だとしたらあの雷鳥は脅しか? 小細工か?

 いや、違う。本物の雷鳥でなければ、下っ端の腕はああならない。

 気の玉を知らない裏の人間はいない。あの少年は純粋な子供だったはずだ。


 私にはヴィラン様を守れる自信があった。だけれど、あんな小僧にSランクのヴィラン様が負けるはずがないと踏み、ヴィラン様の邪魔にならぬよう、手を出さなかった。それがいけなかったのだ。

 もしかしたら彼。あの少年には、我々が総出で相手をしても勝てない程の実力があったのではないか?

 それは閃鳥の使い魔でも見て取れた。使い魔は飼い主のオーラ量と攻撃力が比例し、主にサポートをする存在だ。

 なのに、使い魔のみで頑丈な作りの地下室の壁に容易く穴を空けるほどの威力。人は指揮棒の腕が高ければ高い程、体内のオーラ量が多いとされている。


 それに、ヴィラン様に向けて放ったあの少年の指揮棒の威力は桁違いだ。下手をすればヴィラン様は殺されていた。

 だからきっと、あの少年はヴィラン様の攻撃を避けてばかりで、反撃をしてこなかったのだろう。

 一撃であの威力……。咄嗟に関わってはいけない奴だと、私の本能が理解していた。怒りに任せて彼へ指揮を振っていただけで、普段の冷静さが勝っていれば、即座に降参していたかもしれない。

 だけれど、目の前の相手が「子供」ということに、納得が出来なかったのだ。私のプライドが許さなかったのだ。


 子供とは思えないような指揮棒の力を振るい、使い魔を長く飼い慣らしているようなあの素振り。戦い慣れているかのような受け身や躱し方。

 あの小僧は、私よりも上のSSランク……いや、違う。それはどこか不自然だ。

 まさかR……なのか?

 そんな訳……! そんな事があってたまるか! 私でさえもランクはSSが限界だというのに!


 Rは最上位ランクだぞ!? Rランクは世界でたった5名のファイブ・ステラ率いる、世界でもごくひと握りの人間しかなれない圧倒的存在のことだ。何故だ。彼は容姿と実力が、まるで合っていなかった。

 ヴィラン様がやられた時、私は咄嗟に防御の姿勢を取った。いつもならヴィラン様に血を流させる連中は、私の使い魔を出して即座に食い殺すか指揮棒で殺すかで済んでいたのに、私はまず最初に彼へ水の盾を貼った。

 あの行動は恐らく、自身でも自覚がなかった、彼への恐れからだろう。

 私の使い魔が殺される事を恐れた。

 先に彼へ攻撃をしたら、ヴィラン様が殺されるのではないかと躊躇したのだ。


「彼は一体、何者なんだ?」


 そう呟いた時、頭を壁にぶつけて気を失っていた下っ端の1人が目を覚まし、辺りを見回していた。


「あの……」

「話は後だ。もうすぐ闇医者が来る。私は引き続きヴィラン様の処置をするから、お前は下っ端男の手当をしろ」

「はい、分かりました」


 そういうと、気絶していた男は頭を押さえながらも腰ベルトにあるポケットから薬品を取り出し、彼に取り掛かった。

 ヴィラン様のアレを見た時、殺されたのかと思った。だけれど脈があり、本当に安心した。

 安心と同時に、ヴィラン様をこんな目にあわせた小僧へのどうしようもない怒りと、小僧の指揮棒の威力に怖気付いている私がいた。

 彼と私が1体1の勝負をしても、私が負けるのは明らかだ。彼の素性を調べる必要がある。

 だけれど、今はヴィラン様の治療が最優先だ。私はヴィラン様をお守りする為に存在しているというのに、これ程の屈辱を味合わされたことなど、一度もなかった。


「小僧、今に見てろよ」


 私は、気を失ってしまわれているヴィラン様の顔や腕に包帯を巻きながら静かに呟き、歯ぎしりの音を立てた。



 ―――――――



 道具屋から走り続けて数時間。もうすっかり辺りは暗くなり始めていた。

 僕はようやく公園へと辿り着き、息切れをしながら公園を見回した。一日中走り続けて体力が……かなり削られている。

 ぐるりと見た感じだと、アイネの姿はない。

 そこへ、先に公園へ到着していたウルフと合流した。


「アイネ……連れは見つかった?」

「いいや、公園中をくまなく探してみたけど、それっぽいガキは見当たらなかったぜ」


 再びアイネと繋がっている伝鳥に呼びかけるも、無音だ。

 どこに行った? アイネに何かあったのは間違いないだろう。

 アイネに付いている伝鳥が殺されたか?いや、伝鳥はお互いをリンクしている。

 アイネ付きの伝鳥が死ぬと、僕の傍にいる伝鳥も死ぬはずだ。生きているのは間違いない。

 広場や商店街。あちこち探しても見つからない。何があった?


