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TS令嬢が幸せになるために旅に出る話  作者: テステロン
第一部 三章 山越え
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森の中で


 丘の上から見下ろした先、小さく森が開けたそこには、いくつかの建物と、それを取り囲むような小さな畑があった。

 大きな平屋の建物が中央に建ち、それを取り囲むように小規模な……テント? というか、竪穴式の住居というか。前世、教科書で見たような形の三角錐の家が建っている。


「……」


 ――これは、なに?

 なんでこんな森の奥に集落が?


「あれは……シェルターだな。騎士がよく作るやつだ」

「え?」

「しかも新しい。おそらく最近作られたものだろう。中心の建物だけが古いから、その周りに建てたのかもしれない」


 ……どういうことだろう。

 よく分からなくてログの顔を見る。


「シェルターって?」

「あの三角の建物だ。穴を掘って、木を切り倒した柱を立てて、そこに板や棒、布や葉のついた枝をくくりつけるだけで出来る。闘気の使える騎士なら簡単に作れるから、突貫で拠点を作るときによくやるんだ」


 ……なるほど。


「だから、あそこは――あの拠点はつい最近できたんだろうな。何が目的なのか、なんで畑があるのかはよく分からないが。……よほど物資に困っているのか?」

「……」


 改めて見直す。確かに木の断面がまだ新しい。真ん中の建物はツタが絡みついていたりと年季が立っていて、それが少しアンバランスな感じだ。畑もそんなに大きくないし……。


 ……って、あれ?

 

「じゃあ、もしかしてここは集落じゃなくて騎士がいる拠点なの?

 だったら、ここはやっぱり騎士団の施設ということに――」


 ついさっきログが言っていたことが頭をよぎる。

 ドルクに騙されて……と。

 

「……いや、それは違うと思う……勘だが」

「そうなの?」

「そもそも騎士団の拠点なら、俺たちがこうしてのぞき込んでる時点で問題だぞ。騎士団ならどんな状況でも必ず見張りが立つからな」

 

 ……確かに。私たちは普通に道を歩いてきた。

 森からこっそり近づいたわけじゃないんだから。


「……」

 

 なら一体ここはなんなんだろう。

 そう、首を傾げながらまた建物の方を見る。


 ――あ。


「あっ、あそこ!」

「……人がいるな」


 シェルターの中から人が出て来た。そして畑の方へ歩いていく。青々と成長した作物らしきものの傍にしゃがみ込んで……あれは雑草でも抜いているんだろうか?


「……普通に畑仕事をしてる?」

「そうみたいだな」


 その人は、雑草を抜き終えて、次は葉っぱの様子を見ている。そして少ししたらまた隣の畑へと。……なんだか普通に農家っぽい。


 ――でも、こんな森の中で?

 

「……」

「……」

 

 ……結局、どういうことなんだろう。

 森の中に集落が出来ていて、騎士がいるみたい。でも騎士団の拠点ではないみたいで、周りには畑がある。畑仕事をしている人もいて。


 ログと顔を見合わせる。

 ログは困惑した様子で首を傾げていた。多分私も似たような顔をしている。


「わからん……だが、ここで見ていても(らち)が明かないな。とりあえず近づいてみるか?」

「……う、うん」

「よし、それなら行ってみよう。シェルターの数からして、人数は多くないだろう。ただ、俺から離れないようにしてくれ」


 ログの言葉に頷き、その近くに寄る。

 ……そして、丘の上から一歩前に足を踏み出した。


 

 ◆



 そして歩くことしばし。

 坂道を下り、森の隙間を抜けて――ついに拠点の入り口にたどり着く。


 特に門がある訳でもなく、森の切れ目の先に拠点が広がっていた。

 丘の上だけじゃなく、ここに来るまで特に呼び止められることもない。


 ……不用心じゃない? なんて少し思った。

 

「魔物避けの結界と、探知用の結界が張られてるな。これが見張り代わりなんだろう。……まあ、それでも確かに不用心だが」


 しかし、ログ曰くそういうことだったらしい。

 その辺りの魔法は隠すことも出来るので未熟な私には分からない。でも、どうやらこの拠点には魔法使いもいるらしかった。


 ――と。


「……来たな」


 離れたところから、足音が聞こえてくる。

 見ると、そこにはフード付きのローブを着ている人がいて――魔法使いだ。


「……お嬢」

「う、うん」


 警戒するためにログの後ろに隠れる。

 あんまり危ない雰囲気は無いけど、注意はしておいた方がいい。


「……」


 一歩一歩近づいて来る。

 少し緊張する。

 

