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TS令嬢が幸せになるために旅に出る話  作者: テステロン
第一部 三章 山越え
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闘気と強化魔法


 オオカミの魔物……だろうか、さっきの。犬かもしれないけど。

 なんとなくそんな感じの鳴き声に聞こえた。前世で近所にいた犬があんな感じで鳴いてたような……。


 オオカミや犬の魔物はこの領地でも結構出る種類の魔物で、毎年多くの人が襲われて行方不明になっていると聞いた。

 群れて相手を囲むのが習性で、執着心が強く、一度目をつけた獲物は絶対に逃がさないのだとか。しかも結構強くてそこそこ高位の冒険者でも負けることがあると。


「……」


 …………そう、聞いてたんだけど。脅したら逃げていくのか。

 これは習った内容が間違っていたのか、それともログが強いからなのか。


「……うん」


 ……ともあれ、特に問題なく魔物の襲撃を乗り越えたわけなので意識を切り替える。

 とりあえず、山越えはログがいる限りそこまで難しくないのかもしれない。そう思うと少しだけ気が晴れた。


 今私を助けてくれる人は、とても頼もしい。

 それをもう一度実感したからだ。


「……」


 ……よし。

 少し落ち込んでいた気分を意識して持ち直す。完全には無理でも、努力することが大切だ。私は元大人。


「……ところで。ログの銀色のやつすごいよね」


 意識して明るく、ログに話しかける。

 それは最初の日から気になっていたけれど、今まで聞けずじまいになっていたこと。


 さっき追い払った時のあれ。砲弾を斬ったり、魔法から守ってくれる壁になったりしたやつだ。銀色に光るやつ。


「……銀色のやつ? 闘気のことか?」

「そうそう」

「……別に珍しいものじゃないだろう。お嬢の家に仕える騎士も使っていたはずだが」


 ……いや、まあそれはそうなんだけど。確かに闘気自体は珍しくないし、騎士団の騎士たちも使っていた。でも、私が言いたいのはそうじゃなくて……。


「……あれ、私が知ってる闘気じゃない」

「……うん?」


 どういうことだ? みたいな声を出してるけど、それは私のセリフだと思う。だって私の知ってる闘気は……もっとこう、地味なものだ。


「……闘気については一応習ったけど」


 一応、概要は習った。それに練習試合とか訓練とかで騎士が使ってたからなんとなくは知っている。


 ――闘気。

 

 それは鍛え上げられた人間だけが使うことが出来る、魔法とはまた違う力だ。魔力ではなく魂の力、あるいは肉体そのものに宿る力と言われており、これを操ることが出来る人間は人を超えた身体能力を手に入れることが出来る。

 また、人によって闘気の色が異なるのも特徴だ。ログの銀色や、ドルクの緑色のように。


 ………………と、まあそんな感じで習ったんだけど。


「私の知ってる闘気は剣から光線が出たりしない……」

「光線じゃなくて斬撃だ。 俺は魔法は使えない」


 そういうことでもなくて。

 私だって斬撃や衝撃を飛ばせるのは知っている。前騎士団長はよく訓練場の岩にぶつけて訓練していたし。


 ……でも、それはあくまで剣が伸びるような感じであって、空を斬って砲弾を撃ち落としたりするものじゃなかったはずなんだけど。


 要するに、規模が違いすぎる。パチンコとライフルくらいは違う気がする。拳銃と艦砲射撃と言ってもいいかもしれない。


「なんであんなにすごいの?」

「……あー、そうだな。闘気の量は倒してきた強敵の数で決まるからだろうな」


 ……強敵?