 これ以上無防備に探し続けるのは僕の体力的にもキツい。足を撃たれ、歩く度に激痛が走っている。もう歩くのはしんどい。

 何の手当もしずに走りっぱなしだったからか、撃たれた足と脇の出血が酷くなっている。血で脇腹付近の服が赤く染まり、靴は血で濡れて履き心地は最悪だ。


 ハンネスが撃ってきた高度な技術が必要な「水弾」は、速い上に弾が太かった。アレでSランクはおかしい。彼はSSランクが妥当だ。蜂の巣にされる所だったし、もう二度とあんなのとは戦いたくないな……。

 全身の痛みを堪えながら、僕は「誘鳥」と言い指を弾き、5匹の誘鳥を出した。


「連れを探してるんだ。黒い服を着ていて、後ろに2つ結びをしている6歳ぐらいの女の子」

「周リ、暗イ! 見ニクイ!」

「オ腹減ッタ!」

「水遊ビ!」

「悪いけど急用なんだ。頑張って探してくれ」


 そう言うと、誘鳥達が飛び去って行った。


「今のっておめーの使い魔かい?初めて見たよ」


 ウルフがポカーンとした表情で、飛んで行った誘鳥を隣で見つめていた。そうか。ウルフはずっとこの町で商売をしていたから知らないのか。


「誘鳥はS級の鳥で、魔物討伐によく使われる使い魔だから。あまり町では見ないかもね」

「へぇー、俺もオーラが元に戻って指揮棒振るえるようになったら、使い魔飼ってみよっかなー」

「ネクア王国に行けば、何かしら治す術はあると思うよ」


 そんなことをウルフと話していると、誘鳥が3匹戻ってきた。


「アイネはどこにいるんだ?」

「見ツカラナイ! 見ツカラナイ!」

「見当タラナイ! 見当タラナイ!」

「腹減ッタ! 腹減ッタ!」

「え?」


 見つからない?誘鳥は探し物に長けている鳥だ。見つからないなんてことあるか?

 後で戻ってきた2匹の誘鳥も「見つからなかった」と言っている。おかしい。ならどこにいるんだ?

 僕が困惑していると、ウルフは手持ちのクッキーを細かく砕いて誘鳥にあげながら、僕を見た。


「なあなあ、このお喋りな鳥達ってー、人の家の中まで確認すんの?」

「いや、誘鳥は上空を飛んで探すから室内までは探せないよ」

「外にいないんなら、どっかの家の中にいるんじゃね?」


 室内? 一体どこの家にいるんだ……?

 あれだけ公園で大人しくしろと言ったのにアイツは!!

 流石に全ての町の家を訪ねて回るとなると、朝になってしまう。勘弁してくれ。どこにいるんだ!


