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【短編】バッドエンドにさよならを~始まりの物語 (平民と王子様の婚約は転生しても続いていく)~

作者: 来留美

四月咲 香月 様からオーロラのFAを二枚いただき、載せています。

 今の私は生きていくことで精一杯でした。

 小さな頃は華やかな場所でダンスをしたり、美味しい食事をしたり、毎日が楽しかったのです。


 そんな私の毎日が崩れたのは、父の一言でした。


「俺はお前達を捨てる」


 そして父は私と母を捨て、美しい綺麗な女性と出ていきました。

 それでも母は怒ることも泣くこともせず、二人で生きていきましょうと私に言いました。


 母は笑顔を絶やさない明るい人だったので、私もそんな母のようになりたくて、いつも笑っていました。

 そんな私が、一度だけ泣いたお話をしようと思います。


 あれは私が、まだ大人と呼ぶにはまだ少し幼い頃のお話です。

 私はあの時間(とき)を絶対に忘れません。




 私は一人で靴磨きのお仕事を終えて、家へと帰ります。

 その途中に疲れのせいなのか倒れそうになり、前を歩いている大きな男性にぶつかってしまいました。


 謝っても許してくれない男性は、お酒を飲み酔っているようでした。

 私が何度も頭を下げて謝っていると、私と歳が近い男の子が助けてくれました。


 男の子はローブを着ていましたが、その下から見える服は、どう見ても身分の高い人を表していました。

 でも、歳は私と近いのですから、力は男性よりは弱いのは私でも分かります。


 それなのに男の子は、男性に向かっていこうとするので、私は止めました。

 男の子は仕方ないという顔をし、私の手を取ってその場を逃げます。


 男の子の足は速かったです。

 私はこれ以上は走れないくらいに疲れていたのに、男の子は平気な顔をして、もう大丈夫だと言いました。


 もしかしたら、男の子はあの男性に勝てたかもしれません。

 でも、私は勝敗よりも戦うことをしてほしくなかったので、男の子に怒りながら、こんなことは止めて下さいと言いました。


 それなのに男の子は反省の言葉ではなく、私から助けたお礼を聞いてないと言ったのです。

 その言葉で私は、まずはお礼を先に言うのが当たり前なのに、言わなかったことが恥ずかしくなりました。


 私は丁寧にお礼を言い、お辞儀をしました。

 男の子はそんな私を見て不思議そうに、君はお嬢様なの? と聞いてきました。


 私は昔はそうだと伝えて、父の話をニコッと笑って言いました。

 男の子はそんな私を見て正直者だと言います。

 そして男の子は私が驚く言葉をくれました。


「君とは今日、初めて会ったけれど、君を婚約者にするよ」


 私はその言葉を、偽りのない本当の言葉だと分かっています。

 だって彼は、フワッと私に笑いかけて言ってくれたのです。


 優しさが私の心に染み渡るような彼の笑顔を、私は忘れることはないでしょう。


 そして彼はいきなり私に、ダンスを教えて欲しいと言いました。

 昔はたくさんダンスをしていましたが、今は全然踊っていないので、教えることができるのか心配でした。


 しかし彼は私に、君が踊ればワタシもダンスを好きになるかもしれないと言います。

 私は彼と幸せを表現するダンスをしました。


 最初に彼にお辞儀をした後、手を取り合って踊ります。

 一番簡単なダンスなので、彼は覚えていると思いましたが、彼は全く踊れていませんでした。


 でも何度か踊ると、すぐに覚えて私をリードするようになりました。

 彼は楽しそうに踊っています。


 最初は無表情だった彼は、本当に楽しく踊っているのです。

 彼は、これならパーティーでも踊れると言っていましたが、それには私が必要だと付け加えました。


 平民の私が、パーティーに出るなんてことはできません。

 綺麗なドレスもないですし、メイクだってできません。


 そんな私に彼は、こんなに白い肌と、薄いピンクの頬と、赤い薔薇のように美しい赤い唇に、そしてサラサラの長い金髪はそのままでも十分、綺麗だよと言ってくれました。


 ドレスだけは彼から借りて、私はパーティーに参加しました。


