魂振り
南総里見八犬伝?
いえいえ、これから先里見も犬も登場しません。
多分、犬はわからんけど
社に着くと女三の宮を出迎えたのが、南総下総国の使者ではなく奥州陸前亘理国の伊達征一郎綱吉であった。
ここからは我々が都の方々はおくつろぎ下さいと女三の宮を社へ連れて行った。
それが気に入らないのが平三郎将隆である。将隆は征一郎と表面上社交的に対応したが中央を鼻にかけ地方を見下している。
一方征一郎も自分は亘理伊達家の嫡男であり平家であっても三男な将隆など取るに足らぬと思っている。
周りはというと地方と中央のいがみ合いはいまに始まった事ではなく。
早くこの儀式が終わればいいのに位のものである。
伊達家は奥州の覇者と呼ばれ絶大な権利を持っているが中央に入る事ができない。
平家は中央に絶大な権力を持つが地方へ行けばいくほどその威光は弱まる。
女三の宮が到着後程なくしていくつかの儀式が執り行われすぐさま女三の宮ではなく奏日女命と呼ばれる立場になった。
命とは神の尊称である。
社の中心部にある神殿に付き従った幾人かの武士達が集められた。
その中に僚と金、そして征一郎もいた。
将隆は呼ばれたが参加しなかった。ここまで来て参加しない選択などあり得ないが平家一門のそれも本家筋の若様だからいえるワガママである。
皆が集まると程なくして奏日女命が現れ着座した。
武士達は一斉に頭を下げる。
一瞬見たカナデヒメは髪を禿のようにおかっぱに切り揃え巫女の衣装を纏っていた。
髪を着るのも儀式の一つなのだと僚の隣にいた武士である若者から教えてもらっていた。
これから始まる儀式の事も。
生き神の代わりに社に仕える巫女が「カナデヒメノミコトであります。面を上げてくだされ。」と伝えた。
武士達が頭を上げると暫くさて老婆がうやうやしく八つの玉を高坏に入れて持ってきた。
これから始まるのは『魂振り』の儀式で最後かつ重要な儀式である。
玉は魂であり八つの魂が主を選び、選ばれた者が八剣士としてカナデヒメノミコトを護るのだという。
単なる儀式のはずで既に八剣士は決まっていた。政治的に力のない武士達。
僚の様な後ろ盾のないものはうって付けだった。
儀式の事を教えてくれた若者も武士ではあるがまったくの落ち目の家系にあり内々に選ばれること前提でやってきたこと。
僚も選ばれるだろうこと、外国人の金は残念ながら選ばれないだろうこと、そして平家の若様も伊達家の若様も選ばれるわけ無いことなど事前に教えてくれた。
僚はそんな事など事前に聞くことなくここまで来た。
金はガッカリしていた物凄く落ち込んでいた。平家の若様とそのご友人たちが儀式に欠席したのでなんとか儀式には参加できてラッキーだったことで複雑な心境だった。
「高天原より来る八つの玉・・・」
高坏の八つの玉に奏は手をかざして祝詞を唱え始めた。
その後、老婆が玉を手に取りのあらかじめ選ばれた武士達に手渡す予定だった。
奏が手をかざし最後の祝詞「ユルべユルべユラユラとフルベ」と3度唱える終ると突然八つの玉は光輝き四方へ飛び散った。
高坏には3つ玉がのこり2つほどは社から飛び出し何処かへ行ってしまった。
この事態に居合わせたものは皆驚き場は騒然となった。
祝詞を唱えた奏は想定外のコトに驚き呆然となったが高坏を見ると3つ玉がのこっていた。
ぽうっと優しくひかりなかから『忠・孝・悌』の文字がそれぞれ浮かび直に消えた。
そして社で3つの玉を受け取った者もその光る玉を手に取りの驚きを隠せなかった。
伊達征一郎綱吉、彼の手の玉は『礼』の文字を写し光が消えた。
他にも玉を受け取った者。金秀明、そして僚だった。
秀明の手の玉は『義』
僚の手の玉は『仁』とそれぞれ浮かび直に消えた。