「アイネ! おい! どこにいるんだ!」


 伝鳥に呼びかけるも、反応はない。


「アイネ!!!」

『あっ、もしもしー。やっと繋がったやー』


 伝鳥から聞こえてきた声はアイネじゃない。まだ声変わりをしていない男の子の声だ。

 てっきりアイネが喋ると思っていたので、少し驚いた。


『いやぁーごめんごめん。晩御飯の支度をしていたから気付かなくって』


 晩御飯?やはり人の家にいたのか。声からして幼そうだし、誘拐などではなさそうだ。

 出来るだけ丁寧に尋ねることにした。


「すみません、女の子と一緒ですよね? どこにいますか?」

『女の子の保護者? 今から言う住所に来てもらっていい?』

「はい、どこですか?」


 僕は相手の少年から住所を聞くと、すぐさま移動――

 を、しようとしたのだが、脇に激痛が走り、よろけてしまい膝を付いてしまった。

 ウルフが気付き、僕の状態を見ようと跪いて背中をさすってくれた。


「おいおい、大丈夫かよ」

「ご、ごめん……大丈夫だから。先に少年が言ってた所へ向か――」

「ダチを置いて行けるかよ!」


 ダチ……。ウルフからしたら僕はもう、友達と思われているのか。

 隠し通すのはもう無理だ。痛みで出てくる汗を片手で拭った。


「実は、ちょっと町で揉めて……脇腹と足に水の弾を撃たれているんだ」

「はぁあ!?」


 ハンネスに撃たれたことは言わない。ウルフは優しいから、これを言うと彼は自分を責めてしまうだろう。

 ウルフは僕が止血で押さえていた脇の手を優しく掴んで離し、服を捲ると眉間に皺を寄せた。


「何でこれを先に言わねえんだよ! 辺り暗くて、お前のことよく見えてなかったんだよ! ちょっと待ってろ!」


 ウルフは荷造りをした布の結び目をほどき、包帯や薬が入っていると思われる瓶、ガーゼを取り出した。

 瓶から鋭い指で薬をすくい取り、ガーゼに塗るとそれで僕が撃たれた脇腹を押さえ、その後片手でガーゼの位置を固定しながら包帯を巻いていってくれた。薬が冷たい……。

 そういえば、僕が廃墟で階段から落っこちて首と背中を打った時も、アイネが同じようなことを言って手当てしてくれたな。風の人々は皆こうなのかな。

 アイネ、一体どこにいるんだよ。こっちは必死になって探し回ってんのに。


「貫通はしてねぇーみたいだな」

「ごめんウルフ、ありがとう」

「あんま喋んな。脇腹の処置が終わったら次は足だ」


 黙々と処置を施してくれているウルフに対して申し訳ないという気持ちと、早くアイネのいる所へ向かわないと、という焦りの気持ちが混ざり合う。

 だけれどウルフの言う通り、血を流したままこれ以上歩くのは厳しい。

 僕はウルフが傷の手当をしてくれているのを黙って見つめ、終わると袋から銀貨を取り出してウルフへ差し出した。

 ウルフは棒立ちで、受け取る素振りを微塵も見せない。


「は? いらねえよ」

「いやでも、治療してもらったから。借りを作るわけにもいかないし……」

「お前がこんな怪我をしたのは俺のせいだろ」


 強めの口調でウルフに言われた。

 ウルフには「町で撃たれた」と言ったのだけれど。

 魔具を持ち帰らず、傷まみれだったらそりゃあ……友人の件で巻き込まれたと思うわな。

 僕は嘘をつくのがあまり得意ではない。


「俺にあんたの金をもらう資格なんて1ミリもねえんだよ。早くそれしまえ」

「そう……でもありがとう」


 ウルフは銀貨を持っている僕の手を、無理に元の袋へ突っ込ませてきた。僕は仕方なく銀貨を自分の袋へ入れた。

 脇腹と足には手厚く包帯が巻かれていて、手で押さえていなくても、大丈夫なようになった。

 立ち上がり包帯の足を見てみると、少し痛みが減って歩きやすくなったことに気付く。顔や全身の切り傷にも薬が塗られ、目立たなくなった。


「それじゃあ行こうか。アイネが心配だ」

「おう」


 僕とウルフは地図で言われた住所を探し、その場へと向かった。



 ―――――



「この場所かな」


 到着した地点を見上げると、目の前には1件の建物が立っていた。周りは集合住宅で、隙間なく家が建てられている。見上げているコレも、ごく普通の家。トラップ等もなさそうだ。

 アイネがこんな人の家に……何故だ?

 公園で遊んでいるのが飽きて、人様の家にお邪魔したのか?

 とりあえず玄関まで近付き、ドアをノックした。


「ねえウルフ。どうしてここに住む人々は呼び出しベルを使わないんだろう。ネクア王国では普通にあるのに」

「ここの連中は昔、夜中に上空から攻撃をされて家を焼き払われたことがあるらしい。それの名残りで、今でも夜中に音がする物や、明るい物を嫌ってんだ。勿論今ではそんなことないがー、皆根に持つタイプだからなぁ」

「夜中とかは不便じゃないの?街灯もかなり少なかったけど」

「獣人は人間よりも目がいい。夜でも問題なしだぜ」


 ウルフは胸を張って僕の質問に答えた。

 僕の知っている獣人の知り合いは、己が獣人であることを酷く嫌っていて、自分の頭の耳をハサミで切ろうとしたり、体の手をむしったりしていて、1人森に閉じこもり病んでいた時期があった。