 そのパーティーは国の王子様が十二才になり、大人になったお祝いでした。

 十二才は大人で結婚もできる歳です。

 王子様のお顔は、今日が初めての御披露目でした。


 なんと、その王子様は彼でした。

 そんな王子様と踊る私は!お姫様のようでした。

 王子様に優しくリードされ、フワッと笑ったお顔を見ると、私の心は幸せに満ち溢れました。


◇◇


「王子」

「オーロラ」


 私達は今、自分達の背より高い草が生えている、草原の中を声を頼りにお互いを探しています。

 私は平民のオーロラと申します。


「オーロラ、こっちだよ」


 私を呼ぶ彼は私の婚約者である、この国の王子様です。

 王子と平民の私が、結婚なんてできないのは分かっています。


 でも王子は結婚できると信じています。

 だから一週間に一度だけ、忙しい王子の仕事を早く終わらせ、私の元へ来てくれるのです。


 今は大きな草が生い茂った広い草原の中に入って、声だけで相手を見つける遊びをしています。

 こんな子供みたいな遊びも、私達にはとても楽しいのです。


 王子は十七歳。

 私は十五歳。

 二人とも結婚をしてもおかしくない歳です。


「王子」

「オーロラ、み~つけた」


 王子は後ろから私を抱き締めて、耳元で言います。

 王子の声は私をドキドキとさせます。

 でもそのドキドキも、王子の優しい眼差しに落ち着いていきます。


 ただ見つめ合うだけです。

 王子は私を大事に思っていて、結婚するまでは清い関係でいようと言いました。


 私と同じ歳頃の女の子は結婚をして、子供を産む女の子もいます。

 母は私に、早く結婚をしてほしいと言います。


 でも私には、どうしても結婚なんてできないのです。

 だって王子がいるからです。

 私は一生、結婚はしないと決めています。


 私の結婚相手は王子だけだからです。

 必ずいつか、この世界ではない世界で、王子と結婚をするからです。


「ねえ、オーロラ」

「はい。どうしました?」

「オーロラは、ワタシ達のこの関係に満足しているかい?」

「どうしてそのようなことをお聞きになるのですか?」

「だって、君がワタシの婚約者になって五年になるんだよ?」

「五年ですか、、、。私は一生このままでも構いませんよ?」

「君はワタシ達が結婚なんてできないことを、分かっているんだね?」

「はい。仕方のないことなのです」

「出会わなければ良かった、なんて思わないのかい?」

「いいえ」


 私は大きく首を横に振ります。


「ワタシもオーロラと同じだよ。だから今を大切に、オーロラとの時間を大切にしたいんだ」

「はい。私もです」


 私は王子の手を控え目に握ります。

 すると王子は私を見つめて、私の手をギュッと握り返します。


 この時間が一番、大切なのです。

 王子の優しい眼差しに、嫌なことも忘れられるのです。


 私には王子が必要です。

 私の幸せには王子が必要なのです。

 しかし、幸せな時間はいつまでも続きません。


「オーロラ。来週は会えそうにないんだ」

「そうですか」

「オーロラ。そんな悲しい顔をしないで」

「申し訳ありません」

「オーロラ。待ってて。必ず君を迎えに来るからさ」

「お迎えですか?」

「そう。会いに来るではなくて、迎えに来るよ」

「それはどういう意味なのですか?」

「待ってて」


 王子はただ待っててとしか言いません。

 でも王子には、何か考えがあることは分かります。

 私は何も訊かず頷きました。


 その日から私は、草原の中の誰も知らない、草が生えていない広場で毎日、王子が迎えに来るのを待ちました。

 王子は一週間経っても現れませんでした。


「オーロラ」


 草原で王子を待っていると、名前を呼ばれ私は振り向きます。

 するとそこには母がいました。


「どうしてこの場所を知っているの?」

「全て聞いたからよ」

「全て?」

「王子様とはお別れをしなさい」

「どうして?」

「私達はこことは違う場所で、また二人で暮らすのよ」

「王子と結婚できないのは分かっているわ。でもせめて、王子のお側にいたいの」

「それを許せないお方がいるのよ」


 母は苦しそうに言います。

 母も私と王子のことを思うと、本当は言いたくないのです。