 危ない雰囲気は無いけど、でも何が起こるか分からない。

 もしかしたらいきなり魔法を打ち込んでくる……なんて可能性もあるわけで。


 街では、いきなり建物の窓から魔導士が顔を出して魔法を打ち込んできたし。

 まああれはドルクの指示だったけど。

 

「……」


 唾を飲み、強度を上げるために障壁に魔力を注ぎ込む。

 そして――。


「おや、新顔だね。あんた達も逃げて来たのかい?」


 ――しかし、警戒とは裏腹に、その魔法使いは気軽な口調でそう言った。



 ◆



「私たちはね、ここに逃げて来たのさ」


 話しかけてきた人――アニータと名乗った中年くらいの魔法使いの人は、私たちを先導しながらそう言った。皆に紹介しようと、拠点の真ん中にある集会所に連れて行ってくれるらしい。


 その後ろをログと並んで歩く。

 ログは周囲の様子を確認しながら歩いているようで――。

 

 ――しかし、逃げて来た?

 

「領主の家がおかしくなっただろう? それの関係で私たち……ここに居る連中はレインフォースの領地にいられなくなってね」

「……え」


 ……それは。

 全く予想していなかった話に驚く。しかし完全に心当たりがある話だった。


 逃げて来た? 領主の家の関係で?

 じゃあこの人は……なにか、兄弟たちとトラブルが起きて……?


 ……私には全く心当たりがないから、多分兄弟だと思うんだけど。


「それで国の外――隣のファート王国にでも逃げようと思って領都を出たんだけど、厄介なことに騎士に追いかけられたんだよ。それでどうしようかって悩んでたら、運良くこの道の地図を持ってる子たちと合流できたのさ」

「……なるほどな。ちなみに、失礼だがどんな理由で追いかけられたか聞いても?」

「不躾だねあんた。……でも構わないよ。単純に派閥に付けと言われて、断ったら拘束されそうになっただけさ。そこから逃げて来たんだよ」


 溜息をつき、吐き捨てるようにアニータさんはそう言って――。


「――」

 

 ――え? な、なにそれ。

 派閥? 拘束? そんなの知らない。そんなことになってたの?


「あんたたちも似たようなもんじゃないのかい? 正規の方法で領地を出ずに、こんな森を抜けようとしてるんだから」

「……まあ、そうだな。似たようなものだ」


 ログとアニータさんが話しているのが遠く聞こえる。

 

 いや、分かっていた。自分の家がどれくらい酷いことになっているのかは。なにせ殺されそうになったり、ドルクの胸に奴隷紋が刻まれていたくらいだ。

 ……でも分かっていたとしても、実際に被害者から話を聞くと――こう、衝撃を受けるところがあって。……あの家は確かに私の実家だったから。


「……ああ、そうかいそうかい。安心したよ。あんたみたいな化け物が実は追手だったらどうしようかと思った。……ところであんた、騎士団では見覚えが無いけど、どこの誰だい?」

「……俺はお嬢の護衛だ。それ以上でもそれ以下でもない……ん? お嬢?」

「…………え、あ、うん」

 

 ログに声をかけられて意識を戻す。

 見るとログが私の顔をのぞき込んでいた。


「疲れたか?」

「……あ、ご、ごめん少しボーとしてた」


 ログに謝りつつ前を向く。

 そして軽く頭を振った。そうだ、今はもっとちゃんとしないと。


 ……のんびり考え事してる場合じゃない。

 

「うん? そっちの子は……よく見たら。

 ………………なるほどねえ……これも因果か」

「……え?」

「なんでもないよ。すぐにわかるさ、お嬢様」


 アニータさんがよく分からないことを言って、前を向く。

 …………因果?


「……ところで、一つ聞きたいんだが」

「なんだい?」

「逃げて来たというのなら、なぜこんなところに拠点を作っている? 山を越えなかった理由は?」


 ……あ、それは確かに。

 逃げてきたというのなら、すぐにでも隣の国に行けばよかったのに。


 ……何かトラブルでも?


「ああ、そのことかい。……それはね、竜だよ」

「……なに?」

「山脈を横断する巨大な谷。この山越えで最も重要なポイントに、竜が住み着いていたのさ」


  

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