 彼女も彼のように、自分の容姿に誇りを持てるようになってほしいものだ。


 そう思っていると、目の前の扉が少し開いた。

 扉の隙間から、肩くらいまである白髪の少女がこちらを見上げる。


「どちら様……ですか?」

「あれ?」


 思わず僕は自分のメモ帳を取り出して確認した。一応忘れないようにと、言われた場所をメモしておいたのだ。何回、目を通しても間違いなくこの家の住所で合っている。

 伝鳥からしたのはどう聞いても男の子の声だった。どうして少女が出てくるんだ?

 僕が戸惑っていると、ウルフが話しかけた。


「俺達ぁ、ちっこい坊主にここへ来るよう言われたから来てんだ。俺のダチのガキンチョがここにいるって、聞いたもんで」


 僕は肩に乗っていた伝鳥を手に乗せ、彼女に見せた。

 それを見た瞬間、僕達を疑いの目で見ていた少女の顔が晴れた。


「あー! 何だ、そうだったの! 上がってください」


 少女は玄関を勢いよく開け、僕達へ中に入るよう誘導してきた。彼女の見た目は14歳くらい。

 てっきり人間の子だと思っていたのだが、頭の耳は生えたてなのか小さくあり、両手には肉球と、長い爪が生えていた。

 しかし、妙だ。顔はどう見ても人間にみえるし、耳と手だけで、獣人特有の尻尾や牙が彼女には生えていなかった。


「ショータ! あんたがあの子の伝鳥に繋いだのー?」


 この家は二階建てなのか、階段の上へ少女が呼びかける。

 あの子、というのは恐らくアイネのことだろう。


「もう来たのー? ちょい待ってー」

「お客さん来たんだから早くしなさいよ!」


 階段の上から聞こえてきた声には聞き覚えがある。伝鳥に繋いで、僕へ話しかけてきた少年だ。

 なかなか1階へ降りてこない少年に、少女は痺れを切らしたのか、僕達をリビングらしき部屋へと案内してくれた。


「あの子の知り合いー、なのよね?」


 少女が指を指す視線には、緑色のソファーで横たわり、白い毛布を上からかけられているアイネの姿があった。


「アイネ!!」


 僕はアイネを見るや否や飛び出し、顔色を伺った。顔が真っ赤で、息苦しそうにしている。

 頬に手を当てると熱かった。熱があるのか……。

 ウルフもアイネに近寄り、しゃがみ込んだ。


「へえー、この子が連れの……。随分と幼そうっけど、お前こんなの連れて旅なんて、この子が可哀想だろ」

「僕も散々断ったんだけど、なんか無理矢理ついてきたんだよ」

「でも親に預けるとか……妹なんだろ?」

「いや、赤の他人。彼女に親はいなくて、ずっと森で一人暮らししてたらしいんだ」

「こんな幼女が森で一人暮らし……? 妙な話だよ。普通、親戚とかに引き取ってもらうんじゃねぇの?」


 ウルフが指をくわえて首を傾げた。僕もそう思った。

 祖母が育ててくれたというのは聞いたが、アイネの両親の話は何も聞いていない。こんな小さな娘を森へ放ったらかしなんて有り得ない。何か訳があったのだろう。


「しかし……どうしてアイネがこの家に?」


 少女に尋ねると、少女は少し気まずそうに顔を引きつらせたが、答えた。


「この子、道端でうつ伏せになって血を流して倒れていたのよ。だけれど、この子人間だから。周りの人達は皆見て見ぬふりで、何もしなくて……。この子を見つけたのは偶然商店街へ買い物に行っていた弟のショータで、家まで走って来て一緒に運ぶよう言われたの。とりあえず熱を下げる薬は飲ませたのだけれど……」

「え!?」


 どこをぶつけたんだ? 嫌がらせでも受けたのか?

 ていうか、公園にいたんじゃ……。

 アイネの額や頭を触ってみても、出血していたと思われる傷口が見当たらない。なら腹部や胸を刺されたのか?