「王様なの?」

「国からお金はたくさん貰ったわ。だからこの場所とは違うところへ行くわよ」

「王子よりお金を取れと言うの?」

「それがあなたと王子様の為なのよ」


 母が私達の為だと言う気持ちも分かります。

 でも私は、王子が他の人と結婚しても、側にいたいとずっと思っていたのです。


「離れたくはないの」

「離れないわ。あなた達が想っていれば離れないわ」

「何を言っているの?」

「これを王子様に渡しなさい」

「これは?」

「大丈夫。これがあれば離れないから」


 母は嘘なんて言っていません。

 母がくれた物は普通の物なのに、何故か不思議なパワーを感じました。



 それから一週間後、王子が会いに来ました。

 王子の顔から何かあったことは分かります。

 迎えに来たのではないことも分かります。


 そして王子は全てを話してくれました。


「王子。一緒に踊ってくれませんか?」

「どうして今なんだ? ワタシは君以外と結婚しなければいけないと話をしたばかりなのに」

「王子。忘れましょう。今を大切にしましょう」

「そうだね」


オーロラ嬢

挿絵(By みてみん)

      四月咲 香月 様の御作品


 王子はフワッと私に笑いかけてくれました。

 幸せが私を包んでいきます。

 忘れない。

 この時間(とき)を。


オーロラ嬢

挿絵(By みてみん)

   四月咲 香月 様の御作品


「王子。私は王子のお側にいつもおります」

「うん」

「私は結婚なんてしません。私は王子だけのモノです」

「うん」

「だからどうか、これを私だと思って、持っていて下さい。私も同じ物を持っています」

「これはオーロラと昔、一緒に見つけたよね?」

「はい。どこにでもあるけれど見つけられない物です」

「大変だったよね。オーロラが諦めなかったから、みつけられたんだ」

「私は諦めません」

「それはワタシもだよ」


 そして王子は私を優しく抱き締めてくれました。

 私も控え目に王子の背中に手を添えます。

 二人、見つめ合って王子の顔が近づきます。


「君に触れたいんだ」


 王子は真剣な眼差しで言います。


「王子。私はあなたのモノです。でも、まだ結婚はしていませんよ?」

「でも、何故か君が離れていきそうな気がして」

「王子。私はそこにいます」


 私はそう言って、王子の手の中にある物を指差します。


「そうだね。これが君だったね」


 王子はそう言って私の手の中にある、王子にあげた同じ物にキスをしました。

 私も王子の手の中にある物にキスをしました。


 私達はこれでいいのです。

 心が側にいるのですから。

 私はこの時、初めて涙を流しました。

 王子には気付かれないように、王子が遠くに行ってから涙は頬を濡らしました。


 そして私は王子の前から姿を消しました。

 王子よりお金をとった自分を、死ぬまで恨みました。

 でもそれと同じ分だけ、次の世界では、王子と一緒になれますようにと願いました。



 不思議なパワーを持つ四つのハートが集まった物。

 それを大事に、王子の想いが詰まったそれを抱き締めながら。



◇◇◇


「ユズ、婚約者になってくれないか?」

「また? 無理よ」

「ユズ、俺はユズの運命の相手の王子だよ?」

「また昔の話をするの?」

「だってユズは覚えていないからね」

「レンは王子様じゃなくて、婚約者でもなくて、幼馴染みだよ。でも、、、誰よりも大切な人かなぁ?」




 私は私が嫌いです。

 だから私は私を忘れます。

 でも、もし王子が私を見つけてくれたなら、また私は王子に恋をします。


 何度でも。

 どんな世界でも。

 必ず。

 愛します。


 王子のことを覚えていなくても。


 必ず、、、、、。

読んでいただき、誠にありがとうございます。

楽しくお読みいただけたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とっても素敵なお話しでした。 悲しいお話しでしたが、 前世では、結ばれなかったけれど、現世で一緒になれるね。^_^ 最後はハッピーエンド。
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