第1話 人生逆転!
「ん……なんだか体が暖かいような」
眠気が覚めてくると、何かに包み込まれてるような感触を感じた。まるで人肌に触れてるような感じ。瞼をこすりながら目を覚ますと、目の前が肌色と着物のような服だけになっていた。すぐにそれが胸元だと分かり。
「うああああ!?」
僕は咄嗟にそこから離れてしまった。離れて見てみると、すごく綺麗な人だった。ワンピースのような黒い着物の服。胸元がはだけており、大きな胸が少しだけ露わになっている。黄金のように美しく、腰まで伸びている金色の髪に透き通るような碧眼。今まで見たことのないような美女だった。
「んう……もう朝か」
そんなことを考えていると、彼女が目を覚ましてこちらを見てくる。
「あ、おはよう主殿! 今日も良い天気だね!」
「えっと……あなたは一体」
「ん? ああそうか。主殿はまだ私のことを知らなかったね。私はカルラ。主殿の神器だよ」
「神器!? で、でも……神器って武器みたいな見た目のはず。それがなんで人のような姿を」
「神器ってのは2種類あるんだよ。1つは主殿も見たであろう武器の見た目をした武器タイプ。そしてもう1つは私のような生物の見た目をしている精霊タイプ。けどこの精霊タイプは、およそ100万人に1人しか得られない超激レア神器なんだよ。その分パワーも半端ないけどね。私のステータスを見てみなよ。びっくりすると思うから」
「分かりました。ステータスオープン!」
そう言って現れたのは、驚きのものだった。
神器 業火の化身カルラ
攻撃力 68500
防御力 56000
魔力 100000
「す、凄い」
僕が見てきたクラスメイトのステータスは、どれだけ高くても5桁に行くことはなかった。けどカルラって人のステータスは全てが5桁。魔力に至っては10万という規格外の数値だ。
「ふふん。どうだい主殿。驚いたかい?」
「はい……まさかこんなに強い人が僕のパートナーになってくれるなんて……」
「ま、私は精霊タイプの中でも特に強い神器だからねえ。これからよろしくね。主殿」
「はい! こちらこそお願いします!」
こうして僕は、新しいパートナーを手に入れたのであった。
その後、僕はそのまま国王に追放処分を言い渡され、グレイスシティに向かうために、馬車に揺られていた。
「ねえ主殿。なんで私の力を見せなかったの? もし私の力を見せてれば、あのじじいは追放しなかったと思うけど」
カルラが実体化しながら、僕の隣に座って質問してくる。隣に座るのは良いんだけど、腕に抱き着いてるし、胸が当たってて少し落ち着かない。
「僕はあの国王やクラスメイト達の元にいたくないんだ」
彼女の言うとおり、力を見せれば追放はされなかったかもしれない。けど、僕はあの国王が嫌いだから見せなかった。あいつは僕たちを戦う道具としか見ていない。クラスメイト達も嫌な人ばかりだ。グレイスシティというのがどんな場所か分からないけど、あんな所よりかは確実にマシだということは断言できる。僕にとって、王都より嫌な場所など無いんだから。
「それより。例の手配は済んだ?」
「もちろん! あの国王は大慌てするだろうねえ」
「そうだね。慌てふためく顔を少し見てみたかったな」
そんな話をしながら、外の景色を堪能していると、かすかに悲鳴のような声が聞こえて来た。
「カルラ。何か悲鳴のような声が聞こえなかった?」
「悲鳴? そんなの聞こえなかったと思うけど……ちょっと待ってね」
彼女は炎の球体を手のひらに生み出した。
「それは?」
「探炎球。周囲の気配を探知する魔法だよ。半径10レイドまで探知できるんだ。レイドっていうのは、主殿の世界で言うキロメートルと同じようなものだよ」
「なるほど。そんなに広範囲を探知できるって凄いね。それで、何か分かった?」
「ここから3㎞ほど行った先で、女性が襲われているね。周りに護衛の人たちもいたみたいだけど、とっくに魔物に殺されてる。どうする?」