 僕がアイネの出血場所を探しているのを見た少女は、慌てて両手で手を振った。


「あっ……違うの! ごめんなさい、私の言い方が悪かったわ。彼女を見てみたら、どうも口から血を吐いていたみたいで。外部ではどこも怪我をしていなかったのよ」

「口から……血……?」


 その時、バステロでアイネを診察してくれたアリーナ先生の言葉を思い出した。


『この子の熱はー……熱中症じゃなくて、体内循環症による症状だよ。体内のエネルギー量が膨大すぎるから、器である体が耐えきれておらず、熱が出ているんだ。時間が経てば熱以外にも吐血、頭痛、呼吸困難等の症状が出て……』


 熱。頭痛。吐血。呼吸困難は体内循環症の症状だ。

 まさかコイツ、僕に悪化しているのを黙っていたのか!

 症状が悪化しているのを知っていたら、公園で1人になんか絶対にいさせなかった。無理にでも連れて行くつもりだった。


 しかし、あれだけ遊ぶと言っていた公園から出て、何故商店街付近に倒れていたんだ?

 そういえばウルフとの会話にアイネが伝鳥で割り込んできたあの時、会話の邪魔になると思って何も言わず伝鳥を遠くに飛ばした。アイネからすれば、いきなり僕の声が聞こえなくなったわけだ。

 僕に何かあったのではと心配して……だからか?

 だとしたら完全に僕の責任だ。何か一言言っておけばよかったものを。


「連れが病気って言ってたもんな……お前」


 ウルフは唇を噛み締めて、下を向いた。


「俺も幼子を見殺しにはしたくねぇし、お前には借りがあるから、出来る限り協力する。この子は何ていう病気なんだ?」

「それは―――」


「体内循環症、じゃないのかい?」


 僕の言葉を遮るかのように、しわがれた声が響く。

 声の方を振り返ると、荒い毛並みをした獣人のおばあさんが杖をついて立っていた。

 よく周りを見ていなかったが、地面のカーペットは赤く、白い花模様が描かれておりフカフカで、おばあさんが座っていたとされる1人用の木製椅子の近くには、暖炉が炊いてあった。

 どうりで部屋が暖かいわけだ。


「よく……ご存知ですね」

「生まれつきの指定難病さ。難病を持ちながら、よく1人で生きてこられたねぇ。お嬢ちゃんは一体どこに住んでいたんだい?」

「僕とアイネが出会ったのは「ラガンスの森」と言われている場所です。あの森にはS級は勿論、ごく稀にSS級クラスにまで育つ魔物が多く潜んでいます。だけど人が住んでいないので、あの森の魔物討伐依頼は基本的に上がりません」

「ラガンスの森!?」


 子供の高い声が聞こえると同時に、部屋の扉を蹴破るようにして話を聞きつけた少年が入ってきた。

 少年の後ろには白く長い尻尾が生えており、顔立ちは狼の分類に近い。だけれど、手に鋭い爪はなく、頭に耳も生えていない。

 この2人は……人間と獣人のハーフか?


「今ラガンスつった!? ラガンス!!」

「ちょっとショータ! おばあちゃんと、この人が喋っている途中なのに!」

「俺が行きたかった場所じゃん! いいなぁー!」

「行きたかった?」


 あんな人気のない森にどうして?

 僕でも基本的に近寄らず、旅でどうしてもそこを通るなら……と、渋々行くくらいだ。


「どうして行きたいんですか?あの森は危険なだけで――」

「分かってないなぁー兄ちゃん! ラガンスの森で取れる薬草は、うちで売っている品とじゃ値段が跳ね上がるんだよ!」

「うちで売っている品?」


 ショータ。と言われている少年が飛び上がっているのを少女は押さえ、僕へ申し訳なさそうに言った。


「うちのショータがごめんなさいね。私達はおばあちゃんと一緒に薬屋をやっているの。だから高価な薬草の話となると、ショータがうるさくてね」

「そんなに高く売れるんですか。あの森の草」


 そういえば出会った時、アイネも似たような話をしていた。

 家が貧しいから、ラガンスの森でしか取れない薬草を取ってきて町へ売って生活していると。


「ラガンスで取れる薬草には、一体どんな効果があるのですか?値段が高いとなると、それなりにあるでしょう?」


 少女が僕の問いに答えようと口を開くのを、ショータが遮った。


「ラガンスで取れる薬草はペチの葉、クリガネ草の2種類で、主に強力な鎮痛剤として使われたりするんだけど、この2種類の葉を中心としてその他3つの薬草を調合すれば、難病を寛解、もしくは完治できる薬になるんだ。だから高く売れる」

