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月の使徒  作者: ゆきみや
10/11

【おまけ編】読者から月の使徒への贈り物

これは「ラガンスの森」編の樹木呪に会うまでの分かれルートになります。

月の使徒シリーズにて「ラガンスの森」まで読まれた方がご覧になることを推奨します。


読者様にアンケートで贈り物の多数決を取ったところ「レモン」が選ばれましたので、登場人物達へレモンを送りつけます。

彼らは一体どのような反応をするのでしょうか?


また、この作品は短編として出していたのですが、連載に繋げることとなりました。

短編では見れなかった登場人物達の一面が、付け足しで公開されています。

是非ご覧ください。

 これは、僕とアイネとウルフがラガンスの森へ入り、道に迷っていた時のこと。

 ウルフが突然「トイレ!」と言って近くの草むらに隠れていったので、僕とアイネは付近の森を散歩しながらウルフを待っていた。


「痛っ!」


 僕の後ろを歩いていたアイネの声が聞こえる。

 また転んだのか……と思い振り向けば、アイネは沢山の黄色い物体の中へ手だけ出して埋まっていた。

 黄色い物体は生物ではなさそうだ。卵?

 何だ? 一体何が起きたんだ。

 知らない攻撃方法……新種の魔物か?


 ラガンスの森はS級並の魔物がウヨウヨいる危険な森だ。僕が知らない魔物がいてもおかしくない。咄嗟に僕は腰の指揮棒を引き抜いて辺りを警戒した。

 ……何も音はしない。こちらの様子を伺っているのか?

 とにかく襲われたアイネを助けるべく、アイネが埋もれた物体の山へ近付き、そして気付いた。


 これ、見た事のある果物だ。

 もしかして……レモン? レモンのように見えるが。


「んもー! 何なのよこれー!」

「えっ……?」


 思わず僕は辺りを見渡した。

 ここは森だ。

 だけれど、ラガンスの森でレモンは、気候の関係で実らないはず。

 ウルフが落としていったのか?