「助けに行こう。そのままにしておくなんて出来ないしね」
「オッケー。じゃあ私が連れて行くね」
そう言うと、彼女は僕を掴み、馬車を飛び出てひとっ跳びした。その跳躍力は凄まじく、あっという間に女性が襲われている所まで飛んでいくことができた。1回のジャンプでここまで移動できるなんて。しかも、まだまだ余裕がありそうなのだから恐ろしい。これが僕の神器の力。
前を見ると、1人の女性が魔物に囲まれていた。見たところ高貴な人といった感じで可愛らしい顔をしていて、スタイルも良い。囲っている魔物は巨大なゴブリンであり、3メートルほどの高さ、体はデブのように太っていた。
「カルラ! あの人助けられる?」
「もちろん。1回の指ぱっちんだけで助けてあげるよ」
彼女が指を鳴らすと、周りにいた魔物たちが業火に包まれた。
「ぐぎゃああああ!?」
「あびゃああああ!?」
「え!? な、なにこれ」
その業火は魔物の肉体どころか骨すらも灰になるまで燃やしていき、炎が消える頃には、そこにはわずかな灰しか残っておらず、風に流されてどこかに行ってしまった。
なんて力だ。本当にや1回の指ぱっちんで全てが終わってしまった。これがカルラの力。あまりにも規格外過ぎる。
「凄いわ。あなたたち、一体何者なの?」
「私はカルラ。主殿の神器だよ」
「カルラ!? まさか……爆炎の女神と呼ばれたあのカルラ!?」
「そういえば、そんな呼ばれ方もされたことあったねえ。すっごくダサいから嫌いだけど」
この人の驚き方からして、カルラというのはかなり有名な存在のようだ。そんな神器が僕に宿るとは。人生って何が起こるかわからない。
「えっと、あなたは?」
「僕は雨宮悠馬。この異世界に転移した高校生で、このカルラの主です」
「転移した……てことは、あなたが父の言ってた」
「父の言ってた?」
「あ、自己紹介がまだだったわね。私はアルビア・エルデハイム。国王の娘で、第3王女よ」
「第3王女!? そんな人がなんでここに」
「公務で他の都市に行ってて、その帰りに襲われちゃったの。それより、なんでこの世界に来たあなたがここに? 任務でもあったのかしら?」
「いえ」
僕は自分が追放されることになった経緯を王女に話した。
「信じられないわ! あなたの力を碌に精査せず、1度見たステータスだけで全部決めつけ、あげくに追放。ほんと、うちの父親はとんでもないクソカス野郎ね」
「クソカス野郎って」
とても女性が使っていい言葉じゃない気がする。
「だってそうじゃない。転移したお詫びに守るとかも何もなしに、道具としか見てなくて、ステータスが低いというだけで国外追放。クソカス野郎と呼ぶにふさわしきゴミよ。ほんと、昔から何も変わってない……よし、決めたわ」
「? 何をですか?」
「私、王都を出てあなたと一緒に行動するわ」
「えええええ!? だ、ダメですよ。王女様には帰りを待ってくれてる人がいるんですし、物凄い偉い立場なんですよ。そんな人が僕と行動するのはダメです」
「良いのよ。どうせあそこにいる奴らは、私の体にしか興味ないだろうし、あんな奴らのいるところになんて戻りたくないもん。それに、あなた優しそうだし、強いし、一緒にいて楽しそうだからね。だからお願い。私も連れて行って」
「アルビアさん」
彼女はもしかしたら、僕と同じような人なのかもしれない。居場所を作れず、誰も信用できない世界で1人孤独に生き続けて来た。そう考えると、彼女の頼みを断ることなんてできなかった。
「分かりました。一緒に行きましょう」
「ありがとう! 悠馬!」
彼女は嬉しそうにそう言って抱き着いて来た。
「ちょ!? アルビアさん!?」
「うふふふふ。これからよろしくね~。大好きな悠馬♪」
「はい。よろしくお願いします!」
「凄いな主殿。この短時間で女を落とすとは。流石は女キラーと呼ばれた男だ」
とりあえず、カルラは変なこと言わないでほしい。あと女キラーなんて呼ばれたこと1度もないから