「難病を……治せる薬? じゃあそれがあれば、体内循環症も治るんですか?」


「残念だけど、そりゃあ無理さ」


 静かに奥のおばあさんが口を開いた。その場が静まり返る。


「……どうして」

「体内循環症は持病。生まれながらの体質なのさ。だから完治は不可能。私らは薬屋だけれど、ラガンスでしか摘み取れない高価な2種の薬草は、ここに売っていない。調合で使うとされる、他3種の薬草ならあるんけども……」

「じゃあ、その薬草を売ってください。その後僕はラガンスの森へ引き返して、2種類の薬草を取ってきます」

「だけれど……値段が―――」

「え! ラガンス行ってくんの!? それなら俺達の商売分の薬草も取ってきてくんない?」

「人様に何言ってんのよあんた!!」


 身を乗り出して話に乗り込んできたショータを、少女が押さえつけた。それでも彼の口は止まらない。


「俺は薬草をすり潰す役目なんだけど、一日中葉っぱをゴリゴリしているわけで、肩こりと手に豆が酷くって。たまーに俺の血が薬草の中に入っちゃったりしてダメになるんだ! 姉貴もほら、手がアレだからすり鉢の棒を持てなくて。ばあちゃんも貧弱になってすり潰せるの俺しかいないんだけど、結構苦労してて。自動で薬草を潰してくれる機械が市場にあるから、それを買いたいんだけど高いんだよ! 頼むよー」


 その発言に少女は腹を立てたのか、ショータへ掴みかかった。


「何図々しいこと言ってんのよショータ!」

「うっせえな! こっちは商売の危機なんだよユキ!」

「旅の女の子が難病だってのに! あんたは人様の心配をしないで自分のことばっかり!」

「ちゃんと心配してるし! 行くんならついでにって頼んでんだよ!」

「それがこの人達の負担になるってのが分からないの!?」

「じゃあお前は薬屋が潰れて野垂れ死にしてもいいのか!」


 ショータという少年と、ユキと呼ばれている少女が、目の前で取っ組み合いを始めた。

 慌てて止めに入ろうとしたが、ハーフと言えども獣人の血が混じっている。取っ組み合いの威力は凄まじく、僕が止めれるはずもなかった。

 それを見ていたウルフが、仕方なく2人を片手でつまみ上げ、距離を離した。


「そんな事で喧嘩すんなよ。仲良くいこうぜーガキ共」

「うるさいわね!」

「離せ狼野郎!」

「お前らって、人間と獣人のハーフか?混ざってるよな」


 ウルフがそう言うと、2人は硬直した。

 代わりにおばあさんが話してくれた。


「この子達はハーフじゃなくて、双子なのさ。だからなのかは分からないけれど、獣人にしては足りない部分が幾つかあってねぇ。ほら2人とも、旅人さん達に謝りんさい」


 ウルフが2人を地面に下ろすと、2人は渋々こちらへ頭を下げた。言われてみると、本当にソックリだ。

 弟と姉の身長が同じくらいなのもそういう事か。

 おばあさんは、双子に2階へ行って遊ぶように促すと、2人は勢いよく階段を駆け上がっていった。

 頭の耳をピンと立て、2階の扉が閉まる音を確認すると、おばあさんはため息をついた。


「双子は忌み子。昔からそう言われているんよ。双子で生まれれば、片方に寄ってしまい、完全な獣人にはなれないんさ。だから、あの子達の両親は人目を気にしたんだろうねえ。寒い冬。赤ん坊の2人が道端に捨てられていて、それを私が見つけた。今では私が、あの子達を育てているんさ」


 獣人は人間が嫌いだ。人間と獣人のハーフ、だなんて誤解をされれば、周りに何をされるか分からなかったのだろう。僕とウルフも、実際に2人を誤解した。

 だとしても、我が子を捨てるなんて……嫌な話だ。


「そう、だったんですか」

「何だそーだったんか。俺ぁー、可愛いと思うんだけど。酷い親がいるもんだぜ」


 ウルフは腕を組み、子供達が走っていった廊下を見つめた。上の階からは双子がはしゃぐ声がする。


「あの子達が目の前で……。申し訳ないねぇ。けれど、ショータが言っていたように、私達にも困り事があるんさ。もし、ショータが欲しがっていた薬草をここへ届けてくれるのであれば、売る薬草を半額にするよ」

「いくらですか?」

「そうだねえ……やはり難病の治療薬の原料になるんだ。それなりの値段がつくけれど、半額で金貨100枚だねえ」


 金貨100枚……。

 金貨が入った袋を探ってみるも、数枚しか手に取れない。あの地下室で結構な額を置いてきてしまったが、それを足しても恐らく足りない。

 これじゃあ買えな――――


「俺が払う。金貨100枚だな」


 隣のウルフの言葉が耳に刺さった。

 ウルフの方を見ると、もう既におばあさんへ金貨を手渡していた。金貨100枚は大金だぞ?