 いや、いくらウルフでも、こんなに沢山のレモンを荷物として持っていくはずがない。持つのは最低限旅に必要な物だけだ。

 物体の山からアイネを引っ張り出すと、アイネは「何かしらこれ?」と、レモンのような物体を両手で持ち上げた。

 僕は思わずソレをアイネから取り上げて放り投げた。


「毒かもしれないから触るな!」

「でもこれ、急に空から落ちてきたのよ?」

「そんな訳あるか。レモンの様な形をしているけれど、この森でレモンは取れないんだよ。あるとしても、新種の魔物の卵とかだ」

「お兄ちゃん、さっきからレモンって何?」


 アイネが僕を見て首を傾げた。

 そういえばアイネ、ずっとラガンスの森に住んでいたっぽいし、レモンを知らないのか……。


「レモンって呼ばれる果物が実際にあるんだよ。それはこんな感じの黄色い形をしていて、レモネードとか蜂蜜漬けとかにすると美味いんだけど―――」

「本当に!? それじゃあ食べれるのね!」

「おい!」


 僕の言葉を遮り、アイネが1つの黄色い物体を手に取り、かぶりついた。

 数秒後、ソレから口を離したアイネは眉間に皺を寄せた。


「これ、ちょっと酸っぱいわよ。美味しくないじゃない」

「え?」

「あたしはコレいらないわ。はいお兄ちゃん。あげる」


 アイネが、かぶりついた物体をこちらに差し出すので手に取り、中身を見てみた。


「……あれ、本当にレモン」

「コレのどこが美味しいっていうの? お兄ちゃん、味覚終わってるわよ」

「レモンは生だと酸っぱいから、砂糖や蜂蜜で甘くして食べるんだぞ」

「え? 何それ!? 先に言ってちょうだいよ!」

「俺が言う前にお前が食ったんじゃないか」


 それにしても、どうして空からレモンが降ってきたんだろう。


「おーーい。悪かったなお前らー、待たせちゃって」


 遠くからウルフが手を振って走ってきた。

 用は終わったようだ。


「あり? 何でこの辺。レモンが落ちてんだ?」

「それがサッパリなのよ」

「僕もだ。いきなり空から落ちてきたらしいんだけれど」

「はぁ?」


 ウルフは顔に指を当ててしばらく考え込むと、閃いた様に指を立てた。


「龍に乗ってる乗客の荷物じゃねぇの? レモン運搬してた途中とか」

「そういうのって、船とかでするものと思ってるけど。龍で運搬もあるの?」

「そりゃ個人でやってりゃあー、龍かクラクチョウくらい使うだろう。金も安く済む」

「誰かの落し物ってことかしら? あたし、かじっちゃったわ……」


 アイネは申し訳なさそうに僕が持っている齧ったレモンを見上げた。

 その様子を見たウルフは、笑って大きな手でアイネの頭をくしゃくしゃと撫でた。


「いーんだよ気にすんな。こういうのは落とした奴が悪ぃんだ。ラッキーだし、全部貰っとこうぜ」

「そんなの泥棒じゃないか」

「どの口が言ってんだぁー? クロハさんよ」


 ウルフは僕を見てニヤリと口を歪めた。

 流石に何も言い返せない。僕自身も、なかなかの事をしてきているからだ。


「……まあ、ここ。交番ないし。腐って魔物に食べられるよりかは効率が良いし、僕達も丁度空腹だったから一石二鳥ということで――」

「堅苦しい言い訳してねぇーで、お前らほら、落ちてるレモン全部拾うぞ」


 ウルフは荷物として丁度余っていた白い布を地面に広げると、布の方へレモンをかき集め始めた。


「これ、酸っぱいわよ? 美味しくないわ」

「俺が美味しく料理してやっから大丈夫だっつーの。こう見えて俺ぁ、昔レモネード作るの好きだったんだよ」

「レモネード? 何よそれ」

「とりあえず拾うぞアイネ」

「んー、美味しくなるなら拾うわ」


 こうして3人は、地面に転がっている全てのレモンを拾い集め、ウルフが大きな布の中から白い物体が入った瓶を取り出した。


「何よそれ。麻薬とか?」

「ちげーよ。砂糖。レモンに漬け込むんだ」

「砂糖なんか持ち歩いてたんだ……」

「そりゃー、料理する上で最低限の物は持っていくぜ?」


 そう言うと、ウルフは手の上でレモンを輪切りにし、瓶の中にレモン、砂糖や蜂蜜を入れると蓋をした。


「それだけなの?」

「そ。これだけ。ガキンチョお前、今朝のサンドイッチにこれ入ってただろうが」

「そんなこと覚えてないわ」

「それ、手短に作れる非常食みたいでいいね」

「そうだろー? クロハちゃんよー」

 ウルフは誇らしげな顔をし、包みに瓶を戻した。


「あたし、お腹が減ったわ。それ今食べれないのー?」

「アホか。数日は漬け込まないと酸っぱいままで食えたもんじゃねえ」

「あたしは今! お腹が空いてるって言ってんのよ! そんなに待てるわけないでしょ!」

「まあまあ。アイネの家に着いたら何かしら食えるだろ。それまでは我慢することだ」

「むぅー……」


 アイネがあからさまに頬を膨らませて不機嫌そうな態度を取った。

 そういえばアイネは朝食は食べていたらしいが、昼食を食べている所は見ていない。僕やウルフよりもお腹を空かせているのだろう。

 それから……。


「お前はもう熱とか大丈夫なのか?」

「今はヘッチャラよ。またぶり返すのが怖いわね」


 アイネは自分のおでこに手を当てた。

 2週間で体内循環症を寛解出来なければ、アイネは死んでしまう。それだけは絶対に、避けなければならない。


「まあ、商人が落としたレモンの数も多いし、これだけあれば2週間は持ちそうだからいいんだけど。行こう。目的地を見失っちゃう」

「あーそうだなぁ。ぼちぼち出発とするか」


 ウルフは荷物整理が整ったのか、大きな布を背中に背負った。


「まさか空からレモンが降ってくるなんてねぇ……俺も初体験だし、ラッキーだったなお前ら」

「そうだねウルフ」

「天からの贈り物、だったりして」

「そんなおとぎ話みたいなことは有り得ない」

「相変わらずかってえなーお前さんは」


 そして僕達は、再びアイネの家へ歩み始めた。

いつも月の使徒をご覧いただき、誠にありがとうございます。

この企画は、ちまちま合間に出来たらと思っております。


ウルフのアイネに対する呼び方の件なのですが、ウルフは元々見知らぬ子供を「ガキンチョ」呼びするつもりでしたが、【ラガンスの森編】にて、アイネの薬草の知識に関心して、それからアイネを「ガキンチョ」ではなく「お嬢」呼びにしています。


今回レモンが降ってきた世界は、アイネが目を覚ましてすぐの世界線になります。

なのでウルフは、アイネの薬草知識を知らないので、アイネに対して「ガキ」と呼んでいます。



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