いざ下総へ
女三の宮の牛車が出発した。
前生き神死去に伴い新たに即位するためである。
女三の宮は生き神として奏日女命となり、主神アマテラスと日ノ本の民との橋渡しとして存在することとなる。
生き神というが依り代みたいなものである。
アマテラスの神社はちゃんとありそこにも神託を告げる巫女がいる。
どちらも帝の娘であり常乙女であることが条件となる。
僚は牛車ではなく馬に乗っての移動であるそれは良いががクツワを並べて喋りっぱなしな者と一緒になってしまったのが難点だった。金秀明である。
彼が言うには女三の宮が自分の守る姫に違いないと断言する。
なるほど金が来日した時期にジャストフィットな姫様だ。生き神様交代も30年であるかないかである。
同じ帝の姫であるアマテラスの巫女は先帝の娘でとうに齢30を越えている。
それなら今年17になる女三の宮が守るべき姫としてピッタリだろう。
良かったな見つかって、本当にそうだといいなと適当に返しながら同じ話を何度も聞き、同じ返事を繰り返した。
とはいえ女三の宮の行列はなかなか長く、金も僚も宮様の輿から程遠い。
どちらかと言うと真澄大僧正の牛車が近くまるで真澄の従者の様だ。
連雀と当麻は徒歩で付き従っていた。
女三の宮の牛車に最も近い武士は平三郎正隆だった。日ノ本で今をときめく平家一門の本家筋の一人である。
三男とはいえ将来、日ノ本の重要な役職に付くことが約束された若様だ。
見目も凛々しく御所の女人達も多数恋焦がれているのだと言う。
都から遠く離れ約一月、アマテラスの社がある伊勢よりなお東。南総下総国そこにカナデヒメノミコトの社があった。
下総国に入るころにはそれぞれの国より派遣された武士や使者がふえ女三の宮の行列は1000人を超えた。
社は大きかったがその1000人を収容できるほどではなかった。
行列が下総国に入ると女三の宮は牛車をおり輿に乗り換え社を目指した。
輿のなかは美しい布で隠され神々しく思えた。輿が社に到着するまで至る所に民がおり額づいて通り過ぎるのを待っていた。
沿道に居ないものは戸を閉ざし固唾をのんで通り過ぎるのを待っていた。
前生き神の急死。
病によると言われているがこの件にからみ多数の民が犠牲となった。
下総国の民にとって奏日女命は疫病神であり触らないに越したことはない。
そう思う者が多数であった。