「ウルフ!」

「気にすんなよこれぐらい。金貨100枚くらいで償える訳でもねえだろ」


 ウルフの言葉が、ズシリと重くのしかかった。自身の罪の重さを物語っているような気がした。

 それと同時に、ウルフが裏商人に手渡してきた金貨の数も100枚だったことを思い出した。


「なあクロハ。この金は……きちんと人を救える金貨になるんだよな?」


 ウルフは金貨の入った袋を漁りながら、僕に問いかけてきた。彼は後ろを向いていたから、どんな表情をしていたのかは分からなかった。だけれど、これだけは本当だ。


「当たり前だよ。ありがとう」


 僕は即答するしかなかった。

 ウルフはおばあさんから3種の薬草を受け取った。後はラガンスの森にあるとされているペチの葉、クリガネ草を取って調合すれば……きっと。

 完治不可能と断言されたが、寛解については何も言われなかった。飲めば、症状の少しぐらいは落ち着くはずだ。

 ウルフに手渡された薬草をリュックに詰めていると、後ろからおばあさんに話しかけられた。


「その女の子、もう長くない」

「知っています。余命数ヶ月と言われていますから」

「それはこの状態になるまでの寿命さぁ。体内循環症は悪化するのがかなり早い。吐血をした時点で、もう既に内臓をやられている状態なんだよ。だから……その」


 おばあさんは黙り込み、言うべきかどうかを悩んでいる様子だったが、重そうな口をこじ開け、僕らに伝えた。


「その子は……2週間。命を保てるかどうかの状態に近い」

「……2週間」


 2週間……2週間?

 2週間で……アイネは。


「冗談だろ婆さん……2週間で治す方法を見つけろってか」


 ウルフの声も震えていた。


「薬屋の長がホラを吹くわけないだろうさ。ラガンスの森へは遠いから、龍に乗って移動が1番早い」


 ウルフは眠った状態のアイネを抱き、僕は薬草を急いで詰めると家を飛び出した。おばあさんも杖をつきながら家の外に出てきて、僕を呼び止めた。


「一刻を争う事態だ。私達に薬草を届けるのは後回しでいい。この子の症状が寛解したら、持ってきておくれ」

「でも……僕らが持ってこなかったら、どうするつもりなんですか? 僕が貴方達を裏切る可能性も、視野に入れないんですか?」

「そん時はその時さあ……だけれどあんたは、必ず約束を守ってくれそうな目をしとるけえねぇ」


 その時、停留所に龍が到着したのか、風で長い前髪が揺れ、おばあさんに僕の目を見られていることに気が付き、咄嗟に手で前髪を掴んで覆い隠した。


「いやっ、これは―――」

「安心しい、誰にも言わへん。ずっと隠してはるんやねぇ。こんな近くに、光のファイブステラがいたなんて……」

「おーい!何してんだクロハ! 龍がもう来てるぞ! 乗れなくてもいいのかー!」


 遠くの方で、ウルフが僕を呼ぶ声がする。行かなくちゃ。

 僕はおばあさんと少し距離をとると、深く頭を下げた。


「色々とありがとうございました。アイネの治療から何まで……」

「いいんよ、それよりも早く行きんさい。完治せずとも、何かしらの方法で生き延びれる方法があるはずよ。それを探し出して、あの子の元気な顔を店に見せてちょうだい」

「……はい、頑張って見つけます。必ず戻ってきます」


 僕は頭を上げると、ウルフが待っている龍乗り場の停留所へ足を向けた。

分かりにくいかもですが、魔物はS級、SS級、と階級で呼ばれていますが、人の場合はSランク、SSランクと、ランクで呼ばれています。

結構ここがあやふやだったので書きました。


趣味で小説を書いているので、投稿は不定期になります。

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