「お嬢は闘気がどうやったら使えるようになるか、知ってるか?」

「……頑張って訓練するんじゃないの?」


 そう聞いた。地獄の訓練をしたら使えるようになるとか。

 毎年、騎士団の新入りが倒れるまで走らされてたりしたものだ。冬の初めから次の春にかけて半年くらい。


「それも一つの手段だ。だがもっと手っ取り早い方法がある」

「……そうなの?」

「ああ、命を懸けて戦えばいい。楽な戦いじゃダメだ。命がけで、生死をかけて戦わないといけない」


 ……なんかとんでもないこと言い出した。なにそれ。

 

「俺の時の話をすると、五歳くらいのとき魔物に襲われて死にかけたことがあってな。付近でもかなり強い部類の魔物で、逃げることも出来ずに殺されかけたんだ」

「……えっ」

「でも、当然だが俺は死にたくなかった。それで、やけくそで持ってた木刀で殴りかかって――気が付いたら、魔物が死んでいた」


 ……えぇ。

 なにそれ。それが五歳って……。


「それ以来、闘気が使えるようになった。要は、修羅場を越えれば強くなるんだ。魂の力って言われてるのもここら辺が原因で、危機を乗り越えることで魂が成長するから――とか言われてるな」

「……なるほど」


 ……そういえば騎士団でも新人に、死ぬ気で走れ! とか言ってたような。あれはそういうことだったんだろうか。倒れた新人に水かけて走らせてたけど。

 あのときは傍から見ながら、それ逆に効率が悪いのでは……? なんて思ってたけど。もしかしたらこっちの世界ではあれが正解だった……?


「戦争を経験した国の兵が強いって聞いたことないか? 戦争なんて修羅場の連続だ。一年も生き残ったら、徴兵された農民兵が立派な闘気使いになってた――なんてのはよくある話だった」

「そんなことが」


 ……そういえばログはずっと戦地にいたとか。

 なるほど、だからログは強いのか。少しだけ謎が解けた気分だった。



 ◆



 歩く、歩く、歩く。

 森の中の細い道を、少しずつ進んでいく。


 大体の時間をログに背負ってもらって。しかし、ずっと背負われているのも良くないと、偶に自分で歩きながら。

 最初のオオカミっぽい奴以外、特に魔物が襲ってくることもなく、順調に前へと進んでいった。


「……ところで、俺からも一つ聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「なに?」


 それは昼をだいぶ過ぎて、段々日が傾いてきたころ。

 ログの後ろを自分で歩いていたときだった。


「あの騎士の話なんだが……」

「……うん」


 ちょっと言い辛そうな感じのログ。

 あの騎士、というのはドルクのことだろう。言い辛そうなのは戦ったのがまだ数時間前のことだからか。

 

「実はちょっと違和感があってな。……あの騎士なんだが、前からあれくらい戦えたのか?」

「えっと……」


 要するに、前からあれくらい強かったのかということ?


「……うーん」

 

 言われて考える。ドルクは……。


「……あまり、記憶には無いかも」


 強いか弱いかと言われれば、強い方だった。毎年の練習試合でも結構上の成績を取っていし。……でも。


「少なくとも、見えないような動きはしてなかったよ」


 どちらかと言うと遅いくらいだった気がする。大きな盾を構えてどっしりと構える感じ。襲い掛かって来た騎士を技量で受け流し、体勢を崩してカウンターを決めていた記憶がある。


 ……もしかして、実力を隠してたんだろうか。

 まあ、あのときの強さがあったら他の騎士とは勝負にならないだろうし、手加減してたのかもしれない。

 

「そうか、ならやはり……」

「……?」

「実は、闘気に違和感があってな。闘気のくせに魔力が混じってるような……そんな気配がした」


 ……魔力。


「もしかして、あれがお嬢の言っていた強化(レインフォース)なんじゃないかと思ってな」

「……それは」


 そう、なんだろうか。

 実は前に強化魔法を見たのは随分と昔のことだ。


 父は訓練もしていたけれど、それは必ず屋敷の外でしていたし……。

 ……でも、そうだ。数年前に一度見学させてもらった時。騎士団長がとんでもない速度で動いてたような。元々強い人だったのでそんなものかと思ってたけど。


「そうかも……?」

「……そうか」


 ログが考え込むように、顎に手を当てる。


強化魔法(レインフォース)……想像以上に強い魔法なのか……?」


 ログの呟きが、どこか耳に残った。

 

 



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― 新着の感想 ―
[一言] え・・・この世界、普通にサイヤ人仕様なの・・・ その辺の農民も死の淵から蘇ると強くなるとかヤバいなあ
[一言] 魔法だったか
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